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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.124 サマリテーヌ・デパート16年間かけてのリニューアル

 パリ、リオン駅からメトロ14番線に乗ってシャトレー駅で下車。階段を上がってリヴォリ通りに出る。何時もなら昼前のこの時間帯は、大勢の人と車で賑わう通り。商店街も一応店を開けているが、コロナ禍の悪影響は今も続いている。

 冬のソルドも始まり、この時とばかりに大勢の人が押し寄せる右岸のファッション街。その中心のひとつがリヴォリ通りである。にも拘らずこんなに買い物客が少ないとは。表に張られたSOLDESの紙が何とも空しく映る。これではファッション・ブティックは成り立たないと言う経営者の声も大袈裟ではないと納得した。

 今回この界隈を訪れたのは、最近サマリテーヌ・デパートが再オープンと言う話を多く聞く様になったから。市民の関心も高いのか、2月オープン、又は4月オープンと噂とも本当の話とも、諸説入り混じりで聞こえてくる。

 

 リヴォリ通りを歩いていると、オープン間近の新装サマリテーヌの建物が目の前に現れた。新規オープン予定のこの別館は未だ工事中である。この状態では2月オープン説は難しそうだ。リヴォリ通りから工事中の建物に沿って本館側へと歩く。

 本館の建物はほぼ完成して美しい外観を披露している。アール・デコ&アール・ヌーヴォ様式を見事に取り入れたサマリテーヌの建物は、ある意味パリを代表する建造物の至宝とも言われる。リニューアルしてもこの様式を保存したのは流石である。

 サマリテーヌと道を挟んで家具製品小売り業のコンフォラマがあった。フランス全土に展開する大手であったが、昨年業績悪化で事業を縮小すると発表して話題となった。そのコンフォラマ跡が今改装工事中である。

 そこに設置された看板にルイ・ヴィトン本社の為の工事中と書かれてある。大きな建物、ここがルイ・ヴィトン本社になれば、この三角形地域全てをLVMHグループが占める事になる。結果は新たな高級商業区がパリに誕生、大勢の流通客がここに流れてくる事は間違いない。パリの新名所誕生である。

 今の段階で正式リニューアル・オープンの期日は解らない。恐らく関係者も色々と逡巡しているのでは。コロナ問題がある程度の見通しが出来た段階でのオープンになるだろうと推察はしても、何時かは解らない。

 新しいサマリテーヌはデパート、ホテル、アパートなどの複合施設と言われている。LVMHグループであれば、デパートなどの参入企業も当然高級品を扱う所となりそうだ。その一方で、以前のサマリテーヌ同様、庶民的なデパートの再現ではの思いはあるが、現実的にはその可能性は低い。

 良し悪しは別として、これだけの時間と資本を注ぎ込んだ新生サマリテーヌである。パリの新たな名所に相応しい、又はLVMH企業本部としてのイメージに相応しい施設、内容の確保は当然必要となるだろう。

 どの様なデパートの商品構成になるか、出展企業はどんな所かと色々とイメージして楽しんでいる。中でも食品分野は同系列のボン・マルシェで既に高級イメージを確保しているので、新しい売り場がどの様な形で出来るのか、それも楽しみだ。特にスイーツ部門ではどんな店が出店するのか期待は膨らむ。 

 既存の有名パティスリーでは余り面白みが無いと思うのは、空想の飛躍し過ぎか。出来れば本当にスイーツ好きで、気を衒うでなく、美味しく新しい何かを作り出してくれるパティシエの出現が待たれる。

 

 コロナ禍の今、パリのスイーツ業界は完全に膠着状態だ。新しい店が出来たと言う話も少なく、無風状態が続いている。人が動けない状態の中では仕方のない事なのだろう。規制緩和があったとは言え、今も18時以降の夜間外出が厳しく規制されているフランス。ブティックなどは17時半になると店仕舞を始める所が多い。18時までに家に辿り着いておく為の自己防衛策だ。

 日本でも営業時間短縮で色々と問題になっているようだが、フランス政府の高圧的対処は半端でない。上位下達の徹底ぶりは、我々日本人の想像を遥かに超えている。

 幸い、食品関連の店は通常通りの営業が許されているが、18時以降の外出禁止状態では買い物に来る客がなく開店休業状態だ。

 私の家の近くにも2軒のブーランジェリーがある。何れもパティスリーを兼ねた店だがコロナ問題が起きてから、売り上げが前年より落ちていると言う。コロナ禍の下でも食品関連の店は営業を続けていたので順調にいっていると思っていたが、実際はそうでも無い様だ。

 カフェやレストランが休業中の今、ここからの注文がまったくなくなった。更に各種イベントでの注文も無くなった事で売り上げが下がったと言う。コロナが原因でモントローでも既に2軒のブーランジェリーが廃業しているそうだ。

 

 パリの通りを歩いて改めて驚くのはシャッターの下りた店が増え続いている事。どの通りも同じような状態が続いている。表通でさえこの状態、横道に入れば更に閉店の貼り紙が増えてくる。

 中には元不動産の事務所に貸事務所の貼り紙があり、事の深刻さを見る思いだ。そんな中を歩きながら、不謹慎にもある思いが浮かぶ。何時コロナ問題が収束するかは不明だが、これだけ物件が溢れる状態であれば起業する側にはチャンスも多いだろうと。

 スイーツ業界で起業するにはそれだけの設備も必要となるが、規模を大きくしないで小さく商うには工夫次第で新しい店がオープン出来る。独立をして自分の店を持つには今がチャンスでは。素人の発想だが、ふとそんな事を思ったパリの現状である。私を含めて発想の転換その岐路に立たされている様に思えた。

 

フランス全土襲った水の被害。

 パリを含むイル・ド・フランスで1月末から既に10日以上の雨日が続いている。まるで日本の梅雨の様な天候、少しの違いはヨーロッパ特有のしとしと雨。その雨水が積もって河川に流れ、更に河川から流れ出た水が宅地に侵入すると言ったパターンだ。

 それにはフランスの平地の多さがあげられる。多くの平地は川の堤防より低い位置にあり災害にあう確率が高いと昔から言われてきた。予想外の長雨や春先の雪解け水増水で水害を被る地域は毎年現れる。

 今年は珍しく雪の少ないフランス全土であったが、変りの激しい気候、この先どの様に変化するかは読めない状態である。通年だと3月になれば雪解けが始まり、河川は増水と言ったパターンになる。

 今一番被害の多い地域はフランスの南西部。40年振りの降雨水害と言われ、今日2月5日も更に被害が広がっている。北東フランスでも同じような水害が発生して、その様子が放映された。浸水した家屋の中で呆然と佇む老人の姿が哀れ、その外では雪が降り始めている。

 

 昨年2月コロナ・ウイルスと言う言葉が市民間で語られる様になって丸1年が経った。驚異的な勢いで感染する新型コロナに対応してマクロン大統領は3月17日フランス全土のロックダウンを宣言する。その折大統領が言った言葉は「目に見えない敵との戦争状態である」と語った。

 それ以降のコロナに関する情勢は皆さんご存知の通り、世界中がこの渦に巻き込まれ足掻いている。フランス政府の窮地も他の諸外国と変わりなく、悪戦苦闘しながら日々対応に追われている事が一市民でも理解できる。

 そんな渦中に更なる今回の自然災害である。今の段階では被害額も算出出来ないと被害地選出の議員がテレビのインタビューに答えていた。

 

 水害ニュースが出たので、モントローのセーヌ川を見に出かけた。水嵩はかなり高くなっているが、南仏の状況と比較すると心配する程の事は無いようだ。とは言えこの1週間の天気予報図を見ると連日雨印が付いている。

 上流から大型の運送船が流れに乗って目の前を通り過ぎた。流れの勢いが強いのか何時もより速く走っている。更に増水するといずれ運行不良に、その前に荷物を運んでいる様に思えた。

 モントローからパリへと向かう列車はセーヌ川沿いを走る。下流に行くに従い川幅は広くなる。パリに近い近郊都市のムーランではセーヌ川岸水域ぎりぎりまで増水していた。川岸に近い家屋では土嚢を積み上げた所もある。

 パリのセーヌ川沿いでは散歩道が既に水に埋まった所も出現。2018年の増水ではシテ島の公園が完全に水没、ルーヴル美術館にまで浸水した。今はコロナ禍で休館中だが若し再度の浸水被害に遇えば、コロナが緩和して開館できても休館状態が続くだろう。そう言うことにはなって欲しくない。

 6日、モントローでも水害警告が黄色となった。2018年の水害時には旧市街に近い公園が水没、水の公園に化したと言う。水害イコール復興費の増大となれば小さな町での財政では賄いきれず、政府の援助は必定。財政支出で苦慮する政府にさらに追い打ちをかける事になる。

 フランス北部の被害を伝えるテレビ画面には浸水したブーランジェリーも映しだされていた。機械も粉も水没、悲惨な状態である。一日も早い復興を願いたい。

 

ガレット・デ・ロワ1位はラ・ファブリック・オゥ・グールマンディーズ

 時期的には少し鮮度が落ちるが、ガレット・デ・ロワに関心ある方に紹介したい。2021年のパリ・イルド・フランス、ガレット・デ・ロワ・アーモンド、コンクールで久し振りにパリの店が1位を獲得した。

 今年1位に輝いたのはブーランジェリー、パティスリーLa Fabrique aux Gourmandisesのリオネル・ボナミーさん。久し振りのパリ市内店での獲得と言う事で店を見に出かけて見た。場所はパリ市の南部になる14区、国際学生寮が建ち並ぶシテ・ユニバーシテールの近くで、パリの中心部からは少し離れた場所になる。

 RER-B線に乗車、シテ・ユニバーシテールで下車する。エスカレーターを利用して改札口を出ると、目の前に大通りを挟んで個性的な建物群が見える。有名なシテ・ユニバーシテール、世界中からの留学生を対象に作られた学生街で、ここには日本人館もある。大通りにはトラム路線が走る。

 改札を出てトラム線路沿いを左に坂道を歩くと、前方に巨大な競技場が見えてくる。暫く歩くとトラムの停留所があり、その前に左方向へと下る坂道がある。rue de l’Amiral Mouchezの通り、通り沿いに近代建築の住宅街が続く。パリの中心部とは趣の違う建物、その通りの82番地に今回目的の店である。

 思ったより小さい店だった。店の天幕に店名が書いてあるので解り易い。ここまでの道のりをちょっと詳しく書いたのは、出かける前に調べたつもりが、間違えて改札口を出て右方向へと歩いてしまった事。そのミスの反省からである。

 私は現在に至るもアイフォンを持っていない。「不自由ではないですか」と問われる事もあるが、不自由と思いながらも旧式の携帯で用をたしている。アイフォンがあったらすぐに補えたのだが。

 長いパリ暮らしではあるが、14区へは年に1度か2度位しか出かける事も無く、街の感覚、いわゆる土地勘が掴めないでいた。結果は無駄な時間を使って周辺をぐるぐる回り、駅前まで戻って再出発する破目になった。

 

 辿り着いた店の前には行列が出来ていた。ある程度の混雑を予想して、お昼の時間帯を外したのだが、それでもこの行列である。時期が時期だけに並ぶ人達も距離をとって入店を待っている。

 その行列に並んで店内に入る。目の前にショーケースがある。まず目に入ったのは立派なトロフィーだった。ショーケースの上段に大小のガレットが並ぶ。その下の段には数々のパティスリーが、如何にも美味しそうな色よし、形良しに仕上がった物だ。

 豪華なトロフィーは2021年ガレット・コンクールで獲得した1位の証、何とも誇らしい。ショーケースを挟んで外側にお客が並び、内側ではスタッフが狭い空間でせめぎ合う様に客の注文に応じている。壁面の棚には各種パン類が並んでいた。

 店のスタッフひとりに撮影の許可をお願いする。「店が混んでいるので、それでも良ければどうぞ」の答え。それにしても客が多い。ひとり出ては、ひとり入るの繰り返しが永遠と続く。客の合間、隙間を見ながら写真を撮る。

 店の右側が厨房になっている。厨房では一人の男性がバケットの仕込み中であった。その部屋の奥に別室がある様で器具の一部が見えた。

 残念ながらオーナーのレオネルさんは外出中との事でお会い出来なかった。今年1番の賞を獲得した事で外出の機会が増えているそうだ。それでも毎日厨房で仕事をこなし、店に来る客に納得いく商品を作り続けているそうだ。

 スタッフの信頼も厚い事が伝わって来る。それにしても評判の店とはこんなにも賑わうのかと改めて感心した。クロワッサン1個、サンドイッチ1個の客からバケットの纏め買い、ケーキを買う人とレジはフル回転である。

 お昼時になると近くのシテ・ユニバーシテールの学生もサンドイッチやパンを買いに来るそうだ。2月に入ってもガレット・デ・ロワを買う人が多いと言う。お蔭さまで店の様子や商品の写真は撮る事が出来た。客の中には写真を撮るとき間合いを取って撮り易いよう協力してくれる人もいて助かった。

 ラ・ファブリック・オゥ・グールマンディ―ズは2019年にクロワッサンで最優秀賞も獲得している。過去にガレット・デ・ロワ、コンクールで上位入賞の経験もあり、店には数々のトロフィが飾ってある。

 

 先に場所の事を書いたが、正直言うと店に来るまでは今年1番の賞を獲得した店はどんな所か、と言った程度であまり期待はしてなかった。大きな商店街がある訳でも無く、普通の通りの地元民を対象にした小さなブーランジェリー、程度の認識である。

 店を訪れて、先入観が如何に当てにならないか改めて反省した。よくよく考えるとこれ程店作りに好条件の所はそれほど多くない。周りは高層住宅街、近くに世界中から集まった学生街とブーランジェリーに必要な要素が詰まっている。

 帰りにガレット・デ・ロワ1個、クロワッサン3個、パン・オ・ショコラ3個を買う。ガレットは3人用にした。値段は11、50ユーロでモントローのブーランジェリーより安かった。

 

 帰りは21番の市内バスに乗車した。14区に付いては殆ど知識がなく、どの路を走るのかも解らない。車窓から見える街の風景も初めての所が多い。気がついたらルクサンブル公園横に出ている。サン・ミッシェルでバスを下りてメトロに乘り替え、今回の店訪問を終わりにした。

 夕食の後、デザートに買ったガレットを頂く。今年何度目のガレット・デ・ロワだろうかと思いながら、切り分けた一片を口に運ぶ。サクッとした食感のパイ生地の中に甘いアーモンド餡が詰まっている。煉りの具合、ちょっと変わった香りが何とも良い。ラム酒以外の香りにも思えたが、ここら辺りに味の秘訣がありそうだ。

 フェーブはこの店特製の最優秀賞記念陶器であった。受賞後作られたのであろう、コレクターにとっては何とも貴重な一品になりそうだ。

 サン・ミッシェルに出たついでにモーベルのブーランジェリー・イザベルに寄ってクロワッサンを買う。先に買ったラ・ファブリック・オゥ・グールマンディーズのクロワッサンとの比較がしてみたかった。

 


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