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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.131 久しぶりの会食

 「寿司マルシェの予約が取れました」のメールが届いた。9月4日、時間12時半、住所20 rue Mirabeau 75016 paris。8月、コロナのためお流れとなった食事会がようやく実現。楽しみにしていますとある。久しぶりの日本食レストランでの食事会。連絡を頂いたのは前田京子さん。長い間エア・フランスのCAをされていたが、この夏、希望退職を募る会社の方針に応募して早期退職をされた由。

 木野さんも出席したいと言う事、お会いするのも久しぶりですとある。木野さんは、パリの日本レストラン板前職の最長老、1971年パリの日本食レストランに就職、パリ滞在50年、その間一時帰国されたが、再びパリに戻られ日本レストランで長年板前職を続けておられる。今年の夏、仕事中に持病の心臓病で倒れ入院中と聞いたが、無事退院されたのでお誘いしましたとある。

 寿司マルシェは16区「ミラボー橋下をセーヌ川が流れる そして我らの愛も」で有名なアポリネールの詩ミラボー橋に近い。ホームページによると、オーナーシェフ八木さんは宮城県の出身、2000年同じ16区にレストラン「寿司グルメ」を。2008年に2軒目「寿司マルシェ」オープンとある。寿司マルシェは私にとって初めての店、八木さんにもお目に掛かった事がない。

 夏のバカンスが終わったパリはようやく本来のパリに戻ったようなにぎわいになっている。街にはバカンス焼けした人々があふれ、それに合わせるように商店街も店を開き始めた。

 カフェのテラスもほぼ満席。週末の一日、日射しはまだ強く、輝く様に明るい。秋へと向かう時間を惜しむかのように人々はワインやビールを楽しんでいる。これが本来のパリの姿、こうでなくてはと改めて思う。

 

 訪れた寿司マルシェにはお二人が既に到着されていた。凡そ2年振りの顔合わせ、元気そうな二人になぜかホッとした。土曜日の昼食時、店は既に満席、場所柄か家族連れが多い。そのおおかたはフランス人家族である。サービス係の客との対話を見ていると、皆さん常連風に見える。

 挨拶をしていると若いギャルソンが早速衛生パスポート検査にきた。衛生パスポートとは、コロナワクチン接種を終えていると言う政府発行の証明書。実際は地方地自体で発行しているが,政府の方針にもとずいて発行している。

 2回目の接種を終えた私も持参している。極々簡単に説明するとカフェやレストラン、各種商業施設や娯楽施設に入る場合、この証明書を施設や店側に見せる必要がある制度。店や施設側ではそれを見たと言う確認を証拠として残す事が義務付けされている。

 このパスポートは、紙による印刷かスマートフォンに登録するかふたつの方法でなされ、検査する側はスマートフォンを用いて行う。と言う事でこのパスポートを見せないとカフェにもレストランにも入店できない。

 違反者には135ユーロの罰金が科せられる。施設側による確認怠慢は一時的な業務停止命令の対象となり、再発が確認された場合には、懲役1年と9,000ユーロの罰金が科される。 未だにスマートフォンを上手く使いこなせない私は外出の際は紙とスマートフォン両方を持って出かけている。

 検査を終えたので早速注文。私は寿司定食21ユーロを、木野さんは鉄火丼22ユーロ、前田さんは寿司ロワイヤル(上寿司)27ユーロをお願いする。出来た料理が運ばれた。それぞれにキャベツ・サラダ、味噌汁が付いている。

 近況報告を兼ねた会話をしながら食事も終わったのでデザートは他の店でと、会計を済ませて店を出る。タクシーで移動して、木野さんのアパートに近いレストラン・アエロ・パリ・パッシーでお茶をする事にした。ここは木野さん行きつけの店でデザートも美味しいと言う事である。

 夏のバカンスも終わり、しかも土曜日の午後と言う事もあり満席だったが、幸いテラス席に座れた。ここでも衛生パスポートの検査、ギャルソンがスマートフォンを持って忙しそうに各席を回っている。

 ようやく順番が回って来てエスプレッソとそれぞれにデザートを注文。メニューを見ながら私はタルト・タタンにする。しばらく待って注文のパティスリーが届いた。

 最近、パリのレストランではデザート用のケーキをパティスリーから仕入れて客に提供する所が増えていると聞く。専用のパティシエを雇うより経済的と言う事らしい。提供する側も店で売る商品に少し趣向を加えて卸すそうだ。

 アエロ・パリ・パッシーのタルト・タタンは普通の店売りのそれより30%増しと思えるほど、ボリューム満点のサイズである。使われたリンゴもタルトに合うものを厳選していると言う。味も申し分なかった。

 気がついたら2時間以上も話し込んだようだ。そろそろと言っている間に突然の雨、しかもパリでは珍しい雨の量、大勢の人達が雨宿りで店に駆け込んでくる。出るに出られず席に留まることに。ようやく雨が止み解散となったのは夕方近く。久しぶりのおしゃべり時間が終わった。偶にはこんな時間も必要だなと思いながら家路へと向かった。

 

 メトロに乗ると、今日のデモに参加したと思しき人達が乗り込んでくる。皆さん高揚の感じだが、中には疲れ果てたといった表情の顔も見える。今パリでは毎週土曜日になると各所で衛生パスポート義務に対する反対デモが開催されている。

 週を追うごとにデモ参加者は増え続けており、所によっては建物破壊など過激な行為が多発している。中には子供連れの人もいる。フランスは自由の国とは言え、子供の自由はいかがだろうとふと思った。

 

両雄並び立つ

 ピエール・エルメが積極的店舗展開をして、パリのスイーツ界をけん引しているのは既に皆さんご存知の事である。オペラ通りに店が出来て早いものでもう10年は経っただろうか。ここに店が出来て一番喜んだのは、世界中から集まる観光客と言われていた。

 オペラ通りと言えば、ルーヴル美術館からオペラ座までと続く、言わば観光客のメッカ的存在である。コロナ発生で観光客激減のパリでも、人数は減ったとは言え観光客が多い通りだ。

 オペラ座を中心にしたこの界隈は、ギャラリー・ラファイエット、プランタンのデパートを抱えるパリ最大級商業エリアのひとつである。そんな中、ギャラリー・ラファイエット食品館はフランスを代表する食品作り手が集合している事で知られる。そんな中にピエール・エルメもコーナーを持ち日々数多くの客を集めている。 

 その彼がさほど離れていないオペラ通りに独立した店を作った時は話題となり、各種メディアも競って取り上げた。今を時めくピエール・エルメの新店、世界各国からの観光客がパリ土産のひとつとして注目、買い求めた。

 マカロン・ド・パリが主力商品だが、味の品種(バラエティー)の多さは流石で、その詰め合わせが好評、売れに売れたと言われる。夏場は店頭でアイスのワゴン販売もしているが、今でも売り上げ大半を占めるのはこのマカロンだそうだ。

 ピエール・エルメの多店舗展開の良し悪しは別として、その積極的展開には業界人も改めて注目をしていると言う。パリのパティスリー界に新しいスターが誕生しない今、市場を守っているのはベテランと言われるパティシエ達。彼らに頼る以外ないのかも知れない。

 コロナであらゆる価値が変っていく中、今こそ新しい作り手にはチャンスと思われるのだが。それにはもう少しの時間がかかるのかも知れない。消えていった店も多いが、一方では業種こそ違えパリの街には新しい店が色々と登場し始めている。

 

 そのオペラ通りに今パリで一番人気のあるパティシエ、セドリック・グロレが昨年11月(確か)新しい店をオープンした。オープン日の様子はテレビ・ニュースでも放映。どこでどの様に知ったのか、大勢の客が押し掛けた。長蛇の列に並ぶ人や途中で諦めて列を離れる人の様子は、彼の人気ぶりを改めて世に知らしめた。

 2011年、パリの最高級ホテルのひとつル・ムーリスはパティスリー部門に新しいシェフを迎えた。若きセドリック・グロレである。フランスの各メディを招いてのお披露目があったが、当日はロンドンからのメディアも取材に訪れた。

 取材陣の前に現れたセドリックは当時26歳、はにかみ屋の好青年。この歳でグラン・ホテルのシェフ・パティシエかと驚かせたものである。会見の後、振舞われた各種パティスリーも多くの賞賛を得ていた。報道陣の間を挨拶しながら回る姿も印象的、好意を持ってのデビューだった。

 それからの活躍ぶりは各種メディアで取り上げられ、今では世界一のパティシエと評されている。チュルリー公園からバンドーム広場へと続くカスティリオーネ通りに最初のブティックを2018年にオープンして新規ビジネスを始める。持ち帰り専門の店で、たちまち人気店に。リンゴ、オレンジ、レモン、パッション・フルーツなど実物の果物と見紛うケーキは意表をつき話題となる。それまでル・ムーリスでしか食べられなかった彼のスイーツが、持ち帰りで食べられるようになった事でスイーツ好きのパリっ子が我先にと店に押し掛けた。

 そしてオペラ通りのブティック、オープンである。ここではスイーツ類だけでなく各種パンまで販売するようになる。2階にサロンド・テも併設、朝食からお昼の軽食までと幅広くセドリックの世界を堪能出来るようだ。開店以来毎日行列が出来ている。

 この新しいブティックはル・ムーリスとは関わりなく、セドリック個人のプランと言われている。今後どの様に発展、展開していくかはわからないが、フォション時代海外駐留経験もあると聞くので、海外市場進出は間違いなくあるだろう。

 

 バカンス終わり前の先日、オペラ通りを歩いた序でにセドリック・グロレの店を覗いて見た。バカンス客も少ない今なら2階でのティータイムが出来るのでは、の思惑であったが見事に当てが外れ長い行列が出来ている。

 お負けに衛生パスポートのコントロールもあり、列に並んでも一向に前に進まない。しばらく待ってみたが、結局諦めて列を離れた。次の機会にと2階を見上げると窓際の席で寛ぐマダム達が楽しそうに談笑している。

 昨日10日午後、改めてセドリックの店を覗いて見た。道路からガラス越しに見える作業場で、若いパティシエが果物を使ったケーキを作っている。カメラを向けると撮りやすいように体の位置を少し変えてくれた。

 客を送り出した女性スタッフが「どうぞ」と声を掛けてくれたので、焼き上がったパンを2個注文。名前を聞いて覚えたつもりが、家に帰った時にはすぽっと記憶が抜けている。「イタリアのフォカッチァ」と言ったような。イタリアの部分だけは憶えている。1個3ユーロ、6ユーロを払ったら立派な紙袋に入れてくれた。

 中の写真を撮りたいとお願いしたら、次のお客さんにちょっと待ってもらうのでその間に撮って下さい、との返事。急いでカメラに納めたのが、パティシエとケーキ、店内の写真である。今日のスタッフの親切に改めて感謝である。

 セドリックのパティスリーは今まで何回か食した。今食べてみたいと思うのは彼が作るクロワッサン、これには興味がある。報告出来る事を楽しみにしているところです。ちなみにセドリックの新店はピエール・エルメ店の2軒隣、フランスいや世界のトップ・パティシエの店が並立するパリのオペラ通りである。

 


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