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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.101 何故か今コンフィチュール

 クリスマスに弟家族がニューヨークからパリを訪れた。一人娘のノエルが年末をパリで過ごしたいと言い始め、慌ただしい時間の中で決行したという。

 と言う事でイヴの夜は我が家で食事を一緒することに。前菜の生ガキから始まり、鮭の燻製とクリスマス定番の食事が進む。メインはノエル希望の自家製ブルギーニョンである。デザートのブッシュ・ド・ノエルは予定通り、メゾン・ディザベルで買う。甘さを抑えた品の良い味、女性目線で計算された一品は流石と言える。

 シャンパン、ワインを飲みながら話が弾む。以前、ニューヨクに行った時、弟のアパート近くにあったパティスリーを思い出し、その店の話に。行列の出来る店でオーナーはフランス人。マダムとその姪御さんと言う若い女性が、店の表を切り盛りしていた。行けば必ず「ボンジュール」の挨拶、笑顔で対応してくれた。弟家族行きつけの店である。

 行列の出来る店「これだけ流行るのだから、スタッフを増やせば」と何時もそう思っていたとそうだ。「家族経営で良いのだよ」と言うのがムッシュの口癖であったそうな。美味しいケーキを食べたいならあの店に行け、スイーツ好きのニューヨーカーにも評判の店であった。残念な事にその店も無くなったと言う。

 店の閉店の噂が出て、ニューヨーク・タイムスが取材。ニューヨーカーの為にも店の継続を望む記事が掲載されたと言う。店を閉めたオーナー夫妻は、現在フランス、コルシカ島で老後を過ごしているそうだ。如何にもフランス人らしい生き方、話を聞いて少し羨ましくなった。

 年明けまでのおよそ2週間のパリ滞在だったが、パリは美味しいものが沢山あると言うのがノエルの感想。特にパンとバター、ジャムが美味しいと言う。反対にベーグルに関してはニューヨクに軍配を挙げる。そう言われると焼き立てのベーグルは確かに美味しかった記憶がある。

 

 クリスマス商戦で賑わうボン・マルシェの食品館に出かけて見た。入り口正面にワゴン車があり、天蓋を外した車体にクリスマス商品が飾ってある。季節ごとに洒落た装りでお客の目を集めるこのディスプレー。今では食品館の看板とも言える。

 車の奥、左側にスイーツ・コーナーがあり、ショーケースの中に各種クリスマス・ケーキや美味しそうな新作ケーキが並んでいる。その前には沢山のお客、相変わらずの賑わいだ。その横にテーブルと椅子があり、若い女性が美味しそうにケーキを食べていた。

 ケースの前にコンフィチュール(ジャム)のコーナーが新たに登場。特別棚が設けられ、そこにフランスを代表するコンフィチュールの数々が並べてある。老舗のALBERT MENES、Lucien gurgetin、ERIC BUR、ANATRA、la Trinqueirette、など、これだけ有名、人気商品が大量に集められるのも珍しい。日本でも人気と言われるchristine ferberはここでも別扱い、独自の棚が出来ている。1年で一番商品が売れるこの時期でのコンフィチュールの特設コーナー、当然勝算あっての事だろう。

 我が家でコンフィチュールと言えば、朝食でパンに塗って頂く事がメインの使用法である。恐らく他の家庭でも同様ではと思っていたが、パリ暮らしを続ける中で、少しずつ認識の違いが分かるようになってきた。

 フランス人家庭では、コンフィチュールが実に多岐にわたって使用されている。クリスマスの食卓に欠かせないフォアグラにも使われるし、各種チーズにも、鶏のグリヱに添える家庭も多い。直接塗る又は添えるの使い方だけでなく、料理の味付けとしてのコンフィチュールの役割は我々日本人が想像する以上に多い。ソースに隠し味として使われたり、味にコクを出すため煮込み料理にも使われる。こう言う使い方、プロのキュイジニエなら当然と言えるだろうが、一般家庭でも普通に使われている。

 と言ったような背景を考えると、この特設コーナーの意義と目的が実によく理解できてくる。マダム達がカートに次々とコンフィチュールを入れる様子を見て不思議だったが、今では当たり前の事として見えるようになった。

 

 年が明けて再びボン・マルシェに行って見る。年末に比べると客が少ないのは当然だが、食品館のコンフィチュール・コーナーは年末同様に設けられていた。更に加えてミエル(蜂蜜)が棚に並んでいる。

 スイーツ・コーナーのショー・ケースには新年の菓子ガレットが美味しそうに飾ってある。定番のデザインもあるが、色んな形のガレットが多いのには少し驚かされた。このようなお祭り菓子でも何らかの新しいデザインを作り出すシェフの力量は流石と言える。

 

 帰りにビュッシ通りにあるラ・シャンブル・オゥ・コンフィチュールに寄ってみる。ここはコンフィチュールの専門店。パリだけでも4店舗を構える人気店である。各店100種類以上の品揃えをしており、果物から香草、花とバリエーションの多さ、アイデアの面白さで客に愛されている。

 ビュッシ通りの店は構えはそれほど大きくないが、すっきりと、明るく清潔感漂う空間。棚にはずらりコンフィチュールが並び、容器のデザインも洒落ている。正面カウンターにレジがあり、その横では試食も出来るので、若し訪れる機会があったら是非お勧めしたい。

 スタッフのアミナさんは、コンフィチュールのスペシャリスト。商品選びで迷いが出たら、彼女に相談を、目的、用途に合った商品を選んでくれる。懇切丁寧、親切、何とも心強いスタッフだ。こう言う人が店に居ると言う事は真に便利、安心して買い物が出来るのがうれしい。アミナさんの他にコリンヌさんが居て、この二人体制で店でのサービスを行っている。

 全品BIO、保存料も着色料も使用無しの安全食品である。値段は6〜8ユーロ前後と手頃。この店が出来た時、このレポートで紹介しているので、詳しい事は割愛。現在東京でもこ商品を売る所が出来たそうだが、直営の店はまだ無いと言う話だった。

 最後に今お勧めの商品2点を紹介してもらう。フランボアーズとシャンパン風味、試食をさせてもらったが、何とも上品。玄人、大人向けの味が素晴らしい品である。もう一品はアブリコとラヴェンダー風味、香りの良さが肉料理ピッタリ。本当に肉料理に合わせて食べたくなった。何れもクリスマス用のラインに選んだ品だが、現在も発売している。アミナさんお勧めの商品でもある。

 先にも述べたが、私がコンフィチュールを普段に食べるのは、殆どパン類との組み合わせ。そんな話をアミナさんと話していたら「勿体ない」と笑われてしまった。「食べると言う事はデザインする事」改めてそう思っている。

 コンフィチュールとジャムの違い。詳しくは別として、ここでは単にフランス語か英語の違いと言う事で、フランス語表現を用いました。


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