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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.69 ユーロパン2014

 

 暖冬のままに春を迎えたパリである。快晴が一週間続いた3月中旬、パリを中心にイル・ド・フランスに珍しいスモッグ警報が発せられた。対策の一つに乗用車利用規制を提案、出来るだけ公共交通機関運用を市民に要請する。14日から16日の週末3日間メトロやバスなどを無料にした。喜んだのは市民は勿論、バカンス中でパリを訪れていた観光客である。週明けの17日も無料となった。
 パリ市はかねてより市民の乗用車数減を積極的に進めている。今やすっかり有名となったベリブ(無料に近い市運営の貸し自転車)や、最近では電動カーのレンタルなど色々対策を重ねている。
 市内の展望やエッフェル塔に靄が懸かるのも春の霞と思って眺めていたが、実はスモッグと聞いて、ロマンチックな気分も吹き飛んでしまった。
 この規制に関して、在仏日本大使館からも協力するよう呼びかけがあり、規制延長との事。奇数日は車ナンバー奇数のみが通行可能となり、規制地域も広がっている。

 

 パンとショコラ、お菓子の祭典2014ユーロ・パンが3月8日から12日までパリ郊外パーク・ド・エクスポジション国際展示会場で開催された。日曜日は会場も混むだろうなと思いながらも出かけることに。レアール駅のホームに降りると待つ間もなく電車が到着する。シャルル・ド・ゴール空港一つ手前の駅で急行なら凡そ30分乗車の距離である。
 幸い乗った電車が急行で安心していたら、北駅からは空港までノン・ストップ。普段は急行でも目的駅で停車するが、日曜日はダイヤルが変更する事を知らなかった。結局、空港駅で降り、パリ行きに乗り換え目的駅に無事到着。同じように間違えた乗客が大勢いた。
 余談になるが、このラインの各駅停車は置き引きやスリが多いことで知られる。特に旅行者や展示会に来る人が狙われ被害も多く、注意を呼びかけている。

   

 2年ぶりの会場には大勢の人が集まっていた。殆どの人がパンやお菓子に携わるプロの方々、中で見かける学生風の人も将来プロを目指す若者たちが殆どだ。この展示会のメインは何と言っても、パンやケーキ製造に欠かせぬ機器類の新商品発売である。ヨーロッパ中のメーカが参加しているイベント、そのスケールも大きく見応えがある。
 大型パン製造機などは小型ビル並みの大きさがあり、素人目にはどのように運んで組み立てるか想像出来ない規模のものもある。説明者の前で大勢のビジターが熱心にメモを取っている。関心の深さに改めて感心した。
 その大型機械から次々に焼きたてのパンが出来上がってくる。どれだけの消費者が対象なのか解らないが、スーパーなどで消費されているパンの数を思えば、なるほどと納得できる。焼きあがったパンは試食が出来て、皆さんが味見をしている。遠慮なく頂いてみたが、熱々のパンは実に美味しかった。

 

 この分野には日本のメーカーRHEONも参加して、大勢の人を集めていた。大型機械の関心度も高いが、小さくても興味深い機器が沢山出展している。大量の卵を殻と身に瞬時に選り分ける機械などは目新しく興味を引く。既に似たような機械が在るかも知れないが、ケーキや卵焼きを大量に作る方には誠に便利な物の登場だ。インドネシアから来たという方が熱心に質問をしていた。

 

 ユーロ・パンに来る度思うことは、この業界に於ける機械化増加の傾向が顕著になる事だ。純粋に人の手だけでパンやケーキが作れなくなった現在、機械との関わりに人々はどのように対処していくのだろう。手作り、職人技、と言う言葉の意味を改めて吟味させられる思いだ。

 

 職人技と言えば、今回も色んな分野でその腕前を見ることが出来た。ショコラ、ケーキや飴細工分野でのデモンストレーションに若い人達の関心が高い。機械が幾ら発達してもそれを如何に生かすかは、結局人である。例えばベーグルを作る機械があり、その機械から出来上がる製品をそのまま売ることも出きるが、それに付加価値を付ければさらに商品価値が上がることは当然の理。その一環だが、出来上がったベーグルをフォアグラ・サンドにした物を頂いた。これが実に美味なのだ。

 

作り方は簡単だ。熱した鉄板にフォアグラを乗せ適当に焼き上げる。開いたベーグルも鉄板で内面を軽く焼き、薄くバターを塗ってその上にフォアグラを乗せ、更に薄く切ったピックルスを乗せてサンドイッチに仕上げる。フォアグラを焼くときソースを塗るが、このソースはシェフが作った物だそうだ。使うバターも普通の物より柔らかく仕上げているが、これもシェフのお手製。バターにしろソースにしろ、出来上がった物を機械で作ることは出来るが、その元を作るのは結局は人である。人と機械のコラボ、永遠のテーマだ。

   

 ユーロ・パンもうひとつの大きな柱は、パン、ケーキ、ショコラなどのインターナショナル.コンテストである。会場内に設えた数ヶ所の特設舞台で、部門別にコンテストが行われる。お祭りにふさわしく世界各国から代表が参加して腕を競った。この大会の製菓部門では日本代表が昨年、一昨年と二連覇している。各競技共に長い時間がかかるので、前回まではちょっと覗き雰囲気だけを味わっていた。今回は少し時間をかけて各国代表の仕事ぶりや審査員の審査風景、又は各国サポーターの反応ぶりを見る。

 

 日本代表に選ばれたのは佐藤裕子さんと山下貴広さんのお二人。注目度も高く、制作過程を見つめる審査員の視線も熱い。ちょっと意外だったのは各国代表審査員が若いという事、いずれも30代に見える方達である。こういったコンテストにも新しい風を入れて大会を盛り上げようとする主宰者側の熱意を感じる。大変良い事だと思う。競演者の作品完成度に於いては日本代表の作品が群を抜いて見えた。審査の結果は翌日発表との事で会場を離れる。パン、ショコラの大会会場にも大勢の観客が集まっていた。

 

 会場にはフランスを代表するパンや製菓の専門学校コルドン・ブルーやルノートルなども出展している。その数も結構多く、問い合わせをする外国からの若い人が、熱心に説明を聞いていた。中国人が多いのはご時世ということか。パン、製菓を問わずパリの専門学校に留学する中国からの留学生は他の国を圧している。

 

 帰りの電車は各駅停車の鈍行になった。空港からの乗客も多く満席状態、立ったままでの帰パリとなる。座席が取れたら本でも開らいてと思っていたが。パリまでは下車する人がいない。まったくの偶然だが、車内で佐藤さんのお母さんと話す機会に恵まれた。千葉から応援に来られたという。

 

 車窓に流れる景色は未だ灰色の固まりにしか見えないが、時々薄緑の新芽をつけた木々が風に揺れている。途中駅の構内に薄紅の桜もどきの花が咲いていた。


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