2025年10月10日
Vol.178 フランス・エトセトラ
総じて言えば、今年の夏は涼しかった。いかにもフランスらしい乾いた季節である。地方によっては何日かの猛暑日や豪雨日があったが、ニュースで見る日本の夏とは正反対であったと言える。ただ各地で干ばつが起こり、農家泣かせの日が今も続いている。
干ばつの被害は市民生活に直接影響する。例えば夏野菜である。朝市やスーパーの野菜コーナーからサラダ菜やトマト、キュウリなどの出荷が極端に減ってきた。フランス人家庭の食卓に欠かせない夏の必需品で、サラダにも不可欠の野菜群である。偶に見かける白菜(シューシノア)も今夏は一切見えなくなった。
トマトなどは輸入品頼りになっている。朝市にしろスーパーにしろお客のほとんどは庶民層である。安くて新鮮な商品を探して買う人々だ。国産品に比べ輸入品は安い。主な生産地はスペイン、ポルトガル、さらに北アフリカのモロッコやアルジェリアなどの国々である。最近はセネガルなども輸出量を増やしている。9月も後半に入りスーパーの野菜コーナーや朝市の野菜果物スタンドに商品が増えてきた。とは言え価格は高騰したままの状態である。フランスの不況は先が見えない。
今日は9月23日。暦では秋分の日、彼岸の入りである。日本ならおはぎを買う今日の日、と思いながら向かったのは大型スーパーのルクレールだ。特別目的がある訳でもないが、先日息子が買ったポルトガル・ケーキが美味しかったのでもう一度伺った。先週、ここではポルトガル・フェアがあり賑わったそうだ。
残念ながらフェアは終わり、目的のケーキは買えなかった。その代りにケーキ・コーナーで小規模ながら地方銘菓展を開催している。ボルドーのクネル、ブルターニュのブロウニューなど並ぶ中からBrownieとCaneleを選ぶ。
銘菓展は小規模だが次のイベントとして準備しているのがワイン・フェアである。こちらはかなりの大掛かりで、広い会場を確保して準備中である。ここ数年ワイン販売が低迷しているフランスだが、ここに来て国内大手のスーパーで一斉にワイン・フェアを開催始めた。若者のワイン離れに加えてアメリカの税関問題にワイン農家が苦慮しているため、ワイン復興に懸命に対応している。
ルクレールでの買い物を終え、次に向かったのがポルトガル物産を販売するリュサ・テロワールに行く。かねてより気になっていた店だが、初めての訪れである。ポルトガル食品やワインの品揃えも豊富で、少数ながらスイーツ・コーナーもある。私のようなポルトガル・ファンには貴重な店だ。
数ある冷凍食品の中からタコを買う。フランスの魚屋でもタコはよく見かけるが、国内で獲れる物は値段が高く、セネガルなどのアフリカ産が多い。モントローの魚屋でも時々売っているが鮮度がいまいちで買い控えていた。
今回は買わなかったが大振りの冷凍イワシもある。フランスでイワシと言えば日本でも多いマイワシやカタクチイワシ。これらはよく見かけるが、ウルメイワシはほとんどない。それがここにはある。次回の訪れが楽しみになった。
Angeはモントローで一番新しくできたブーランジェリーで、今人気の店である。パティスリーに力を入れており、最近良くお世話になる店である。ここで作るタルト・プラリネはパリのどのパティスリーでも見かけなかったもの。ピンクの色合いとともに甘みの調整が実に見事な一品である。ここではタルト3種とクロワッサンを買う。シェフはまだ若いムッシュとの事で、機会があったら一度お会いしたいと思っている。モントローのパティスリー作り手としては一番期待される楽しみな店、シェフだ。
クロワッサンと言えば運河の町モレ・シュール・ロワンで貴重な店を発見した。極ごく最近の事である。この町については以前レポートで紹介した記憶がある。印象派の画家シスレーがパリから移り住んでここの風景を描き続けた美しい町で、世界中のシスレー・ファンが今も訪れる。
その昔、この街にある修道院の尼さんが作ったというシュクレ・ドルジュはフランス歴代王家に献上されていたと言われる銘菓である。そのレシピは長い間密封されていたそうだ。スイーツ愛好家の間では一度は食してみたいと言われる名品であるらしい。現在、この街の教会前にあるパティスリーで当時と同じレシピで作られている。
その近くにあるブーランジェリーのクロワッサンが実に美味で、フォンテーヌブローからわざわざ買いに来る人もいるという人気のパンである。良質なバターを使い焼きの具合が絶妙で歯触りが心地よい仕上がりである。クロワッサン好きの私には実に貴重な店との出会いとなった。
秋というより冬の装いのパリジャンが急に増えたパリの街である。9月でこの寒さは40年振りと気象庁が報じている。Tシャツ1枚の日常から厚手の長袖に替えて先日パリに出かけた。相変わらずの観光客で賑わうサンジェルマンやシャトレ界隈を巡り、オペラ界隈を歩く。
その昔、パリの観光客と言えばまずはシャンゼリゼ大通りであった。今も変わりはないが大通りだけに見た目は意外と静かだ。
今パリで観光客が一番多く集まるのはオペラ界隈であるそうだ。知り合いのガイドの話である。その中心になるのがギャラリー・ラファイエットで、今回もその食品館を覗いてみた。食欲の秋という季節に相応しい秋の味覚が揃っている。
中でも一番目に付くのが色鮮やかな秋の果物類だ。市場などでも果物を並べる棚が増え始めたが、さすがと言えるのがここ食品館果物野菜コーナーのディスプレイの巧みさである。国内品はもちろん、広く海外から取り寄せた珍味、珍品の品揃えは見事である。
デーツ(ナツメヤシ)などは、スーパーや市場でもよく見かける果物で見た目も地味で影の存在である。その上質デーツをイスラエルから取り寄せ、生・乾燥品を対象に揃え、主役の座を与えている。
贅沢なランチが楽しめるイートイン ・コーナーには麺類を中心とした中華スタンドもある。オープン・キッチンで次々と作られる各種麺類と、その前に腰掛ける中華本土、台湾、東南アジアから訪れた観光客がいる。カウンターの横には順番待ちの人が並んでいる。
有名ブランドが並ぶスイーツ・コーナーの賑わいは相変わらずだが、9月のパリは食に関する祭事が少ないせいか、普段の月に比べると幾らか客数も少なく感じる。いつもの様に出店コーナーや棚のパッケージをチェック。高級品メーカーの出店が多い食品館のコーナーでは、商品パッケージのデザインも大型スーパーなどに比べ上品、豪華に纏まった物が多い。相対的にはクラシックな印象を受ける。
そんな中で有名どころ、ピエル・エルメのマカロン、アランデュカス、ピエール・マルコリーニのショコラをお土産に買う観光客が多く集まっていた。
スイーツ・コーナーの奥にあるイートイン・コーナーの充実ぶりは特筆ものである。設えのケースに並ぶ各スイーツ(各種パンやサラダ類もあった)を選び、レジに運んで支払い、フロアに並ぶテーブル席でいただく。商品が少なくなると、スタッフが絶え間なく補充する。完全セルフ・サービスのシステムである。贅沢なサービスを優先する高級デパートの演出としては目新しい。食後の紙や、ゴミ処理も客自らが行っていた。