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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.136 Molle Patisserie 甜品工房

 春節を間近に控えたある日、パリ13区のアジア・タウンに出かけた。通称チャイナ・タウンと呼ばれる場所である。13区のメイン通りとなるイヴリー通りとショアジー通り2本の大通りを中心に中華系を主とする一大商業街がある。

 主なる業種は食品スーパーを中心にレストラン、食品店、各種雑貨店、これらの業種に比べ数は少ないが中華菓子、不動産、旅行代理店などアジア関連のあらゆる店が集合する地域が13区である。

 この地域はパリの環状線内では珍しい近代的な建築物が多い。低階層は商業施設として使われるが、その上階ほとんどは住宅街として使われている。アジア系住民が多いが、それ以外のあらゆる人種が住むインターナショナルな住宅街でもある。

 イヴリー通りにはこの界隈の老舗中華菓子店「友誼」があり、伝統的な中華菓子を製造販売している。ここの胡麻団子が好きで13区に行く度に買っている。胡麻団子も胡麻、小豆、サツマイモ、ハスの実餡と4種類、時には5種類とあるがどれも美味だ。

 界隈の住民にはここの月餅が特に人気があると聞いた事があるが、その他のお菓子も他の中華菓子店のレベルを遥かに凌いでいる。中華饅頭、蒸し饅頭も良く売れている。

 以前から一度この店の紹介をと思っているが、ここのオーナーシェフが頑固者で未だに撮影の許可を貰えない状態だ。いつの日か紹介できる日を楽しみにしている。

 実はこの日も胡麻饅頭を買う目的でイヴリー通りを歩いていた。この通りには高級中華喫茶店「中国茶苑」があり、時々ここの中国茶を楽しんでいる。店構えもこの通りでは一番高級な作り、落ち着いた場でいただく中国各地の銘茶は他の店では味わえないものがある。

 

 13区のチャイナ・タウンに新しいブーランジェリーができて地元の話題になっている事は耳に挟んでいた。メトロ・トルビヤック駅で下車、トルビヤック通りをイヴリー通りに向かって歩くと通りに面して2軒のブーランジェリーがある。伝統的なフレンチ・パンやパティスリーを製造販売する店、客は地元住民がほとんどだ。中にはアジア系の方々も多いそうだがそうでないいわゆる白人系住民が多い。

 チャイナ・タウンと言ってもそこに住む人達は色々、親は他国からの移民で生まれ育った国の文化や伝統を受け継ぐ人達。その子供達はフランスで教育を受け、メンタル面ではほとんどフランス文化に馴染んでいる。

 特に若者の生活、文化はフランス人そのもの、肌の色、話す言葉は違っても国籍はフランスなのである。この事はアジア系に限らずアフリカ、アラブ系住民でも同様、国籍はフランスでフランス人なのだ。

 フランスに住む多くの外国人はフランス国籍を取得したがる。そんな中で珍しい存在なのが日本人と良く言われる。日本人でフランス国籍を取得する人はそれほど多くない。いろいろ理由はあると思うが、恐らくフランス以外の他の国でも似たような状態と思われる。その理由のひとつには二重国籍を認めない日本国政府の方針があると言われる。

 

 話が脇に逸れてしまったが、話題の店Molle Patisserie(モレ・パティスリー)はイヴリー通りの99番地にあった。店の前に立ち看板を見てその店名、ロゴで気づいたのがマレ、アール・ゼ・メチエのパティスリー「甜品工房」である。

 正確な記憶では無いが2018年頃このレポートで紹介、報告をした店。アール・ゼ・メチエには規模は小さいが古くからのチャイナ・タウンがあり、そこに新しくオープンしていたのが甜品工房であった。

 ごちゃごちゃと沢山の店が入り混じった中に、そこだけ明るくモダンな店舗が登場、新鮮さ際立つ存在のパティスリー登場であった。伝統的な中国菓子にフレンチ菓子のテイストを加え、今まで無かった新感覚の中華菓子を作り上げ多くの客を集めていた。当時流行ったバブル・ティー(タピオカティー)も併設して若者の人気店と注目されていた。

 その店がパリ最大のチャイナ・タウンに進出である。イヴリー通りには中華伝統菓子店があるとは先にふれた。数多くある大手アジア系食品スーパーでも中華菓子を扱うコ―ナ-がある。扱われるスイーツは餅、蒸し菓子、月餅など庶民を対象とする伝統菓子が多い。

 

 甜品工房の店内に入ってみた。店内中央にテーブルが設えられ、できたての各種スイーツが並べてある。お客がそれぞれに選びトレーに盛ってレジへと運ぶ方式、テーブル上の商品はパン菓子が多い。日本では当たり前に見かける販売方法だが、ここ13区のチャイナ・タウンでは新しい購買システムだ。

 アンパン、メロンパン、クリームパンなどを中心に中華総菜、例えば豚肉炒め、野菜炒めなどを挟んだり中に入れたパン類の種類も多い。久しく日本でのパンに接してないのでこういった中華味のパン類が売られているのかわからないが、パリでは珍しい新商品だ。

 ケーキ類はレジに連なるガラス張りのケースに並べてある。苺ショート、レーズン、ドリアン、マンゴーを飾ったショートケーキ類、使われたシフォンケーキやクリーム・シャンティイの味も上品で、サイズもパリのパティスリーで売られる物よりひと回り大きい。

 店内の客はほとんどがアジア系の若い女性だった。様子から初めての来店者と見える。売れているのはやはりケーキ類が多い。お昼を少し過ぎた時間、お昼代わりに中華総菜を挟んだパンを買う女性グループもいる。様子を見ている内に白人系の客が加わった。

 

 店内から厨房が見える。中で若い男女スタッフ6人位が作業中、全員マスクで男女共にお揃いのエプロンを着用している。アール・ゼ・メチエの店は厨房が見えなかったので、新しい店のこの試みはある意味客に好感を与えていると思う。

 

 店のオーナーは中国系のヴィヴィアンさんとご主人のケレさん。アール・ゼ・メチエの店設立は2017年と言う事であった。店のコンセプトは、普段食べなれたフレンチ・パティスリーに飽きた人達に、今まで食べた事の無いスイーツを提供したい。それには、中華菓子の伝統味を大切にしながら、新感覚のオリジナル・スイーツを生み出し、それを食べて貰いたいとの想いから。できるだけ多くの味を作り出したいと言う。

 店の作りも明るく清潔、尚且つシンプルに設計されている。テラス席も併設されている。写真を終えてアンパンと苺ショートを買う。値段設定も妥当なところ、パリのパティスリーの値段と同じような設定である。

 ちょっと小腹が空いていたので歩き食いをしながら最初の目的地に向かった。買った2種類のお菓子はどれも満足いける味にでき上がって美味しかった。

 

 通りのあちこちに赤いランタン飾りができている。建物の地下階から春節名物の獅子舞を鼓舞する太鼓と鐘の音が聞こえてくる。久し振りの音色にチャイナ・タウンを歩いている実感を味わった。

 

 

               BIG FERNAND

 ハンバーガーを食べるのは年に何回だろうか。去年は確か4~5回位だったと思う。記憶にあるのはマクドナルドとバーガーキング。そのどれも美味しかったが、後が続かないのはそれだけ興味が無いと言う事だろう。

 何年か前、ラスパイユの市場にパリで一番と言うトラックを改装して路上販売をするハンバーガーを食べに出かけた事がある。行列ができていて、食べたハンバーガーも確かに美味しかった。特に自家製のフリッツ(フライドポテト)が付いて来たのは有難かった。

 数少ない回数だが、もし誘われるならハンバーガーの味よりフリッツの美味しい 店に行きたい。自家製揚げたてのフリッツは本当に旨いと思う。逆に冷凍フリッツは揚げたてはともかく冷えて来ると味が半減する。

 同じ事だがケバブも同様、今はほとんどの店が既成の冷凍フリッツを使用する様になった。某調査機関のアンケートによると、フランス式のサンドイッチ売り上げをハンバーガーが抜いたと言う。今やフランス人の食生活、特に独立生活をする若者層でハンバーガーは必需品になっている。

 

 日本のハンバーガー・ショップでフリッツ不足現象が起きていると聞く。新型コロナが発生して2年以上が経ち、ここに来て諸物価値上がりのニュースが聞こえる様になった。ここフランスでも値上げしたものが多い。電気、ガス、さらにパン菓子類の値上げが家計を直撃しているとテレビや新聞の家庭欄などで報じられている。

 幸いフリッツの値上げは、ここフランスでは今のところ聞こえてこない。今後どうなるかは解らないが、国内のポテト生産で充分に賄えると思うので、その点では安心している。近所のケバブ店でも値上げ、品不足の話は聞かない。

 スーパーの冷凍食品コ―ナーに行けば、大小色んな形の冷凍ポテトが冷凍庫の中に大量に納まっている。我が家でも何袋かの冷凍ポテトが冷凍庫に入っている。

 

 今でもそうだがフランスの国民食はと問われて、ステーキ・フリッツ答える人は多い。いわゆる牛肉ステーキにフライドポテトを添えた料理、大人から子供までに人気の一皿だ。少なくとも20年位前のフランス人多くの人の昼食と言えばステーキ・フリッツが主役だった。

 パリの通り至る所にステーキ・フリッツの専門店があり、赤々と燃える炭火の上で牛肉を焼き、自家製のフリッツを添える一皿が庶民の人気メニューであった。テーブルには食塩とムタールド(マスタード)の小瓶があり、飲み物はテーブル・ワインというセットが。残念ながら、今ではそんな店を見かけるのも稀である。

 まれにカフェでステーキ・フリッツを注文する時がある。どのカフェでも、フリッツは冷凍ものが普通となっている。そんな流れの中でも人気のビストロなどでは自家製のフリッツに拘る店がある。形は不揃いのフリッツだが味は格別、そんな出会いがあると本当にうれしくなる。

 フランスは農業大国、輸入に頼る事無く自給自足の食生活を続けられている。主食となる農産物、畜産物も食事に関しては、自国産のもので賄われている。贅沢を言わなければ生活しやすい国と言えるだろう。

 パンとチーズ、肉、ワインがあれば良いと言うお国柄、庶民の食生活は至ってシンプルだ。さらに加えてハンバーガーと言う極々シンプルな料理が加われば言う事なしと言ったところが現在のフランス人の食の傾向と言えそうだ。

 

 先日、初めて「ビッグ・フェルナン」のハンバーガーを食べた。フランスで人気のハンバーガー店である。知らなかったがチェーン化してパリを始めフランス各地に店舗を展開していると言う。

 私が行ったのはパリ・リオン駅構内にある店、正確にはホール1の奥にある。1・2・3と分かれるリオン駅の構内ホール、ちょっと複雑な作りで間違えると同じ建物内を結構歩くことになる。慣れるとエスカレーターなどを利用して目的ホールに簡単に辿り着く作りになっているのだが。

 リオン駅はショッピング・モールも兼ねていて、特にホール2は有名ブティックが数多く入居。たくさんの買い物客で賑わう事は以前この稿でも紹介した。

 フロアは違うが、同じハンバーガー店でマクドナルドも入店している。こちらはいかにもアメリカ風の店と言った感じで店舗も広く、販売システムも機械を導入するなど簡素化している。

 一方のフェルナンは入り口も両開きの扉の中に厨房と客席があるフランス特有のブティック形式の作り。中に入ると店の左側にカウンターがあり、そこにレジが、カウンター奥にオープン・キッチンがある。カウンター正面にテーブル客席があり、そこに座って注文の品をいただく。席からは厨房で働くスタッフの作業ぶりが見えるようになっている。

 スタッフは格子柄のシャツにお揃いのエプロンとお洒落。好みにもよるがマクドナルドのユニホームより個性的、フランス風と言える。

 

 2012年1月、パリのフォブール・ポワッソニエール通りにビッグ・フェルナンが誕生して今年で10年が経つそうだ。この通りは年に2回春秋と歩く。ハンバーガー店がある事は気づいていたが、そこがビッグ・フェルナンである事は知らなかった。

 10年間でフランス各地、海外ではロンドン、ルクセンブルクなど計61店舗と多店化しているそうだ。ちなみにギャラリー・ラファイエットの館内にも店がある。

 ビック・フェルナンの一番の拘り、特色は「フランス」と言うキーワード。まず使われる材料全てがメイド・イン・フランスである。パン、肉、チーズ、野菜など全てがフランス産の物である。

 ポテトも当然フランス産、通常使われる「フリッツ」と言う言葉もここでは「フェルナンディ―ヌ」と呼ばれている。ポテトを毎日店で洗い、カットして、オーダーを受けてから揚げているそうだ。

 ハンバーガーという呼び名は使わずフランス語の「アンブルジェ」。フリッツはベルギーで起きた呼称でフランス語にしてフェルナンディーヌと。どれも店で作った造語であり、フランス人特有のちょっとしたジョークである。

 使われる肉はフランスのブランド肉「シャロレーズ」か「リムジンヌ」を使い、焼きの具合は客の好みでブルー(レア)からスメール(靴底の様に固く)までと注文に応じる。

 新しく出店する時は、その地特有の素材を使い、オリジナル・メニューを開発しているそうだ。時に応じた季節限定メニューもある。

 席が混んでいたのでテイクアウトを注文する。家に持ち帰りいただいたが、全て手作りの良さが、肉の焼き具合も注文通りの仕上がりだ。期待通りに美味しいハンバーガー、フリッツだけは温め直していただいた。

 パリに来られる機会があったら是非お試しいただきたい。アメリカ風のハンバーガーとは一味違う体験ができると思う。

 

 

 


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