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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.172 発想の転換

 

 パリ市の都市改修が進んでいる。改修と改善、改造の厳密な違いは理解していないが、都市改造で有名なのは19世紀パリで行われたオスマンによる大規模な都市改造が有名である。
 この都市改造により現在のパリができ上がった。その間17年を要したと言われる。改造前のパリは生活環境、都市衛生が極めて悪かった。道路は細く狭く、建物の間隔も狭く日当たりも極めて悪く、今でいうスラムの様な状態であったという。詳しく知りたい方はGoogleでご検索を。パリ改造時が分かりやすく説明してある。
 オスマンの大改造ででき上がった現在のパリ。世界で一番美しい都市と呼ばれ、毎日大勢の観光客が訪れている。2023年にも訪れた観光客数は世界で一番であった。

 その美しい都市でオスマン以来と言われる大改装が行われている。変えようがないと言われるパリの改造とは。その中心に居るのがパリ市長のアンヌ・イダルゴさんである。
 10年前、パリは車の渋滞で市民生活に重大な影響を来していた。市民の足でもあるバスは遅れ、予定通りの行動ができずの状態が続く。タクシーも同様だった。渋滞で排気ガスがあふれ、市民の健康にまでその影響が出ていると言われていた。
 既にでき上がっていたパリの建築群や交通網を立て直すことは不可能である。成すすべもない状態のパリに大改革を唱え実現したのがイダルゴ市長である。
 その方法はパリから自動車を減らすという事。一見妄想ともいえる構想だが、彼女はこれを実行する。まず道路にバス、タクシーの専用道路を設置する。この無謀ともいえる専用道路の設置で、バスとタクシーがスムーズに走るようになる。一方普通の乗用車などはさらに渋滞が増していく。不満も噴出する一方となる。
 そんな状態でもイダルゴ市長は断乎として改革を進めていく。リボリ通りはパリの主幹道路のひとつ、マレ地区からコンコルド広場まで凡そ3kmと長く広い道路である。ホテル・ド・ビル、ルーブル美術館、チュルリー公園を左に見ながら、観光客にも人気の通り、右側にはお土産屋、雑貨屋、カフェなどが並ぶ。
 余談、モンブランで有名な老舗店アンジェリーナがあるのもこのリボリ通り、毎日行列ができている。わが家では何故かここのモンブランがイヴの夜のデザートとなっている。モントローに移り住んでからも息子がパリまで出かけて買ってくる。今では1年を締めくくる貴重なスイーツ、癖になる独特な栗の風味だ。

 このリボリ通りを普通乗車乗り入れ禁止にして、自転車専用道にした結果、今観光客の自転車天国となっている。バスとタクシー、業務用車は運行できる。この事で空気汚染を減少させた。その一方で自動車専用道は大幅に狭くなった。
 イダルゴ市長はさらに規制を強化し続けている。パリ1区、2区、3区、4区、西はコンコルド広場まで、北はモンマルトル大通りまでなどなど、120の歩行者天国と緑化プロジェクトを完了させるという。

 緑化プロジェクトと言えば、小公園充実もそのひとつである。観光客には余り知られていないが、パリの各区には市民憩いのための小さな公園がある。時にプラス、スクエアまたはジャルダンと呼ばれることもあるが、要は小さな公園、庭園などである。
 私が良く利用するのは、サンジェルマン界隈ならサンジェルマン教会横の小公園。中央にアポリネールの頭像、その周りにベンチがある。サンジェルマンそぞろ歩きに疲れた時、ここのベンチに座り暫しの時を過ごす。
 同様にサンジェルマン大通りとサンペール通りが交差する角にあるスクエア。ウクライナ教会の庭園と呼ぶ人もいる小さな広場も。時に陽だまりに、時に木陰のベンチに座り転寝をするに格好の場である。
 私はキリスト教徒ではないが、教会にはよく行く方だと思っている。中のベンチに座り、そう、ただ座るだけで何となく癒されるのだ。不謹慎だが、夏の猛暑日に涼しい教会内でほんの少しだけ時間を過ごすだけで疲れが取れる。あの静寂が何とも言えず好きなのだ。

 オペラ界隈に出かけた折は、サンタン通りを少し横に入ったスクエア・ルーボアがお気に入りの場、世話になる小さな公園である。サンタン通りと言えば日本人街とも言われたほどパリの日本人が多く出入りする地域にある通り。最近では日本人街というよりアジア・タウンと呼ばれるようになった。
 日本食レストランを始め韓国、中華レストランが建ち並び、アジア食を求めてフランス人若者が多く集まる場として有名となった。行列のできる店も多く昼夜熱気に包まれるカルチェである。
 ひと昔前はこの界隈のレストランを利用してランチを食べた。そのランチタイムが今はほとんどなくなった。理由はいろいろある。まず行列に並ぶのが億劫になった事、さらに手の震えで箸やフォークがうまく使えないという個人的な理由。
 という事でお昼にお腹が空いたらおにぎりを良く買う。そのおにぎりを持ってスクエア・ルーボアに行き、ベンチに掛けていただく。人の目を気にしないで頬張るおにぎりの味は格別、パリならではのランチタイムだ。
 お昼時のこの公園はさながらピクニックの様相で、多くの若者で空きベンチ探しに苦労するほど。歩いて数分の距離に数多くのアジアン・レストランがあり、ほとんどの店でテイクアウトができる。店それぞれが弁当も備えており、今この界隈の若いサラリーマン・ウーマンに大受けしている。

 この公園に行くとパリ市の環境対策が良くわかる。小さな公園だが憩いの場としての配慮が実に見事になされている。四角形の広場周りには高い樹木が並び緑の壁を作っている。冬場枯れた木々も春先には新芽を吹いて日を追う毎に緑色を濃くしていく。
 広場中央にあるのがルーボアの噴水、その噴水を囲むように芝生が広がる。芝生の外側は歩道に、歩道に沿って木製のベンチが並ぶ。ここはその昔、ルーボア侯爵館の庭園であったそうだ。
 公園は鉄網の柵で囲まれ入口が2カ所ある。柵にボードが貼ってある。犬の入園禁止、禁煙などなど。入口右手に鳥かご、いや、リス用の手作り巣か。左手を少し歩くと子供用の遊技場がある。中に可愛いスポーツクライミングのボードがあった。
 その近くのベンチで若い男が仮眠中、気持ち良さそうだ。空いたベンチがあるので腰を落とす。その前を子供連れの家族が楽しそうに通り過ぎていく。昼時には弁当持参の人で賑わうが、今は憩いの時間帯なのだろう。実に長閑だ。
 それにしてもこの公園に設置されたゴミ箱の多い事に感心。仕分けして処理する様ゴミ箱を色別け、説明がなされている。フランス語が読めなくとも何となく理解できるのだろう、皆さん選別してごみを捨てていた。今このような小公園が増えているパリの街だ。

 

 


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