小川征二郎のパリ通信


Vol.186 嗜好錯誤

 

 言いたい事は好みの違いについてである。今回はお茶にまつわるお国柄の違いについてだ。私にとってお茶といえば緑茶、いわゆる日本茶である。日本茶にもいろいろあると思うが中でも煎茶と呼ばれる類のものだ。
 日本茶は美味しい、飲むたびにそう思う。わが家にとって日本茶、中でも緑茶は日常生活に欠かせない飲み物である。日本に帰国する度に買ってフランスに持ち帰って珍重するし、日本からパリを訪れる方のお土産にしたり、時にはわざわざ送っていただくこともある。日本茶が高価な事も体験している。買う度にもう少し安ければ良いのにと思う事も度々だ。大袈裟と思われるかも知れないが、これは事実だ。値段の高さは皆様もご存じの事と思う。米やご飯がそうであるように日本人のDNAの中には緑茶も含まれていると、私は勝手に思っている。何しろ飲んで胃に負担が少なく、安らぎすら与えてくれるからだ。
タイトルの「嗜好錯誤」は造語である。お許し頂きたい。
 世界で一番飲まれているお茶は紅茶だそうで全体の70%を占めるという。世界三大紅茶はインドのダージリン茶、スリランカのウバ茶、中国のキーマン茶(キームン)であるらしい。四大紅茶と言われている中のダージリンとアッサムは飲んだことがあるが、ウバとキーマンは飲んだ記憶がない。
 パリには中国茶の専門店が何軒かある。私が住んだ6区にも中国茶専門店があり、その中で一番お気に入りの店と言えばポン・ド・ロディ通りにあるキムさんの店であった。初めて中国茶を飲んだ店でもある。
キムさんは香港出身でボザール(パリ芸大)を出たアーティストで、店の一部を画廊にして若手のアーティストに活動の場を提供をしていた。ここで中国茶の丁寧な淹れ方を見ながら喫する贅沢タイムを教えてくれた方でもある。勧められて飲んだお茶は鄧小平氏の生まれ故郷で採れたという貴重茶であった。
何年か前に店を現在のパトロン(店名もWISTARIAに変わった)に譲られて香港に帰国される。風の便りによると現在は台湾に移り住まわれているようだ。この通りの突き当たりにピカソが住んで創作活動をつづけたグランズ・オーギュスタン通りがある。同じ通りにあるのが紅茶専門店マリアージュフレールで、紅茶好きの方の集まる場として知られる。ちょっと古い話になるが、この店で売るマルコポーロがブームとなり多くの日本人ツーリストがパリ土産にこの紅茶を買い求めた。店の2階にサロン・ド・テがある。ランチが人気で、それ目当ての客で今でも賑わっている。
 私の好きな中国茶店が13区ショアジー通りにもある。古い茶店だが、この界隈でも際立ってお洒落な店としてチャイナタウンを代表している。何と言ってもゆっくり寛げる店のインテリアや商品の品揃えが良く、ご主人の中国茶の知識が素晴らしい。これぞ中国茶店と言っても良いだろう。
 パリの中国茶専門店は見るからに贅沢な作りである。言い方は悪いが、他の中国食品関連店に比べ店全体が贅沢感にあふれ、ディスプレイや商品構成もお洒落である。店で働くスタッフも他の店に比べ商品知識が豊富に見える。それ程多くを知る訳ではないが、共通するのは「中国茶専門店は贅沢な場」ということだ。
パリには、上記で触れた以外にも各界隈(各区)に中国茶店が存在している。中国茶店がお洒落であると書いたが、紅茶専門店も同様で人気店が多い。フランス人にとってお茶をいただくという事は実に贅沢な事でもあるようだ。
 同じ嗜好品でもコーヒーとなるとこちらは実に庶民的な飲み物だと思う。私が通う近所のカフェでも紅茶よりコーヒーを注文する人の方が圧倒的に多い。
 昨今、海外では抹茶がブームになっているとよく耳にする。何処までをブームというのか解らないが、この影響で日本の茶産業が潤っているそうだ。確かにパリでも抹茶や抹茶ケーキなどを売る店が増えているが、一時大流行と騒がれたタピオカ・ミルクティーほどのブームには見えない。とは言え、日本・韓国食品店の棚に緑茶が増えているのは事実であり、今後の展開を楽しみに見守っていきたいと思っているところだ。

 

 私の住むモントローはイル・ド・フランス圏にある市である。イル・ド・フランスに多くある他の市や町同様に移民が多い。政治的亡命を容認してきたフランスにはあらゆる国の政治亡命者が移り住むという歴史がある。そんな中にはかつての植民地であったインドシナ(ベトナム、ラオス、カンボジア)から多くの移民が流入した。現在では、アジア系移民居住者はフランス人口のおよそ13・5%を占めている。モントローに多い移民系住人と言えばアフリカやアラブ系で、アジア系はさほど多くない。それぞれの地域に各国・各民族のコミューンがあり、各々の文化を継承し育んでいる。
 今やハンバーガー店を抜いてファストフードのトップに躍り出たと言われるケバブ店は、トルコ系住民の主な財源になっているそうだ。ヨーロッパ大都市の駅周辺に必ずあると言われるケバブ店はここモントローにも数多く存在する。
 わが家も時々利用するケバブ店がある。店のパトロンは当然トルコ出身の方であるが、客の多くもトルコ系の方達だ。これらの店に集まる人たちが嗜む飲み物がトルコ茶(チャイ)である。紅茶を煮だした飲み物で、チャイグラスというくびれのある小さなグラスに入れ、砂糖を加えて飲む。熱々で甘みたっぷりの飲み物だが、甘みの後には紅茶独特の渋みが口内に余韻を残す。美味しそうに飲むトルコ系の方々を見ていると、緑茶を好む我々日本人の嗜好と同じように見えてくるから不思議だ。

 

 先日ルクレールとカルフールに出かけて、お茶コーナーを見ながらパッケージデザインのトレンドを探ってみた。改めて見るとお茶の種類の多さ、パッケージデザインの面白さを実感した。棚にはいろいろなメーカーのパッケージが並べてある。お馴染みのLiptonやTWININGSはもちろん、スーパー独自のオリジナル商品、あまり有名でないメーカー品までその種類と数の多さに驚かされた。大手の商品はインターナショナル共通のデザインであろう。基本デザインは当然日本でも同じだと思うので、紅茶好きの方なら一度はご覧になっているのではないだろうか。
棚に並ぶパッケージを開けて見た訳ではないが、恐らくティーバッグスタイルの紅茶詰めだろう。中にはパッケージに表記したものある。ほとんどが紅茶だが、中にはグリーンティーやミントティー、さらにジャスミンティーなど花茶と呼ばれる種類もあり、お茶の世界の奥深さを改めて知らされた。

 

 帰りに家の近くにある自家焙煎コーヒー店に寄り、お勧めのエスプレッソを飲む。三代続くコーヒー専門店でモントローを含むヨーヌ地域のカフェなどにも卸しているという。お洒落な作りのラウンジでコーヒーがいただけるが、ここはティーサロンとあるようにお茶を注文する人が多い。モントローでは比較的高級感のある店として知られる。
店の棚に並ぶ各種紅茶はパリのヴォ―ジュ広場回廊にある有名茶店Daman製で、提携により同じ商品を提供しているそうだ。紅茶好きな人たちのサロン風といった感じで、素敵なマダム達がのんびりと寛いでいた。

 

 息子が日本から持参した緑茶が底をついた。今飲んでいるのは某国産の緑茶だが、日本の緑茶に馴染んだ舌には何とも形容しがたい味わいである。同じ緑茶でもこうも違うかと驚き感心している。

 


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