2025年02月05日
Vol.170 最大の祭り行事
せめてこの時だけは雑事を忘れて楽しみたい。多くの国民が待ち望む日が近づいている。クリスマスと言えば、「世界最大のお祝い行事と言われている」と言っても過言ではないだろう。ここ、フランスのどのテレビ局も今 一斉にクリスマスプレゼントをCFで紹介している。中でも香水(パルファン)、ショコラの宣伝は最高潮に達している。各メーカーの力量が試されるCFの話題性、面白さ、華やぎに女性軍の視線が泳ぐ。今年は男性客用にも力を入れている。子供向けには玩具、ゲームパソコンとあおる煽る。それでもどの家庭でも予算は少ないそうだ。
国内外に数多くの問題を抱え、悶え続けた2024年のフランスである。マクロン大統領の支持率は減少、いかにかまとめて発足した新政権もわずか3ヶ月の短命に終わった。そんな状況で新しい首相選びも今難航している。
過去にはなかった極左と極右政党が足並みを揃えて中道政党を引きずり下ろすとはフランス国民すら思わなかった、とメディアが伝えている。ここに来て、フランスに限らずヨーロッパ各国が政治の安定から遠ざかろうとしている。
ノートルダム大聖堂の修復お披露目が12月7日行われた。この式典には外国首脳も多く出席した。マクロン大統領の挨拶も厳か、この式典に値するような内容だった。大統領にとって今年唯一の慶事と言えるだろう。
この後、一般参観も始まるという。しばらくは混雑が続きそうだ。観覧料を取られるので気軽に見学はできないが、それでも折を見て、一度見たいという気持ちはある。テレビで見たセレモニーは見事だった。特に最初に映し出された黄金色のノートルダム大聖堂は今まで見た中でも際立って美しかった。
新装大聖堂を見ようと、来年は凡そ1500万人?の人が訪れるという。修復に掛かった費用は全世界からの寄付で賄うそうだ。そんな中個人または関連企業からの寄付で際立つのはLVMHである。
パリは12月に入りクリスマス行事一色の観となっている。通りのイルミネーションは夜空に輝き、街に華やぎを添えている。数多く訪れた世界中からのツーリストもこのお祭りに酔いしれている。
恒例のシャンゼリゼ大通りのイルミネーション点灯式も無事終わった。この点灯式を境にパリは一気にクリスマス商戦が始まる。1年で最大の稼ぎ時ともいえる。どの店でもショーウインドーにモミの木やクリスマス関連の飾りで道行く人々の目を奪う。
そんなパリを見たいと思い、出かけてみた。取り合えずギャラリー・ラ・ファイエットのクリスマス飾りからだ。変わり映えしない報告になるが、パリのクリスマスと言えばまずはここからである。通りに面したショーウインドーは子供たちの楽園。パリ市内の各デパートで行われるこの楽しい行事は長い歴史を持つ。通りは見物客であふれ、通行もままならない。聞こえてくるのは子供たちの歓声、お祭り気分を盛り上げる。
ギャラリー・ラ・ファイエット本館ドームの名物クリスマスツリー。今年はファッション・デザイナーのケヴィン・ジェルマニエが担当したという。パリ・オリンピック閉会式の衣装デザインを担当した若手のデザイナーだ。
毎年、豪華絢爛なツリーで話題を呼ぶが、ケヴィン氏のツリーはロマンティックでファンタジー。女性受けするデザインである。こういうデザインも良いな、とフロアから見上げた。1Fツリーが見える正面の位置は、おしゃれなツリーをスマートフォンに何とか収めようとする人で立錐の余地もない。
ギャラリー・ラ・ファイエットは今年で開館130年を迎えるという。パリのデパートで一番古いのは確かボン・マルシェ。そんな中で人気の高いのは間違いなくこのキャラリー・ラファイエットである。来店する観光客の数でもダントツと言われている。クリスマス前の買物客で大賑わい、さすがは老舗の貫禄と言えようか。人混みに揉まれながら久しぶりに年末前のお祭り気分を味わった。
12月7日と8日、モントローでもクリスマス市が開催された。この市、毎年市の中心地にあるプラス・デュ・ブレで行われていたが、今年はこの広場のすぐ近くにある市民会館サル・ルスティクに移しての開催である。
館内に凡そ40のブースが設けられ、モントロー在住のアーティスト、クリエイター、アトリエ経営者、さらに加えて近郊からの出店者が、それぞれ自慢の作品を展示販売。パリなどのクリスマス市とは比べようもないが、年末の貴重な市民の催事となった。
週末開催でもあり、大勢の家族連れが次々と会場に訪れている。時を同じく近くの公園には特設リンクができて、アイススケートを楽しむ人々が集まっていた。クリスマス市はお年寄りや家族連れ、一方のアイスリンクは若者たちと客層が分かれた感じである。
モントローの名産と言えば、食関連ではフロマージュのモントロー・ブレが挙げられる。フランスを代表するフロマージュ・3大ブレのひとつである。そのブレの出展もあった。
12月12日の木曜日朝、パリに出かけようと準備をする。予定通り出発できるかネットで列車ダイヤルを検索した。何と17時45分の列車のみ運行すると案内がある。理由ははっきりしないが、セキュリティの為とある。翌13日も運航中止であるらしい。
これが文明国のでき事か、いや、文明国ゆえの有様かと怒りと諦めが交差するが、結局はパリ行きを中止した。この日は冷え込み日中でも3℃、夜は氷点下の寒さである。家に籠るしかないかと諦めるが、何となく気持ちは高揚のままで、近所のブーランジェリを回って見ることにした。
モントローのブーランジェリはアラブ系のパトロンが多い。イスラム教信者にとってクリスマス行事は関係ないと思われそうだが、どの店もそれなりのクリスマス・デコレーションを施している。
正直いうと飾られた品々は去年のクリスマスでも見た様なものだ。とは言え、飾る位置やちょっとした工夫で今年らしさが出ている。この発想がパンやケーキ作りにも生かされているのだろう。基本のレシピからアイディア、技術を駆使していろいろなケーキ、パンを作りあげる。アルティザン恐るべしだ。
12月15日 日曜日パリに出かけた。早速オペラ通りを歩く。道行く人の大半が観光客に見える。歳末のパリ、オペラ界隈は間違いなくこんな状態だ。ピラミッドから21番のバスでオペラ座界隈へ向かう。いつも利用するのは27番か95番のバスだ。オペラ座正面を通って右に曲がった所がバス停オペラである。ここで下車してオスマン通りへと歩くとギャラリー・ラ・ファイエット食品館に出る。
ピラミッドから始めての21番は、オペラ座を左に見ながら直進。目の前にギャラリー・ラ・ファイエットの本館が見える位置で下車する。観光客の群れに交じりオスマン通りを歩くと、ラ・ファイエット本館のショーウインドのある位置に出る。
先日もすごい混雑であったが、今日は日曜日である。通りをまっすぐ歩けない程の人の波、子供を肩にしてショーウインドー見物を楽しむ人たち、その足元にも子供達が背伸びをしながら群れている。という事で、歩道を外れて車道脇を歩いて食品館に向かう。
想像はしていたが食品館は大混雑だった。人人人、アジア、アラブ、ヨーロッパ系観光客、あらゆる人種の集合体で館内は熱気の塊だ。ここでも人の流れに乗って、あっち見、こちらを眺めながら背中を押されて前へと進む。
前回訪れた時はまだ少し余裕があったような。そんな感じを覚えながら、ちょっとした隙間を見つけて立ち止まる。ここにはフランスを代表するショコラトリー、パティスリーが出店しており、観光客にとって欠かせないお目当ての場所である。
そんな状態の中で、何とかクリスマス関連のスイーツ商品を写真に収める。買い物客の方には申し訳ない、と思いながらできるだけ前に出てシャッターを押す。ふと、回りを見るとスマートフォンを構えた人が大勢いて何となく安堵した。
人に酔ったのか疲れが募る。今日はここまでと、食品館を後にサンラザール駅に向かおうと思いながら、気が付くと足は再びオペラ通りに向かっている。これは運の良さとでも言えようか、偶然、本当に偶然だが新しいショコラティエ店の前に出る。
Elias Laderachエリアス・レーデラッハ、正直聞いたことのないショコラテールである。吸い込まれるように店内に入る。店内は客で賑わい、スタッフの対応も親切だ。勧められるままに試食したショコラもまことに美味であった。今やショコラ通りと呼ばれるようになったオペラ通りに、また1軒話題の店が登場した。この店に付いては何時かレポートしたいと思っている。
いつもなら行きつけのカフェで小休止するこの界隈だが、生憎日曜日。知っているカフェはいずれも休み。オペラ通りに面したファストフードの店やスターバックスなどのコーヒー・チェン店は観光客で満席の賑わい。という事でバス停の椅子に座り暫し休む。
サンタクロースはなぜ赤い服を着て赤い帽子をかぶるのか。子供の時の疑問だった。宗教絵画に決まった色が使われると知ったのは、初めてルーブル美術館を訪れた時である。クリスマスカラーと呼ばれる色があるのを知ったのは何時頃であったか思い出せない。
12月になると赤、緑、白、金、銀のカラーがどの店のショーウインドーにも氾濫する。クリスマスカラーはある、の証である。その代表が包装紙であり、パッケージ、さらに包みを彩るリボンである。と、私は思っている。
赤はキリストの血を表し、緑は永遠の命、神の愛の象徴、白は罪や汚れのない証、金銀は光の象徴として使われると何かの本で読んだ。定かでない記憶だがなる程な、と感心したものだ。
知人で古い布を集めている方がいて、そのコレクションを見せて貰ったことがある。その時の話。いろいろな布を見てきたが宗教、特にキリスト教儀式に使われた物が一番上質で布の値段も高いという事だった。集めるのに苦労するとも。
先のノートルダム大聖堂の儀式で見た大僧正が着用した新しい衣装はファッション・デザイナー、カステル・バジャック氏の手によって作られた物だそうだ。
イヴの大聖堂ミサには何回か出かけたことがある。毎回、祈るというより見物といった感じであった。不思議なものでいつの間にか厳かな時間を過ごしているような感覚になる。明日はいよいよ聖夜、多くの人たちが新たな大聖堂に集まる事だろう。
今年もホワイト・クリスマスは見られそうにないパリの街。ここモントローは霧の聖夜となりそうだ。