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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.181 クリスマス・ケーキ

 

 12月13日、今年2度目のブュッシュ・ド・ノエルをMarie Blachere(マリー・ブラシェール)で買った。マリー・ブラシェールは大型のブーランジェリーでフランス全土に展開している。2004年にベルナール・ブラシェールと娘のマリーが南仏サロン・ド・プロヴァンスに創業した。その後ベルギー、ルクセンブルク、ポルトガル、USAにも進出した人気のブーランジェリーである。ここモントローでは、全国展開をしている生鮮食品スーパーGrand Frais(グランフレ)に併設されていて、両店の相乗効果もあり、たちまち人気店となる。
 11月も中盤に入りモントローでも商店街や大通りでクリスマス・イルミネーションが点灯された。それから2週間経った今、クリスマスや歳末気分を盛り上げている。その流れでスーパー・マーケットや各種商店で今年最後の商戦が始まった。
 昼間はさほど目立たないイルミネーションだが、夜になると通りの姿が一変して街に華やぎを添える。クリスマス飾りとはこんなにも美しかったのか、一軒一軒の店がまるで豹変したかのように輝き、道行く人の気分を高揚させている。

 今年初めてのブュッシュ・ド・ノエルは大型スーパー、ルクレールのものであった。全店そうだがスイーツ関連コーナーも普段以上の商品が並び、飾りも派手になる。見ていてつい手を出してしまうほど食欲と購買欲をそそる。クリスマスケーキには少し早いかな、と思いながらもブュッシュ・ド・ノエルを1個取り上げた。夕食のデザートにいただいたが、結果は作り手の方には申し訳ないが「やっぱりな」の一言である。
 やっぱりな、という理由のひとつにスポンジとクリームがうまく繋がらずロールに隙間ができている。作ってから日数が経ち過ぎたのか。昨日今日に作られた物とは思えない味気無さだ。恐らく2、3日前に、いやもっと前に作られたものと思われる。スポンジも既に乾燥気味で、しっとり感、潤いが足りない。改めて物と時、タイミングの大切さを思った。
 その後、日を改めて買ったのが2度目のブュッシュ・ド・ノエルで、店はマリー・ブラシェールである。これは当たりであった。ルクレールで買ったのはショコラ風味であったが、マリー・ブラシェールのそれはクリームにマロンを使っている。好き嫌いはあると思うがマロンクリームは高級感を演出するに欠かせない素材のひとつと言える。という事でその夜のデザートはいたく満足し、美味しくいただいた。

 クリスマス・デコレーションと言えばやはりパリである。という事でパリへと出かけた。いつもは電車を利用してのパリ行きだが、息子がパリに行くというので彼の車に同乗した。電車だとおよそ1時間、車だと1時間20分のパリ・モントロー間である。
 この日の高速道路は大渋滞で、パリを目前にしてノロノロ運転となる。どうしようもない時間を費やし、当初の予定を1時間超過している。家を出たのが11時半、お昼は中華街での予定である。食後は別行動に決めていた。
 遅めの昼食を終え、一人でメトロ・ショアジー駅に向かう。レストランから5分足らずの距離だが、この駅を利用するのは初めてである。メトロ7号線に乗りChaussee d’Antin(ショセダンタン)で下車した。地下通路を使ってギャラリー・ラファイエットに出る。エスカレーターで上がりメインホールのクリスマス飾りを見た。
 このデパートのクリスマス飾りはパリの冬の風物詩代表のひとつだ。長年パリっ子達が見続けた歴史行事でもある。赤で統一したメインホールの巨大ツリーは高さ16mもあり、華やかでいつもの年より派手な演出である。見事な出来栄えで見物客の注目を集めている。という事でカメラを構えてぱちりと1枚。どうにか無事に収まった。
 館内それぞれのデコレーションも相変わらず見事で消費意欲をそそる。各有名ブランドのコーナーでは中国や、アラブの金持ち客が次々と商品を購入していた。ここに来るといつも思うが、ここはある意味世間とは別の世界で、不況知らずのフィーバー振りである。
 一部に中国不況を唱える人が居る日本だが、少なくともここパリでは中国人観光客は最大のお客さんである。各デパートの中国人スタッフ雇用状況を見れば明らかで、その同胞への対応ぶりは明らかに特異なものだ。
 同じ高級客でもアラブ系への対応はフランス人スタッフの役割であるらしい。館内で働くアラブ系スタッフの少なさを見るにつけ、お国ぶりの違いが垣間見える。そんなことを思いながら館外へと出る。

 オスマン通りを挟んだ食品館前に長い行列ができていた。スタッフの若い男性が入館者規制をしながら、館内へと誘導している。並ぶのも面倒だったので別口から入館した。この食品館への出入り口は、実は3カ所あり、2カ所は並ぶことなく通過できる。
 入館してすぐにイートインのある場所へ向かった。空席を探して着席する。棚に並ぶ飲み物や軽食類はセルフで選び、それを持ってレジで精算して再び席に戻る。回りは外国からのお客で大賑わい。しばらく休んで館内巡りへと移行した。
 このフロアにはフランスを代表するパティスリーやブーランジェリー、さらに有名惣菜店のスタンドが数多く参加している。参加というより選ばれて参入という方が正しいか。今フランスで人気の、話題の有名店を見るには見逃せないフロアである。という事でスイーツ・ファンにここはある意味聖地で、世界中の甘党が訪れている。
 最初に見たスタンドはLaduree(ラデュレ)で、マカロン発祥の店と言われるように各種マカロンが品良く展示されている。それらの中に今フランスで人気のアメリカン・マフィンも当然のように飾ってある。
 このアメリカン・マフィンはフランスの様々なパティスリーやブーランジェリーでもにわかに作られるようになった流行り菓子だが、何故そうなったのか理由は不明である。

 続いて見たのがイタリアのクリスマス菓子、パネットーネで有名なMorandin(モランディン)のスタンドである。食品館でのイタリアンはまずはパネットーネの紹介から始まるのが毎年の恒例である。昨年はこのスタンド横に生ハムやイタリア惣菜を売る店があった様な気がする。今年は気付かないままに通り過ぎたようだ。
 私の住むモントローでも毎年クリスマス市が開催される。モントローにどれだけのイタリア系住民がいるのか解らないが、この市でも必ずパネットーネと生ハム、イタリアン・チーズを売るスタンドが登場して、結構売れている。まだ行ったことはないが、わが家の近所にあるイタリアン・レストランではクリスマス特別デザートとしてパネットーネを提供すると聞く。

 次のスタンドはショコラの老舗として知られるLouis Fouquet(ルイ・フーケ)である。松ぼっくり型のショコラを使い品よくディスプレイしている。松ぼっくりは今やクリスマス・ツリーに欠かせない定番の飾りだ。他のスタンドなどでも見かけるが、ショコラとして登場させたこのルイ・フーケ店のものが一番お洒落に見える。
 ずっしりと本格派とも言えるAlain Ducasse(アラン・デュカス)のスタンド前には大勢の客が集まっている。何しろディスプレイが上手いのだ。いかにもフランス的、あるいはパリ風と呼ばれるのか、飾りにある種の風格がある。見とれていたせいか、物欲しそうに見られたのかスタッフの若い男性に一粒のプラリーネをいただいた。口に入れるとえも言えぬ風味で、しばらく口中に余韻を残すほどのものだった。

 ひょっとして、いま食品館バイヤーが一番注目しているパリのパティシエはVincent Salur(ヴァンサン・サルール)ではないだろうか。そんな思いがするほどの扱いである。今年もフロアメインに彼のスタンドを設置した。何しろ商品作りの発想が面白い。絵画で言えばモダン・アートである。伝統的な菓子作りにある種の改革を提案している様なスイーツが並ぶ。
 その他のスタンドを見ながら押されるように館外へと向かう。普段は閉じられたままの扉が今日は開いて大勢の客とともに通りに出た。冬の日は既に落ち、目の前にラファイエット本館のイルミネーションが美しく輝いている。
 96番のバスに乗りオペラ通りをピラミッドへと向かう。途中下車してオペラ座の巨大シャネルのポスターをカメラに収める予定は中止した。車窓に映るオペラ通り各商店街のクリスマス飾りが美しい。バスを降りてメトロ駅まで歩く。この時間を逸するとメトロも郊外線も混雑間違いなし、と急いで14番線リオン駅行ホームに駆け込んだ。

 今回の食品館訪問の一番の目的はクリスマス・ケーキで、中でもブュッシュ・ド・ノエルを各メゾンがどの様に作り上げているのか知りたかった。それを見るのが楽しみで出かけたが、結果は少し早すぎて後悔した。どのメゾンもプレゼント商品は作っているが、スタッフによると本命が数多く登場するのはやはりクリスマス前の数日であるらしい。
 そんな中でピエール・エルメのブュッシュ・ド・ノエルは巨匠の評価、貫禄に相応しい出来栄えである。最近マカロンだけが注目されるエルメ店だが、本命のガトー作りも健在である。

 わが家イヴの食卓に並んだのはいわゆる洋風料理であった。デザートは再びマリー・ブラシェールの作り立てブュッシュ・ド・ノエルで、申し分ない仕上がりである。この夜の飲み物はシャンパンならぬロワール産のスパークリング・ワインで、ここ数年イヴに飲み続けている。好みに合うというか、とにかく旨い発砲ワインである。
 数年前、息子がロワールにある友人の別荘に招かれ、その家の近くにあるワイナリーで購入したもので、それ以来箱買いをしている。少量生産との事だが、上品な仕上げでとにかく喉越しが良い。
 シャンパンやスパークリングワインとスイーツがうまく合うと、大げさにいうと至福の時を過ごすことができる。という事で今年のイヴも楽しく過ごすことができた。

 このレポートでも紹介している大型生鮮食品で人気のグラン・フレがアメリカの投資会社に買収されたとテレビ・ニュースで報じている。アジア食品なども数多く揃えたスーパーだが、今後どの様に運営されるのか気になる。できる事なら現在通りの品揃え、価格設定を続けて欲しいものだ。

 


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