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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.98 ラ・クレープリー・ドゥ・ジョスラン

 メトロ8番線、エドガー・キネ駅で下車、階段を上がって地上に出ると街路樹に囲まれた小さな広場に出る。半円状にカフェが並び、テラスの席にはカフェやワィンを楽しむ人達が寛いでいた。その1軒のカフェ横から少し道が下がる様にモンパルナス通りが走っている。

 この通りに足を一歩踏み入れると、バターと砂糖の焦げる甘い香りが漂ってくる。この香りが何の匂いと解る人なら、かなりのクレープ通。フランス人なら「あんたはブルトンか」と言われそうだ。

 クレープ好きの方なら一度はこの通りの事を聞いた事があるのでは。通称「クレープ通り」と呼ばれるこの細い通りの両側には何軒ものクレープ屋が建ち並ぶ有名所である。

 

 9月の最終日、日本からパリを訪れた若いお嬢さん方とラ・クレープリー・ドゥ・ジョスランで夕食をご一緒した。「本場のクレープを是非食べてみたい」との要望でこの店にご案内した次第である。7時前なら席が取れると思ったが、前の用が押せ押せになり店に着いたのが8時、既に行列が出来ている。おまけにこちらは6人席が必要と言う事で中々席が空かない。待つ事凡そ50分で漸く席に案内してもらった。

 

 この店には9月半ばにも来店している。クレープと言えばついこの店に来てしまうお馴染みの店である。日本にもクレープ店が沢山あるので、説明の要は無いと思っていたが、中の何人かが、日本でのクレープは小麦粉を使ったデザート感覚の物しか食べた事がないと言う。頂いたメニューを見ながら解る範囲で説明する事にした。

 

 ここのメニューは仏、英、日本語が書かれた物があるので比較的楽に説明できる。実を言うとレストランのメニュー説明は結構面倒である。使われる食材は解ってもどの様に調理されるかが解りづらく、おまけに料理名が抽象的な場合が多い。メニューを見て説明しても料理が出てくるまで不安だ、と言う方は結構多い。

 

 幸い、クレープは鉄板の上で焼くだけなので複雑な工程説明も必要なく、何を載せて包むかの説明で済む。と言う事で材料名を知っていれば、おたおたする事も無いが、少し面倒なのはクレープ又はガレット夫々に名前が付いている事。この名前の説明が結構難しい。

 

 クレープに詳しい方は別として、先ず聞かれる事はクレープとガレットの違い。私も詳しく知っている訳でも無いので、とりあえずクレープは小麦粉を使った物、一方のガレットはそば粉を使用していると説明する事にしている。

 

 実際は、ブルターニュ地方のバス・ブルターニュでの呼び方がガレットで、オート・ブルターニュではクレープと呼ぶ。地域によって呼び方が違うと、以前、近くのクレープ店オーナーに聞いた事がある。

 

 ブルターニュ地方はフランスの北西部、大西洋側に位置する半島である。地政学上も複雑な場所であり、歴史的にはローマ人やイギリスの侵攻などが続いた。その後ブルターニュ公国となったりと、フランスでもかなり特殊な地方であったらしい。フランス内陸部の肥沃な土地に比べ農業に適せぬ痩せた土地が多く、その影響で小麦生産が少なく、蕎麦の生産に頼り、蕎麦を使ったガレットが主食なったようだ。

 

 ブルターニュは不思議な地で、時々アジア、特に中央アジア系と見まごう顔立ちの方を見かける事がある。髪が黑い人も多く、瞳も黒、体形も我々に近い。アジアからの移民でも無く、親もブルターニュ生まれと言う人達だ。中にはモンゴル班を持つ人も居るらしい。一説によると、その昔この地迄フン族が侵攻、その名残であるらしい。

 

 ラ・クレープリー・ドゥ・ジョスランではクレープとガレット両方が食べられる。今回も注文したのはこの店定番のガレット・ジョスラン。そば粉で作ったクレープの上に、卵・ハム・チーズ、キノコをのせて、包んだ一品である。女性の一人が選んだガレット・ブルトンは、ソーセージ、チーズ、トマトを包んだガレットだった。後の皆さんは私と同じジョスランを注文する。

 

 先ずはガレットに付き物のシードル(リンゴ酒)で乾杯。アルコール度が少ないので女性でも安心して飲める。待つ事暫し、注文のガレットがテーブルに運ばれてきた。皿からはみ出るサイズ、焼き立てほやほやのガレットが胃袋を刺激する。ナイフを入れると茸、バター、チーズ、蕎麦のえもいえぬ香りが、切り分けた一片を口に含む。美味しい。まさにジョスランならでは味だ。

 

 ジョスラン店の良さのひとつは、そのボリュームにある。客席から見える厨房もあり、目の前で焼き上げるガレットが見える。気持ち良い程材料をふんだんに使うシェフの仕事ぶりを見ていると、それだけでも嬉しくなる。バターもチーズも各種食材もこの店ならではの量だ。同じ通りにある他の店が空いていても、何時も行列が出来る秘密はこんなところにもありそうだ。

 

 ガレットで満腹と言う女性群だが、デザートはバターと塩キャラメル入りのクレープを選んだ。ご存じの様に塩キャラメルはブルターニュ地方の名物である。今回は注文しなかったが、バター、砂糖にオレンジ系リキュエル、グラン・マルニエをかけたクレープも私の好物のひとつ。次回は是非と思っている。

 

 パリでもモンパルナス界隈はクレープリーの多い所として知られている。モンパルナス駅はブルターニュ地方への起点、ブルターニュからは終点となる。現在、パリ、ブルターニュ間はTGVが走る様になり、大幅に時間が短縮されるようになった。

 その昔、ブルターニュを夜汽車で発った人達は、朝モンパルナス駅に着き、駅の近くにあるクレープリーで朝食を取ったそうだ。この界隈のクレープリー店オーナーが、ブルターニュ出身が多いのも、そんな繋がりがあるからだろう。

 

住所 67 rue du Montparnasse 75014 Paris
Tel  01 4320 9350


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