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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.159 2024年始/ガレット・デ・ロワ/パリのショコラ人気が止まらない

 

                   【2024年始】
 穏やかな年始のモントローである。昨夜の大みそかは久しぶりに日本酒を熱燗にして飲んだ。有り合わせだが食卓に和食が並び、それをつまみながら紅白歌合戦を見る。いやはや、日本の番組がリアルタイムで見れる時代になるとは便利になったものだ。しかし、日本とフランスは8時間の時差があるため録画にして夕食の時間に見ることにした。
 45年前、紅白を見る会がホテル日航で開催された事を思い出す。食事つき会費有りの企画で在パリ日本人が大勢参加した。日本の情報に飢えた時代である。
 ほろ酔いで見た今年の紅白はついて行くのが精一杯だったが、時代を感じながら最後まで見た。それは「行く年くる年」を見たかったからである。これを見て一年を締めたかった。年寄りじみた話だが、この番組には日本の心がある様に思えて毎年見ている。
 
 元旦から三が日、雨が降り続いている。昨年12月から増水被害の多い西南部、北部フランスに更なる過酷な雨。自然災害の怖さを伝えるテレビ・ニュースの最中に日本能登地方で大地震発生とのテロップが流れる。映像はない。
 慌てて日本のチャンネルに切り替えるが、こちらも現地の映像は少ない。何とも無残な2024年の始まりと思っていたら、今度は羽田での航空機衝突事故の放送。悪い事は重なるものだ。この映像はこちらのテレビでもほとんどリアルタイムで報じた。
 殉職された自衛隊員の方々に手を合わせてご冥福をお祈りする。不幸中の幸いではあるが、JALの方は人的被害がなかったとの事、奇跡と言えそうだ。キャビンアテンダントの方達が優秀であった証し、日本、日本人凄いの言葉、映像が氾濫する日本のメディアの在り方に、いささかうんざりしていたが、この方達は本当にすごい、と思う。
 これらの災害は遠く離れた国に住む私より、現地日本に住む方のほうがより正確に掌握されていると思うのでここまでにしたい。いずれ一日も早い復興を願っている。

 フランス2024年の幕開けも厳しい。日本でどう思われているのか判らないがフランス経済も決して明るいものではない。諸物価上昇は市民生活を直撃、消費生活に影響が出ている。
 全国展開で有名な大手家具店コンファルマの倒産が報じられたのは昨日の事で、市民に驚きが広がっている。さらに同様の大手スポーツ用品販売のGoスポーツも倒産のニュース。これらの企業が倒産するなど誰が予測したろう。
 1月8日、エリザベット・ボルヌ首相が辞任のニュース。辞任か解任かの詳しい事は解らない。追従する大臣もいるようだ。年明け早々の政変、いかに収まるか注視したい。
 9日、モントローで初雪。周りの屋根にうっすらと雪が積もっている。気温日中-2℃、今も粉雪が舞っている。雪が少ないこの地では珍しい事、何かを暗示している様な雪だ。

 

                 【ガレット・デ・ロワ】
 1月6日は公現祭、キリスト教徒にとって大切な祝日となる。この日フランスでは大抵の家庭でガレット・デ・ロワをいただく。キリスト教徒以外の宗教家庭でもこのお菓子をいただくので、ちまたでは1月の菓子と呼ぶ人も多い。
 本来は公現祭の日にいただくのがその始まりと言われているのだが、実際は新年が始まるとフランス中のパティスリー、ブーランジェリで一斉にこのお菓子が販売される。凡そ、ひと月店頭に並び販売されることも「1月のお菓子」と呼ばれる由縁だ。
 毎年パリとイル・ド・フランスのパティスリー、ブーランジェリー職人によるガレット・デ・ロワのコンクールが開催される事はこのレポートでも以前報告した。その年の優勝者にトロフィーが授与され、受賞者は自分の店の店頭にトロフィーを飾り、その名誉をお客に披露する。
 コンクールは12月の半ばに開催され、次の年の優勝者が選ばれる。このコンクール、正確に言えばガレット・デ・ロワ・アーモンド。2024年の優勝はMaison DUPONT avec un Thé 、場所はパリ郊外 2 avenue Sainte-Foy, 92200 Neuilly-sur-Seineであった。ここ数年の優勝はパリ郊外の店が多い。今年パリの店で入賞したのは4位、ブーランジェリーSimartである。
 優勝者、入賞者のガレットは可能な限りいただくことにしているが、今年もまたパリ郊外。果たして出かけるべきか思案中である。
 昨日5日のニュースで大統領官邸でガレット・デ・ロワのお披露目があった。大統領、官邸スタッフの前に巨大な、直径1mはありそうな豪華、美味しそうなガレットを披露。改めて1月のお菓子であると実感した。


 わが家今年一番のガレット・デ・ロワは朝市出店のCeline et Julienで買った。公現祭の日である。スーパーでは去年の暮れから早々に棚に並んだが、何と言っても縁起物、ぎりぎりまで待とうと決めてこの日にした次第である。
 この店については以前このレポートで紹介したことがある。とにかく人気の店で朝市近くに2軒のブーランジェリーがあるが、素通りしてここで買う人が多い。今年最初の朝市でもあり、ご祝儀買いか長い行列ができていた。
 私は店頭で注文したが、ほとんどの客は予約をしていたようだ。フェーブも何種類かあり予約時に選ぶことができるようで、本来開けての楽しみなのだが、この店ではフェーブの写真を予め告知、好きな物を選ぶ方法も取り入れているそうだ。
 私が買った物には陶製のテンガロンハットが入っていた。紙袋のデザインも面白く、紙製王冠デザインも意表を突くユニークさ。センスの良さを思わせる。中に挟んだ餡はクラシックなアーモンド餡であった。
 一時、ピスタチオやショコラ餡などが流行った事があるが、値段との折り合いか、消費者の要望かここ数年アーモンド餡が増えている。
 ガレット・デ・ロワと言えば基本円形、4人前、8人前と、さらに家族の人数に合わせて切り分けていただくのが通常のやり方。切り分けた中にフェーブが入っていたら、それを当てた人が今年の王様になる。紙製の冠を頭に飾り、このお祝い事を楽しむという習わしが伝統的にある。
 意外や今年多く売れたのは、ひとり用のガレットだそうだ。中にフェーブも入っておらず冠も付いてないが、形や味は変わらない。聞くところによると、一人暮らしの老人家庭に良く売れるそうだ。

 今年2度目のガレット・デ・ロワはMarie Blachèreで購入。この店は食品大手スーパーに併設するブーランジェリー、パティスリーで人気の店。まとめ買いをする客が多い。先にも書いたがアーモンド餡がほとんどとなっている最近のガレット・デ・ロワだが、ここではショコラ餡もあるという事で出かけた次第である。
 家に持ち帰り夕食後のデザートでいただいた。中のフェーブは陶製の牛であったが、見方によっては羊にも見える。ショコラ餡はこれはこれで悪くはないが、個人的好みで言えばやはりアーモンド餡の方が良い。
 ショコラ餡はコーヒーや紅茶には合うが、緑茶には少し癖が残る。一月末までにはまだ間がある。これから何回買うか解らないが、フェーブとともに楽しみたいと思っているところだ。
 3度目のフェーブは2024パリ・オリンピック記念競技種類の陶器、競技が何種類あるか不明だが、果たして全部集める人が居るのだろうか。

 

            【パリのショコラ人気が止まらない】
 ショコラの原料カカオの価格が高騰している。1979年以来、44年ぶりの高騰を記録しショコラトリー泣かせの状態だそうだ。原因はカカオ豆不足、生産国南米エクアドルやペルーなどは大雨被害で生産が減少しているとの事。天候不順、自然災害の影響がカカオ界にも及んでいる。この現象はコーヒー界でも同様の状態であるらしい。
 カカオと言えば世界生産の約7割を担う西アフリカでも減少し続けているそうだ。シェラレオネ、カメルーンが、さらにコートジボワール、ガーナも同様であるらしい。この両国は世界生産国1位と2位の地位にある。
 これらの国での問題は森林破壊によると言われる。カカオ樹育成のため森林を伐採、焼き畑を拡張。さらに無差別な生産システム、政界への業界からの賄賂、それをコントロールする政治的な役割不透明さなどの影響がカカオ不足と高騰を招いているそうだ。
 カカオの消費量はフランス、ベルギー、スイスなど欧州が1位年間凡そ182万トン、続いてアメリカが凡そ78万トン。ちなみに日本はおよそ17万トンと言われている。中でも食品流通企業ネッスルなどを含む大手会社が購入の大半を占めているという。
 これら大手食品企業で作られたショコラ製品は、大量販売が成り立つ大手のスーパーなどで主に売られる。クリスマスやパックの時期に特別コーナーを作り集客、市場独占状態にあるのが現状だ。
 以前はブーランジェリーやパティスリーでもショコラを良く見かけた。そのショコラがいつの間にか少なくなっている。原因はこの様な流通システムの変化の結果と言えるそうだ。

 そんなショコラ界だが、市場の需要は底硬いと言われる。ショコラ好きが減っているという話はここフランスに於いては聞かれない。海外からの観光客がお土産に買うショコラも相変わらずランキングの上位に入るそうだ。
 パリのオペラ大通りと言えば海外からの観光客に人気のある通りである。そのオペラ通りが今スイーツ好きの間で注目されている。元々お土産屋、免税店が多くあり賑わう通りだったが、各種老舗店も多く、市民にも親しまれた歴史がある。
 この通りで古くから人気があったのがショコラのFOUCHERとCOTE DE FRANCEの両店。特にFOUCHERは1819年創業、フランス・ショコラ界を代表する老舗店である。日本企業との契約もあるので、ご存じの方も多いと思う。
 一時鳴りを潜めた感のあったFOUCHERが復活したかのように客が増えている。クリスマス商戦中であったのかもしれないが、大勢の客で賑わっていた。誰いうともなくオペラ大通りのスイーツ関連が面白い、は的を得ているようだ。
 人気パティスリーCEDRIC GROLET店の入店待ち行列は益々長くなり、観光客スマホの撮影対象になるほど。直ぐ近くにあるPIERRE HERMEマカロン店の客も多い。

 ショコラで言えば最も新しい店JADE GENINは観光客の新しいスポットとなり、さらにショコラ・タブレットで話題のLe chocolat des Francaisは若い女性やパリのお土産に良く売れているそうだ。老舗のCOTE DE FRANCEも健在、中東からの進出で話題となったBostaniも軌道に乗っていると聞く。ショコラ通りとしての復活が話題となっているオペラ大通りである。

 フランス・ショコラの強みは生産地国との繋がりの強さが言われる。現在ショコラを完成したのはフランス、ベルギー、スイスと言われるが、中でもフランスは原材料育成で大きな貢献と大きな利益を確保した。
 カカオ生産国の多くはかつてイギリス、フランス、ベルギーなど西欧諸国の植民地であった。これらの地でカカオ・プランテーションを開拓、収穫とカカオ生産システムを確立した。中で一番力を入れたのがフランスと言われている。現在でもこのシステムは代わることなく続けられている。

 フランスのショコラテールが健在なのは、生産地に独自のカカオ農園を持っている店が多い事、特に老舗店は特別のルートを確立して、安定的な供給を確保している。結果、新参者には良質で大量のカカオが入りにくいそうだ。植民地支配の名残が未だに続くショコラ界でもある。                   (各種参考資料 参照)


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