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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.141 日本の祭り MATSURI

 パリ郊外パンタンで日本の祭りを開催中と言うので出かけてみた。三日間開催の最終日、メインのイベントは日本酒と焼酎の試飲会と販売会とある。酒飲みでもないのにわざわざ出かけたのは「パリで日本酒ブーム」なるフレーズに直接触れてみたかったからである。

 「パリで日本のxxxxがブーム」と、今や常套句となった日本文化である。ちょっとうがった見方をすると、猫も杓子もと言った感じで日本ブームを煽る日本の一部メディアやSNSの投稿。そのブームの中にはいささかの懸念を持つものもある。

 

 祭り会場であるLa Cite Fertileへのパリからの便は基本メトロを使っての方法が便利である。一番分かりやすいのはサン=ラザール駅からRER‐E線を使っての便、これだと最短時間と距離で行きやすい。

 出発前にラインの確認をするとE線が運行中止になっている。今や常套ともなった交通機関のスト、またかと思いながら別ルートを探す。メトロ7番線でAUBERVILLIERS-PANTINまで行き、バスで会場まで行く方法を選択、私にとってこのメトロ駅は初めての下車である。

 下車してエスカレータを利用し地上に出ると、出口周辺に4~5人のアラブ系若者が煙草を片手に売りつけている。久しぶりのこの光景だ。パンタンはパリ北方にある郊外都市でアラブ系住民が多く住む街である。

 出口近くにあるバス停で170番と249番のバスを待つが、170番はストで欠航、およそ20分待って249番のバスに乗る。二駅目のバス停で下車、周りの景色を見ると目の前に古い倉庫跡と思える建物が見える。

 パリ郊外にはいろいろな展示会場があるが、今日訪れた会場はやたらひなびた場所、パリに不慣れな人には何とも不便な、二の足を踏みそうな所だ。それでも何組かのグループが会場入り口へと向かっている。そんな中、スマートフォンを片手にした若い日本人女性がやっとたどり着いたと言った感じで、急ぎ足に駆け抜けた。

 建物入り口前の広場に仮設テントが設えられテーブルが並ぶ。そこでフランス人の若い女性が4人、たこ焼きを食べながら歓談中。その様子を見ながら入り口へと向かう。受付のテーブルに若い男女が居て対応してくれる。

 12ユーロを払うとワイングラスがもらえ、それで展示した酒や焼酎を全種類試飲出来るとの説明がある。この時点で当日の気温は29℃、冷房なしの会場で試飲を続けるとダウン間違いなし 。体調も今ひとつすっきりしないので試飲はやめる事にした。

 

 広い会場にテーブルが並び、日本中から集まったメーカーが、それぞれ自慢のボトルを並べ客への対応をしている。思ったより多い出展側に少し驚いた。最終日と言う事で昨日よりビジターは少ないという事であったが、意外と多い入場者数である。フランス人6割、日本人が4割と言った客の割合だろうか。

 地域、メーカーごとに販売担当者が居て商品説明をしながら、グラスに酒、焼酎を注ぎ客の問いに答えている。出店者側はパリを中心に日本食品を販売する企業からのスタッフが多い。中には酒造元からわざわざこのイベントに派遣されたという人もいる。

 日本国内酒、焼酎処と言われる県はほとんどが出展している。1000種類の出展とあったが実際に大変な種類の商品が揃い驚いた。

 フランス人夫婦でスタンドを設けた酒蔵もある。フランスでの輸入元であるらしい。酒に関する知識も豊富の様で聞いていて説得力がある。こう言う人が居るという事は日本酒ブームはある意味本物かも知れない。

 スタンドを移動しながら試飲を続ける若い日仏カップルが居る。グラスに注がれた酒を鼻に近づけ匂いを嗅ぎ、口に含んで舌の上で転がし、飲まずにテーブル横に置かれたバケツに吐き出す。ワインの試飲と同じ方法。どうやらフランス人男性がその様に教えている様だ。

 日本酒の正しい試飲方は知らないが恐らくワインの試飲と変わりないだろう。それにしてももったいないと思うのは根が貧乏の私故か。少しは飲んでみろよと言いたくなる。喉越しを楽しむのも日本酒趣向のひとつであるはずだ。

 

 焼酎と言えば気になるのは、個人的にはやはり鹿児島と宮崎である。両県が並んで出展している。担当の方に「評価はいかがですか」と聞いてみる。当然だが「悪く無いです」の答が返った。ただ残念なのは宮崎産の焼酎は、展示6本の内1本しかパリで売られてないそうだ。パリでは霧島など大手醸造の物が数多く売られているという。

 日本人か日本に旅をして焼酎の味を覚えたフランス人が今のところ対象になっているようだ。私もそのひとりだが、日本食品店で焼酎は良く買う。買う時は何時も宮崎産の芋焼酎である。他の県で作られた麦焼酎もあるが、この手の味が欲しくなったらウイスキーに手が出てしまう。焼酎とウイスキーの味は違うが、同じ様な値段ならついウイスキーに。芋焼酎にこだわる理由は、あの独特の香りと癖のある味にある。

 アルコール類の輸入販売に欠かせないのが輸入税だがこれは行政との関りが出てくる。とにかく酒にしろ焼酎にしろ関税が高いのが一番のネック。当然のことだが関税が下がると販売がしやすくなり拡販につながる。特に焼酎などは度数により税率が全然違ってくる。

 この会場では、試飲は良いが販売は駄目との制約もある様で、輸入ビジネスの難しさを知った。パリで売られる焼酎は度数の低いものが多いが焼酎好きの中には度数の高いものを好む人が多い。今私が飲んでいる焼酎は泥亀、長崎県産20度の芋焼酎である。わが家の食卓に和食が並ぶ時だけのもの、冷やしたり温めたり季節に合わせて飲んでいる。

 

 今回のお祭り、酒、焼酎の試飲会以外にもいろいろなイベントが行われた。在仏日本人ダンサーによる舞踏、和太鼓、獅子舞、合気道などのデモンストレーションなど、さらに人気の日本食の出店もある。

 たこ焼き、たい焼き、焼きソバなどのお祭り定番の日本の味にフランス人の行列が出来ている。いずれもパリに店がある所からの出店で、今やフランス人にも馴染みの店でもある。

 

 祭りと言えば、フランス中央部にある小さい村メイエで開催されるFESTIVAL DE MEILLERSも面白い。こちらは文化面を強く打ち出したフェスティバルだが、日本からも数多くのアーティストが参加する。7月22日から8月14日までの間にコンサート、各種パフォーマンス、アート関連の展覧会など盛り沢山の興味あるイベントが行われる。

 参加者もフランス、北欧、バルカン、日本人アーティストと多彩。フェスティバルの主催は www.festivaldemeillers.org だが、パリとメイエ村に拠点を持つ日本人アクセサリーデザイナー、一森育郎さんが運営に参加、その幅広い交友関係から多くのアーティストが参加する。

 

 

アルモール・デリスのマドレーヌ

 7月に入り夏のグラン・バカンスが始まった。大袈裟に言えばフランス民族大移動の始まりである。今多くの人たちが列車や車で南下している。ところがバカンス最大の人気地、地中海沿岸では夏の恒例化した山火事が今年も発生、今懸命の消火活動が行われている。

 目の前で自宅が焼け呆然とする人の姿をニュースで伝えているが、誠に気の毒、見ていられない。消防士も手の施し様がないほどの猛烈な勢いで家や山が燃えている。

 ある地域のキャンプ場ではバーベキューが禁止になった。夏のキャンプ場での楽しみのひとつはバーべキュー、と言われる程人気の料理でありイベントだ。それができないとは気の毒と言うしかない。

 また 、7月14日恒例の花火を中止する地方自治体もあるという。いわゆるパリ祭の花火はフランス夏の風物詩、ある意味伝統行事である。とは言え山火事でも誘発すれば、それこそお祭りどころではない。各首長にとっては悩めるところだ。

 

 モンパルナス駅はフランス大西洋岸への出発口である。ノルマンディー、ブルターニュ、ボルドーなどのアキテーヌ、さらに足を延ばしてスペイン、ポルトガル方面に出かける起点駅である。

 久しぶりにそのモンパルナス駅に行って見た。7月2日の午後の事、駅はバカンスへと出かける人で大混雑中であった。特に子供達の団体が多い。クラス・ド・メール(臨海学校)へ出かける子供達だ。

 駅構内の休憩室やカフェ・レストランも満席、時間を待たないと休む事も出来ない。改めてフランス人とバカンスの関係、ある意味国を挙げての大騒動を目の前で見た思いだった。老いも若きも男も女もトランクを引いて避暑地へとひたすら向かう姿は勇壮、いや悲壮感さえ漂って見える。

 構内での休憩を諦めて駅前の広場にベンチがあった事を思い出し外に出る。ベンチを探していると、かわいいマドモワゼルが近づいて来る。その昔、日本の駅弁売りが肩から下げていた物と同じ様な箱、中に小さな紙袋が20個位並んでいる。

 女子学生のアルバイトだろうか、「どうぞ」と差し出すしぐさも何となくぎこちない。断るのも気の毒に思えて紙袋を受け取る。白地にブルーの横縞入りの袋、女の子が着ているTシャツと同じ柄だ。このマリニエールと呼ばれるTシャツは、この夏特に若いパリっ子達が愛用するブルターニュ伝統の民族シャツだ。

 ベンチに座り袋の中を見るとマドレーヌ菓子が2個と絵葉書が入っていた。家に帰り夕食後マドレーヌをいただいた事を思い出し袋から取り出す。

 袋にはアルモール・デリスのロゴと、ブルターニュNo1のマドレーヌの文字が書いてある。包んだ袋を破いて、こんがり焼き上がったマドレーヌを取り出し口に入れる。普段口にするマドレーヌよりやや硬め、表面カリっと、中はもちっとした食感で、なかなかの味である。

 何だかすごい儲けものをした気分になる。モンパルナス駅に行かず、外のベンチで休もうと思わなかったら出会えなかった味である。配ってくれた女の子に感謝である。

 アルモール・デリスはブルターヌ海辺の近くにある小さな老舗菓子工房。特殊バターを使用したマドレーヌが売りの工房だそうだ。長年このマドレーヌを地元の人に提供し続けて来た。口に残る美味しいバターの風味が企業秘密のトレードマークである。

 時代に合わせて、従来のマドレーヌ製造法に塩キャラメル入りやショコラとそば粉を混ぜた新製品のマドレーヌ、バター・クッキーなど商品開発も続けている。

 ブルターニュと言えばクレープが有名である。小麦粉と蕎麦粉を使った2種類がある。そのため蕎麦の産地としても知られている。蕎麦粉入りのマドレーヌなるものは未だ食べたことがない。恐らく素朴な風味の味だろうな、と勝手にイメージしているがいかがだろうか。

 この工房ではブランドイメージのモダン化で、パッケージのテーマにマリニエールを用いたことがある。さらにイメージ強化でパリでのデモンストレーションをおこなったのだろう。

 地方の特に食文化が活躍、評価されると何となく嬉しくなる。それにしても知らない物産が多すぎる。できる限りの機会を作って未知なる味を堪能したいものだ。モンパルナス駅周辺と言えばパリでは美味しいクレープ店が集まるところとして知られる。

 帰りにクレープ屋に立ち寄り、蕎麦風味のガレットを食べた。冷やしたシードルがやたら美味しかった。ちなみにアルモールは古いブルターニュ語で海の近くという意味であるらしい。

 

 マドレーヌと言えば思い出すのがストラスブールにあるAU FOND DU JARDIN。マドレーヌのオートクチュールと呼ばれる程の有名店である。ストラスブールと言えばクリスマス市が有名だが、そのクリスマス市を見物に出かけた折に一度だけ店を見た。

 大勢の客で席が取れず店もマドレーヌも見ただけで終えたが、一度食して見たかったマドレーヌである。

 


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