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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.139 物価上昇に喘ぐフランス国民

 再選されたマクロン大統領がロシア大統領の電話対談に臨んだが結果は失敗に終わったと言われている。何が失敗か明らかにされていない部分もあるが、誰もが想像する事はウクライナでの早期停戦調停。国連事務総長を始めいろいろな方がプーチン大統領に停戦を呼び掛けているが、頑なに拒まれている。

 5月9日のロシア戦争記念日のパレード中継は皆さんもご覧になられたと思う。膨大な軍事力、核、エネルギー資源を背景にしたプーチン氏がウクライナからの撤退を実施しそうには到底思えない。

 多くの西側メディアがほぼ毎日ウクライナからの中継を行い惨状を伝えている。全ての鍵はプーチン氏の手に。ニュースなどではロシアに関する専門家、軍事評論家などが持論を展開しているが、これから先を正確にとらまえ納得いく答えを出してくれる人は居ない。今はただ戦況拡大で、焦ったロシアが核を使用、引いては第三次世界大戦にならない事を祈るのみである。

 9日、ロシア、モスクワからのテレビ中継で戦勝記念パレードを見る事が出来た。整然と行進するロシア軍の姿はある意味勇壮に映る。見ている市民にもある種の高揚感が、国とプーチンを称える姿がそこにある。

 同じ時間帯の別の画面では、ウクライナ東南部での激戦中継を放映している。命を懸けての悲惨な実像だ。儀式参加の派手やか勇壮な兵士の姿はそこにない。間に専門家の、戦闘は長引くだろうとの談話が入る。

 終りにウクライナ東部の広大な大地が映る。小麦、ひまわりなど農作物を生み出した恵みの地である。そこの一部には今地雷が敷かれ、橋や線路は破壊されたままになっている。戦争の無意味さを映す画像に今のウクライナがある。

 

 2年間のコロナ問題で世界的に経済が疲弊した事は誰でも承知している。フランスでもこの事の補填に国の財源を大量に放出した。一時は暗いニュースの連続であったが、ここに来て失業率も回復しつつあると言う。

 明るい兆しが見え始めた矢先にロシア軍のウクライナへの侵攻で世界経済がさらに悪化へと突き進んでいる。今フランス国民の関心と言えば物価上昇問題、庶民生活にもじわじわと影響が出始めている。

 国立統計経済研究所による発表では、ガソリンの前年比上昇は30,5%、軽油43,6%、ガス41,3%と大幅上昇。さらに庶民の台所を直撃しているのが食肉などの生鮮食品が前月比6~8%も上昇していると言う。

 全ての物価が上昇して庶民の暮らしに影響している訳で、政府は物価スライド制に合わせて最低賃金を年間5,9%凡そ91ユーロアップした。同時に時給もアップしている。現時点の為替1ユーロは137円、単純計算をするとフランス人の時給は2329円となる。もちろん職種にもよるのでこの値が全てでない事はお断りしておく。

 現在日本の時給は1092~1135円と聞いているので、フランスの時給の良さは明白と言えよう。これ程の格差の元は円安にある。昨年4月は確か1ユーロ127円位であったと記憶しているのでこの1年で1ユーロ10円も円が安くなったことになる。

 

 先日本当に久しぶりに郊外型スーパー、レクレールに出かけてみた。最近多く利用しているのは近所の小型スーパー、カルフールである。日常生活に必要な生活物資は一応ここと週2回立つ朝市で賄える。

 そのカルフールで商品不足が目立つようになった。例えば食用油、ティッシュなど従来ある品々が日によっては棚にない。パン・コーナーを覗いてもクロワッサンなどは午前中で売り切れ、曜日によっては配達の関係か一部商品がない時もある。クロワッサンがないなどいままでなかった。ならばと言う事でルクレール迄出かけた次第である。

 先日、今パリで不足がちと言われる食品をテレビで紹介していた。ルクレールでまずはと見たのはそれなどの商品である。意外やサーモンも鶏肉もふんだんにある。ただ、値段は高くなっていた。

 鶏肉不足は鶏インフルエンザで大量に殺傷した事が原因と、売り場担当の方が話してくれた。各種果物が高くなっているのは流通機関の上昇であるらしい。食肉系の値上がりは飼料高騰がその因のひとつとの事。食用油、中でもひまわり油はウクライナ産に依存していたのか、以前に比べ大幅に少なくなっている。噂の買い溜めは本当の様だ。

 家計簿を付けていないので値段上昇の正確な比較は出来ないが、全商品が値上げしているのは間違いない。パン類も高くなっていた。念の為にわが家に近いブーランジェリーに寄ってクロワッサンを買い、その大きさを比較してみる。結果は写真の通り二軒の店が以前より小ぶりになっていた。値段はそのままg(グラム)を抑えている。

 

 6月にはフランスの国民議会(下院)の選挙がある。マクロン大統領が率いる共和国前進がどれだけの議員確保できるか。その最大の課題が物価抑制と言われている。今の状態が続くなら国民の不満はさらに高まり、政治混乱を招きかねないフランスの状態である。

 

 

 海外暮らしを直撃する異常円安

 日本の円安政策は海外に住む日本人の暮らしを直撃している。もちろん、海外にいて海外企業に勤め、その国の基本通貨で収入を得ている人は例外と言えるが。日本からの送金に頼る人達の収入は激減しているのが実状である。

 コロナ禍で仕事を失ったフランス人が多いが、その多くは政府の対応、補償で失った給料などは補ってもらえた。一方正規就業できない多くの外国人労働者は企業側のリストラにあったり、補償対象から外れたりとその立場を失った。

 ワーキングホリデービザ(以下ワーホリ)利用でフランスの各企業で働いていた多くの日本人も再契約が叶わず失業者が多いと聞く。元々ワーホリビザは1年間有効で、フランス本土の各県においてのみ有効(海外県・海外領土は除く)。

 ワーホリビザ所持者は、フランス滞在中に滞在期間の延長や身分の変更はできず、ビザの発給は1回限りである。フランス滞在中もしくは出発前にパスポートを紛失、盗難されても再発給されないそうだ。

 と言う事で期限切れで日本に帰る人が増えていた。残る人も貯金を切り崩しながら次のチャンスを求め頑張っていると聞く。帰国を望む人達にも苦労がある。円安に加え航空料金の高騰とダブルパンチを受けているのだ。

 

 円安での輸入業の苦境はメディアも報じるが、海外で円安被害に喘ぐ日本人の実情を伝えるメディアはほとんどない。日本政府にとって海外居住日本人はある意味忘れられた人達と言えるし、その扱いだ。

 コロナ給付金10万円も海外居住日本人には与えられなかった。理由は事態が掴めないと言う事らしい。旅行者でない限り実態が掴めないなどあり得ない。海外居住者の多くは現地の日本大使館に登録しており、実際名簿もあるはずだ。要は日本政府が払いたくないと言う理由に過ぎない。

 今、ウクライナ難民問題が大きく取り上げられている。その難民は隣国の身内や親戚の所に避難している人が多い。身内が居ると言う事で難民を早急に受け入れた国もある。

 仮の話だがいざ日本有事の折、海外に日本人の身内が居て日本からの難民を受け入れてくれる家族が何世帯居るか。それらの調査を日本政府がしているかと言えば恐らくNOであろう。今回のウクライナ侵攻で、あり得ないと思う事があり得ることを日本人は知る必要がある。

 

 久し振りに食事会に呼ばれた。「友人の女性が日本に帰国すると決めたので送別食事会を催します。時間があったら出席しませんか」とメールにある。

 5月8日、この日は戦勝記念日でフランスは祝日、今年は日曜日と重なったが、各地で記念式典が行われた。パリでもほとんどの店が休業になり、市民はセーヌ河畔の散歩、公園での憩いと休日を楽しんだ。

 お招きを受けたのはパリ郊外ソー公園の日本人家庭、広い庭のある1軒屋である。ソー公園は桜の名所として知られるパリ市民憩いの場である。桜の季節には大勢の花見客が押し掛け、日本同様の花見が繰り広げられる。

 

 送別会はバーべキューでの宴となった。今回の主役は帰国されるYさん。ご主人と一緒にパリで美容サロンを長年経営されていた。実家がお寺さんで跡を継ぐための帰国だそうだ。取り敢えずはご主人がお嬢さんとパリに残ってサロンを経営するので、Yさんひとりだけの帰国と言う。

 Yさんとは不思議なご縁で90年代の一時期ドフィーヌ通りの同じアパート、わが家が3階でその上の5階に住まわれていた事がある。帰国される話を聞いたのは送別会の当日、驚きと共に不思議な縁に人の繋がりのミラクルを感じた日でもある。

 この家の亭主ヒロさんは料理自慢の料理上手である。と言う事で当日いただいた料理を簡単に披露したい。まずは冷えたシャブリで乾杯。出席者の木野シェフ手作りのワラビの煮びたしに皆さん感動「まさかパリでワラビが食べられるとは」の声も聞かれる。

 続いてヒロさん手作りのモッツァレラ・チーズの味噌漬け、さらにこれも手作りの宮城名物の三角厚揚げ、木綿豆腐を買って昨日からじっくり揚げておいたと言う厚揚げをテーブルに設えた鍋に大量の油を入れ表カリカリに揚げた珍味豆腐。出し巻き卵、採りたてのグリーン・アスパラ、太ネギのホイル焼き、自家製干物のヒラメ、鯛、鯵、鯖と次々に焼き上がってテーブルに並ぶ。

 その間白、赤のワインが次々と栓抜きされグラスを満たす。いずれも20年前のブルゴーニュ、ベルジュラック、ボルドーの銘酒、何とも贅沢な宴である。ヒロさんはブルゴーニュのワイン学校で学ばれた事もあると言うワイン通である。

 一方のベルジュラック白と赤は矢野さん持参の銘酒。ワイン・コレクターであった今は亡きご主人のコレクションの中から選んだと言う。

 

フランス産日本酒の登場

 いろいろなワインを堪能する中、登場したのがフランスで作っている話題の日本酒WAKAZEとYUZU。パリ郊外に醸造所を持つKURA GRAND PARISの製品である。

 この会社で営業、PR担当のアヤさんが参加、持参された日本酒である。皆さんの拍手で栓が開けられた。ワインクーラーに入れてあっただけにヒンヤリと美味しい。

 わが家の大晦日は食卓に和食を並べるのを恒例としている。最後に年越しそばをいただくのでその前も和を中心とした料理となる。飲み物は当然の如く日本酒と焼酎。コロナ前は日本から来られる方にお願いしたりお土産としていただいていた。

 一昨年は日本食品で買ったが昨年の大晦日は「こんなのがあったよ」と息子がWAKAZEのボトルを買ってきた。Nicolasで売っていたとの事、ワインの専門店である。

 この時は常温でいただいたが、日本酒と言うより白ワインに近い味であった。日本製の酒とは一味違うと思ったものである。

 今回はアヤさんの話を聞きながらの飲酒、米は南仏カマルグ産、水はフランスの硬水を使っていると言う。パリ郊外の工房には12基のタンクと麹室を備えた本格的な醸造所であるらしい。

 現在、ヨーロッパ各国に販売しているそうだ。マダガスカルからの注文もあったが流通の都合でお断りしたとの事、販売も順調の様である。正直言うと大晦日に飲んだ時は、日本酒としては如何かなと少し案じたものである。結果は杞憂に、売り上げは毎月伸びているそうだ。まさかヨーロッパ全土で売れているとは思わなかった。

 近くパリ左岸カルチェラタンにレストランをオープンするそうだ。フレンチまたは和食、どんなレストランが誕生するのか今から楽しみにしているところだ。

 アヤさん自己紹介によると福岡県の出身。高校卒業後海外留学、最終はパリ大学院で学んだ。その後現在の会社に就職したと言う。酒を酌み返しながらのお話、改めて会社の話なども聞いてみたいと思っている。

 

 和気藹々の間にも聞こえてくるのは物価高、物不足の話であり、いろいろな情報が飛び交う。ひまわり油は15区のモノプリに在庫がある。6区のカルフールではミネラル・ウォーター並みに6本詰めが他のスーパーより安いなどなど、皆さんの情報収集ぶりが凄い。

 パリ暮らし日本人の頼みの綱日本食品店も韓国食品店も全商品値上げ、さらに在庫不足状態である。ここでも円安が家計に響くと不満の声、今年も日本行は中止にしましたとは駐在員の奥方。全ての不満がわが身に伝わり身に染みる。

 

 13時から始まった宴だが「では、そろそろメインします」と大量の豚肉が登場した。特別仕立ての垂れに漬け込んだと言う。言われてみれば4時間近くいろいろな種類の前菜をいただいた事になる。メインは2種類ありますのヒロさんの声を聞きながら時計を見る。残念ながら退散の時間となった。

 メインをいただけなかったのは残念だが、帰り列車の時刻を計算すると仕方がないか。ソー公園駅まではだらだら坂が続く。いろいろな花が咲き乱れる道を歩きながら酔い覚まし、風に打たれる体が気だるく心地よい。

 パリ・リオン駅19時45分の列車に乗る。車窓に映るパリの街は未だ昼間の様に明るい。二カ月前の同じ列車は暗闇の中を走っていた。

 


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