2015年02月17日
Vol.77 SIALとサロン・ドュ・ショコラ
今年も残りひと月となった。11月20日はボジョレー・ヌーボーの解禁日。カフェやレストランでは相変わらず新酒を祝う客で賑わうが、巷では何とも静かな解禁日となった。それでもスーパーやワイン専門店では特別コーナーを設けて色々と工夫を凝らしていたが、今一の盛り上に欠けた。
ボジョレー新酒の国内販売数も減っているという。原因は色々あると思うが天候異変による収穫量の減少、日本を始め海外への輸出増加、ボジョレー以外の新酒参入、国内での販促不足などが挙げられている。
今年はワインの外れ年と言われている。春先の雹被害や水害で収穫が激減した。私の知人はアルザスで有機ワインを作っているが、このワイナリーでも昨年の半分しか収穫出来なかったそうだ。何とか販売協力をと思っているが個人の力では限界がある。
先日、ミラノに住むワイン好きの日本人彫刻家の方からメールを頂いたが、イタリア・ワインも不作だそうだ。雨が多かった上に冷夏の重なりが原因であるらしい。
SIALが10月19日から23日の5日間、パリ郊外パーク・ド・エクスポジション国際見本市会場で開催された。2年に一度開催される国際食品見本市である。資料によると、5日間の入場者数15万人、世界105カ国から6500の企業が出展とある。
会場には世界中の食品関係者が集まった。入場者数の大半はバイヤーである。入場料80ユーロ、日本円に換算すると約11,000円。何とも高い入場料だが、それでもこの入場者数である。
会場は建物により若干の違いがあるが、基本的には食品の業種別、更に国別に別れて、それぞれのブースを設置している。出展企業の規模も様々で、大手グループは展示スペースも広く、集客も多い。国により規模も異なり、ブラジルなどは食肉の売り込みに広いスペースを取り、レストラン同様の設備で客を饗している。アルゼンチンも同様な規模の展開をしていた。
大小6500ものスタンドがある訳だから、一日では回りきれない。ひとつの建物を回るだけでも足が棒の様になる。不思議なもので、好きな展示会だと一向に苦にならない。
出だしはスペインのコーナーから始めた。イベリコ・ハムのメーカーが並ぶコーナーには、大勢のバイヤーが集まり、試食をしたり、買い付け交渉をしている。どのメーカーも大ぶりのハムを台に乗せ、ナイフで削りながらお客に勧める。今回改めて感じたのは、同じイベリコ・ハムでも、豚の種類、作り手の違いでその味が微妙に異なると云う事。それにしても、この生ハムの旨さは格別だ。
スイス、ドイツのハムやソーセージの試食を重ねながら、次のコーナーへと移る。乳製品、製菓、果物と流れるままに会場廻りを続ける。試食品とは言え、世界中の珍味を味わえるこの場は、食いしん坊にとっては正に楽園だ。
今回会場巡りをする中で一番気になったのは、中国からのバイヤーの多さ。どのスタンドでも、必ずと言って良いほど中国人を見かけた。前の会では無かった現象である。時期は異なるが、同じ会場で開催されるファッションやインテリアなどの展示会でも中国人が増えてはいる。だが、こちらはバイヤーと云うより見学、視察組が多い。ところが、この会場では買い付け目的の中国人が殆どだ。オーバーな表現をすれば、世界中の食品を買い占めしている様な勢いである。
更に驚いたのは、本会場の脇にある大きな建物を、一棟そのまま中国ブースとして食品展示した事である。中国各地で生産される、あらゆる食品を売り込む一大イヴェントだが、他の会場での中国パワーに比べ、こちらは客も疎らで盛り上がりに欠けた場となった。
理由は色々ある。まず気がつくのは、海外での見本市に慣れていないと云う事。商品展示の稚拙さ、スタッフの経験不足が目に付く。外国での展示会であり、戸惑いもあるのだろうが、サービス精神に乏しく、積極的に売り込もうという姿勢が伝わってこない。将来的にはソフトに対するアドバイザーが必要だろう。更には、これが一番の原因と思われるが、商品に対する各国バイヤーの不信感だろう。残念な事だが、大量の農薬使用、製造過程での衛生面など悪いイメージが定着しているように思える。これらの部分を払拭しないと、買う側の信頼を得る事は難しい気がした。
アジアのブースには日本も出展している。大分の椎茸、長崎の島原素麺や五島うどん、熊本からは薩摩芋の加工品、京都は酒や九条ネギ油、長野のワサビ、鹿児島の焼酎などなど、企業中心の出展である。アジアの他国に比べ人の集まりも多く、商品に対するバイヤーの関心も高いと感じた。出来ることなら外国に売るノウハウをもう少し研究すれば、更に目を引く事が出来ると思う。日本では消費者対策も色々されていると思うが、食生活の異なる海外マーケットは日本のそれと同じようにはいかない。
それにしても、世界中の食品が一箇所で見れると云うのは有難い事と改めて思った。更に、それを試食出来る喜びは格別のものだ。アルジェリアのクスクス、ポーランドのパリパリのソーセージと銘菓ブロッシェ・ロワイヤル、同じくトルコの銘菓ロクーム、ギリシャの鉄板で焼いたチーズetc、数え切れないほどの珍味のパレードだ。
食の世界の奥の深さ、国、地域による嗜好の違い、創意工夫の豊かさその叡智と、改めて興味が増した今回のSIALであった。2年後が楽しみである。
サロン・ドュ・ショコラ・パリが10月29日から11月2日までの5日間、ポート・ド・ヴェルサイユの国際展示会場で開催された。第一回開催が1994年、エッフェル塔近くの広場に設けられた特設テントで産声をあげてから20年が経つことになる。その後、場所をポート・ド・ヴェルサイユに移し、その規模も拡大。1998年にはニューヨーク、2000年東京でも開催、更にロンドン、モスクワ、北京、ソウルと世界10カ国以上の主要都市で開催され、ショコラ・イベントとしては世界一の大フェスティバルになっている。
今回も盛況、大勢のビジターが会場を埋めた。入場料14ユーロ。出展企業220社と相変わらずの人気である。恒例のショコラ・ドレスのショーやショコラ創作コンテストなど各種イヴェントも盛り沢山である。
主催国であるフランスからの出展が多いのは当然だが、その他の国からも多くのメゾンが参加している。中でも日本からの参加は、このサロンに華を添えた。こちらのメディア関係者の話では、味、質共に、フランスやベルギーのショコラに比べ遜色ない出来栄えという。お世辞半分としても嬉しいコメントだ。
とは言え、ショコラ業界のレベルが両国に並んだかと言えば、答えはNOだ。長い歴史で培った世界、ココアの産地を持つその力とブランドの威力は計り知れないものがある。
今回参加した多数のメゾンの中から、外国人部門の最優秀賞を兵庫県三田市にあるパティシエ・エス・コヤマの小山進さんが受賞。フランスで活躍する外国人賞にはパリヨシダの吉田守秀さんが選ばれた。
サロンで私の興味を引いたのは、ショコラに関する古くから使われてきた色んな機具の展示だった。近代化された現在の機器は日本でも多いと思うが、ショコラ製造初期からの物が一同で見れるのは珍しいことである。それにしても良く集めたものだ。
日本でもバレンタインの時期にこのサロンが開催される。外国からの有名ショコラティエが大勢集まると思うが、出来ればこういう物の展示もして欲しい。ショコラ・マニアにとっては必見、貴重品の数々だ。
紙面の関係でほんのさわりだけのレポートになったが、20年の節目に相応しい今年のサロン・デュ・ショコラであった。