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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.132 パリの街を歩く

 早いものでバカンスが終わりひと月が過ぎてしまった。秋の入りに合わせるようにパリの街に活気がみなぎっている。少々オーバーな表現に見えそうだが、長かったコロナと言うトンネルを抜け、終着点が見えそうなのも、決して夢物語ではない。実際観光客も戻っている。こうで無くては、思わずそんな言葉が出てしまう。

 1年以上沈黙した状態の各種業態であったが、満を持した様に活動開始。各種施設で色んなイベントが行われている。先鞭を切ったのはファッション関連の業界である。パリを代表する業界イベントのひとつパリコレ(パリ・ファッション・ウィーク)が9月28日に開催10月6日まで各種ファッション・ショーや展示会が行われている。

 パリコレが始まるとパリの街の華やぎが一層鮮やかになる。世界中から集まる妖精のような若いモデル達がコレクション会場やオーディションの場へと飛び交い、まるで蝶々が舞う様に街に彩を添える。今では季節の風物詩ともなっている街の光景だ。

 しばらく途絶えていただけに、この華やかな光景にさらに新味が加わって見えるから不思議である。今が正にその季節なのだ。

 

 時間はお昼時、久しぶりにお寿司でもと思ってふじたに向かう。ここの寿司定食は17ユーロ、枝豆、味噌汁が付く。パリの日本食レストランでは老舗になる。創業1979年頃の記憶がある。創業者が亡くなり、後を継いだのが今の経営陣、スリランカ人と日本人の二人の板前、さらにフランス人の経理と3人での経営と聞いている。

 パリの日本レストラン、お昼定食の相場は17~20ユーロと言ったところだが、人気と言えばこのふじたはトップクラスとなる。お負けに鮪、とろ身の部分を惜しみなく握ってくれるのが良い。高級寿司と言われる所は昼定食でも30ユーロは取られる。

 店は12時オープンで14時オーダーストップが多い。客のピークは13時から、ふじたも同様でこのピーク時には毎日行列が出来る。この日も行列が出来ていたので、近くのラーメン店に行って見たがここでも行列が出来ている。

 そんな事で結局ブーランジェリーでクロワッサンを買う事にした。オペラ通りから横へと入るプチ・シャンと言う名の通りにブーランジェリー・ジョセフがある。随分前だがこの店がオープンした当時、このレポートで紹介した事がある店だ。パティスリーでもあり品揃えも豊富で味も良い。中でもここのクロワッサンが結構いける。

 まずはサイズの大きさ、数多くあるパリのブーランジェリーでも大きさではトップ・クラス入りだろう。大きさだけで無く、味の良さでも他の店にひけをとらない。

 店内にイートインがあるので、そこで頂く事にした。残念なのはこの日もセドリック・グロレのクロワッサンが食べられなかった事である。

 

 お昼をクロワッサンで済ませた後、日本風のパンを売る事でパリジャンにも人気の「aki」に寄る。ここの一番人気と言えば何んといっても食パン、パン・ド・ミ(pain de mie)。ビオの粉に天然酵母を使いソフトに焼き上げ、満足出来る仕上がりである。

 パン・ド・ミはどちらかと言えばフランスではパンの傍流、提供する店も少ない。年に一度、クリスマスの時提供する店もあるが、フォアグラを食べるための添え物的な役割、サイズも日本の食パンに比べ小ぶりである。

 ちなみにモントローではほとんど見かけない。サンドイッチなども粗びき粉を使ったパンを使う店が多い。フランス人にはいかがやらあの柔らかい食感が合わないのでは、と思ったりしている。日本人の私からは何とももったいない嗜好に思えてしまうのだが。

 という事でakiに行けば必ずと言って良いほど食パンを買う。と同時にアンパンも。akiは現在、オペラ界隈に3店舗のスイーツ関連の店を営むが、中の1軒は日本風のカフェ(喫茶)コーナーを設えている。ここで日本食(主に弁当)やスイーツを食べるパリジェンヌが増えて来た。日本風スイーツとフレンチ・テイストのマリアージュがaki成功の鍵であるようだ。

 この日、偶然に店長と話す機会があった。色々と話す中で気になったのは材料費の高騰と言う。コロナが終結した訳では無いが、バカンス以降特に小麦粉が値上がりしていると言う。パン作りにも影響し始めているそうだ。

 akiが今主力商品として力を入れているのが餅(大福)作りとの事、それに使う餡用の小豆、粉などは日本から輸入しているそうだ。コンテナでの輸送だそうだが、ひとコンテナ8千数百ドルの送料であったのが、現在2万ドル以上になっていると言う。

 現在、パン、スイーツ部門で働く人が45人、レストラン部門を入れると70人の従業員がいるそうだ。レストラン部門にはラーメン店、韓国料理店などもある。

 パリの飲食業界には何組かの日系経営グループがあるが、akiグループもそのひとつ、今では大手といわれている。

 この日、残念ながら食パンは売り切れで購入できなかった。何時もの様にどら焼きとアンパンを買い、食パンは次の機会にまわした。それにしても良く売れる店である。

 

 

フェット・ドュ・パン FETE DU PAIN 

 ノートルダム大聖堂前の広場でBoulanger de France主催のパン祭りを開催中と言うので出かけてみた。このお祭り、実は第1回開催の折、このレポートで紹介したと思っている。記憶が定かでないが、第1回の開催は、パリとイル・ド・フランス、ブーランジェリー組合の主催であったと思う。

 秋晴れの一日、ノートルダム大聖堂を一目見ようと観光客が集まっていた。残念ながら大聖堂火災で未だ工事中。広場中央ほどに高い壁が設置され、聖堂には近づけない。この壁の手前に大型テント会場が設えられパン祭りが開催中だった。

 パン祭り見物の人、大聖堂見物の人達が混じり合って会場には思ったより多くの人が集まっている。コロナ感染者が減少中とは言え、ある種の不安は皆さん持ち合わせており、見物客は少ないと思っていたがその思惑は見事に覆された。

 主催者側の思いも同じと思え、今回は会場が以前に比べ縮小されている。第1回開催の時は大型テントが2棟張られ、室内設備も今回よりさらに大規模であった。参加スタッフも同様パリとイル・ド・フランスの全ブーランジェリーが何がしかの形で参加していたように記憶している。

 今回のパン祭りは10月2日から10日までの9日間開催された。会場では毎日、パン職人によるパン作りのデモンストレーションが行われている。生地作りから型造り、焼き上りに至る工程が目の前で具に見られる興味深い時間を体験できる。一方では各種パンのコンテストも行われる。

 焼き上がった各種パンは特設のコ―ナに運ばれ、入場者見物客に販売される。焼き上がり直後の香り豊かなパンを味わおうと、この日も多くの客が集まっていた。場所柄か外国からの人が多い。

 クロワッサン1,3、ショソン・オ・ポム2,5、パン・オ・ショコラ1,5、パン・オ・レザン2,0、各種サンドイッチ5ユーロの設定。市販の値段とほぼ同じである。

 

 

 このお祭りのハイライトはバケット・コンテスト。この日も沢山のバケットが焼き上がり、審査コーナーに集められていた。この後審査員によるコンテストが行われる。結果を待っていたが、発表にはまだまだ時間がかかると言う事で、結果を待たず会場を辞する事にした。

 ちなみに、バケットの写真は審査会場への出入りが出来ないので、会場に居たスタッフの方に撮って貰ったものである。作り手によって出来上がりの違いが面白い。

 

 会場での各種デモンストレーションはベテランシェフの元、若手ブーランジェが指導を受けながら実演している。手伝う女性が多いのが興味深かった。実は、ブーランジェになる若手がどんどん少なくなっていると言う。

 ご存じの様にブーランジェの仕事は朝が早い。個人企業が多いので寮などがあるのはまれな事、男性はともかく若い女性などは人通りの少ない早朝の通いは危険も伴う。楽な仕事へとシフトする人が増えるのは当然の事と捉え、業界でも悩みの種となっているそうだ。

 先にも触れたが、小麦粉、バター、砂糖などに値上がりはこの業界に直接の影響が出ていると組合で認識し、一部商品の値上げを検討しているそうだ。そんな業界に人手不足はさらなる痛手となる。

 今日のテレビニュースによると、サンドイッチ業界では凡そ4%の値上げを決定したと言う。パンが主食のフランスでこの様な値上げは、他の食品業界に連動すると市民に不安が広がっているとも報じていた。

 

 フランス企業にはスタージュ(研修見習い)と言われる制度がある。この制度は企業入社を希望する人を会社側は3カ月間無給で雇う事が出来る。この3カ月の間に様子を見る訳で、今まで色々と問題視されていた。政府は長期失業者が別業種に着くためのスタージュに対してひとり千ユーロのボーナスを払うと決定した。

 コロナ問題が発生して、多くの在仏日本人が帰国したと言われる。そんな中にはワーホリでフランス各地で(パリが一番多いと言われるが)、スタージュで働いていた人達もいる。中には三カ月のスタージュを繰り返していた人も多いと聞く。

 ワーホリは基本、労働が可能な制度だが、あくまでも雇用先があっての事、実際はその業種の経験はあっても、言葉の問題などすんなりと雇用がなされる訳ではない。結果、自己キャリアを付けるため、やもう得ず無給で働いている人が多いと言われる。

 

 お祭り会場を後にする前、パン売り場の列に並ぶ。後ろに若い日本人夫婦が居て立ち話。テレビニュースを見て来てみたそうだ。来てみた結果は大変興味深かったそうだ。

 クロワッサン、ショソン・オ・パン、パン・オ・ショコラを2個ずつ買って持ち帰り。本命のバケットはサカードからはみ出すので諦める事にした。

 


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