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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.160 フランス事情/プランタン・デパートのフードコート

 

【フランス事情】

 新年早々災害が続く日本のニュースを見ながら、事件、事故の少ないフランスの年明けに安堵する日々である。出だしはそんなに悪くない。というのが素直な感想であった。
 そんなフランスが1月の半ばを過ぎた頃から突然の如く変化を見せている。農業、畜産業者による政府への抗議運動である。元はと言えばEU(欧州連合)による環境規制に対する抗議デモ、農業生産者への農薬使用規制、休眠地拡大促進など、環境保護が目的だが現実に沿わないというのが農民側の言い分であるらしい。
 抗議デモは日々過激化しており、1月末にはパリ周辺主要道路に農業用トラクターを並べ通行を阻止した。その前も高速道路をトラクターで封鎖やタイヤ、肥料を積み上げるなどの行為が、高速道や行政府建物前で行われていた。
 さらに大型スーパーの外国からの商品を略奪破壊などエスカレートし、フランス全土で混乱状態が続いている。政府も対応策を練っているが、今までのところ解決策は見つからないようで、デモは続いている。
 そのデモで築いた各種ブロックの一部がようやく撤去された。2月3日の事である。片付けをしているのはそれらを積み上げた農民の方達、黙々と作業をしている。中には撤去に納得できないという人もいて、今回の抗議運動の複雑さが浮き彫りになった。
 これはあくまでも推察に過ぎないが間近に控えた農業博を意識しての事だろう。農業博についてはこのレポートでも何回か紹介している。コロナ禍が一応静まり、再開した経緯がある。ようやく気分も盛り上がりかけたさ中の今回のデモ騒動、果たしてうまく運営できるかの懸念がある。
 
 予定通り開催されたら、久しぶりに行ってみたいと思っているところだ。ただ、問題は農畜産業関係者のデモとは別に限りなく続く、国鉄(SNCF)組合のスト問題である。
 正式にデモを告知するわけもなく、暗黙のうちになされる列車の一時停止や遅れ、これらの行為で利用者が対応に苦慮している。真に巧妙な抗議活動だ。
 思わぬ駅で停車して乗客の車両乗り換えなど日常に行われている。その都度乗客は右往左往、恐らく日本の感覚では理解できないだろう。詳しい説明もなく理由もいろいろと告げられるが、最終的には乗客安全確保のためと説明されると、納得できないままに事が収まってしまう。この矛盾にはいつもイライラさせられる。
 スマートフォンで出発、到着の確認をしているが、1月のダイヤルが定刻通りになった日は少ない。何時まで続く泥濘かの状態、安心して予定も立てられないのが現状だ。先日もメゾン・エ・オブジェの期間中に訳の分からない列車停止で乗客が迷惑を被った。
 もしオリンピック期間中もこの様な状態が続くかと思うと……。それでもSNCF労組は強気の姿勢を崩さない。一部関係者の間でも大会がスムーズに運営できるかの不安が募っている様だ。結果は会場に向かわず、家でテレビ見物のオリンピック大会に終わってしまうかもしれない。
 そのオリンピック・パリ大会開催は7月、目の前に迫るが、パリ各所の工事は未だに続いている状態だ。とは言えパリ・イダルゴ市長は今大会主役の一人、うまく収めて大会開催に扱ぎつかせてくれるだろう。そう期待しているところだ。
 イダルゴ市長の政治家としての評価については先の大統領選挙で失敗したと言われている。私個人としては今でも高評価している。理想を推し進めるその姿勢に揺るぎがないのが評価の理由だ。

 

【プランタン・デパートのフードコート】

 一方的な思い込みはいけないな、と改めて反省している。久しぶりにプランタン・デパートに行ってみた。中に入って店内を見たのは5年以上前になる。今まで何回もギャラリー・ラファイエットの事は、主に食品館についてだがこのレポートで報告している。
 同じオスマン大通りにありながら、プランタンを疎かにした理由は、デパートとしてのその格の違いと思う。長い歴史を持つ両デパートだが、いつの間にか差がついていた。実際、集客、店の商品展開、立地条件などなど、ギャラリー・ラファイエットを支持するパリ市民や観光客は多い。
 比較の対象は曖昧だが、何故かギャラリー・ラファイエットの方を上と私も見ていた。理由の一つはプランタンの食品対応が因。何か物足りないの思いがずーっと続いていた。
 今回プランタンの中まで入ったのは、昨年のクリスマス・デコレーションを見て、ある種の驚き、感銘を受けたことにある。この事に付いては先のレポートでも報告したと思っている。派手さ華やかさはないが、パリのロマンチックな雰囲気を見事に表現したディスプレイだった。
 このディスプレイ、社員全員が協力して作業、作り上げたと聞く。もちろん、館内全体のディスプレイについての話だが、何としても150年の歴史あるプランタン、その栄光を再び盛り上げようという社員全体の姿勢が結果を出したと思う。

 

 今回、プランタンを訪れてみた目的は上階を占めるフードコートの見物にある。2018年にリニューアルをして話題となったフードスペースがどのように変化し続けるかを見たかった。
 本館1Fからエスカレーターを利用して上階へと昇る。全館を見ながら上昇するエスカレーターの眺めはフロア全体が明るく、あか抜けてきたことを実感できる。 
 まずは最上階まで登り各種フードコートを見ることにした。時間は午後の2時過ぎ、お昼時を少し経過している。
 本館入り口の案内では、最上階はエピスリーになっている。という訳でエスカレーターを使用して8F最上階へ。下りてフロアを少し歩くが食品関連とは少し趣の違うコーナーに出る。何ともお洒落なコーナーで、パリのデパートでは珍しく、ゆったりと寛げるイスなどが置いてある。
 少し疲れていたので椅子に掛け小休止。しばらく目の前のスペースを見物、お洒落なカップルが商品を見ながら奥へと消えた。まるで高級ホテルで寛いでいる感覚だ。外は雨だがテラスに出てみる。
 プランタン自慢のテラス展望、雨で煙る先に遥かエッフェル塔、すぐ目の前にオペラ座が。晴れた日の展望は見事だろうなと思いながら再び館内に入る。係のスタッフにエピスリー・コーナーに行きたいと伝えると「それは別館です。1Fフロアに下りて隣の建物に入ってください」の返事、という事で仕切り直しで別館へ。

 

 別館に入り、エスカレーターを利用して8Fへ。すっきり整然とした食のコーナーがあった。エスカレーターすぐ前にイタリアン・SUZANA、焼き立てのピザがショーケースに並んでいる。大判に焼いて、切り分けて販売。形は不揃いだが、いかにも美味しそうである。手作り感満載のピザだった。
 エスカレーターを降りて右手にオープン・キッチンのレストラン、LA REIN MER。時間が3時を過ぎていたせいか客はおらず。スタッフがタバコを吸ったりワインを飲んだりと寛いでいる。どんどん少なくなるパリのシ-フード・レストランだが、ここでいただけるのは嬉しい限りだ。ぜひ一度座ってみたい店、スタンドだ。
 フロアを一巡できるように各種レストランが並ぶ。フレンチのREGAINでは数組の客が時間外れのお昼を楽しんでいる。通路を右に折れるとLA PATISSERIEのショーケース。美味しそうなケーキが並べてある。それを見ながらさらに奥へと歩くとカフェ席が、多く見かけるようになったブック・カフェ。コーヒをいただきながらのんびりと本を読む客達。パリの文化人たちは何とも優雅だ。
 フロアを一回りして下りエスカレータへ。あった、エピスリー・コーナーが、と期待したが、予想外の商品の少なさに驚く。実は迫ったバレンタインデーのための商品やショコラをどのように構成しているかが楽しみだったのだが。
 ワイン・コーナーは充実している。高級品から庶民でも手軽に買える物まで、1本15ユーロが庶民のワインとは言えないが、このクラスが揃えてあるのは嬉しい限りだ。特別棚に日本製ウイスキーが並べてある。何が意外といっても日本産ウイスキーが高級品として認知され、愛好家が増えているという現象にはまず驚く。
 ウイスキーと言えばスコッチかアイリッシュに憧れた自分と現実の乖離に改めて驚く。時代は変わった。とは言え悪い気はしないのが不思議だ。ウイスキー・コーナーの先に棚があり今流行りのノン・アルコール飲料ボトルが飾ってある。植物原料の飲み物で若い女性に好まれるらしい。カクテル材料として評判が良いと聞く。
 その先にテーブルが並びここでいろいろなアルコールやカクテルが飲めるスペースに。奥にお洒落なカウンター、一杯やるのに格好のコーナーだ。これらを見ながらさらに通路を歩くとショコラ・コーナー、棚にいろいろなタブレットが飾ってある。
 バレンタイン用のショコラ・コーナーだがちょっと物足りない。これは正直な感想だ。このコーナーの奥はブック・コーナー、いろいろなジャンルの本を取り揃えている。テーブル席もあり、ここでも若者がノートやパソコンを開いたり本を読んでいた。ここでも注文できる様だ。
 ブック・コ―ナーの奥にクレープ専門のコーナーがある。本を読みながら軽くクレープもいただけるお洒落なコーナーだ。通路に沿って日本の漫画を揃えた棚があった。漫画は日本文化のひとつ、パリでも完全に定着している。
 これで日本食の専門コーナーがあれば申し分ないが、残念ながら見かけなかった。乞うご期待である。尤も、このフロア自体がフランスの食を集めたコーナーのため、変に外国を意識したら本来の趣旨から外れてしまう。そういう意味では大切なコンセプトである。とは言え、ある種の物足りなさを感じたのは事実である。

 

 8、7Fをひと回りしてプランタンを後にする。それにしても大変貌、何ともお洒落な館内であった。プランタンは有名なピノ・グループの企業である。高級ファッション・ブランドを傘下に収める大富豪グループ。通称ルイヴィトン・グループと呼ばれるLVMHグループと並ぶフランスの財閥だ。
 プランタン・デパートがどの様に進化していくのか、これからも楽しみだ。注視したいと思っている。外は冷たい雨、その中をサン・ラザール駅へと歩いた。


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