2021年12月22日
Vol.134 クリスマス賛歌
毎年クリスマス(フランスではノエル)が近づくと、パリの有名パティスリーやショコラトリーのディスプレイを見て回るのを楽しみにしていた。どの店もとにかくお洒落。そのアイデアと技術に感心し続けた。いろいろな国のクリスマス・ディスプレイを見たつもりだが、センスの良さと言う意味ではパリのそれは一番、と個人的には思っている。
センスの良さを人に感じさせるその技は一朝一夕に出来るものではない。それには長い歴史と伝統技術に支えられて生じるもの、パリと言う特別な都市、土壌によって築き上げられた賜物とおもっている。
今年は久しぶりにお洒落なクリスマスの飾りが見られると楽しみにしていた。人々の意識も幾らかコロナ禍から解放されたと思っていた矢先に新型オミクロン株の登場である。このニュースには正直驚いた。と同時にうんざり感が今胸の中に広がっている。
この原稿を書いている現在、いろいろな情報が錯綜して実態がつかめない。政府の混乱ぶりも報じられる一方で人々の不安沈静化を務める話も聞こえてくる。「オミクロンにかかっても重症化する確率が少なく、伝染が早いので共生への道が開ける」などと言った説を唱える医療関係者もいるようだ。この説、本当だろうか。
このレポートが皆様のもとに届く頃には、フランスの情勢も変わっている可能性があるだろう。いずれにしろ厄介なオミクロン株の出現である。
冬恒例のシャンゼリゼ大通りイルミネーション点灯式が11月21日に行われた。大勢の市民参加の元でのこの儀式、パリ市長イダルゴさんとゲストの方々がボタンを押すと百万個と言われる電球が一斉に点灯。拍手と歓声が上り赤の電飾が、見守る人々の頭上で輝いた。昨年に比べ観光客が多い12月のシャンゼリゼ大通り、このままクリスマス、師走を迎えたいものである。
12月2日、ここモントローでも市庁舎前の広場にある大型イルミネーションの点灯式が行われた。市長による点灯は6時からと案内にある。
市庁舎前の広場に設えたテントで児童合唱団がクリスマス・ソングの合唱中であった。1曲終わるごとに見学者から拍手が起こる。別のテントでは参加者への振る舞い用ショコラ・ショーを市の職員と思える人たちが忙しそうに準備中である。
コーラスが終わると市長の演説、年末までの各種イベントの説明などがあり、6時20分イルミネーションの点灯スイッチが押された。
集まった市民の間から拍手とブラボーの声があがる。と同時に街の主要通りにも一斉にイルミネーションが輝いた。シャンゼリゼ大通りの点灯式にはおよびもつかないが、それでも大勢の市民が集まってこの儀式を祝った。
クリスマス・プレゼントの一環として、4日市内最大のヌー公園にテント張りのスケートリンクがオープンした。オープニング・イベントには有名選手が招かれ演技を披露。その後一斉に市民が参加して初滑りを楽しんだ。
クリスマス・イヴには市からの振る舞いランチもあると言う。クリスマスはフランス人にとって最大のお祭り、いろいろなイベントが開催されると市民も今から楽しみにしている。
10日と11日にはブレ広場でクリスマス市が開催された。10日は朝からあいにくの曇天、夕方5時の開催となった。寒い一日だったが、それでも大勢の市民が参加した。今年は入場の際ワクチン接種のコントロールがなされ、その証明がないと入場出来なくなっている。
中に入るとテントがずらっと並び、そこで食品、ディスプレイ小物、シャンパン、蜂蜜などのクリスマス関連商品を売っている。ほとんどは小規模の会社や工房、オリジナルと銘打った手作り風の物を商っている。
フォアグラやトリュフなどの瓶詰め缶詰が入った籐籠を手にしたマダム、イタリアのクリスマスに欠かせない大きなパネトーネを抱いた老夫婦が嬉しそうに会場を歩いている。
今、フランス全土の市町村でモントローと同じような光景が見られる。地味だが心温まる素朴なクリスマス・イベント。厳かな光りの下に通りや街があり、人々の暮らしがある。そこにはキリスト教信仰と言うバックボーンがあっての事、クリスマス本来の姿を現している様に見える。商業主義に走り過ぎると言われる大都市のクリスマスにひとつの抗議と警鐘を鳴らしている様にも思えた。
ショコラ、CLUIZEL-PARIS-
先日、パリのリヨン駅へ出かけた。長い間工事を続けていたが、一部を除き新装になってパリの各種有名ブティックが出店していると言う。その見物がてら気になっていた日本味駅弁を買って見ようと思ったからである。
リヨン駅は明るく清潔な近代駅へと変わっていた。新たなブティック街では旅行者やそうでない一般市民が買い物を楽しんでいる。久しく東京や大阪などの駅ビルを見てないので比較のしようもないが、一個一個のブティック・スペースはリヨン駅の方が広いのでは。そんな感じの店が並んでいた。
ブティックが並ぶのはホール2のコンコース。基本は旅行客を対象にしたブティック構成と思えた。いろいろな業種のブティックが集まっているが、そんな中で客が多く集まっていたのがLADUREEとCLUIZELさようやくらにAux Merevilleuxのスイーツ店である。
CHOCOLATのCLUIZEL本店はサントノーレ通りにあり、パリだけでも6店舗を持つ老舗店。ドミニカ、ペルー、エクアドル、メキシコなどのプランテーションを厳選、そこで採れるカカオを他のカカオと混ぜることなく質の向上を務め、良質カカオのみを使用。ノルマンディーの工場でCLUIZEL独自のショコラを作り上げている。
毎年12月になるとパリのパティスリーやショコラトリーのディスプレイを見て回ると先に書いたが、その中にはCLUIZELも含まれていた。コロナ禍が問題となっているこの2年間は他の店と同様にこの店ともご無沙汰状態、今年も今の段階では見ていない。そう思っていた矢先のリヨン駅ブティックとの出会いである。
まず驚いたのは店の広さ、恐らくサントノーレの本店より広い店構えとなっている。商品構成も魅力的だ。高級ショコラをお手頃値段に設定して客が手軽に手を出せる様に配慮されている。旅行者が車内で食べるに便利な容量と値段に、またはお土産用にと上手く構成している。
ブルー・グリーンを基調にした新しいパッケージも良い。この色調のパッケージはパトリック・ロジェーも使用して成功している。色彩学上でもこの系統の色は心理的に安定感や調和を促すと言われ、都会的なイメージととしても効果的と言われている。ずらっと並ぶ棚のパッケージを見ながらなるほどと頷けた。
店内には二人の男性スタッフが居た。売り上げは順調だそうだ。コンコースの通路側はガラス張りになっていて店内の様子が良く見える。マレ地区にもCUIZELの店があるがリヨン駅の近くにはないので界隈住民客の来店も多いそうだ。
スタッフの方に聞いた話だが、CLUIZELのショコラはフランス全土で売られているそうだ。直轄のブティックは無くても、地方の高級パティスリーやサロン・ド・テ、レストランなどで仕入れをする店が多いとの事。さらに通販でも注文が多く、海外からの特別注文も多いそうだ。
地方の店で大手ショコラ・メーカーから仕入れをする店が多い話は聞いていたが、有名ショコラが直売店以外でも流通しているとは今まで気づかなかった。こんな例は多いと言う。もちろん売り手買い手の信頼に基づくビジネスである事は絶対条件であるそうだ。
ここモントローでもCLUIZELのショコラが食べられる。それを知ったのは偶然の事だった。先日、買い物帰りにサロン・ド・テ、Davidに立ち寄りひと休みした。Davidは自家焙煎のコーヒーを作り、モントローを始め近郊のカフェに卸を、個人購入者にも量り売りをしている老舗店である。
ここはコーヒーの他にもパリの老舗紅茶店DAMMANN FRERESの商品をこの地域特約販売、その他高級リキュールなども仕入れて販売している。モントローでは高級品を売る店として人気がある。エスプレッソの値段も街中のカフェでは1,5ユーロのモントローだがここでは2ユーロと割高、その分客筋も良いと言われている。
Davidでは「ナポレオンの砲弾」と名前の付いたオリジナル・ショコラを販売している。一度食べてみたが美味しかった。田舎の小さな町(パリ日本大使館の表記では市になっている)の小さなサロン・ド・テで作られるショコラがこれ程質の良い出来栄えとは。と、驚いた記憶がある。
この町最大の売りと言えばナポレオン。歴戦勝利を続けるナポレオンが最後の賭けに出たロシア侵攻に失敗、敗退を続けながらモントローに布陣を敷いてロシア、プロイセン連合軍に決戦を挑み勝利を収める。ナポレオン最後の勝利と言われる闘いである。
モントローの戦いに勝利したもののナポレオン軍は敗戦書類にサインしてナポレオンはエルバ島に幽閉される。
最後の勝利地モントローにとってナポレオンは今でも市民の英雄、立派な騎馬像もある。この街でナポレオンの悪口はご法度である。Davidの砲弾ショコラはこの街を訪れる観光客のお土産として良く売れるそうだ。
その砲弾ショコラが実はCLUIZELの工場で作られているのを知ったのは、Davidでお茶を飲んでいる時。店のスタッフがショコラの詰め替え作業を始めた。大箱の中のショコラをこの店のパッケージに計量しながら入れ替えている。その大箱に貼られた送り先のあて名はCLUIZELとなっていた。
話を元に戻す。リオン駅のホール2からホール1へと移動すると、TGVが各地へと発着するプラットホームがあり、旅行客が多く集まっていた。広い待合コーナーもあり旅行者が列車待ちや家族や友人であろう人との待ち合わせをしている。
そんな中にポツンポツンと点在する各種キオスクがあり、それぞれに行列が出来ていた。ここに期間限定の駅弁スタンドが出来たのは11月である。日本味の駅弁を販売、秋田県大館老舗駅弁屋花善の人気商品「鶏めし」やチーム秋田が作ったと言う「秋田弁当」が販売中である。秋田弁当には名物のきりたんぽやいぶりがっこが入っていた。
本音を言えばいずれの弁当も出来立てほやほやの物を食べてみたい。残念ながら冷えたご飯は美味しさが数段劣るから。きりたんぽも同様である。と、ない物ねだりはきりがない。
我が家でも二度ほど購入したがどれも鶏めしと肉弁当だった。目的の秋田弁当はいつも売り切れ、人気ぶりが伺える。一昨日ようやく2個買う事が出来た。家に持ち帰りレンジで温めていただいたが、日本の幕の内弁当とまでは行かないが、味にはそれなりに満足した。
リヨン駅販売の駅弁に付いては日本のメディアやユーチューバーの方が既に紹介済み、皆さんご存知の事と思う。イベントとしては成功と言えるだろう。使われた米はあきたこまち、おかずの材料の一部は日本製の物だそうだ。もし採算が合うなら常設化してほしいと思っている。来年5月まで販売を続けるそうだ。
リヨン駅を後にパリ右岸を少し歩いてみた。オペラ界隈は毎年見ているので、今回はリヴォリ通り、特にサマリテーヌからオテル・ド・ヴィル界隈をブラブラ歩き。まずはと言う事でサマリテーヌのクリスマス飾りを見てみる。
このデパートのクリスマス飾りを見るのは本当に久しぶりだ。何しろリニューアル・オープンに至るまで16年の歳月をかけたサマリテーヌである。モダンとクラシックが見事に融合した新しい建物は、外観、店内ともに見応えのある装飾で訪れる人をもてなしている。
パリのエレガンスと大人の世界を作り出した新生サマリテーヌには子供の商品が無かった。ショーウインドのディスプレイも子供向けの演出は無く、他のデパートで見られる家族連れ見物客の姿が見られない。これはパリのデパート・コンセプトとしては画期的な試みである。別館が完全オープンしたら解らないが、今のところここは大人のお洒落な世界のみである。
中に入ると正面入り口前に写真本のコーナーが出来ているのも驚きである。過去の売り場常識ならこのポジションはレディス・モードかコスメが占める所、本や写真が好きな人ならともかく、世界トップと言われるデパートのこの演出、斬新さを超えた新趣向だ。
この写真本コーナーの隣にはシャンパン・コーナーがある。新しく発売されたサマリテーヌの目玉商品ひとつである。クリスマス前の所為もあるのだろう、買う人が多い。
エスカレーターもあるが、階段を使って上階へとのぼってみた。同じような試みをする人がいるが、若いカップル。すいすいといかにも楽しそうに上へとのぼる。その動きの軽さに、羨ましいなと思いながらようやく最上階に到着した。改めて見下ろす館内の様子は美しく別世界の観である。
実は今回の目的のひとつはサマリテーヌの食品売り場に行ってみる事であった。結果を先に言うと、ブラブラと館内歩きに時間を取られ見つからないままに館外へ出てしまった。
外に出るとサマリテーヌの別館が目の前にある。船の先端を思わせる建物だが、クリスマス・ツリーを置いた入り口がある。ガラス張りの中にスイーツ店があり、客や店のスタッフが見える。この店なんとイタリア・ミラノの名店Cova(コヴァ)。ビックリした。ミラノの店には以前訪れ、お茶とケーキを食べた事がある。良い店だった。
後でわかった事だが、コヴァは2013年からLVMHグループ入りしていたそうだ。パリでもトップ・クラスの場所に出店できたその訳がようやくわかった。この店にはぜひ入って見たいので改めて別の機会に報告したいと思っている。