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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.152 モントローのポルトガル/お袋の味、レストラン・ラ・ベニャード/ブーランジェリー、ボー&ミー boulangerie BO&MIE

 

【モントローのポルトガル】
 毎週末土曜日に開催されるモントロー旧市街の青空朝市。今週も晴天に恵まれ、多くの買い物客で賑わっていた。私は気分転換を兼ねてほとんど毎週出かけている。まずチーズ屋に寄りBIOの卵を買った。チーズはブリ・モントロー、日によっては地元産のヨーグルトを買うがこれがめっぽう旨い。
 軒を変えて野菜果物のスタンドへ。ここでは季節季節の旬の果物を。今はメロンやスイカ、さらにサクランボが美味い。出だしはスペイン産の物が多かったが、先週頃からフランス産が増えて来た。鮮度が良いという事かフランス産になると値段が上がる。
 野菜も欲しいが西洋野菜がほとんどなので、サラダ用に時々買う程度。白菜などは大手スーパーまで出かけて賄っている。
 続いて毎度立ち寄るのが肉、惣菜店である。ここではハムを注文する。お昼のサンドイッチ用として使うなら鮮度が命。すぐに味が変わるので毎回少ない量にと決めている。

 今週もいつものコースを回り、いつもの様に市場広場の横にあるカフェでエスプレッソを飲んだ後家路へと歩く。と、目の前を息子が買い物袋をさげて歩いている。思いついて朝市に出かけたとの事。手にしているのはポルトガル惣菜。新たに出店したスタンドで買ったという。迂闊にも、この出店に私は気づかなかった。
 そう言えば新たに手作り籐籠(パニエ)を売る店とマルセイユ石鹸を売る屋台もできていた。といった具合で時々新しい店が出店する。
 息子が買ったポルトガル惣菜はポルトガル名物の干し鱈入りのコロッケと鶏砂肝の煮込み。お昼にいただいたが結構いける。こういう出店は大歓迎である。
 
 ここモントローにはポルトガル系の市民が多い。古い話になるがフランスにはポルトガルから大勢の季節労働者が出稼ぎにやって来ていた。そんな中でフランス各地に居残る人たちが増え、定住するようになる。モントローにポルトガル系住民が多いのもそんな背景からという。
 そんな名残を時々見かける事がある。ポルトガル・レストランの看板や空き店舗になっているポルトガル食品店、パティスリー店などの跡である。今ではそれらの跡を埋める様にアラブ系の店が増えている。
 
 パリではポルトガルからの移民女性がアパートのコンシェルジュに、男性は各種職人として市民生活を支えてきた歴史がある。ポルトガル経済が発展するにつれ出稼ぎは少なくなったと言われるが、今でもカナダなどではポルトガルからの出稼ぎ労働者が多いと言われている。
 出稼ぎで貯めた金を故郷に送り、アパートや家を買い、バカンスで訪れる海外からの観光客に貸す。このパターンが定着して今やポルトガルはバカンス立国へと。驚くほどの変貌ぶりである。かつてヨーロッパの貧国と言われたポルトガルだが、今は各国から投資先として注目されているそうだ。
 格安航空券を使えばパリからポルトガル各地へ50ユーロ位で行ける。日本円にして7千円くらいだろうか。7月からは夏のバカンスの始まり。どんなに不景気な時でも夏のバカンスは欠かせないお国柄のフランス。今年もポルトガルへと出かける人たちで既に予約の取れないホテルもあるそうだ。今ポルトガルが熱い。


【お袋の味、レストラン・ラ・ベニャード】
 モントローに新しいポルトガル料理レストランがオープンしたという地元ニュースを見て、早速出かけてみた。
 旧市街からセーヌ川に架かる大橋を渡る。途中に中州があり、そこにナポレオン1世の騎馬像が立つ。モントロー唯一の観光名所だが、その前をさらに歩いて対岸に着くと道は左右に分かれる。
 そこを右に折れ、上り下りの道を歩くと左側に目的のレストランがあった。店の名前はラ・ベニャード。バー・カフェを兼ねた店である。時刻は13時、お昼真っただ中である。道路沿いのテラス席で3組の男性が食事中だった。
 中に入ると店内テーブルはほぼ満席、いずれもポルトガル系の男性客。何故かポルトガル系とわかるから不思議である。体型容貌、醸し出す雰囲気それらが混じり合って国独特の持ち味が伝わる。ほとんどの客がブルー・カラー族、その中にホワイト・カラーと思える客が一組いる。
 アフリカ系の若い女性がひと席だけ空いたテーブルへ案内してくれる。「今日の昼メニューは3種類」との事。その中からスペアリブ煮込みに味付きご飯を息子が注文した。私が選んだのはアリコ豆入り味付けご飯に、ポルトガル風干し鱈フライ添えの一皿。いずれもポルトガルの家庭料理だそうだ。飲物は息子が赤ワイン、私は水にした。
 周りのテーブルを見るとほとんどの客が同じような料理を注文している。先程の女性が来て「前菜はサラダ・コンポ―ゼ(盛り合わせ)、好きな物を好きなだけ取ってください」と、用意された場所を指さす。
 まずは前菜を頂き、しばらく待つと料理が運ばれてくる。大皿に十分な量、美味しそうな香りが空腹を刺激する。フォークを取って、アリコ・ライスを一口。「これこれ」となる懐かしいポルトガルの味。塩味の効いた干し鱈のフライも申し分ない。完璧なポルトガルお袋の味だ。
 息子が注文した料理も「旨い」と一言。久しぶりのポルトガル風味に満足する。調理場から出てきたマダムが黙ってスプーンを渡してくれる。右手の震えで思う様に料理が運べない私の様子を見ていたようだ。何気ない気配りに戸惑いながらも感謝する。
 
 気がついたら周りの客はほとんど居なくなっていた。それぞれの職場へと帰ったのだろう。マダムがテーブルに来てくれたのを機に少し会話を交わす。名前はファティマさんとの事。そう言えばポルトガルには有名な巡礼の地ファティマがある。何らかの繋がりがあるのだろうか。優しい顔のこの人が店のオーナー兼シェフであった。
 先祖はアフリカ、アンゴラという家族の長い歴史の中、ポルトガルで生を受け今はここフランス、モントローに。努力の甲斐あって自分の城を築いたという事だろう。忙しく働く若い女性は娘さん、家族経営の店である。
 お昼は定食メニューにしているが夜はポルトガル各種料理が選べるそうだ。私の好きな海鮮料理も各種あるというので、折を見て訪れるつもりでいる。
 幸い、フランスの夏の夜は11時頃まで明るい。夜風に当たり、散歩がてら河岸を店まで歩いて、安くて美味しいポルトガル料理をいただく。今から楽しみだ。
 デザートもできるだけポルトガルの味をと注文。運ばれてきたのはポルトガル風プリンとセラドゥーラという名のビスケット粉を振りかけた濃厚クリームだった。
 パリにも何軒かのポルトガル料理のレストランがあり、そのうちの何軒かに足を運んだ事がある。ポルトガル・タイルをはめ込んだ立派なインテリアで、料理も高級感を出すよう工夫を凝らす所が多い。当然値段も高い。当然と言えば当然、何しろパリなのだから。
 今回訪れたモントローのこのレストランは実に庶民的な店だが、料理も旨く値段は安い。私の持つポルトガルのイメージにピッタリの店だった。気取りのない客の様子を眺めているだけで、久しぶりにポルトガルに居る様な気分になれたのも嬉しかった。


【ブーランジェリー、ボー&ミー boulangerie BO&MIE】
 今回は、今勢いに乗っていると言われるパリのブーランジェリー、BO&MIEのリヴォリー店を訪ねてみた。現在パリに4店舗を構える人気店。紹介する店はルーブル美術館裏側、メトロ・ルーブル出入り口の真横。リヴォリー通りとルーブル通りが交差する角地で、店の名刺にはルーブル通り180番地になっている。
 訪れた日、店は大勢の客で賑わっていた。店の表まで行列ができている。この日訪れるまでこの店の事は全く知らなかった。コロナ禍が続いたとはいえ、これはもう不勉強と言わざるを得ない。
 言い訳ではないが、この場所はパリの中心部に位置しながら、私は普段ほとんど歩かない界隈である。ルーブル美術館の裏側、サマリテーヌ・デパートからも近いが、こちらも裏側というか横、表側の賑わいに比べ、人通りがやや途切れる位置にある。
 リヴォリー通りは大通りで、交差するルーブル通りもバス通りではあるが、さほど広い通りではない。どちらかと言えば商業空白地の感じが強かった。ルーブル美術館の表側は人の出入りも多いが、裏側は歩く人も少なくほとんどが観光客といった状態であった。
 最近、このルーブル通りに人出が多くなったのは長い間工事中であった郵便(Poste)本局が完成。商業コーナーやホテルを併設している事と、近くにある元証券取引所が美術館としてリニューアルし、色々の企画展が開催される様になった事による。
 それらの事が重なってこのルーブル通りに新しい店が出現している。そのひとつがBO&MIE。リヴォリー通りとルーブル通りの交差点を選びオープンさせたのは大成功と言えるだろう。店の客その多くが観光客である事もその証である。

 明るくモダンな作りの店内に入るとまず目に入るのが客の多さ。中でも中国人客は人目を引く。各々がスマートフォンで自撮り、または相手と撮り合いと、その賑やかな事。さらに2階のイートイン・スペースの広さである。これだけの広さを持つ店はパリでは珍しい。ブーランジェリーとしては特異の存在と言える。
 ガラス張りの明るい店内で、ルーブル通りに面してショー・ケースが並び、中に美味しそうなケーキやヴィエノワズリーが並ぶ。新感覚のスイーツや、初めてお目にかかる数々のアイデアも豊かだ。若い男女スタッフが客の対応をしてくれるが、とにかく忙しそうだ。
 ベテランの域に達するには今少し時間の掛かりそうなスタッフもいるが、それでも懸命にサービスしてくれる。客が選んだ商品をスタッフが紙の袋に入れて手渡し、レジで支払うシステムになっている。当日レジは二人体制であったが、とにかく忙しそうだ。その奥ではイートイン対応のスタッフが慌ただしく動いている。

 色々ある商品の中から3種のクロワッサンを選んだ。クロワッサン・フランボアーズ、ブール、カカオ・プラリーネである。家に持ち帰っていただいたがそれぞれに満足いく味であった。見た目も良く客の注目を引きそうだ。
 クロワッサン・フランボアーズは洒落た色、形で女性に人気があり、良く売れている。昨年夏ブルゴーニュに旅した折オセールに立ち寄った。旧市街のとあるパティスリーで初めてこの色合いのクロワッサンを見かけて買った。洒落たクロワッサンを作るなーと思ったものである。その時のピンク色は苺(フレーズ)、口中に広がる苺味が新鮮だった。甘党の私は酸味のフランボワーズより苺味の方に軍配を挙げたくなる。
 クロワッサン・カカオ・プラリーネなる物は初めて食べた。カカオ味に仕上げてあるが見た目はショコラそのもの。意外とサッパリした風味である。そう言えばBO&MIEのパティスリーにもプラリネ仕立ての物が多い。シェフの拘りなのだろう。基本のブール(バター)風味も上品な味に仕上げてある。

 BO&MIEはジャン・フランソワさんとマガリ・セクラさんの若いカップルにより2017年パリ2区トゥルビゴ通りに社員5名の少世帯で1号店を立ち上げる。マガリさんは元弁護士、ジャン・フランソワさんは元格闘技の用具開発に携わっていたそうだ。
 いずれも前職からパン製造に興味を持ち、専門学校へと。ここで技術を学び新たな道へと進んだ、ある意味二人とも変わり種と言える。特異な経歴に見えるがフランスではさほど珍しい事ではない。例えばクリスチャン・ディオールも弁護士からファッション・デザイナーになったと言われている。弁護士から俳優になった人もいる。
 この二人の組み合わせが、ある意味従来のブーランジェリーに新しい方向性を見出したと言われている。斬新な商品開発やビジネスのコンセプト、店舗構成など新たな消費動向を上手く捉え、結果を生み出している。
 2019年パリ3区サン・マルタン通りに2号店をオープン。ここにアトリエを創設して拠点に、社員も25名に増やす。2020年にはコロナ禍の為休店を余儀なくされるが、5週間休店の間に新たな挑戦を思考、リヴォリー通りに新店をオープンする。2021年スペイン、バロセルナに海外1号店をオープン。2022年にはパリ左岸、サンミッシェル大通りに新たに店を作る。ここでも何か新しい試みが見られるのか、折を見て一度訪ねてみたいと思っている。(一部ホームページ参照)

 


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