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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.71 フォワール・ド・パリ

 5月1日はメーデーの休日、この日を鈴蘭祭りとも言う。街角や広場に鈴蘭を売る人たちが登場する春の爽やかなお祭りだ。通常街頭で物を売る場合、監督官庁の許可が必要なパリだが、この日だけは誰でも自由に鈴蘭を売ることが出来る。

 鈴蘭は古くから春を呼ぶ花として市民に親しまれてきた。原産はアジアと言われているが、フランスでは中世の頃から栽培されるようになったらしい。

 メーデーと鈴蘭祭りの関わりについては諸説あるが、アンヌ・マルタンさんのブログによると、1889年パリで最初に開かれた国際労働者同盟会議で5月1日を労働者の為の祝日と採択した。メーデーの起こりである。その凡そ50年の後、1936年のメーデから鈴蘭を売るようになったとある。鈴蘭を親しい人に贈る風習はそのずっと前からあったようだ。今では毎年鈴蘭の生産業者がこの日に大統領夫妻に鈴蘭を贈っているという。

 野山で摘んだ鈴蘭を都会に運んで、その日一日だけ街角で売る。この素朴でほのぼのとしたお祭りも少しずつ様変わりしてきた。時代の推移と共に、鈴蘭生産業者が作る鈴蘭を仕入れて売る人のほうが多くなっている。

 今年の鈴蘭祭りでは、移民の花売りが急激に増えた。花の仕入れや場所取りなども組織だって行われたという。彼らが鈴蘭を売る事をとやかく言う訳ではないが、朝早く郊外から出掛け「鈴蘭(ミュグ)はいかが~」と呼びかける人達の場が少なくなっていくのは、少し残念な気がする。賑やかなメーデーのデモとは関係なく、いかにもゆったりとしたあの光景が今では妙に懐かしい。

 

 

 フォワール・ド・パリが開催中と言うので、ポート・ド・ヴェルサイユに出かけてみた。3年ぶりの事である。それまでは殆ど毎年出かけていたが、何となくマンネリ状態の続く催しに、いささかの飽きがきていたのが本音だ。

 パリでもメーデーを入れての飛び石4連休であった。この間は会場が混むことが解っているので、連休明けの出かけることにした。

 フォワール・ド・パリを一言で言い表すならお祭り。日本の祭り、縁日を巨大化した催事と思ってもらうと解りやすい。衣食住に関わる全てを網羅した空間を作り上げたお祭りの場である。普段、ここで開催される各種展示会は展示品を即売するというケースは少ない。ところがこのお祭りに関しては、業種にもよるが、大半は即時販売が主なる目的となっている。

 この祭りの歴史は古く、第1回の開催が1904年。110年も昔に開催されたことになる。おそらくパリ各種展示会の中でも、現存する最古の催しだろう。良く続いたものだ。開催期間も12日間と通常の展示会に比べ、3、4倍の長さである。入場料は16ユーロである。

 メイン会場は、このお祭り一番人気の食関連のフロア、郷土色豊かな珍味名品が集まり試食もできる。アルザス、プロバンス、ノルマンディなどなど、フランス殆どの地方名産が買える訳で、集まる人の数も半端ではない。パリに住む地方出身の方達が、懐かしい故郷の味を求めてこのサロンに集まる気持ちが良く解る。

   

 ワイン、チーズ、ハム、ソーセージ、郷土菓子、どれを取っても地方独自の風味がある。今回はなぜかブルターニュ地方からの出展が多かった。ブルターニュはコートダジュールに並ぶ人気避暑地、海鮮類の宝庫として知られる。

 このフロアーには郷土料理のコーナーも設けられ、どの店も大盛況である。ひとつの場所でフランス全土の郷土料理が食べられる訳だから賑わいも当然、席待ちの人が並ぶ店もある。入場料を加算すると結構高くつく食事代だが、お祭り気分で財布の紐も緩くなるのだろう。

   

 別の会場ではインテリア関連の展示会も開かれていた。家具、装飾品、バカンス用具、絵画、更には農工、造園用具とそのジャンルも多彩だ。

 インターナショナル館では日本コーナーもあり、面、模擬刀、着物、古着などを売っていた。韓国からはお馴染みの朝鮮人参を使った健康飲料など、インド、パキスタン、中南米では何故か衣類関連の物が多い。いずれの国もお祭り向けの商品を集めた感じである。都合でパスしたがマンガ、アニメ、ビデオ・ゲームを集めた館もあり賑わっていた。

 屋外に出れば、特設舞台でのコンサートやダンスなどのイヴェントを開催。私が見た時はカリブ海グワダロップ島からやって来たサルサ・バンドのコンサート中、アフリカ系大勢の観客が歌に合わせて踊っていた。演奏する側も、観客もリズム感の良さはさすが、その乗りの良さに思わず見とれてしまった。

 週末を外した結果、入場者はお年寄りが多い。年金生活者の集い、と言えば何となく地味に聞こえるが、こちらの年金生活者は実に明るい。良く遊び、良く食べて、良く歌う。年金で暮らしていける福祉制度の充実が背景にあり、持って生まれた人生を楽しむというDNAがこう言ったお祭りの場を上手く盛り上げているのだろう。

   

 ポート・ド・ヴェルサイユと言えば、4月にMDDエキスポの展示会があった。この展示会は食に関するプロフェッショナルを対称にしたもので、一般人の入場は出来ない。勿論有料である。

 フランスを中心にヨーロッパ各国の食品製造会社が、自社製品を各国の食品使用会社や店舗にに販売する目的の展示会である。ということで来場者は食品販売店、デパート、スーパーなどの食品担当バイヤー、レストラン関係、給食企業、食関連起業家、業界記者と言った人達が多い。

 主催者側の資料によれば、出展企業550社、入場者数5,549人、参加業種も多彩である。各種冷凍食品、ハム・ソーセージなどの食肉加工品、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品、製菓、各種飲料水など、大小企業が数多く出展している。

 パリでも食関連の展示会は色々とあるが、この展示会の面白さは、中東、北アフリカ圏からの出展企業が多いことである。今回特に目についたのはトルコの対応で、国がプロジェクトを作り、自国の食関連企業を積極的にPRしていた。企業単位の出展が多い中で、この様な対応はやはりインパクトがある。とは言え、前回に比べこの地域からの出展が減っているのは、いささか気になるところである。アジアからの出展は更に少なかった。

   

 会場内にパリにある料理学校がコーナーを設け、各種料理、飲み物を作って入場者に振舞っていた。先生指導の元で生徒が作る料理だが、見た目も味も中々のものである。材料は出展企業の提供と思われた。

 殆どの出展企業が試食を薦めてくれる。交渉のテーブルにはシャンパンが用意され、中にはシェフを伴い特別に料理を提供している企業もある。結構贅沢なもて成しだ。日本の食関連展示会に行った事は無いが、こちらと比べて如何なものだろう。

 数は少ないが、食器、キッチン用具、テーブル回りのアクセサリー、パッケージなどからの企業参加もあった。

 展示会の最終日、終わりの時間が近づくと、お揃いのユニホームを着た人達がワゴン車を引いて、会場を回り始める。出展商品を貰って歩くボランテアの人達で、参加企業もこれに協力。集めた商品は貧しい人達に無料で提供される。元々はある有名コメディアンが自腹で始めた行為が社会の共鳴を受け、今では大きなボランテア団体としてフランス全土に広がっている。

 EUが広がり続ける中、フランスも色んな国からの移住者が増えている。移り住んですぐ仕事がある訳でもなく低所得者は益々増加、大きな社会問題となりつつある。その一方では、こう言ったボランテア活動を支持する市民も増えている。施しと言えば語弊が有るが、その精神と行動力を持つこの国の国民には敬意を表したいと思う。


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