小川征二郎のパリ通信


Vol.169 パッケージ・デザインは復古調に

 

  毎年の事だが、11月のパリは何か中途半端、今ひとつ街に活気が感じられない。各所でサロンを始めいろいろなイベントなどが開催されるのだが・・・。何故か盛り上がりに欠ける。10月末から11月3日までサロン・デュ・ショコラが開催されたが、今回、私は見物しなかった。
 見ないでいうのもなんだが、行かない理由のひとつは、サロン自体のマンネリ化にある。この期間、フランスはトゥサンのバカンス中である。という事で観客動員は今年も多かったと主催者側は発表している。

 11月1日、フランスではラ・トゥサン(LaToussaint)の祝日となる。日本語では諸聖人の日(万聖節)と呼ばれるカトリックのお祝い日。この日を祝しておよそ2週間のバカンスとなる。学校も休みとなり、家族連れでバカンスを取る家が多い。また、この間に墓参りをする習わしがある。
 日本でいうお盆みたいなものだろうか。墓には鉢植えの花を捧げる。花は菊が多い。という事で街の花屋の軒先に菊の鉢が並び、これを買い求める客で賑わう。
 一方で日本でいう修学旅行の様な旅行団体、小中高の学生がパリの街に増える。地方からの学生団体がほとんどで、初めてのパリ見学を体験する子供も多いという。名所、美術館巡りや、各種イベント会場での課外授業が多い。

 そんなパリに出かけたのが11月5日の事だ。オペラ通りはツーリスト通りと化していた。中でも中国人のグループが多い。円安で苦労しているのは日本人だが、元とユーロの関係はどうなんだろう。と要らぬ心配をしながら元気あふれる団体を眺める。
 トゥサンのバカンスを利用したと思える家族連れの旅行者も多い。さらに学生の研修旅行、特にオペラ座周りはいつもの数倍の数だ。館内見学の入口には長蛇の列が、別の列は中国からの観光客、先導ガイドが持つ小旗は中国、台湾、香港とそれぞれ異なる。
 いつものようにラ・ファイエット食品館に入ってみる。途中本館を眺めると道の真ん中に大きなモミの木ツリーが飾ってある。周りの並木にも電飾が。そうか、そんな季節なんだと改めて周りを見てみる。
 食品館は相変わらず賑やか、混雑状態である。客の8割は間違いなく観光客、その大半がお土産用のクリスマス商品買いが目的のようだ。店側もこれらの対応に特別コーナーを作りクリスマス用商品を集め、うまく集客している。
 そんな中で特に人気を集めていたのがブック型のパッケージだ。懐かしい童話や今人気のアニメ・キャラクターを物語風にうまく編集、豪華本を作り上げている。本の中にはショコラ・タブレットやキャンディーなどが詰まっている。お土産には的を得た商品、そのアイデアに感心した。
 パッケージ・デザインの主流は懐古調のイラストが多く目につく。子供目線を意識するより贈る側の感性に訴えるといった感じだろうか。ここら辺はやはり大人文化を自他ともに認める伝統と心意気をうまく掴んでいる。さすがだ。
 今はこれらのクリスマス特選ブースも限定的だが、パリ市民が大勢集まる12月本番ともなると、さらにアイデアが加わり、新商品の登場も予測される。
 それにしても中国人観光客は元気だ。爆買いとは言えないだろうが、手にした買い物袋の数は他の客を圧倒する。エルメス、シャネル、ディオールの袋に、あの独特のギャラリー・ラ・ファイエットのロゴ入り袋が同ランクに見えるのだろう。
 食品館にはイートインもある。おしゃれな客はこのコーナーでランチを楽しむ。シャンパンを飲みながら生ハム・サンドを選ぶ客が多いそうだ。周りの目を気にしないで短いランチ・タイムを優雅に楽しむ女性達、これもフランス流のひとつだろう。
 当然と言えば当然だが、中華コーナーのイートインは中国人観光客の独占コーナーとなっていた。この前を通る度、一度食べてみようと思いながらその機会がない。来年はと思っているところだ。
 残念ながらこの食品館には日本食を出すコーナーがない。立ち食いの寿司コーナーでもあればと思うのだが、未だ出現しない。真に残念なことだと思うが、ここはフランスと諦めている。
 入口から続く特選コーナーを巡り、エスカレータに乗って地下1階に降りる。エスカレータ横はこの館名所のひとつ特設果物コーナーがある。以前のレポートでも紹介したが、世界中から集めた珍しい果物を陳列した人気コーナーだ。その他旬の野菜や果物が並ぶ。
 11月という事もあり、このコーナーの約半分のスペースがクリスマス商品のコーナーになっていた。早くもイタリアのクリスマス銘菓パンドーロやパネトーネが登場している。カステラ好きの私にとって、このイタリア銘菓は何んとも有り難く待ち遠しいケーキである。カステラほどの繊細さには欠けるが、あの独特の風味はクリスマス銘菓代表のひとつにランク付けされて良いと思っている。

 このコーナーの奥は大手製菓メーカーの商品を集めたスイーツコ―ナ。各メーカーの代表商品が棚に並ぶ。そんな中でもクッキーやビスケットが人気の様で各メーカーが競っている。モン・サン・ミッシェルのメール・プーラルやジャムで有名なボンヌママンなどが注目の場所に並んでいた。
 これらの商品は他のスーパーでも買えるが、ここでは特別ランクの扱いがなされている。因みにボンヌママンは私好みのメーカーで、プリンが欲しくなると近くのスーパーに出かけて買う事にしている。
 このスイーツ・コーナーをひと通り巡ってエスカレーターに乗り、有名パティスリーが並ぶコーナーを再見。食品館を後にした。ふと気付いたのは、シェ・ムニエル・スタンドの縮少である。
 シェ・ムニエルに付いては以前のレポートで紹介した。この食品館の顔になるのではと思えるほどのブランド力、売り場も広げる一方の勢いであった。そのコーナーが理由は解らないが、販売員二人だけという小さい規模になっている。12月になると再び登場するのか不明だが、それにしてもこのまま消えたら実に残念なことである。

 先日、モントロー・ワイン祭りが開催された。パリなどで開催されるワイン祭りには比べようもないが、それなりに賑わった。入場料2ユーロを払うと手首に紙製のバンドをつけてくれる。会場に一歩踏み込むとあの芳醇なワインの香りが鼻腔を擽る。出展スタンドの前には試飲を楽しむ人たちが集まっていた。
 ボジョレー、ロワールのワイナリが多く出店、そんな中にアルザスのワイナリーもある。以外と思われるかも知れないが、白ワインを好むフラン人は多い。様子を見ていると白ワインが結構売れていた。
 会場前方の舞台ではロワール地方の舞踊グループが民族衣装を纏って舞踊を披露中。踊り手は男女ともにお年寄りが多い。中に、今では見なくなった木彫りの靴を履いた男性もいる。冬場は滑っただろうな思いながら、カタコトと音を立てて踊る素朴な老人たちの舞台をしばらく見物した。木製の靴と言えばオランダのクロンプが有名だが、その昔、この地方では当たり前のように木靴が履かれていた。と、司会のお姉さんが解説している。

 今回、この祭りに出展していたのがショコラのコントワール・デュ・カカオである。以前からパリ郊外に工房があるとは聞いていたが、まさかモントローに近い田舎町とは思いもしなかった。
 自然派ショコラとしてショコラ好きの人に熱愛され続けるブランドである。パッケージもユニークで、木製の箱や紙本来の素朴な良さを生かしたサスティナブル志向の材料を用いている。
 クリスマス用にオーダーをする人が多く集まり、試食を楽しんでいた。このショコラ、日本でも売っているという。最近、日本の輸入業者がフランス各地のショコラ・ファクトリーを巡り、取引をしているという話も聞く。カカオ豆が世界的に不作の昨今、ショコラ業界もいろいろと変化、工夫をしているようだ。

 


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