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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.174 復活祭のできごと

 

 今年も復活祭がやってきた。カトリック暦では4月20日日曜日がこの日に当たる。毎年この月になると復活祭関連のレポートをお送りしているが、主にショコラに関する報告が多い。復活祭が近づくと、意識がショコラに触れるのはもう長年の性だ。パティスリーやブーランジェリーに行く度にショーウィンドーにショコラを求めてしまう。
 フランス人にとって復活祭はわれわれ日本人の想像を超える祭事である。キリスト教徒の多いこの国、国民にとってこの儀式を大切にする事、また守ることはある種の義務ともいえる。復活祭と言えば子供達には待ち遠しいパックのバカンス。雪山最後のスキー、暖かい南仏への家族旅行、または臨海学校と集団での楽しい想いで作りと、春一番の行事であり、今その最中である。
 ここモントローでは移動遊園地が開催中である。これもまた毎年恒例の行事である。何処にこれだけの人が居たのだろうかと驚くほどの人出、賑わい振りだ。このお祭りのテーマはSAINT PARFAITとある。
 サン・パラフェはキリスト教の殉教者。イスラム教とキリスト教の選択を迫られイエスを信じキリスト教を選んだことで殺害された。その偉業を称えてのタイトルであるらしい。正直いうと、毎年行われるパックのバカンスに行われるお祭りにこの様なタイトルが付く事を知らなかった。このFOIRE(お祭り)今年で184回目を迎えるという。フランス人にとって当たり前の事だろうが、まだまだ知らないことが多い私である。
 今年のお祭りの呼びものはBRESILブラジルである。ブラジルと言えばカーニバルのサンバだろう。パックとカーニバルの繋がりも今ひとつ解らないが、とにかく初めての事で出かけてみる。
 いろいろなテント販売が並ぶ会場でひときわ巨大なテントがブラジル会場である。その中に舞台が設けられていた。舞台の前にはテーブルが並ぶ。その横にブラジル料理や飲み物を販売するコーナーや厨房が。いよいよランチタイムの始まり、会場に美味しそうなにおいが漂う。
 3時になると、食堂のテーブルが片付けられ、まるでディスコのような巨大空間ができた。そこに大音響のブラジル音楽が鳴り響く。しばらく音楽を楽しんだ後、二人の女性があの独特なカーニバル衣装を纏い舞台の袖から登場する。強烈なサンバのリズムに乗り踊りが始まった。
 見物客からの手拍子や指笛の合いの手が会場に響く。フランス人は一見大人しく静かに見えるが、実は調子もので乗りがいい人が多い。見物客の中からひとりまた一人と踊り子の真似をしてサンバを踊り始めた。
 踊りの後はブラジルの格闘技カポエイラ。逞しい若者男性が二人、サンバのリズムに合わせて技を披露する。踊りの体裁を取っているが実は強烈な格闘技、沖縄空手に通ずるものである。サンバの踊りやカポエイラの披露が続く中会場を後にした。
 出演者の方達はブラジル出身のフランス人との事である。ブラジルのテントを出た後はぶらぶらと他のテントを覗き見しながら公園を巡る。最後に移動遊園地に辿り着いた。いろいろな遊戯施設がある。その代表ともいえる射的場や超近代的なスペース遊戯場の前に行列ができている。
 先日、あるテレビ局がパリで開催中の移動遊園地ロケを報じていた。その規模の大きさ、ここで働き生活する人たちの様子は私が想像していた以上のものだった。大きな家族集団そのもの。一番感心したのは近代化された人々の暮らしぶりとその明るさである。改めて知らない世界がある事に驚かされた。

 

【フランシスコ教皇の逝去】
 4月26日土曜日は朝からテレビの前に釘付け状態だった。フランシスコ・ローマ教皇の葬儀中継放送を見るためである。恐らく世界最大の葬儀、サンマルコ広場に集まった人たちは中継時で25万人と報じている。翌日のニュースでは凡そ40万人が参列したとある。実数は恐らく二つの数字の中位ではなかろうかと推察される。
 日本のニュースでも既報の事と思うので詳しい事は省くが、間違いなく世界最大規模の葬儀であった事は間違いない。パリに移り住むまでキリスト教に付いてはそれ程の関心はなかった。今でもさほど関心があるわけではない。
 とは言え、フランスで暮らす中でキリスト教のあらゆる行事を避けることは事は不可能だ。生きてゆくあらゆる事に宗教儀式が関わってくる。例えば昨日のでき事、現在サッカーのヨーロッパ・チャンピオン大会が開催中だ。サッカー行事では一番歴史あるこの大会、ワールド・カップ同様の注目を集める国民的スポーツ行事である。
 その準決勝がイギリスで開催された。フランスのパリ・サンジェルマン対イギリスのアースナル戦である。ゲーム開催前にコートの中心で両チームが円陣を組み、凡そ1分の黙祷を捧げ、大観衆も全員起立でこれに応じた。フランシスコ教皇追悼の黙祷である。サッカー試合では時々見られる光景だが、そのほとんどはサッカー関係者を追悼しての儀式、今回の様な事は珍しい。

 

 パリでの住所がノートルダム大聖堂の近くで、ほとんど毎日大聖堂を眺め、鐘の音を聞くという暮らしをしていた。偶には家族連れで大聖堂見物をしたりでその規模の大きさやミサに集まる信者の多さに感心したりした。改めて外国に住んでいると実感したものである。
 驚きと言えば、先の教皇ヨハネ・パウロ2世のパリ訪問である。世界中の首脳が一度は訪れるというパリ、当然街頭パレードも行われる。私もできるだけ沿道に立ってパレードを見続けるよう心掛けていた。
 そんな中、断トツに観衆を集めたのがヨハネ・パウロ2世であった。これ程にもと思える観衆を集めるその事実にまず驚かされた。フランスに国教はない。カソリックがフランスの国教と思い込んでいた私にはある意味意外の事であった。改めて潜在教徒の多さを気付かされたパウロ2世フランス訪問パリでのパレードであった。

 

 フランシスコ教皇の逝去に伴い新しい教皇の選挙が5月7日から始まるという。このコンクラーベの結果はバチカンにある煙突の煙で発表される。白い煙が出たら新しい教皇の誕生でその後氏名が発表される。
 前回のこの儀式もテレビで見た。アジア、アフリカからの教皇誕生は未だない。ひょっとしたらの期待もあるが果たして。3度目のコンクラーベ見物がたとえテレビ放映にしろ経験できたらある意味有り難いと思っている。
 フランシスコ教皇が亡くなったのは、パックのミサを済ませた後入院。その翌日と報じている。アルゼンチンの出身、庶民的な教皇であった。

 

【今年のパック・ショコラ市場は低調】
 その一番の原因はショコラに欠かせないカカオ豆の不作にあるらしい。ここ数年カカオが不作である事は業界一番の懸念事項であるという。実際今年の取引は昨年に比べ18%アップだそうだ。この高騰影響はショコラ零細業者を直撃している。
 カカオ豆不足の原因は世界的な天候不順に加えカカオ農家の減少にあるという。その生産地はアフリカや中南米だが、生産の大半はショコラ大手メーカーが独占状態にあるらしい。新たな生産地開発が求められているが、カカオ生産に必要な条件地はそれほど多くない。赤道直下の国々が多い。インドネシアはアジアでのカカオ生産代表国だが今注目されている国は東南アジア諸国という。とは言え収穫までにはしばらくの時間がかかりそうだ。
 という事でショコラを作らないブーランジェリーなどでは、パックのショコラを販売しない所が増えているようだ。既製のショコラを仕入れて販売しても利益が少ない、さらに残品が出ても返品が効かないという業界システムなど影響もあり、その結果仕入れ量を減らす店が多い。

 

 毎年パックのショコラ行事をしている近所のスーパーマーケットが今年は特別展示を止めた。珍しい事である。毎年買っているわけではないが残念なことである。
 一方で家庭用ショコラ制作を行うためのNGOの製菓教室が広がるなど、別の角度からのパック・ショコラが注目されている。学校の課外授業にショコラ作りを導入する所も増えているそうだ。
 また、カカオに代わる商品開発に力を入れる企業も出始めていると聞く。すでに試作品もできて市場調査では本物のカカオを使った物に遜色ない味のでき上がりという。できたら一度食べてみたいと思っているところだ。それにしても、諸物価値上がりが市民の懐を直撃しているフランスの昨今である。

 


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