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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.154 バカンスど真ん中

 

バカンス真っ盛りの12日、エッフェル塔を爆破するの予告で一時立ち入り禁止の処置になった。何とも物騒な話である。この日は珍しく朝から大雨となった。気温も下がり大勢の観光客も着るものに困った様子である。
 工事で運休状態にあったメトロ14番線が再運行になり、乗客も一安心の様子だったがこの大雨で、雨水が地下鉄駅に流れ込むというハプニングになる。思わぬ事態に駅員も大わらわ、対応に大騒ぎであった。
 やっと雨が収まったのに、エッフェル塔爆破予告騒動。訪れた観光客にとっては何とも気の毒な一日になってしまった。実は何年か前にも同様な爆破予告があり騒動となった事がある。

 毎年8月に入ると、パリのバカンスその在り様をこの項でお届けしている。内容はほとんど変わらぬ街の様子だ。パリ市民が居なくなった街の通り、観光客に占拠された盛り場のレストランやカフェの風景。今年も同様なパリの街、バカンス期のあり様である。
 若干の違いと言えば、パリ・オリンピックを来年に控え、工事で混雑する街の様子や急激に増えた自転車を利用しての観光客の多さぐらいだろう。
 私が住むモントロー市もバカンス期に入り、いま街全体が休眠状態だ。車の走行も減り、窓を開けると聞こえてくる近所の学校の子供たちの歓声もピタリと止んでいる。毎週土曜日に開かれる近所の朝市も出店、買い物客もどこかに消えた様に少なくなった。
 そんな中で楽しみと言えば何か美味しい物を探していただく事しかない。何かないかと思いを巡らしていたら、ふとある物を思い出した。

 

【アラブ・パン・スムール】
 フランスのブーランジェリーでアラブ系経営者が増えていると先に書いたことがある。ここモントローの旧市街でもほとんどの店がアラブ系のオーナーである。特にコロナ後にこの傾向が強まった。
 それ以前はいずれもフランス人が経営する代々続いた店であった。奥の厨房で亭主がパンを焼き、表はマダムが仕切る典型的な家族経営のブーランジェリーである。今思えば映画のワン・シーンを思わせる貴重な場面だったのだ。 
 わが家の近くに市民広場がある。花市、リンゴ市、クリスマス市など四季折々に市民のために楽しい催事が行われる。その広場角に向かい合う様に2軒のブーランジェリーがある。いずれもオーナーはアラブ系の方になった。いずれも伝統、正統派ブーランジェリーとうたっている。
 良い意味で競い合っている二つの店、先に店をオープンしたのはチュニジア系、その2年後にアルジェリア系の店がオープンした。立地条件はほぼ同じと言える。正確に調べた訳でもないが、現状、チュニジア系の店が客数は多いように見られる。
 2年ほど早く店をオープンしているので、その分顧客が多く、さらに小学校、中学校に近い為、学校帰りのおやつ客が多い。フランスでは今でも小学校の登下校時家族の送り迎えが当たり前の様に行われている。おやつ買いの時、親も同行するので店との交流、いわゆるお馴染みさんになる。という事でチュニジア系の店が今のところ客数が多いのだろう。
 さらに両店を比較すると、パティスリーに力を入れているのがチュニジア系。一方アルジェリア系の店はパンに力を入れている。チュニジア系が独立独歩の店に対して、アルジェリア系店はグループ企業、パリ近郊にグループで5店舗(確か)があると聞いた。
 両店ともに奥方はアラブ系の女性でヒジャブで頭を包んでいる。いずれも大人しく控えめの感じ、店が忙しい時だけ表に顔を出す。アラブ世界はある意味男性社会で、奥方の役割は裏方と言える。いずれも色白の美人で、この事も両店に共通する。

 肝心のパン・スムールを食べ始めるようになったのは、実は最近の事である。今までもブーランジェリーで見かけることはあったが、見るだけに留めていた。円形の何の飾りもない素朴なパンである。
 広場、アルジェリア系の店ではこのパンを面前に出し、他店より多めに販売している。という事でまとめ買いをするアラブ系の人が増えた。私が初めてこのパンを買ったのもこの店である。ちょっとした好奇心での事であるが、案外こういうことが新しい味に繋がるのだろう。
 パン・スムールは材料に粗びき粉を使っているのがミソ。パサパサとしているのではと杞憂したが、実際食べてみると柔らかく実にまろやかな味である。粗びき粉はアラブ料理で有名なクスクスの材料でもある。
 以前はハードタイプのパン・カンパーニュをよく食べていたが、最近歯が弱くなったせいで食する機会が少なくなった。そこにこのパンの登場で今助かっている。味良し、消化もいいとの事で重宝するようになった。
 食べ方は簡単、大小2種あるが、大は直径15cm位だろうか、厚さは約2~3cm。これを好みの幅に切り分けて、中を開き好みの具材を挟む。普通のパンはバターを塗るがこのパンの時はバターは避けている。できたらレタスなどのサラダ菜を1枚挟むとさらに味が増す。 
 日本のパン屋で作っているかは知らないが、もし機会があったら異国情緒たっぷりのこの味をぜひ味わって欲しいと思っている。

              

【フランスの食品リサイクル対応】
 あれは10数年位前の事であったろうか、ひょっとしたらもっと前かも知れない。日本のパティスリー関係者の方達とドイツ、オーストリアの有名パティスリー視察旅行に一緒させてもらったことがある。
 参加の皆さん大変な勉強家で、パティスリーに寄る度に大量のスイーツを購入され次々と試食される。半端でない数だ。普段、スイーツを多めに買ってもせいぜい2~3個の私だから、本当に驚いた。さすがプロの方達は違うと本音で感心した。
 視察も順調に進み、ドイツのとある田舎町のパティスリー、ブーランジェリーに立ち寄った。日程表にも記載され、わざわざ立ち寄った事を思うと何か店の特色があるはず。そう思いながら皆さんと一緒に入店した。ショーケースに並ぶパンやケーキ類は他の店に比べ、特別変わった商品とも思えない。ただ客の多さが際立っている。
 その皆さんがそれぞれに白布の袋を手にしたり、肩にかけて買い物している。レジ横には同じ袋が積んであった。ちょっと珍しい光景に驚く。今でいうトート・バッグである。
 通訳のTさんがこの店について話してくれた。ここはドイツのブーランジェリーで最初にエコ対策を始めた店との事。従来ビニール袋に入れて客に渡していたパンやケーキ類をトート・バックに入れることでビニール袋を無くす運動に。このトート・バッグを持参した人には商品割引を実施しているという。さらにビニール袋の代わりに紙袋を使用しているとも説明してくれた。
 ドイツがエコ先進国である事は聞いていたが、当時この様にエコ対応をしているのに驚いた。フランスではビニール袋が当たり前のように使われていた時代のことである。

 色々と勉強になった視察旅行も無事終わり、あれから十数年の間に世の環境も激変した。今では当たり前の様に、あらゆる分野で消費資材の開発やリサイクルが行われている。食品業界での改革も日々重ねられ、随分と変化がみられるようになった。
 現在、フランスのほとんどのブーランジェリー、パティスリーでビニール袋を使わず紙の袋を使用している。ほんの一部の店を除き、ビニール、プラスチックのパッケージ用品が当たり前のように姿を消している。
 私がよく行くパリの韓国食品店は未だビニール袋を使用しているが、一袋10サンチーム(凡そ15円)を取られる。店の言い分としては袋代を取ることでビニール袋の使用を減らすという事らしい。ただし店は「袋代を頂きますが、よろしいでしょうか」と、必ず客に問うことにしているそうだ。
 同じようにパリの人気パティスリー、ブーランジェリーでは紙袋、紙のパッケージ・ボックスに完全に切り替えた。ここでも紙袋代として10サンチームを取っている。紙袋は無地に、店のロゴも入っていない。
 この店は8月7日から3週間の夏バカンスに入り、現在店は扉を下ろした状態だ。従業員はそれぞれの休暇を楽しんでいるそうだ。この時期パリのブーランジェリーなどでは近所の店と話し合いのもと、7月、8月と交代でバカンスを取る。
 という事で現在閉店中の店も多い。日本的感覚で見ると、凡そ3週間店を閉めるなど不可能に思えるが、こちらではこれが当たり前の事である。

 

 話をリサイクルに戻すと、フランスのパティスリー、ブーランジェリーは環境保護の観点から現在積極的にリサイクル問題に取り組んでいると伝えている。その方法として店で販売する食品の販売期限が近づくと、余剰品を慈善団体などに寄付する。結果、食品廃棄物の削減や社会貢献が実現できている。
 私が住むモントロー市でも赤十字社などで、恵まれない市民に無料でパンや他の必要食品を提供している。その中には市内のブーランジェリーなどから寄贈されたパンや菓子が数多く含まれているそうだ。
 また、パンくずの再利用として、製造過程で生じるパンくずを動物やバイオマス・エネルギーの原料として活用もしている。
 紙パッケージのリサイクルとして、店で使用する包装紙はリサイクル可能な素材で作られているそうだ。どのようにしてリサイクルしているかは解らないが、メーカー側の説明で店も納得して仕入れをしているようだ。
 これらの取り組みで環境への負担を軽減し、業界の発展に積極的に寄与していると言われている。フランスのリサイクル環境も急激に変化し続けている事がわかる、昨今の対応ぶりである。


 MAPA(食品関係職人専用の保険会社)によると、フランス、ブーランジェリーの売れ残りは、生産量の凡そ10.6%あるという。こういう状態での売れ残りとフードロスを防ぐ方法として以下の提案をしている。
 1日で売れる量を把握して、その分だけ製造する。またインターネットや電話で注文を受け、その分だけ作る。さらに商品の冷凍保存を勧める。
 フランス、ブーランジェリーの平均的売れ残り量は年間5万トン(ちょっと多いような気もするが)もあると言われており、売れ残りを減らす方法として、閉店直前の安売り時間帯を設ける。前日の売れ残り、安売りコーナーの設置などの方法をとる店がある様だ。

 基本的にケーキは製造後24~48時間に販売可能。パンは数日間まで販売可能が業界のルールとなっているフランスである。いつ製造した商品かを客に報告するのは義務とされているが、私の知る範囲でこれらを明記している店は少ない。
 リサイクル問題にも触れ、売れ残り商品を直接リサイクルする様勧めている。例えばパン粉に、またはクルトンになど、リサイクル・レシピとしてブルスケッタ、プリン、フレンチ・トーストなどをあげている。
 パンの売れ残りのリサイクルを専門とする会社もあるようだ。フランスではパンを使用して小麦粉を製造したり、イギリスではパンを元に、ビールのレシピを開発した企業もあるという。

 最近、買い物をするとレジの現場で「レシートは必要ですか」と問われるようになった。「お願いします」と答えるとレシートをくれる。客から要望があれば紙レシートを発行されるが、それ以外は基本発行禁止とされている。
 これはあくまでも紙レシートを対象とした処置でSMS、メールなどによる電子レシートの発行は任意となっている。その他にも例外を認める事例があるので、買い物時疑問があったら、レジで問い合わせをすることをお勧めしておく。
 紙レシート廃止の理由は、年間300億枚発行されているレシートの廃棄物削減と、有害化学物質に対するリスク削減を目的にしている。政府によると、紙レシートの90%がビスフェノールAなどの内分泌かく乱物質を含んでいると言われている。
 ある調査機関が実施したアンケート調査によると、73%がレジの紙レシート廃止に賛成、69%がクレジットカード決済時の紙レシート廃止に賛成と答えた。
 一方、消費者団体のク・ショワジールは、紙のレシートがないと会計の間違いが発見できないことや、家計簿をつけるのに必要、購入したことを証明できず返品・交換に困る、電子レシートは個人情報が他の目的に使用される可能性があることなどを理由に、紙レシート廃止に反対意見を表明しているそうだ。
 フランスではレシート用に使用される紙の量は年間15万トンに及んでいると言われている。色々な資料を参考にしての今回のレポート、言葉足らずや調査不足多々だが、何かの参考になればと思っている。

 


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