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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.86 シャンパーニュ、ブルゴーニュ日帰り旅

 2015年7月シャンパーニュとブルゴーニュがユネスコの世界文化遺産に指定された。お目出度いことでもあり、ちょうど良い機会に恵まれたので、久しぶりにシャンパーニュとブルゴーニュに出かけてみた。いずれも日帰りの旅である。

 シャンパーニュの中心地ランスまでは、パリから北東へ車で約2時間の距離だ。車窓から眺める景色の変化はパリでは決して見られないものである。空気も美味く何とも言えない長閑な気分にせてくれる。

 なだらかな丘陵に波打つように広がるぶどう畑はすでに秋の色に包まれていた。残念ながらぶどうの収穫は殆ど終わったとの事、更に当日が日曜日で殆どのワイナリーが閉まっていた。予定を変更してノートルダム大聖堂へと向かう。

 

 ランスはシャンパーニュ・アルデンヌ地方の中心地である。街の歴史は古く、ローマ時代まで遡るそうだ。12世紀に建てられたノートルダム大聖堂が有名で世界遺産に指定されている。前回訪れた時は大改修中であったが、今回は比較的ゆっくりと見学ができた。 祭壇奥の正面を飾るシャガールのステンド・グラスは何時見ても素晴らしい。

 ランスと言えばシャンパンである。フランスを代表するこの飲み物はこの地域を中心に発展した。街のあちこちにシャンパンセラーやカーブがある。現在のランスを作り上げたのはシャンパンと言っても過言ではないだろう。

 大聖堂前の広場に面してテラスを備えたメゾンがある。中で各種シャンパンを売っており、大勢の観光客がそれぞれ好みの銘柄を選んでいる。スタッフの話ではシャンパーニュで採れる物は殆どキープしているとのこと。おそらく地下の貯蔵庫にそれらが並んでいるのだろう。その数が想像される。

 柔らかい日差しを浴びながらテラスの席で泡立つシャンパン・グラスを傾ける人達。皆さんがシャンパンを注文すると言うのは、さすがランスならではの光景だ。銘柄によってカップ・シャンパンの値段も色々だが、安いもので9ユーロである。ちなみにドン・ペリニオンをテラス席で注文するとボトル1本が165ユーロと言う。年代にも寄るだろうが結構な値段設定だ。

 今回のシャンパーニュ、ブルゴーニュ行きは、シルバー・ウイークを利用して日本から来られた二組のカップルとの同行である。

   

 ランスでは五つ星ホテル・レ・クリエールでのランチである。予約は12時半であったが12時に到着、さっそくホテル内のレストランへと案内して頂く。馬田さんのご厚意でレストラン一番の席をとってもらう。広大な庭園に面した船のキャビン風な部屋、円形のスペースに設えた丸テーブルが何ともエレガントだ。

 馬田さんについてはこの稿で以前に紹介した事がある。このホテルで長年厨房を切り盛りされている方で、地元は勿論日本にもフアンをもつフレンチのキュイジニエである。

 「厨房が混む前に如何がですか」とのお誘いで厨房と地下のカーブを見せてもらう。肉、魚、野菜、デザートと調理内容の担当毎に仕事場が分かれている。磨き抜かれた清潔なキッチンで働くキュイジニエ達の姿にこれから頂く料理が一段と楽しみになる。地下のカーブには約9万本のシャンパン、ワインなどが貯蔵されているそうだ。

 

 この日のコース料理は、まず5種類のアミューズから始まった。フォアグラのシャンパン・ロゼ煮込みにピーツとカブの温菜、キベロン産タラのトマト煮ビネガ風味、うずらのシューブレーム・ズッキーニの花弁包アーモンドソース、ブリチーズにオリーブとシトロンのコンフィ添えと皿が続く。一皿一皿味の変化にとみ、見た目も良しと久しぶりに本格的なフレンチを堪能する。

 メインのデザートはタヒチ産バニラのクレーム・ブリュレに果物のシャーベットだが、その前にサービスとしてマカロンなどケーキの盛り合わせ、更もショコラが出る。このコースの値段は120ユーロである。

 出される料理に合わせてソムリエにシャンパン、白ワイン、赤ワインを選んでもらう。いずれもシャンパーニュで採れたもので料理との組み合わせが絶妙であった。シャンパーニュの赤ワインを飲んだのは今回が初めてである。

 昼食に要した時間は3時間、ウエイターのサービスも心地良く、アッと言う間に時間が過ぎていく。同行のご夫妻にも満足して頂いた。帰りに馬田さんとロビーで暫く立ち話。
記念に今日頂いたコースのメニュを頂きホテルを出てパリへと向かう。久しぶりに贅沢な一日であった、滅多にない事である。

 

 ブルゴーニュ行き一番の目的はロマネ・コンティのぶどう畑見学である。ブルゴーニュは何度か訪れた事があるが、ロマネ村へは未だ行った事が無い。日本から来られたKさん夫妻が無類のワイン好きで、ロマネ・コンティは興趣が尽きないと言う。

 パリを朝8時に出てオートルートA6に乗り一路南下、リオン方向へと走る。ブルゴーニュ・ワインの最大集積地であるボーヌまでは片道4時間の距離である。オートルートから見える景色は地平線まで広がる畑とその中に点在する林の繰り返し、その林が眼前に現れる度に霧の塊がルートを覆う。運転手には何とも面倒な行程だ。

 ディジョン方向の標識が見えてルートが別れる。ボーヌへは更に南下、およそ1時間走るとようやくボーヌの街並みが見えてきた。市内に入り駐車場に車を止め、ツーリスト・オフィスに向かう。ここで市内地図をもらいワインが一番揃っていると言われるメゾン・ド・ヴァンの場所を教えてもらう。

 ボーヌ一番の観光名所であるオテル・ディユの近くにあるこのカーブにはブルゴーニュ・ワインを代表する銘酒が棚一面に並んでいた。 

 ワイン・リストを見せてもらったが、その厚さは10cmもある。さすがフランスを代表するワイン産地の中心地、揃えた数も半端では無い。パリの有名宝飾店並みのワインの扱いで、高級品になると注文を聞いてから、地下のカーブに担当者が探しに行く。ちなみにこのメゾンにあるロマネ・コンティの値段は16500ユーロとの事、日本円に換算すると凡そ230万円になる。

 

 ボーヌでのランチはマ・キュイジーヌを予約。ワイン業者や食関係者が多く集まるレストランである。歴史ある古い町で人気のレストランと言えば、さぞかし店構えも立派で老舗店と思いがちだが、予想に反してこの店は小じんまりとした構えの佇まい。明るい店内はインテリアの趣味も良い。

 女性シェフが作る料理として知られているが、その評判を取ったマダムがサービス係として出迎えくれた。パートナーと思えるムッシュと二人だけで店の表を仕切っている。

 ここではアラカルトを取り、それぞれ取り分けて味わう事にする。ブルゴーニュ風卵料理、エスカルゴ、牛肉のカルパッチョ、ジャンボン・ペルシーイェ(ハムとパセリのゼリー仕立て)、マグレ・ド・カナール、ブッフ・ブルギニオン、コート・ド・ヴォー・プレゼの7皿を注文する。紙面の関係で一皿一皿の料理説明を省かせてもらうが、いずれの料理も申し分ない味の出来栄えである。値段も手頃である。一番高いコート・ド・ヴォーで35ユーロだ。

 ワインはKさんご夫妻のセレクションで白、赤を、勿論コート・ド・ボーヌの銘酒である。デザートは皆さんお揃いでクレーム・ブーレとなった。我々の他に日本人客が2組、自転車でブルゴーニュのドメーニュ巡りをしていると言う若いカップルと女性だけのグループである。

 

 ボーヌからロマネ村までは車で凡そ30分の距離である。オートルートから旧道へと道を取り、ワイン畑を縫うように続く道をなだらかな丘陵へと走る。小さな集落の入り口にロマネ村の標識が掲げてある。ロマネ村は想像以上に小さな村であった。

 古い民家やワイナリーが集まる集落を通り抜け、ワイン畑の中を通る小路を進むとロマネ・コンティの畑が現れた。注意して探さないと通り抜けてしまいそうな場所である。道と畑の境に石垣があり、そこにポツンと十字架が立っている。石垣にROMANE CONTIと掘り込んだ石のプレートあった。

 道から一段高くなった位置にぶどう畑が広がる。その一角わずか1.8ヘクタールがロマネ・コンティの畑である。ここで採れるワインは年間7千本との事だ。わずかに実を残す畑に入り、赤紫に熟れた一粒のぶどうを摘んで口に運ぶ。舌の先に広がる僅かに酸味を含んだ甘い味、なるほどこれがロマネ・コンティのと、暫しの感慨にふける。

 畑を後にして集落へ戻る。小さな広場にある郵便局の前に、ロマネ村で採れたワインを扱うメゾン・ド・ヴァンがある。道脇に車を止めてメゾンを覗くと中年のマダムが一人カウンターの中で客待ちの様子である。

 棚に並ぶロマネ村産ワインの説明を聞きながら、奨められるままに試飲を開始。二組のご夫妻共にお気に入りワインが見つかったようである。ロマネ・コンティ畑の近くで採れたワイン、それぞれに箱買いをされて今回の旅の目的は無事終了となった。


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