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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.123 FOU DE Patisserie

 明けましてお目出とうございます。寒さの中で新しい年を迎えたフランスです。新型コロナ問題に明け暮れ、苦渋の日々を重ねた長かった1年。厳しいこの状況が簡単に終わるとは思えないが、今年は何とか明るい年になって欲しいと願っています。

 

 昨年の終わりに近い12月の某日、所用があって6区サン・シュリピス通りを歩いた。ロックダウン中の各種規制が12月15日から一部緩和され、昼間の外出書類持参が解けたが人出は相変わらず少ない。用を終えたので昨年オープンした日本人経営の写真画廊を覗き、その後久し振りにこの界隈を歩いてみる。

 近くにジェラール・ミュロの店がある。先代オーナーが引退してからは足が遠のいた店である。相変わらず客は多く賑わっている。店内はクリスマス一色と言った感じ、ショーウインドーも華やかなディスプレーで人目を引いていた。

 今回気がついたがケーキに飾るショコラに描いたロゴが新しくなっている。店名もそのままで代替わりして、確か3年目にして漸く新しいオーナーの試みが表に現れたのだ。それにしても評判をとったブランド名は強い、改めてそう思った。

 その後セーヌ通に出るとファッション・ブティックや化粧品関連の店、香水、蝋燭店などが営業している。どの店も営業はしていても客が入っている気配はない。

 序でにアルノー・ラレールの店を覗く。当然だがこの店もクリスマス・ケーキを始めプレゼント用のショコラやクッキーがショーケースや棚を飾ってお祭り気分を盛り上げている。何時もの事だが品の良いディスプレーだ。並んだケーキも実に美味しそう。客の出入りを暫く見ていたが、ショコラやクッキーの詰め合わせを買う人が多い。

 この店のすぐ近くにピエール・マルコリーニの左岸店がある。世界的に知名度がある店だけに、ひっきりなしに客が訪れて居た。人出が少ない今のこの通りでは真に珍しい光景と言えるだろう。クリスマスのプレゼントにはショコラと言うフランス人の伝統が未だに生き続けている。そんな証を見る思いだ。

 通りに面したガラスにconte d’Hiver(冬の物語)の文字と動物達を描いたイラストがある。クリスマスと言う誰もが知る壮大な物語の中に、童話を加えたアイデアの面白さ。そんな飾りに道行く人が足を止めていた。

 ヨーロッパの人々の暮らしの中でクリスマスは、1年で一番大切なお祭り行事である。暗い通りと化したパリの街で今人々の心に光を灯しているのは、パティスリーやブーランジェリーのクリスマス・ケーキとそれらを作る人達の心意気。と言っても過言では無い。

 それにしても今のパリは暗い。街が静かと言う人もいるが、見方によっては暗く淀んで塵が浮いた川の様にも見える。一日も早く元の姿に戻って欲しいものだ。

 

 全てに規制のかかった今のフランスはカフェもレストランも休業中である。ホテルも未だに営業禁止、観光で訪れる人も少ない。地方からの観光客も宿泊所の目途が無いとパリへは出て来れない。仮に出てきても美術館や娯楽施設は閉まっていて行くところがない。

 外出規制が緩んで、各種業種が営業可能になったと言っても日用品の買い物以外で外を歩く人は本当に少ないのが現状だ。夜の8時以降は外出許可の書類携帯が義務付けされ、違反者は容赦なく罰金が科せられる。規制が緩和されてもこんな状態である。

 今回、改めて感じた事だが、パリの街からカフェやレストランが消えた事でのパリ以外の居住者の不自由さ。先ず食事をする場が少ない。カフェやレストランでテイクアウト用の食事を売る所はあるが、買ってもそこに食べる場所が無い。皆さんの様子を見ていると殆どの方が歩き食いをしている。

 若い人達は歩き食いに慣れていて、見た目も様になるが年配者老人はそうはいかない。生活習慣として日本よりは歩き食いに寛容なフランス国だが、それでも気にする人は居る。

 パリは公園が多く、そこにはベンチもあるが、いざ座る場所を探すとなるとこれがなかなか困難だと今回気がついた。更にお昼時の公園ベンチはテイクアウトの弁当組に占拠された状態となっている。晴れの日は未だよいが雨の多い冬場は本当に座る場が無い。

 オペラ界隈のデパートを覗いて見たいの気もあったが、先日テレビで見た客の少ない館内の様子を思い出し、今日は中止にした。

 そんな中で一番困ったのがパリの街の公衆トイレの少なさである。通りには何か所かの公衆トイレが設置されているが、その数も少なく、どのトイレにも順番を待つ人の列がある。通常ならカフェに駆け込みコーヒーを1杯飲んでトイレを使うが、今はこれさえ出来ない。

 日本なら駅に行けばトイレがあり用が足せるが、パリでは主要駅以外でトイレのある所は数える程しか無いのが実状。その主要駅でもコロナ禍の今は使用禁止の所が多い。何とも不自由、不便な現在のパリである。

 

 フランス東部の各県では従来の外出禁止20時が18時へと更に時間が早まった。新規感染者数も相変わらず増えている。今迄は大都市中心に感染者が増えているとの事であった。今のこの状況では地方暮らしの人も安心できない事が解った。

 昨日フランス首相のテレビ会見があった。12月中旬以降、新規感染者数は1日平均1万5千人を上回っていると言う。病院の状況は引き続き逼迫、1日当たり入院患者数は2千5百人。医療関係者の疲労も極限状態だそうだ。

 博物館、映画館、劇場、スポーツ施設等、現在閉鎖中の全ての施設は、今月末まで引き続き閉鎖。1月20日(水)に2月以降の順次再開の可能性とその条件を協議する。

 レストラン、バー、スポーツ施設についても、再開は早くとも2月中旬以降。これらの施設についても同様に協議を実施する。

 これらの措置により影響を受ける業界に対し、引き続き支援を実施する。全ての既存の支援措置は同じ条件の下継続する。

 20時以降(感染状況が悪化している15県では18時以降)の外出制限措置は、1月20日までは継続する。15県の他に感染状況が悪化している10県について、1月8日(金)夜までに、1月10日(日)から実施する外出制限措置の開始時刻を18時に前倒しすることについての調整を行う。

 検査態勢の拡充により、全員が無料で検査を受けることが可能。結果判明までの期間も短縮され、8割以上の検査で24時間以内に結果が判明。

 その他にも新しい説明があったが、細かい事は割愛させて頂いた。先に触れたカフェ、レストランの再開が2月中旬以降になる事が、個人的には一番つらい。とは言え感染してしまえば一巻の終わりで、ここは大人しく従うのが市民の義務と納得するしかない。今年も又我慢からの出発である。

 

 年が明けて街のパティスリーやブーランジェリーの店頭にガレット・デ・ロワが一斉に並んだ。6日が公現祭の祝日、我が家でもガレットを買ってこの日を祝った。

 当日買ったのはモントローで一番人気のブーランジェリー、Isabelle & Claude VIDON 。店には先客が6人並んでいる。何時もなら5~6人の客は店内で待つが、コロナ禍の今は距離をとって店外で並んで待つ事に。

 殆んどの客がガレットを買っていて、順番が来た時は4人分用の中型は売り切りれになった。仕方なく3人用を買う。4人用なら14ユーロ、3人用で10ユーロである。

 この店はクロワッサンも美味しいが、ガレットも厚みがあり、焼きの具合も程よく見栄えも良い。中に入ったアーモンド餡もたっぷりで良い味を出している。フェーブは陶製の亀だった。

 モントローは人口3万足らずの小さな町である。人口の割にはブーランジェリーの軒数は多い方だが、パティスリー専門店は、今迄のところ1軒も無い。ケーキ類は殆どブーランジェリーで作られており、その分種類は少ない。どの店に行っても似たようなケーキがショーケースに並ぶが、大振りでそこそこに良い味の物を作っている。

 パリの有名パティスリーとは比較の仕様も無いが、田舎町ならではの味の作り手、これはこれで良いのではと思う。これからも大切にお付き合いしてもらいたい。

 

セーヌ通にフー・ド・パティスリーの新しい店が出来た。

 セーヌ通を歩いていたら新しいパティスリーが出来ている。店の名前はフー・ド・パティスリー。何処かで見た名前だがすぐには思い出せなかった。場所はセーヌ通の64番地、イベリコ・ハムのBellota-Bellota があった店である。

 ショーウインドーを覗き、店内に入る。ショーケースに並ぶ商品を見ながら、その横に飾ってある写真を見て思い出した。写真は商品の作り手である。

 何年前か思い出せないが、パリ2区モントログイユを歩いた時小さなパティスリーに入った。店の前でひとりのシェフがサイン会をしていて大勢の人が並んでいる。彼のレシピ本発売の記念サイン会だった。

 サイン会の主はニコラ・ベルナルデであったような、イケメンシェフである。店の前、通りにテーブルを出してのサイン会であった。

 その小さな店が出来立てのフー・ド・パティスリーだった。店内のショーケースに色んなお菓子が並び、それぞれに作者の名札が添えてある。その中にはピエール・エルメやユーゴ&ヴィクトールの名前もあった。当然ニコラの名前もあったが、どんなケーキであったのか思い出せない。

 フランスの有名パティシエの商品を集めたこのセレクト・ショップ。フランスで初めての試みであった。店をプロデュースしたのが、2013年に創刊された新しい製菓専門誌「フー・ド・パティスリー」であると店のスタッフが教えてくれた。

 セレクトされたパティシエの名前を見て、良くぞこれだけの業界スターを集めたものだと感心した事を憶えている。感心しながらも長続きするだろうかの疑問もあった。

 その理由はそれぞれに独立した自分の店を持つスター揃い、店には自慢の商品が数多く揃っており、客も沢山の商品の中から選べるという利点がある。一方フー・ド・パティスリーでは有名パティシエ夫々の商品は扱っているが、何れも種類が少なく選択の幅が狭いと言う問題があるのでは。そう思えたからだ

 

 セーヌ通の店に入り、商品を見ながらそんな思いが杞憂で有った事が解った。店のスタッフ、オロールさんの話では現在パリに6店舗の店やスタンドがあると言う。何れの店も好調との事「と言う事で、この店もオープン出来ました」と笑顔で対応してくれた。

 1号店モントルグイユの店は小さな狭い場所だった。有名パティシエの商品を集めていたが、人数も商品数もそれほど多くは無かった記憶がある。

 そんな思いの中でプロジェクトが成功して今に至ったのは、やはりプロデュースが業界専門のメディアであったからの事だろう、流石である。

 

 セーヌ通り店は1号店に比べスペースも格段に広い。加えて初めての試みと言われるイートインも店内にある。私が訪れた日はフラン中の飲食店が店内飲食禁止の時、イートインには誰もいなかった。

 スイーツの種類も大幅に増えている。当然参加パティシエも増えた訳で、フランス国内あらゆる地域から選ばれた人達。初めて見たシェフの名前も多い。1号店の時から参加しているピエール・エルメやユーゴ&ヴィクトールなどは当然、モンブランで有名な名店アンジェリーナのシェフ、クリストフ・アペールの商品もある。

 パティスリーの他に惣菜も加わった。例えばタルトのヨアン・ラスタやパテで人気のジル・ヴェロの美味しそうな商品も並んでいる。ジャムで有名なコンフチュール・パリジェンヌ、ショコラの老舗メゾン・デュ・ショコラのニコラ・クライソウのショコラ、キャラメルのニコラ・ベルナルデのキャラメルもあった。

 この店に選ばれると言う事は、業界に一流シェフとして認知されると同時に知名度がぐっと高まる。スイーツ・ファンにとっても喜ばしい事だ。

 オロールさんの許可を得て店内の写真を撮る。その間にも客が訪れあれこれと買い物を。中のひとりはプレゼント用の買い物らしく、オロールさんと相談しながら商品を選んでいる。聞くとは無しに聞こえて来た会話。

 「ひとりの商品より何人かの有名シェフの物が喜ばれると思って」、なるほど言われてみるとそれも一理ある。洒落た紙袋に色々詰めて買い物は終了した様子。オロールさんに軽く手を挙げて店を出て行った。

 

 写真を撮り、出来たらもう少し話を聞いてみたかったが、これ以上居座ると仕事の邪魔になる。ひとりで客に対応しているオロールさんにお礼を言って店を後にした。

 セーヌ通のこの界隈で営業している店は、二軒隣のダ・ロザと道を挟んだスーパー・カルフールと言う寂しさ。何時もの賑やかさが戻るのは恐らく3月の終わり頃か。それさえ定かでは無い。先の見えないパリの今日である。

 

 ネットニュースによると、東京及び近隣3県に緊急事態宣言が出されたとある。詳しい内容は解らないが、多くの項目で政府や地方行政府からの要請とあるようだ。こちらでは要請では無く、禁止である。この違いは大きい。フランスやイギリスの厳しさに比べ日本の処置は全てが緩く見える。人々の反応にもゆとりを感じる。日本は未だ大丈夫と言う事だろう。心配しながらも羨ましく思った。

 


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