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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.73 フレンチ・レストラン パージュ

 花火を見てその美しさに感動したこ事は何回もある。中でも2000年を記念するエッフェル塔の花火は今でも忘れないほど見事なものだった。花火を最高の光の芸術と言う人がいる。夜空というキャンバスに描かれる一瞬の技、瞬時に見る人に感動を与え、あっという間に消える。真に贅沢な瞬間芸術である。

 7月14日フランス革命記念日の花火は、今まで見たどんな花火をも圧する、まさに光の芸術そのものであった。

 今年は第一次世界大戦が始まって100年目を迎える。連合軍の勝利に終わった第一次大戦だが、その連合軍には日本も加盟していた。7月14日の軍事パレード、シャンゼリゼ行進には日本の自衛隊も参加、3人の自衛隊員が日章旗を捧げて行進した。

 恒例の夜の花火は第一次大戦から100年を記念して、戦争と平和がテーマである。その数約1万5千発、豪華絢爛、見る人総てを夢の世界へと誘う大スぺクタルであった。とは言え、戦争賛歌のイベントとは決して言えないものがある。ちなみにこの花火の動画はYouTubeで見ることが出来る。

 漆黒の上空を照らす数本のブルーのサーチライト、その間に上がる照明弾を思わせる数発の花火は、それだけで夜の空襲を思わせる不気味さを表している。丸で映画を見ているような気分だ。花火はクライマックスに近づくにつれて激しさを増していく。見ようによってはその後の戦争が如何に激しいものであったかを、観衆に訴えるに十分の迫力がある。光と音だけでこれだけのストーリーを作りあげた花火師に改めて感心する。感動と同時に改めて戦争と平和と言うテーマを意識した今回の花火であった。

 6月6日のノルマンデー上陸70周年記念式典、7月14日の第一次大戦記念式典とフランスでは過去の大戦記念イベントが続いている。その影響か、出版界でも戦争に関する各種書物が数多く出版されている。写真集、体験記、漫画と色々だが、いずれも例年にない売れ行きだそうだ。

   

 今年も夏恒例のパリ・プラージュが始まった。セーヌ川右岸にそって砂浜が広がっている。ズラーっと並ぶパラソルの下には、しゃれたデッキ・チェアーが置かれ、読書を楽しむ人、水着で素肌を焼く人、のんびり昼寝をのお年寄りなどなど、パリならでの休暇を楽しむ人達で賑わっている。家族連れも多い、今年は特に中国系の人が増えた。世界人口5人に一人は中国系と言われるが、こんな所にもそのパワーが現れた感じだ。

   

 ポン・ヌフ近くの歩道には赤いエッフェル塔が登場した。今年のパリ・プラージュを象徴するシンボルである。色んな遊び場や施設があるのは例年通りだが、今年は新たに子供用のレンタル自転車が登場して人気を集めている。船上カフェの横にはカフェ・レストランも登場した。珍しい事には、釣り竿を何本も並べた太公望もいる。

   

 砂浜が終わるルーブル美術館近くには、ルーブル・プラージュと名づけたミニ美術館が出来ている。ルーブル美術館に展示されてあるアングルやフラゴナールなどの複製名画が飾ってある。その前では子供向けの絵画教室が開かれていた。

 パリ市庁舎前の広場にはサンド・コートが出来ている。ビーチ・バレーやビーチ・サッカーが出来るに充分なスペースだ。出かけた日は丁度コートの整備日であった。観光客や親子連れが猛暑の中、特設霧状シャワーの下で涼を楽しんでいた。

 

 今年はパリ市に新しい女性市長が誕生した。アンヌ・イダルゴさん左派系の市長、スペインからの移民である。首相に続きスペインからの移民が注目のポジションに選ばれた事になる。現在の日本では考えられない出来事ではなかろうか。就任間近と言うこともあり、各種行事を積極的に行っている。パリ・プラージュもその一巻だが、バカンスに行けない市民にとっては実に有難い夏のイベントだ。

   

 パリに新しい日本人シェフのレストランがオープンした。店の名前をパージュと言う。
英語風に読むとページ。捲ると新しい頁が出てくるように、次にも何か新しい事が始まる事を願っての店の名前だそうだ。

 

 店のオーナー・シェフは手島竜司さん、まだ若手のシェフである。日本で料理専門学校を卒業後、キュージニエの道へ、レストラン・高田屋に入社。その後本格的なフランス料理習得へとパリへ渡り、ルカ・カルトンを始めミシュラン星付きレストランで修行を重ねる。その間、パリで一番と評判のブッシェリー(精肉店)デイワイエーで本格的に肉の勉強を、またポアソニエ(鮮魚店)でも魚に付いての専門的知識を学ぶ。一見回り道とも思えそうだが、この時期に良質材料に拘る事の大切さ、仕入れ先の確保や人脈作りに励む。

 店は16区、凱旋門に近いヴァッケリー通りの4番地。凱旋門を背にセーヌ川方向へと向かうマルソウ大通りから斜めに入る道である。白塗りの建物入り口にPAGESの小さいプレートがある。

 階段2段上がりの入り口、扉を押すと正面に板ガラス、その奥に厨房がある。入り口左側、厨房正面が客席になっている。客席数は24席とゆったりとした間取りに、無駄な装飾を省いた空間だ。シェフの手際よい仕事ぶりを見ながら、作りたての料理を頂くというスタイルである。

 開店後暫くは夜のみの営業であったが、現在ランチタイムもオープンしている。夜のメニューは前菜2品、魚介1品、肉2品、デザートのコース料理のみ、料金80ユーロ。ランチはメニュー40ユーロと65ユーロの2コース。コース料理のみにしたのは手島シェフの拘りがある。基本となる手島さんの味をまずは知ってもらいたいとの思いからで、暫くはこの方法をとっておられるそうだ。

 料理は実に繊細、多種それぞれに工夫がなされている。魚介類はノルマンディー、ブルターニュなどから獲れ立てを直送してもらい養殖物は使用せず。肉料理に関しては言うまでもない。最も得意とするジャンル、料理の内容により産地、熟成度を変えている。

 又、ソースへの拘り、アクセントとなる各種ハーブの選択や野菜産地への思い入れも徹している。出される一皿一皿にその拘りが真に巧く表現されているのが嬉しい。

 

 パリの日本人シェフの活躍ぶりは、こちらの食通の間でも高い評価が与えられている。特に魚料理への評価は日本人シェフに共通したものだ。生で食べる風習のある日本人の特性というか習慣故の拘りが、作り出す料理に敏感に反映しているのだろう。伝統的なフランス料理に、新たなスポットを与えたと言う評価は、同じ日本人として喜ばしい事である。

 そう言う流れを読みながらも、あえて肉と言う素材に挑戦したいという手島シェフの今後の活躍が楽しみである。


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