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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.175 Fete du Pain パン祭り

 

 ひょっとしたら4年振りになるのだろうか。本当に久しぶりのフェット・ド・パンへの出かけである。パリとイル・ド・フランス・ブーランジェリー協会主催のこのフェット、以前は毎年出かけていた。
 場所はシテ島ノートルダム大聖堂前広場、大テントを設営しての開催である。コロナ期間中は開催中止であったので、すっかり忘れていたイベントだ。陽気も少し暖かくなり天気快晴の日で、いそいそと出かけたのは良かったが、5月恒例ともいうべき交通ストに遭遇した。何とも大変なパリ行きとなった。
 幸い列車の便は問題なかったが、国鉄労組に同調してパリでのバスが、間引き、途中停止、遅れと混乱になった。さらに道路工事と重なり通常路線を勝手に変更する有様である。乗り換え、歩きを繰り返し、会場に付いたのは午後も2時過ぎとなった。
 サン・ミッシェル橋たもとでバスを下車した。大勢の観光客に混じってノートルダム大聖堂へと歩く。修復なった大聖堂に行くのは今回が初めてだ。今までは遠くで眺めるに留めていた。それにしても訪れる人が多い。
 あまりにも長い行列で予定していた大聖堂内部の見学は中止にする。聞くところによると、以前通りに完全修復との事、それならば何度も見ているので悔いはない。次の機会を待つことにした。

 昨日、新しいローマ教皇が誕生したばかりである。パリ、ノートルダム大聖堂でミサが行われる事は信者以外でも予想できた。キリスト教徒は全世界でおよそ20億人居るそうだ。
 ウィキペディアによると世界3大宗教はキリスト教でおよそ20億、以下イスラム16億、仏教4億人の信徒数であるらしい。因みに世界最古の宗教はユダヤ教との事である。
 それにしても今日のノートルダム大聖堂参拝者は大変な数である。中にはキリスト教信者以外でパリへの観光客も多くいるだろう。現在パリとイル・ドフランスを訪れる観光客は年間およそ5千万人と言われている。これはもう飽和状態と言われてもおかしくない。

 さて、肝心のフェット・ド・パン、こちらも大盛況である。パン愛好者や協会関係者に加え、観光客も多く訪れている。大聖堂広場の一角、大きなテント張りの中にブーランジェリー同様な各種設備が完備され、その周りでイベント協会の会員諸氏が忙しくパン作りをしていた。
 テント正面、左側から中央に向けてショーケースが並び、中に世界の国を代表するパンを紹介している。恐らくこれらのパンがその国、地方の主食と思われる。それにしてもいろいろな種類のパンがあるものだ。中にはパリやフランス各地のブーランジェリーで普通に見かけ作られるパン類もある。
少し列記して見ると、フランスはバゲットとクロワッサン、セルビアはコーン・ブレッド、サウジアラビアはピタ、ベルギーはリエージワッフル、メキシコはコンチャ、パン・ド・メトロ、エストニアはカリンジェル、フィリピンはウベチーズパンドセル、スペインはパンカンディアル、ウルグアイはパンマルセル、イギリスはホットクロスブン、ポーランドはパブカ、アルジェリアはマトロー、イタリアはフォカチア、アメリカはべーグル、ロシアはプロディンスキーなどがある。
 見た事はあっても知らない名前、初めて見るパンとその名前、見た事はあっても食した事のないパンなど、パンの世界も奥深い。まるで美術館の名作を見るような状態で後ろの人に押されながら見物した。
 中で働く人たちもヨーロッパ、アラブ、アフリカ、アジア系といろいろ、パン作りに国境はないなと改めて感じる。若手が多いのはこのお祭りがある意味試練の場、ベテランのパン職人が作るパンを見学したり、指導を受けたりしている。時々焼き上がったパンの試食もあり、祭りの場がさらに盛り上がる。
 今年のゲストは中華菓子の職人たちである。パリには何カ所かのアジアタウンがあり、そこにはアジアン・パティスリーもある。私も時々立ち寄って買う事があるが、いろいろな菓子類の中から毎回買うのは胡麻饅頭で、中でも気に入りの店はベルビルの豆腐屋である。
 この店は豆腐も旨いが、ここの胡麻饅頭が実に旨く上品で、柔らかい皮と餡のバランスが絶妙である。他の店の物に比べ形も大きく、食べて満足感がある。豆腐屋で作る胡麻饅頭は何とも不思議な組み合わせだが、これぞ中華食文化の本領とでも言えるだろう。
 この日展示されたのは主に中華菓子だった。いろいろな種類がある。いずれも西洋菓子とは違うジャンルで、桃の形をした紅糖技桃包、貝の形の貝売包など見た目でわかる名前の菓子、さらに各種饅頭、包子が並び見物客の目を集めていた。
 祭り最大の場は即売場だった。会場では多くの職人たちが見物客の前でパンを作る。クロワッサン、パン・オ・ショコラ、ショソン・オ・ポム、パン・オ・レズン、ブリオッシュなどヴィエノワ―ズリーの代表に加え、バゲット、パン・カンパーニュと各種パンが作られ、次々と焼き釜に運ばれていく。焼き上がったパンはそのまま籠の中に入る。      
 販売コーナーの前には長い行列ができている。組合員のマダムと思える女性達が注文を聞き紙の袋に入れ、レジで支払い後に手渡し。仕事ぶりに無駄がない。これだけ多くの客対応が無駄なく行われるという事はやはり普段の経験からだろう。
 クロワッサン3個、ショソン・オ・ポム3個を買ってテントの外に出る。歩きながら焼きたて温もりの残るクロワッサンを頬張る。久しぶりに美味しいクロワッサンをいただいた気分は最高だった。これだけでわざわざ出かけた分を十分に回収できた。できたら来年もまたと思っている。

 この日の夕食は13区で中華レストランFLEURS DE MAIにする。40年近く通う店で、ここアジア・タウン数ある中華レストランの内で、味の好みが最も私に合う店である。毎回変わらず注文するのが「エビ入りワンタン麺」と「ピリ辛揚げ豆腐」である。今回は息子も同席したので、この二皿に加え計4品を注文した。量も多く値段もリーズナブルで、どの料理もはずれがない稀有の店である。調理職人もベテランの腕前揃い、という事で地元客が多い。久しぶりの本格中華料理に満足した。余った料理は持ち帰りにしてもらう。
 13区に出かけたもうひとつの理由は、昼間見たパン祭りの中華菓子のせいもある。イヴリー通りの中華専門菓子店Nouveau Yv Nghyはこの業界の老舗で、名実ともに13区を代表する店である。中華菓子の種類も多く、味への信頼も厚いと聞く。ここに来て毎回買うのが胡麻饅頭である。中の餡も小豆餡の他に何種類かあり、時にはさつま芋餡などの変わり種にも出会える。何といっても好評なのが中華銘菓のひとつ月餅で良く売れるそうだ。
 その近くにあるのが新興のPatisserie de Saisonで、人気急騰で多くのアジア系客を集めている。その他路面店ではないが、高層ビルの地階に並ぶ商店街の中にも大小のアジア菓子店が数多くある13区である。
 夕食を終え表の通りに出て、ふと目を向けた先に新しい台湾菓子の店ができている。パリのタピオカ・ミルクティの火付け役と言われる幸福堂XING FU TANGの新しい店のようだ。折を見て一度覗いて見ようと思っている。

 


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