Library お役立ち情報

PROFILE

小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


電子カタログ

odsカタログ

SSL GMOグローバルサインのサイトシール

柳井紙工株式会社は、
グローバルサインのSSLにより、
お客様の個人情報を保護しています。


小川征二郎のパリ通信


Vol.161 MAISON LOUVARD メゾン・ルヴァ―ル

 

Le Parisienの記事によると一日30個売れたら良いと思って作った「クロッキー」だったが、SNSでパズって、今では1日1800個のバカ売れという。
 若者言葉というかネット用語とでもいうのか「パズル」なる用語を聞いただけで頭が混乱する私である。もっとも今では常用語で知らない方がおかしいのかも知れないが。
 まず「クロッキー」なる用語、実はクロワッサンとクッキーが合体したお菓子との事、造語である。とにかく良く売れているらしい。という事で出かけてみることにした。「百聞は一見しからず」といった次第である。

 3月の始め、パリは相変わらずの混乱状態であった。2月から始まったフランス農民ストとデモ。一旦は収まったかに見えたが、恒例の農業博開始初日に農民側がポート・ド・ヴェルサイユ会場に押しかけ警備側と対峙、殴り合いの荒れようとなる。
 その翌日にはパリ凱旋門前広場に農業用トラクターで家畜飼料を廃棄、いずれも高速道路ブロックと同様の行為である。テレビニュースを見ていてこの様な意表を突く妨害行動に改めて感心する。ただ、個人的内は、このような抗議活動を全面的に良しとしている訳ではない。
 改めて思う事は自己主張を貫くフランス人と日本人の違い、あるいは民族性の違いである。いやいやフランス人はやる事が激しい。デモやストをほとんどやらなくなった日本人とはやはり違うようだ。
 
 その影響か各種労組が影に日向にと農民側を支援。特に各種交通機関が混乱状態になっている。中でもSNCF(国鉄)労組は強硬でダイヤの乱れが恒常化している。パリ市内のバスも同様、行先の表示は出ても、途中バス停で終わりですのアナウンス。またはいつものコースから外れての運行と予定が立てられず。不自由この上もなしの状態が続いている。
 実は先日もこんな事があった。この日、パリの病院で検診を受けることになっており、モントロー発11時14分発の列車に乗る予定で家を出た。定刻少し前に駅に着き、改札を通ってホームに出る。ボードを見ると定刻通りの案内が出ている。
 列車待ちの人が寒風に晒されながらホームに並んでいる。そろそろ列車が到着と思うがなかなか来ない。10分遅れ、さらに20分遅れになった頃、ようやくホームのアナウンスが流れた。「セキュリティの為、列車が遅れています。次の出発は12時14分です」の常套句である。
 幸い病院の予約時間は14時45分だったので、事なきを得た。この日、帰りの列車は18時20分を予定。だが実際の出発は18時45分と大幅な遅れ、一事が万事この様なパリの交通事情である。
 恐らく一番困るのは海外からの旅行者だろう。言葉も通じず、中には二つのトランクを引いて佇む人も、気の毒としか言いようがない。

 メゾン・ルヴァールに話を戻す。メトロ7番線に乗りル・ぺルティエで下車。階段で地上へと出るとラファイエット通りに出る。北方向へしばらく歩き、最初の通りを左折。凡そ5分位歩くとシャトーダン通りにぶつかる。この角地にあるのが目的の店。前日、パリの地図を見て凡その場所を頭に入れていた。
 コロナ禍が始まる前、3年位前の事だが春と秋年2回、メトロ、ル・ぺルティエ駅とその隣のカデ駅を利用した経験がある。という事でこの界隈はある意味馴染みのある場所、との思い込みもあった。
 そんなつもりで出かけたル・ぺルティエ駅だが、記憶が薄れたのか頭の中にある地図を頼りに歩いているつもりが、靄がかかったかのように目的地にたどり着けない。あっちにうろうろ、こっちにうろうろしながら、ようやく11 rue de Chateaudunに到着した。
 今人気、話題のブーランジェリーであれば当然店の構えもそれなりのはず。これまた思い込みである。店はあり看板もあるが、そこの描かれているのはCafe、Restaurantの文字、店構えもクラシックなレストランといった趣がある。
 様子が違うなと思いながら正面入り口から店内に入る。最初の印象はカフェだった。結構広いスペースである。入り口近く正面に客用のカウンターがあり若い男性が向かい合って腰かけている。
 右手にカウンター、その奥にレジがある。さらにその奥にショーケースがありその中に各種パティスリーが並べてある。カウンターの中では数名の若い女性が忙しそうに働いていた。ここでようやくパティスリー、ブーランジェリーであることがわかった。
 レジには大勢の客が並び列ができている。少し待って奥のショーケースを覗く。ここで初めて気が付いたが、こちら側にも出入り口があり、外に長い行列ができている。並ぶ客のほとんどが若い女性、ショーケース前は狭い通路となっていて、中に入った客はショーケースを見て気に入ったの商品をスタッフに注文。レジで支払うという作業が繰り返されている。
 ほとんどの客が買うのは話題のクロッキー。焼き上がったクロッキーが次から次と厨房から運ばれてショーケースの中、ケースの上に並べられていく。半端でない回数と数である。
 人気とは聞いていたが、まさかこれほどまでの数が熟されるとは。驚き感心させられた。1日の売り上げ1800個という数字が今でも続いているそうだ。

 写真を撮ろうと思ったが余りの混み合いに、その機会がない。他の客、店のスタッフの方にも迷惑が掛かると思い、一旦その場を離れることにした。
 幸いカフェの席が空いたので着席。早速エスプレッソとクロッキーを注文。焼き立てのクロッキーが届いた。クロワッサンの上に焼けて少し溶けたクッキーがのっている。半分に開いたクロワッサンの中にもクッキーが。
 付いてきたナイフとフォークを使い、ひと片を口へ、オリジナルというクッキーの甘さが口中へ広がる。「旨い」。ある意味予想した味ではあったが、人気の理由がわかったような気がした。尚、クロッキーの値段は1個5、90ユーロである。
 だが、何と言ってもクロッキーの成功はクロワッサンの美味しさにある様だ。少しハード気味のクロワッサンが何とも旨い。久しぶりに美味しいクロワッサンに出会えた。食べ続けて気づいたことだが、クロッキーの味に、何となく味噌の風味を感じる。隠し味に味噌を使っているのでは、と思ったりした。
 
 これだけの人気商品となると当然のことだがコピー商品が。既に何軒かのブーランジェリーで類似商品が売られているそうだ。エスプレッソとクロッキーのセットで9ユーロ60。帰りに再びショーケースに戻り、クロッキー4個と普通のクロワッサンを2個購入。
 シェフには会えず話を聞けなかったのが残念だったが、恐らく厨房は目の回る忙しさだろう。その事が想像できるクロッキーの仕上げ数である。興味ある方はMAISON LOUVARDで検索してみてください。


⬆︎TOP