2012年12月18日
Vol.55 サロン・ドュ・ショコラ
気象庁からの正式発表ではないが、今年の秋の異常気象ぶりは近年に無いもである。爽やかな秋の空を見ることなく、いつも曇りか雨。涼しかった夏からいっきに秋に入り、気持ちを切り替えるまもなく、アッという間に冬を迎えてしまった。毎年楽しみにしている黄葉を見る間もなく、雨で落ちた枯葉が路に張り付いている。ことフランスに関しては温暖化とは逆方向に進んだ感じだ。
11月15日はボジョレー・ヌヴォーの解禁日。うっかりしてこの日のことを忘れていた。朝パソコンを開き、日本のニュースを見ると、若いお嬢さんたちがワイングラスを持ってにこやかにカメラに向かっている。「そうか、今日はボジョレー新酒の解禁日だった。」と言うことで、早速近くにあるスーパー・カルフールに出かける。
ワイン棚が並ぶ空間がボジョレー新酒の指定位置だが、今年は同じ場所に早くもクリスマス用のショコラが山済みになっている。他の場所を探してみるが、一本の新酒も見つからない。ボジョレー新酒ブームが起きて以来初めてのことである。仕方無く、近くの大手ワイン専門店二コラに行って購入。店員の話では、今年の夏の異常天気、特に雹の被害で、新酒の収穫が例年の50%減なのだそうだ。フランス・マーケットへ配る分が日本への輸出に回されているそうで、二コラでも各店本数減と言うことである。不況とは聞くが、日本のマーケットはすごいと改めて感心した。
昨夜、ぼんやりとテレビを見ていたら画面に全裸の男女が映っている。場所はカフェのカウンター前。3、4人の男女客は全員全裸、立ったままで談笑しながらラディッシュ(野菜の一種)を摘まんでいる。カウンターにはワインのカップが並び、中で働くスタッフも同じく全裸。たまにあるヌーディスト・クラブの事でも放映しているのかと思っていたら、客の一人が帰宅の様子である。場面が変わると、何とそこにはパリの街並みが。全裸に南仏名産のエスパドリーユ(布製の靴)だけの姿ですたすたと歩いている。思わず音量を挙げるとニュースではなく、人気の風刺番組であった。
フランスは今、安価な外国商品が氾濫する現状を憂慮して、政府が盛んに国産品使用の奨励を訴えている。メイド・イン・フランスと言えばこの国にとって貴重な財源。経済のグローバル化が進むにつれ、いつの間にか各種製造業が発展途上国へと工場を移していった。結果、海外から安価な商品が流れ込んで来るようになる。多くの先進国が抱える共通の問題がフランスでも起こっているのだ。対抗策のひとつとして、政府は安い中国製の靴を輸入制限した。その他にも色々対策を重ねている。とは言うものの気がつけば国産商品は大幅減になっているのが現状なのだ。
メイド・イン・フランスを愛用しようとは思っても、いざ身に着けて見たら靴だけしかない、そうだワインと野菜もあった、と出来上がったのが件の映像である。風刺番組だけにいささかオーバーな表現だが、ある意味確信をついてもいる。フランスの各種製造業の衰退は国の大きな損失課題として今改めて問われている。
サロン・ドュ・ショコラは今年も大賑わいだった。週末を外せば少しはゆったりと会場めぐりが出来るだろうと木曜日に出かける。これが大誤算、気がつけば連休の初日である。会場は恒例となったポート・ド・ヴエルサイユの国際展示会場。かなり大きな建物だが、とにかく入場者が多い。長い列に並び切符売り場に到達するまで30分以上もかかった。子供連れの家族、引率つきの子供のグループ、お年寄りグループ、乳母車に赤ちゃんの若いカップルなどなど、チケット購入前から想像以上の混雑振りである。おまけにフランス人特有のマイペースで働く切符売り、と些かうんざりしながらようやく入場。ちなみに入場料は大人12ユーローである。
入り口正面にマカロンをいっぱい飾った車が置いてある。その対極に高さ3,4m、ショコラで作ったピラミッド、ケッアルコアトルが飾ってある。ベルギーのショコラ・メーカ、レオナニダスが作ったものでショコラ使用量500kgだそうだ。ケツアルコアトル(羽毛のある蛇)は古代メキシコの神、有名なピラミッドがある。毎回レオニダスの作るこのショコラ・オブジェ、アイデアの面白さもあって今ではサロン・ドュ・ショコラの顔となっている。殆どの入場者がこの前で記念写真を撮る有名スポットだ。
今回も世界各国から出展があつた。日本からも神戸のエス・コヤマを初め4社が出展、それぞれに大勢の客を集めていた。すっかり常連となったマダガスカル、アフリカ、中南米のココア産地国だが、最近ココア以外の商品も増やしている。中でもジャムやココアを使った飲料に力を入れているようだ。バ二ラの売れ行きも順調、去年より売り上げを伸ばしているそうだ。
例年の事だが、フランス、ベルギーの有名どころは殆ど顔を揃えている。客の集まり具合で、その年の人気度が計れるのだが、これだけ大勢のお客が集まるとどのスタンド前も人、人で身動き取れない。試食用の皿が並ぶ時間帯は更にヒート・アップしてくる。もっとも試食が出来ると言うのがこのサロンの売りのひとつであれば当然ともいえる。個人的にはもう少し試食の量を増やしても良いのではと思っている。ここ数年この手のサービスが少し疎かになっている。当然の事だが子供料金もあり、それを払っての入場であれば試食を楽しみに訪れる人も多いことだろう。初期のこのサロンはこういう面にもう少しゆとりがあったように思える。
ちょっと隙間が出来たので、南仏ピユイリカールのスタンドに寄りクリスチーヌさんに挨拶。売り上げは順調で、開催期間中この調子でいって欲しいとニコニコ顔である。アンリー・ルルーの前も大勢の人で挨拶はパス。そういえば12月パリ右岸に2号店をオープンという案内を頂いている。
会場では日本人客も見かけた。遠く南仏やアルザスから駆けつけたという人もいる。何れもこちらで修業中とのことであった。こういう方達がこれから日本の業界を盛り上げていくのだろうと思うと楽しみである。日本では海外からのショコラ出店が飽和状態という話も聞く。その一方でショコラが好きという人は増え続けているそうだ。
中央舞台のイヴェントを見て、会場奥で開催中のコンテストを覗き、ずらーっと並ぶコンテスト入賞作品を鑑賞して出口に向かったのは夕方だった。来年は期間中一番人の少ない日を見計って来ようと思う。マンネリとは思いながらも、やはり気になるこのサロンである。