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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.138 お国自慢

 人口2万3千人のモントローという小さな田舎町に自慢の食べ物がふたつある。そのひとつがチーズ好きの方ならご存じブリ・チーズ。その代表でもあるブリ・ド・モーは千年の歴史を持つと言われている。

 パリ郊外東部にあるモー村で誕生した。ブリ・ド・モーは「チーズの王様」と呼ばれ世界中のチーズ好きに愛されている。エメンタール・チーズを王様とする説もあるが、どれもはっきりと定義されている訳ではない。

 このブリ・チーズを真似て作られたのがあの有名なカマンベール・チーズ、ノルマンディの名産である。チーズを知るにはまずはカマンベールからと説く専門家もいる程ポピュラーだ。実際癖が無く食べ易い。

 ブリ・チーズにはそれぞれの産地名を冠した三大ブリと呼ばれる物がある。モーとパリ郊外の街ムーラン、さらにモントロー産の有名ブランド、いずれも村と呼ばれた時代から造り続けられるチーズだ。夫々に味を競い合っていると言われる。

 その三大チーズのひとつブリ・ド・モントローは他の二つに比べ塩分控えめだが、熟成時の味は格別に旨い。産地それぞれに味と香りに特色があるが、いずれも捨てがたい独特の風味がある。

 モントローの朝市にチーズ店が出店している事は、以前このシリーズで触れた。フォンテーヌブロー老舗チーズ店の出店、品揃えも豊富である。客も常連が多く毎週見かける方がいる。傍で見ていると客の方も知識が豊富、店主とやり取りも面白い。私が食べた事のない種類を次々と買っていく。チーズ王国の住民はこんなにもチーズを食べるのかと毎回驚いて見ている。

 

 フランス人のチーズ好きは、つとに有名だが、チーズの数、種類の多さでもフランスは世界のトップクラスに数えられる。比べられるのが日本の漬物、国中にあるという意味で良く使われる。漬物の種類、数と同じ位チーズがあるという事らしい。

 おおよそ24㎏、フランス人の年間チーズ消費量は世界1位。続いて2位がドイツ、ちなみに日本の消費量はおおよそ2㎏との事、チーズ好きが多いと言われる割には少ない数字だ。

 通常、フランス料理のレストランなら、前菜、メインと続き、その後にデザートをいただくのが定番コースである。と言われていたが、最近前菜とメイン、またはメインとデザートを設定したメニューを置く店が増えている。客の量、値段を考慮してのメニュー設定と言われ、女性客に好評と聞く。

 パリのちょっとした店ならデザートの後にチーズを用意してある。今の日本の若い人はわからないが、私たちの世代ではフレンチ・レストランでチーズまでいただく人は余りいなかった。これは日本での話。ところがフランスではチーズまで行く人が多く、いただく量と種類の多さに驚いたものである。星付きレストランなどはワゴン車にチーズを並べ客に勧める。

 我が家では、チーズは前菜の役割に近く、酒の肴としていただいている。主にブリ・チーズだが秋から春にかけてはモンドールもテーブルに並ぶ。これも旨い。

 

 久しく帰国してないが、東京にいる時はデパ地下見物に余念がない私、チ―ズ売り場も必ず覗く。種類も増え客も多いが、フランスとの比較で言うなら、まずは国産以外は値段が高い。関税、送料など考慮すると仕方がないとは思うが、それにしても手が出ない値段設定だ。

 

ピザでウクライナへの支援

 もうひとつの自慢が意外や意外ピザ。そうあのイタリア名物のピザである。こちらはワゴン車売りの焼き立てピザで超人気のPIZZA JOJO。他の町からもこれも求めてピザ好きが訪れると言われる程、この人気ピザの作り手がピザ歴30年と言うフレディリック・サガトさんである。

 そのフレディリックさんがモントローの市庁舎前広場でウクライナ支援を訴えるイベントを開催した。作ったピザを8ユーロで販売、その売り上げ金をウクライナ支援のために寄贈すると言うイベントだ。

 フレディリックさんはイタリア、ローマで開催されたPizza World Cupで2018年と2019年に2年連続2位を獲得。この大会は各種あるピザ大会で最も権威あると言われている。と言う事でフレディリックさんはフランスで有名なピザの作り手として知られる。

 3月21日のイベントは午後16時から始まり21時まで行われてた。イベントの反応を見ようと16時に市役所に行ってみる。16時と言えば中途半端な時間帯、会場広場に停車したワゴン車の前は無人状態で人の姿がない。時々市役所の職員が訪れて紙きれを渡して帰っていく。

 暇の様子と見てお話を聞いてみた。フレディリックさんは町内にピザ店を経営しているそうだが、場所的条件に恵まれず、できるだけ多くの人に会えるよう、ワゴン車での製造販売を思いつく。ワゴン車内に厨房を作り、薪窯も設置した。路上営業権も獲得して今ではワゴン販売に軸足を置いているそうだ。

 移動が可能なので、色んな場所での営業をしているが現在の営業基本場所は、モントロー最大のヌー公園入口脇に。17時から21時迄営業している。バス停も近くにあり、各路線の集合点で人の交流が多い。おかげさまで店での売り上げは増えたそうだ。

 今回のイベントはロシア侵略で疲弊するウクライナ国民に何とか援助の手を伸ばしたいの一念から。ウクライナ国旗のブルーとイエローを取り入れたTシャツも作った。Tシャツには戦争反対のロゴも刷られている。

 当日作ったピザはフレディリックさんが一番得意とするマルゲリータ。話を聞いている間に客が訪れるようになった。1号客は市役所近くに住むと言う中年のマダムだった。焼き上がったピザを受け取り10ユーロを払う。お釣りの2ユーロは寄付に。

 次第に客が増えてくる。先程市の職員が渡した紙は職員達の注文、退庁時に持ち帰りで相当の数になると言う。「これから忙しくなるよ」と準備に拍車がかかる。

 我が家でも夕食時に合わせて持ち帰りをした。焼き立てのマルゲリータはピザの命と言える生地のもちもち感が何とも良い。使われたその他の材料も選び抜いていると言うだけに申し分ない。なんと言っても世界大会連続2位の持ち主だけにこだわりが半端でなく、そのプライドが出来上がったピザに見事に反映している。

 ピザが欲しくなったらJOJOと決めている我が家、近所にも何軒かのピザ店があるが歩いても6分の距離にあるこのワゴン車につい向かってしまう。それにしても美味いピザ・マルゲリータである。

 

 フランスでは現在凡そ3万人のウクライナからの難民を受け入れている。ウクライナに隣接するポーランドなどに比べると少ない人数だが、これからは益々増えていくだろう。

 先日、パリに出かけた。私が利用するパリのリオン駅は南に向かう人の基幹駅、北から来る人は北駅や東駅が多い。恐らく難民の方々もこの両駅を利用すると思われる。

 難民かいかがかの見分けはつかないが、トランクを引いた女性の親子が駅の案内所に並んでいる。心なしか疲れ、不安そうに見える事で難民ではと思えた。先週に比べ駅の案内スタッフが急に増えている。

 1975年、知人も身寄りも居ないパリの空港に降り立った時のあの何とも言えない不安が急によみがえった。できる事ならウクライナからの難民の方達が安穏に暮らせるフランスの地であって欲しいと切に思っている。

 

パリのスイーツ界に新たに日本人女性シェフが誕生

 日本人シェフが活躍するパリのレストラン、パティスリー界がなにかと話題になっている。2022年ミシュラン・ガイドに新たに日本人シェフの店が3店舗加わった。日本人としては嬉しい話である。

 そんな中、パリ2区サン・トーギュスタン通りに新しいパティスリーが誕生した。店名はKINTARO CAFE パリで日本食関連レストランなどを手広く展開するKintaroグループの新しい店である。

 場所はオペラ通りからサン・トーギュスタン通りに入って最初の交差点角地。ガラス張りのモダンな店構えでわかりやすい。Gaillon(ガイヨン)通りに面した入口を中に入ると右側にカーブを描いたショーケース台がある。

 ガラス張りのショーケースの中に美しく仕上げられた各種ケーキが並べてあった。繊細な形と色使いのバランスがなんとも良い。作り手の気持ちが伝わるようなお菓子の数々だ。

 シュークリームは胡麻、カシス、バニラなど5種類、チーズケーキ、シャルロット、ロールケーキなどなどどれも美味しそうだ。ふと女性客に受けるだろうなと思った。中で食べてみたいと思ったのがショートケーキ。パリで食べるショートケーキは食べる度に何がしかの物足りなさを感じていたのでぜひ一度と思いながら眺めた。抹茶フランも美味しそうだ。

 これらの菓子作りを総括しているのが今回紹介するシェフの久米 里奈さん。パリ在住のパティシエール、渡仏後フランス各地のパティスリーや有名レストランで修行。昨年まではモンパルナスの有名レストラン・カフェ、ドームでデザート担当シェフとして活躍した。今回のKINTARO CAFE立ち上げにシェフとして参加、見事オープンして現在奮闘中のことである。

 この新しい店はカフェは提供してもイートインはない。店自体もさほど広くない。元の店は韓国系のブーランジェリーで2階はカフェになっていた。実はすぐ近くにイートインを設置した広いKINTARO CAFEを秋頃にオープンの予定だそうだ。話を聞いて納得した。

 KINTARO CAFEではおにぎりやサンドイッチも販売している。2区のこの界隈は日本レストランや弁当屋が多く、おにぎり専門店もある。いわば、おにぎりビジネスの激戦区、競争も激しい。

 おにぎりがパリの若者達の新しい食アイテムになっている様で店も増えている。まだ行ってないがサンジェルマン、ドーフィンヌ通りにも新しいおにぎり店が開店したと聞く。

 これだけ店が増えれば当然、他店との競争が激しくなる。価格競争は限界があると思うので、新味を出すには、おにぎりの具などのアイデアが必要となる。KINTAROのおにぎり茄子を見てなるほどと頷き、その対応も怠りないと思った。折を見ておにぎりも食べようと思っている。

 餅も何種類かあり、桜餅が美味しそうだった。5月には柏餅も、期待しているところだ。帰りにアンパンと食パンを買う。どれも大振りで満足できる量と味であった。


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