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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.79 老舗レストラン・ラぺルーズ

 パリの正月はガレットで年明けとなる。日本で雑煮を頂くように、こちらはどの家でもガレットを頂く。雑煮はメイン食、ガレットはデザート、その違いだけだが、どちらも新年に欠かせない祝いの食である。

 

 1月はフランス中のパティスリーやブーランジュリーがガレット一色となる。これがほぼ一ヶ月続くわけだから、職人にとっては勝負菓子、どの店もガレット作りに全力を注ぐ。勿論他のケーキもあるが、この月だけはガレットに主役を譲った感じだ。
 毎年同じような事を書いているが、ガレット抜きで新年は語れず、これが無いと何となく落ち着かない。店にとっては真に有難い晴れのお菓子と言える。
 今年も恒例のコンクール、ガレット・ド・ロアが行われ、1位にミッシェル・リクザックさんが選ばれた。パリ郊外の店である。毎年努めて1位のガレットは頂く事にしているが、我が家からは距離もあり、残念ながら今回はパスした。今年上位に選ばれた店はパリ郊外の店が多い。と言う事で、家に近いミュロ店のガレットで新年を祝う事にした。

 

 スーパーマーケットでもガレットが大量に売られている。大手スーパーのひとつモノプリでは、ガレットと同時にビスキュイ・ド・サヴォワを発売、コーナーに新味を出している。イタリア、スイス国境に近いこの地方で14世紀の頃から作られていると言われる代表的な地方菓子である。お客の反応も良く、順調な売れ行きだそうだ。
 
 新年早々に起こったパリのテロ事件は、フランス国民に想像以上の衝撃を与えた。イスラム国なるものが誕生以来、何かが起こるだろうという漠然とした不安は国民誰でもが持っていたことである。多くの犠牲者を出して、犯人達は射殺という結果で終わったが、事件後も色々の問題を残している。
 1月11日、リパブリック広場に数多くの市民が集まった。パリの歴史上最大の市民参加と言われている。テロ事件やこの集会についても世界中のメディアがオンタイムで紹介、日本でも放映されている事がわかった。

 

 集会当日、メトロ、リパブリックやその周辺駅は閉鎖されたとの情報が飛び交っていた。こうなったら歩くしかないと広場へむかう。人の流れに乗るような形で漸く広場の入り口近くに辿りついたが、それ以上近づく事が出来ない。
 「私はシャルリ-」と書いたワッペンを背中や胸に張った人、プラカードを持った人、鉛筆を髪止めにした若い女性、国旗を持ったグループと、思い思いの自己表現で集まった多くの人達である。国籍も肌の色も、宗教も異なるあらゆる人種が一同に集まり、テロへの反対を訴えた。
 日本のネット掲示板やブログなどの反応を見ると、なるほどと思う意見や少し違うのではと思わせる投稿も多い。襲われた出版社を非難する人、擁護する人、言論の自由を守れと言う人、言論の自由にも限度があるという人などなど。それぞれの主張があって当然だが、当日この集会に参加した一人として思う事は、テロに対する批判を共有して集まった人達と言う事だ。この週刊誌はイスラム教に対してだけ風刺している訳ではない。
 今回の集会は一部イスラム過激派のメンバーが起こしたテロ事件に対するものであり、イスラム教徒に対する抗議ではない。その証拠には大勢のイスラム教徒の方が参加した事でも解る。事件当日、イスラム系の子供達が「犯人は我々の代表では無い」のプラカードをテレビのカメラに向けていたが、大方のイスラム教徒の反応を表したものだったろう。彼らの参加は多くの市民の共感を得ていた。
 銃殺被害者の一人風刺漫画家のキャブュさんは私も知っている方だった。我が家の近くにビュシー通りがあるが、その通りにカフェ・オゥ・シェー・ドゥ・ラベイがある。たまに立ち寄る店だが、キャブュさんはそこのテーブルで、ものを書いたり本を読んだりされていた。何時も一人で物静かな方、目が合うと軽く挨拶を交わしていた。今思えばもう少し話をしておけばと悔やまれる。
 事件解決の後もベルギーのイスラム過激派拠点で警察との撃ち合いが起きた。ドイツやオランダでもテロ防衛が強化されている。どこでテロが起きても可笑しくないと言うのが現在のヨーロッパである。心配していた事だが、とうとう日本人のプレスまでがシリアで拘束されたようだ。一日も早い解決を願いたい。

 

 レストラン、ラペルーズは創業1766年、パリで最も古いレストランのひとつと言われている。長い歴史の中で数多くの有名人がこの店を訪れた。フランスを代表する文豪のビクトル・ユーゴ、バルザック、アレキサンダー・デュマなど、その他にも各界を代表する紳士淑女が日夜、ここでの食事を楽しんだと言われている。
 この伝統ある有名レストランでデザート部門のシェフを勤める方が佐藤亮太郎さん。東京都出身でパリ滞在20年のパティシエだ。佐藤さんのパティシエとしての出発はアンドレ・ルコント店である。見習いから始めスー・シェフとなるが、更なる修行を目指して1996年渡仏。パリのレストラン、ランドワーズのシェフ・ド・パティシエを契機にメゾンブランシュ、更に三星レストラン、ギー・サボワーのパティシエに。2009年にはラルク・パリのシェフ・ド・パティシエになる。2013年ラペルーズのシェフ・ド・パティシエとして迎えられ、現在デザート部門を統括、若手パティシエの指導をしている。
 佐藤さんはラペルーズ勤務の傍らYOGASHI RTと言う名前の会社を設立。パリの何軒かのレストランやケータリング会社のパティスリー・コンサルタントをしている。2014年にはラボをパリ郊外に設立、そこでスタッフと共にお菓子作りを始めた。コンサルタントをしている会社や店にここで作った新しい商品を販売する会社である。

   

 フランス、特にパリはレストランの競争も激しく、経費節減でデザート担当のスタッフを雇わない店が増えている。マンネリ化したデザートに変化を求める店もあり、佐藤さんのような企業に依頼するケースが多いそうだ。最近、モスクワのパティスリーとレストランからもコンサルタントの打診があった。
 フランスの食事にデザートは不可欠のものである。レストランによってはメインの一皿と同じぐらいの値段設定をしている所もある。デザートの役割がいかに大事かと言う事だ。
 日本から来られた方と食事をする事があるが、殆どの男性はデザートに興味を示さない。誠に残念な事だ。
 佐藤さんは2012年世界で活躍する日本人を対象にした「国境を越えた情熱」メンバーの一人に選ばれ、内閣府担当大臣から感謝状をもらっている。フランスに住む日本人では唯一人の受賞。同時受賞には女子サッカーの澤穂希さんなどがいるそうだ。
 日本人の勤勉さ、手先の器用さ、研究心旺盛さと言った特性を認め、スタッフの一人として雇用するフランスのパティスリーやショコラティエは増えてきた。朗報と言えるが、正式雇用に至までは色々なハードルがある。それらを乗り越えて始めてゴールができる。壁は厚くて高いのが現状、全ての希望者に門戸が開かれている訳ではない。
「僕が渡仏した95年には滞在許可証を持っていない日本人のパティシエや料理人の方達が沢山いました。それぞれに苦労しながら仕事を探していました。
 当時に比べ幾らか環境が変わりましたが、簡単に仕事が出来ると言う事ではありません。
フランスでお菓子作りを学ぶと言う事は、フランスの文化、その成立ち、フランス人の人間性などを自分なりに理解し、関わりを持つということです。
 ここに来て働く事だけが目的ではなく、この国を大きな視野で見れる方法を学んで欲しいと思います」
 フランスで修行を目指す後輩皆さんへの佐藤さんからのアドバイスです。


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