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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.145 3年振りのサロン・デュ・ショコラ

 

 コロナ禍でパスしていたパリ・サロン・デュ・ショコラが開催中という事で、久しぶりに出かけてみた。ひょっとしたら3年振り、10月も終りに近い30日の日曜である。混雑はある程度想定していたが、これ程混むとは予想外だった。改めてパリっ子のショコラ好きを認識した今サロンである。
 場所はパリ南部にある国際展示会場。その一角にある巨大な建物、これは前回と変わっていない。その1、2階を使用している事も変わっていなかった。メトロ、ポート・ド・ヴェルサイユ駅で降り、階段を登る頃から人が増えていく。
 会場前には既に行列ができていた。2階のチケット売り場前にも行列ができている。入場料は大人16ユーロ。カードとキャッシュ払いの窓口が異なるため、さらに混雑する。
 プレスルームに行き、プレス証をもらい、いよいよ会場まわりが始まる。日曜日とあり家族連れが多い。これはありかなと思うのが、乳母車を押しての入場者。大混雑する中を押し合い圧し合いしながら進むわけで、見ていてひやひや場面も。「下ろして」と泣き叫ぶ子供の声があちこちで聞こえる。
 見ている側は気になるが、当人は一向に気にしていないようだ。昨日テレビで見たソウルの惨事がふと過る。あそこまでの状態ではないにしても場所によっては相当の混雑だ。とうとう老マダムが座り込んでしまい、救急隊が駆け付けた。どうやら酸欠の様だ。タンカーで搬送され、騒動は収まったが相変わらず混雑は続く。

 久しぶりの会場、サロン自体の内容は随分と変わった。イベント・スペースが増えている。メインのイベント、インターナショナル・コンクールが行われる場では、各国を代表する男女ペアによるショコラ・スイーツのコンクールを開催中である。日本からも選ばれた二人組が懸命に創作中、他にインドやコロンビア組などが同じグループに。モロッコ代表もいたがどんなお菓子ができるか興味がある。
 このイベント会場の前にも大勢の観客がいたが、その中には今サロンに参加している各国のスタッフが多く混じる。プロとしての興味が高いのだと察しられた。結果が出るには時間がかかりそうなので、いったんこの場を離れ、混みあう会場を一周してみる。
 国内のいろいろなショコラトリーが出展しているが、今回特に目についたのが海外メゾンの参加である。イタリア、スイス、ベルギーなど常連国の他にオランダ、東欧ジョージアなど珍しい国からも参加。残念ながらかつてショコラ王国と言われたウクライナからの参加は見られなかった。ジョージアからはコンクールにもチームを派遣していた。

 主催者側の意向か、それともメゾンの意向かはわからないが、パリのショコラ界を代表する有名ブランドのブースがほとんど見られない。この事でもサロンの流れが大きく変わった感じだ。もっともビジター側としてはそれらの傾向を余り意識しないという事か。目に付くのは新しいメゾン。聞いた事、または見た事がある様な、そんな出店が多い今回である。
 サロン・デュ・ショコラが開催された第一回が1995年、それから27年の年月が過ぎた事になる。その間には有名所と言われるメゾンが毎年参加していた。そのメゾンが参加していない今回のサロンが、少し寂しく物足りなさを感じさせる。
 そんな中にスペインから出店しているブースがある。何店かの寄り合いだが中にメゾン・Mauaのタブレットがあった。記憶が正しければ第10回のこのサロンに単独で出店していた店である。当時海外からの出店が少なく、スペインからという事で珍しく記憶に残ったメゾンだ。今回再び出会えてその健在ぶりが嬉しかった。
 ついでという事では申し訳ないが、今回シンガポールから出店したJANICE WONGのブースも大勢の客を集めていた。まだ若い女性シェフである。今回が初めての出店との事だがシンガポールには何店かの店があるそうだ。ロンドンにも出店して好評との事、ちょっと注目されるアジア系若手作り手である。
 一時に比べ日本からの出店が減っている。背景にはコロナ禍があると思うが、東京でもサロン・デュ・ショコラは開催されるとの事。ただ現時点では正式な開催期日は発表されてないようだ。決まれば恐らくそちらにシフトする店が多くなると思われる。
 そんな中でカカオの産地国はそれぞれのブースを持ち存在をアピールしている。今や恒例となったショコラを使ってのモード・ショーも健在。イベント会場ではカカオ産地国から参加した民族舞踊団の演技なども披露され観客を魅了していた。

 さて肝心のショコラ、今回注目されたのは板チョコのタブレットの人気である。過去のサロンと言えばほとんどのメゾンが高級感を競うショコラに力を注ぎ競ってきた。今サロンでも多くのメゾンがボンボン・ショコラを中心にした商品構成をして展示している。
 一方でショコラの大衆化が見直され、それに沿う商品化が進められている。その代表が板チョコの類。大判、小判いろいろな形、種類の展示販売が目に付いた。客の注文に応じて板チョコを割って販売している。店によっては板チョコを割る木製の小槌を売っているところもある。
 ショコラ・タブレットをメインとしたメゾンが増えていて、タブレットのデザインが注目を浴びている。伝統的なカカオの実や木をイラストで表現した物や、色鮮やかなポップ調のデザインなど、見る人の目を意識し、楽しませている。
 箱買いをするにはちょっと高いし、と躊躇する消費者に1枚でショコラを楽しめるタブレットはこれから間違いなくショコラの主流となるだろう。

 大勢の入場者でにぎわうサロンだが、今関係者を悩ませているのがココア生産の減少である様だ。気候変動、異常気象によるカカオ生産減少はアフリカ、中南米の生産地を直撃している。特に今年は乾燥地域、または異常とも言える集中豪雨の多発で被害地が拡大、問題化が既に始まっている。
 カカオ生産減少はショコラ値段の高騰に直接結びつく。消費者に多大な影響を与える事は間違いないだろう。一部生産者の話ではカカオのストックは非常に少なく、業者からの引き合いに対して苦慮しているとの事である。
 フランスはカカオ生産に直接関りを持つ長い歴史がある。世界各地のカカオ・プランテーションに直接、または間接的に関わってショコラ文化発展に寄与してきた。ショコラ文化をリードしてきただけにその影響も大きいと言われている。
 混雑は相変わらず続いている。この日は夜も開催という事で夕方になっても入場者が途絶える事はなかった。帰りのメトロ混雑を考慮して少し早めに会場を後にした。

 昨日、行きつけのカフェで老夫婦がショコラを注文する珍しい光景を目撃した。普段はほとんどの客がコーヒーかビールを注文する店である。気温が下がるとショコラを飲む人が増えるフランス。カフェの片隅席で手にカップを包むようにして語らい、美味しそうに飲むその姿が何とも微笑ましく素敵だった。ショコラ万歳、ショコラの季節到来である。


朝市のブーランジェリー
 私の住むモントローの朝市については、時々このレポートで報告している。毎週土曜日の午前中開催される旧市街の朝市は、私の家から徒歩2分の距離に建つ。ここは普段駐車場として使われているが、土曜日だけは朝市に開放されている。
 早朝6時頃から販売用の荷を積んだワゴン車が集まり、改装ワゴン車やテントを張っての商いが始まる。肉屋、八百屋果物屋、牡蠣専門店、チーズ屋などなどの広場露店商いの始まりだ。
 集う客はほとんどが近所の住民、お年寄りが多い。旧市街には若い住民も多いが、同時に車族、ほとんどの人は郊外型の大型スーパーでまとめ買いをする。つまり朝市で買い物をする若い層はお年寄りの家族、お付き合いで来る人たちだ。
 多くて20台、通常は10台前後のワゴン車集合体が朝市を運営する事になっている。季節によってはこの台数が減ったり増えたりするが、売り手も買い手もほとんどはお馴染みさんだ。そんな中に混じって私も買い物を続けている訳だが、1年以上たってようやくその輪になれて来た。

 朝市には1軒だけだがブーランジェリーがある。ジョーブ夫妻が経営する露店。早朝焼き上げた各種パンやケーキ類を車で運び屋台を拡げて販売している。本店はモントロー郊外にある村で老舗の店だそうだ。私はまだ行った事のない村だ。
 朝市が立つ広場の近くには2軒のブーランジェリーがあるが、朝市の客ほとんどの人がこのジョーブ夫妻の朝市店を利用している。とにかくパンとケーキが美味しいのだ。どちらかと言えばお洒落なパンやケーキを焼いている訳ではない。どれも昔ながらの伝統的なフランス・パンの製法にこだわり、見かけよりは味といった商品を作る。
 パリの人気ブーランジェリーやパティスリーで忘れ去った本来のパンやケーキを見せる、思い出させる様な物作りを続けている。客もその事を良く知っていて毎週露店をたたむ頃にはほとんど売り切ってしまう。
 予約も受けるので私も数は少ないが、クロワッサンを予約している。時によっては行けない時もあるので、その時は適当にさばいてくださいとお願いしてある。私の場合はクロワッサンだが、この店の人気商品パステル・デ・ナタ(エッグ・タルト)を予約する人も多い。わざわざ注文に来る若いカップルもいるそうだ。
 この屋台を一人で仕切っているのがマダム・カティアさん。実は最近までこの方をマダム・ジョーブかと思っていた。とにかくテキパキと仕事をこなす方で、愛想も良く客受けが良い。
 先日いつもの様にクロワッサンを買いながら、客が少し途切れたので、ほんの間だが立ち話。実はカティアさんはこのブーランジェリーの身内でもなく、朝市販売を担当する販売員との事。どの様な契約になっているのかは語ってくれなかったが、売上全てを任されている訳だから、歩合制ではないかと推察される。
 フランスでは元々こういった制度が伝統的に存在する。そのひとつ、カフェとギャルソンとの関係。カフェで働くギャルソンは客から注文があった商品、例えばコーヒーを店から買い、それをお客に売るというシステムができている。仕事を終えたギャルソンはその日の内に仕入れた分を店に払い差額を自分の取り分とする。給料制ではなく、完全に歩合制で成り立っている。そういう意味ではカフェのギャルソンはある意味独立した経営者とも言える。
 仕入れ値は店によって多少の違いがある様だが、普通のカフェはほとんど仕入れ値は同じ位と言われている。それに似たようなシステムをマダム・カティアさんは取っていると思われる。会話の端からその様な感じが受け取れた。それにしても良く働き、良い売り上げだ。それだけにお客に接するカティアさんの対応は見ていて気持ちが良い。
 
 フランスでも地方の過疎化は大きな問題である。高齢化も進み小さな村などは廃業する店が増え、行政側もその対策に苦慮している様だ。諸物価高騰で店をたたむブーランジェリーも多いそうだ。
 それを補っているのがワゴン車による移動販売。近年ますますこの傾向が増加しているとの数字がある。モントロー旧市街の朝市などはその典型的な例と言えそうだ。ここなどはまだ客も多く、充分に採算が取れるようだが、最近のガソリン料金高騰を始めとする諸物価高騰がじわじわと経営を圧迫しているとカティアさんは語る。

 11月11日木曜日はまた大規模ストが実施されるとの注意メールが在仏日本大使館から届いた。以下がその内容である。

 「パリ交通公団(RATP)の発表によれば、明日11月10日(木)に実施される労働組合のストライキの影響から、同日はパリ市及び近郊の公共交通機関の運行に大規模な混乱が生じる見込みです。
 運行情報の詳細は、パリ交通公団ウェブページで公開されていますので、公共交通機関の利用を予定されている方は御参照ください。」

 実はこの日所用があり、パリ行を予定していた。メールには次の様にあった。

「地下鉄運休、大幅な減便、運行の乱れが見込まれています。郊外列車(RER)は運行時間の短縮及び大幅な減便が見込まれています。さらバスの減便が見込まれています。」

 この様な大使館からのメールは実に有難い。こういう配慮をしていただく様になったのはここ数年の事である。それ以前はお役所仕事のような印象が強い大使館、垣根が高い在留者との距離であった。

 パリに行っても以上のような状態では動きが取れず、全く機能しなくなる。という事で急遽中止に。先日のストではメトロが飽和状態になり、乗客が乗れず7列車もホーム待ちになったとニュースで伝えている。
 市民の怒りがすぐにストやデモに繋がるフランス。歳末にかけさらにエスカレートする事は間違いないだろう。日本はいかがだろうか。

 


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