小川征二郎のパリ通信


Vol.184 フランス昨日、今日

 

 一寸先は闇、まさに今世界中がこのような状態ではなかろうか。3月2日、アメリカとイスラエルがイランを空爆し、最高指導者を始め多くの軍高官を殺害した。その後は皆さんご存じの通り、ミサイルやドローンを使っての攻撃が双方で繰り返されている。この紛争は、収まる気配が見えない。戦争の在り様も変わってきた。フランスも例外ではなく、毎日のニュースは80%近くがこの紛争問題に関する報道である。
 中でもニュースの中心は石油関連の値上げについてで、あらゆる種類の関連費が上がり続けている。政府も対応しているが追いつかない状態だ。ガソリンはフランスよりベルギーが安いとの情報に、国境を越えて給油に向かう人が多いという。
 ヨーロッパはほとんどの国が陸続きで、EU統合で他の国との行き来が以前に比べ楽になっている。その昔、スペインに近いフランス住民は国を超えてスペインのスーパーで買い物する人が多くいた。煙草やイベリコハムを大量に買ってフランスの自宅に持ち帰る人たちがレジに並ぶ光景を見て感心したものである。
 国境を超える不安は慣れない者にとってある種の憂慮が伴う。当時は税関通過のコントロールが厳しい時代だ。何も悪い事をして無くても、落ち着かない気持ちにさせられ、さらに税関員の検査は厳しいものだった。そんな折に、国を越えて日常的に行き来し、買い物をする大勢の人たちが居る事に驚いた。

 今回のオイル・ショックで消費者も物価上昇に敏感になった。「値上げはいつ」「幾らになるの」「できたら値上げしないでよ」いずれも客からバゲットについての質問だそうだ。「シェフに聞いてよ」が、その返答との事だ。先の事は売り場担当では解らないとぼやく。現在バゲット1本1ユーロ、実際は未だ値上げはしていない。ちなみにクロワッサンも1個1ユーロである。こちらも値上げはしていないが、微妙に小型化していて小麦の量を減らしているのは明らかだ。近くにあるブーランジェリーの話である。
 近くにある小型スーパー・カルフールではバケット3本買うと1本サービスと異例のキャンペーンを始めた。諸材料費が値上がりしているが、「ここは集客増加の方を選んだ」と売り場スタッフの話である。
 オイル・ショックになる前から不況が伝えられるフランスの経済界で、昨年はスーパー大手のモノプリが16店舗閉鎖とのニュースになった。現在モノプリでは全店を改装して集客し、売り上げを増やす準備中であるらしい。
 600以上の店舗を展開するモノプリは、17000人の従業員がいて、年間売り上げは40億ユーロ(およそ7200億円)である。スーパーと言えば、モノプリと答えるパリ市民が多い都市型の人気店だ。閉鎖したモノプリ店はドイツ系のスーパーに買収されるという。という事は、フランスよりドイツの方が景気が良い事になる。実態は解らないが何となくそうである感じもある。
 その理由のひとつにパリを訪れるドイツ人観光客が増えている事である。パリに限らずアフリカやアジア各国でドイツ人観光客が増えているそうだ。中国人観光客に比べると旅行先での買い物額は少ないそうだが、それでも地元商店街にとっては確実な客として、有難い存在になっているという。

 

パックのショコラ商戦始まり

 祭りが終わり2週間が経った。終わりはバレンタインの話で、始まりは復活祭の事である。という事で久しぶりに大型スーパー、ルクレールに出かけてみた。土曜日の午後、大型駐車場は満車状態で空きを待つ車が目立つ。新たなオイル・ショックで買い控え状態だと思っていたが、予想に反していつもの土曜日より客が多い。回転式ドアを通過して館内に入ると正面入り口に大勢の人が集まっている。列の前にルクレールのスタッフらしき人がいて、番号札を手に説明中である。後でわかったのだが雇用説明会の様で、正規雇用と臨時のアルバイトに分けて説明をしていたようだ。それにしても大勢の応募者である。
 先日、日本のテレビを見た。ニュース番組だが合同会社説明会の様子である。映像の間にナレーターの声が入る。「売り手市場で、企業側は優秀な人材を探すのに懸命、初任給も大幅アップ」だそうだ。リクルートスーツを着た学生側にもある種の余裕が見える。羨ましくもあり、また不思議にもみえる。ルクレールの説明会を思い出しながら改めて日本のニュースとの違いを感じた。ここで応募していた人達全員、実にカジュアルな装いであった。国民性の違いか、ルクレールという企業への評価の違いなのだろうか。その行列の脇をカートを押して店内へと向かう。カートに山盛りの商品を積んだ人たちがレジを通過して出てくる。

 店内入口正面にショコラ・コーナーがあり、各種メーカーの商品が競い合う様に山積みとなっている。それにしても広い売り場だ。ショコラ全ての商品が3月20日から22日の間34%引きとの表示がある。それにしても大変な数と量である。その分まとめ買いをする人の数も多い。昨年のことは解らないが、これが恒例行事なら4月のパック(イースター)期間に買う人は少ないのでは、時期を少しずらせば安く買える。などといらぬ詮索をしたりした。

 ショコラに限らずあらゆる食品が良く売れている。トイレットペーパーやキッチンペーパーなどの紙類を買う人も多く、山盛りのカートの数から買い控えとは反対に買い占めに奔走している人が多いようだ。予想外の展開に驚かされた。レジに並ぶ人の列も長い。ショコラ・コーナーを写真に収め、その後ミネラルウォーター、食用オイルなどを買い求め、ルクレールでの買い物は終わり。
 車に戻り野菜、食品を求めてグランフレに向かう。ここでも大勢の買い物客が競う様に買い求めている。グランフレについては前のレポートでも触れたがフランス生鮮食品大手のスーパー・マーケットである。アジア系の食品も数多く扱う貴重な店だ。

 朝食用のクロワッサンが無くなっているので併設のブーランジェリーに寄る。いつも買う近所のブーランジェリーより丁寧な作りで、さらに良いバターを使っているので6個をまとめ買いした。焼き上がりの艶も良い。朝のクロワッサンはトースターで温めていただくが、この時バターの香りが出る。良質のものとそうでない物の違いが明確に分かる。
 序にパステル・デ・ナタも購入した。お世辞抜きにこの店のこのケーキは旨い。パステル・デ・ナタはポルトガルを代表する焼き菓子である。初めてリスボンに行った時、港に近いカフェでお茶をした。港からどのように歩いたかはっきり覚えてはいないが、幾つかの道を経て大通りに出た事は覚えている。この通りにある1軒のパティスリー・カフェがパステル・デ・ベレンである。落ち着いた佇まいの老舗店で、成熟した客が多かったように思う。
 ここで初めていただいたのがパステル・デ・ナタである。この店ではパステル・デ・ベレンの表記がされていた。円形の小ぶりの焼き菓子で、パリッとした歯触りのタルトの中に濃厚なカスタードクリームが入っている。歩き疲れた後にこの甘味が心地よく、意識の中にすりこまれた。ポルトガルの旅をつづけながら、いろいろな町で見かける度にこの菓子を買い続けたものである。
 パリのマレ地区にはパステル・デ・ナタの専門店もある。パリまで出かけなくても、私の住むモントローのほとんどのアラブ菓子店ではこの菓子を作り販売している。元を辿ればアラブ菓子の一種ではと錯覚するほどアラブ系の人たちに人気のある焼き菓子なのだ。とは言えこの街で選ぶならやはりブーランジェリー・マリー・ブラシェルのパステル・デ・ナタになってしまう。日本ではエッグ・タルトと名が付けられてもいるようだがいかがだろうか。
 モントローには大勢のポルトガル系住民が住んでおり、ポルトガル食品専門店もある。冷凍食品なども揃っていて時々お世話になるが、中でも大振りの鰯がわが家の食卓を助けてくれる。朝市に立つ魚屋でも鰯は売られているが、何しろ小振りなものばかり。同じ大西洋岸でもフランスとスペイン、ポルトガルでは餌や種類の違いがあるのだろうか、スペインやポルトガル産の方が育ちが良く美味しい。
 モントロー住民は移民系が多いせいかバーベキュー好きな家庭も多い。週末の昼食時になると魚や子羊を庭先で焼く匂いや煙が立ち上り、パリとは違う人々の生き方を垣間見る事ができる。寒い冬が終わり庭の木々に若芽が開くと、それを待っていたようにバーベキューの季節の訪れとなる。今年もまた鰯祭りが開催され、ポルトガル系住民の人々が一堂に集まりポルトガル・ワインで宴が始まる。参加自由なので今から楽しみにしているところだ。

 


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