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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.176 サンドイッチ・ブーム

 

 夏のバカンス真っ最中のフランスである。パリも盛り場以外の地域は観光客も少なく閑散としている。商店街の各種ブティックは恒例の夏のソルドに入っているが、聞くところによると売れ行きはいまいちであるらしい。
 市民がバカンス地へ出かける夏場であれば当然と言えば当然である。諸物価値上がりで市民の購買意欲も減少し、ソルドの割引数値は日を重ねるごとに上昇しているが、それでも在庫処理に苦労しているとテレビのインタビューに答えるブティック・オーナー達、その苦渋の表情が気の毒である。
 そんなパリだが観光客数は減らないそうだ。実際、観光地の代表のひとつともいえるオペラ座界隈のカフェなどは観光客があふれる感じ、席待ちの人が多い。ノートルダム大聖堂界隈も人ひと人、パリ観光名物のセーヌ河クルージングも大盛況であるらしい。世界中から訪れる観光客だが、異常ともいえる物価高、特にホテル代の高騰に懸念の声が高まっているそうだ。今シーズンは客とホテル側とのトラブルも多いと聞く。

 

 パリを訪れる人たちの楽しみのひとつにグルメ探訪は欠かせぬ要素だが、バカンス期間の今は休業の店が多い。意外に思われるだろうが、ミシェラン星付き、二つ星のレストランなどは休んでいる店が多い。大勢の観光客が訪れるこの時期は、稼ぎ時と思えそうだが。
 美食を楽しみにしていた人には実に気の毒だが、ある意味これはフランス国の宿命である。夏のバカンス期でも今はその頂点で、これはもう諦めるしかないのだろう。そんな状態でも、盛り場などでは営業しているレストラン、ビストロは結構ある。ガイドブック片手に、行列ができる店のほとんどの客はツーリストだ。想像以上の賑わい振りである。
 テレビのニュース時間になると、毎日避暑地でのバカンスの様子やパリの様子を報じている。そんなバカンス期の中、先日パリに出かけてみた。

 

 パリの表玄関ともいえるリヨン駅は想像通りであった。外国から着いた人、これから避暑地へと向かう人、家族連れ、グループと大混雑である。普段空いている待合コーナーも席の奪い合い、荷物の置きあいは競争の様相である。
 パリにはこのリヨン駅の他にグラン駅と呼ばれる大きな駅が他に4カ所あるが、いずれも似たような大混雑という。ふたつある空港も同様との事である。
 この混雑というか大勢の来訪客に対応して国鉄SNCFはスタッフ人数を増やした。リオン駅でも切符売り場や案内所を増やしている。初めて訪れる外国人にとってこの対応は有難い。大勢の旅行客を歓迎しているのが、キオスクや各種売店だそうだ。特に飲食関連の店やスタンドが売り上げ好調との事で、普段の月の20~30%の売り上げ上昇であるらしい。
 確かにキオスクや軽食店には普段より客が多い。中には普段見ない行列のできた店もある。そんな中で特に目を引くのがサンドイッチを扱う店である。専門店もあるが、ブーランジェリーやパティスリー、クッキー専門のスタンドが通常の品揃えに加え、各種サンドイッチを増やして販売している。
 しばらく様子を見てみる。客のほとんどは旅行者で、食品、中でもサンドイッチを買う人が多い。買ってその場で食べ始める人、手に持ってホームに向かう人、待合コーナーに席を探して座っていただくと食べる姿もいろいろ様々だ。立ち食い、歩き食いはヨーロッパ文化のひとつ、お行儀が悪いなどと批判されることはない。
 リオン駅のホール1は出発、到着ホームと繋がる広大な広場だが、そのほぼセンター、電光掲示板の下にスターバックスがあり、ここでコーヒーを買う人が多い。ここでもサンドイッチが買えるが、何故か別のスタンドで買う人が多く見えた。

 

 フランスのサンドイッチは基本、バケットを中開きにしてハムやチーズ、サラダ菜を挟む。バケットを半分に切って一個分にしている。ブーランジェリーによってはサンドイッチ用に、ドゥミ・バケットと呼ばれるパンを作る店もある。ドゥミとは半分の意味である。いずれフランスでは基本サンドイッチはバケットなのだ。
 日本で主流の食パンを使ったサンドイッチはフランスでは少数派である。一般的に食パンという文化が育たなかった事がその由来であると言われる。食パン文化はイギリスが主流でサンドイッチもイギリスが起源と言われる。
 フランスで食パンを使ったサンドイッチを見かける様になったのは、イギリスのスーパーマーケット「マックス&スペンサー」の進出が影響したとよく言われる。残念ながらこのスーパーはフランスから撤退した。イギリス風サンドイッチが好評であっただけに悔やまれる。
 各国から多くのツーリストが集まるパリ大型駅のキオスクではイギリス風サンドイッチを売る所が多い。個人的には、白い食パンを使ったサンドイッチが少ない事が残念である。たまに見かけるが、何か物足りない感である。できればもう少し増やして欲しいと思っている。
 食パンには全粒粉を多く使われるそうだ。分量配合で色も味も違ってくる。白より茶色が圧倒的に多いフランスの食パン・サンドイッチ、最初はこの事に戸惑った。パリ住まいを始めた当初は、日本の白い食パン文化に慣れた身に、茶色の食パンはパサパサと味気なく感じたものである。今ではこの茶色い色にも味にも慣れ、自分で驚いている。食の志向はいろいろとはよくいったもんだ。伝統の違いもあるが、慣れるには時間がかかった。
 という事で、白い食パンが欲しくなると、わが家ではパリまで出かけ日本食パンを作るブーランジェリーで買っている。フランスでも白い食パンを作る大手パンメーカーはある。代表的なメーカーと言えばHarrysで在仏日本人に人気があると言われる。販売ルートは主に大手スーパーなどに置かれている。
 フランスでもパン・ド・ミという食パンがあるが、何故か傍流の扱いである。確たる理由ではないが、菓子パンの風味が常用食としては受け入れられないのかも知れない。特別な、例えばクリスマス料理の添え物に使われる程度の存在である。

 

 駅のキオスクで最近増えているのが、アラブパンや北欧風のパンをサンドイッチに使用する店だそうだ。北欧風サンドイッチと言えば歴史も古く、これらの国々の食生活に欠かせないと言われるほど、言わば常用食である。中でもスウェーデン風のサンドイッチが人気があると聞く。駅のキオスクなどで多く売れるという事は、バカンス期の今、北欧からのツーリストが多いという事と繋がりそうだ。 
 フランス人に言わせると、北欧ツアーには憧れても美食への興味は少ないという。言われてみると何となく頷ける。食はやはりイタリア、スペイン、ポルトガルなどヨーロッパの南の国々という。
 一方のアラブパンを使ったものは、最近になり増えているそうだ。今やピザ屋を凌ぐ勢いで増え続けるケバブ店。その人気ぶりは容易に想像できる。一口にアラブパンと言われるものでも、その国、地域に寄って製法も味も違う。ピタからセム―ル・パンまでと種類も多いが、多く見かけるのはピタを使ったサンドイッチだった。
 pain Semouleは粗びき粉を加えたアラブ独特のパンである。日本では余り作られてないが、アラブ系移民の多いフランスのブーランジェリーではよく見かける。

 

 パリ、しかも駅のキオスクや販売スタンド調査だけでブームというのは何なので、私の住むパリ郊外都市のモントローでブーランジェリーとスーパーを駆け足で回って見た。バカンス中の今は、店も暇だという。サンドイッチも数を減らして作っているそうだ。
 スーパーも同様で客数が少ない。パンコーナーでも生産を調整して数を減らしているそうだ。そんな中でのサンドイッチは結構売れていた。考えてみれば5ユーロ以内で食事を済ませるにはこの手しかない、そんなところだろうか。
 主な客は各種工事従業者である。作業着姿の中年男性がサンドイッチに、ミネラルウォーター、桃1個を手にレジに向かった。

 


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