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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.121 フランス、今年二度目のロックダウン

 先月のレポートで新型コロナ・ウイルス感染者が1日一万人を超えたと書いた。それから僅かひと月後の現在、一日の感染者が5万人を超えているフランスである。第二波襲来で動揺するフランス国民だが、話題は既に第三波に移ろうとしている。

 第三波がどの様な形で押し寄せるのか想像もつかないが、医療機関の破綻、それに対する対応などが含まれる事は間違いないだろう。

 その前には今も一番の課題と言われる経済問題がある。コロナ問題が起こって以来、フランスの経済は落ち込み続けている。この事はフランスに限らず世界各国が共通する課題だろう。コロナを取るか経済を取るかで、不毛の闘いを続ける世界だが、フランスは今、新たな問題をも抱えている。

 事の起こりはイスラム教信者に寄るフランス国内で起こったテロ事件である。元々は2015年に起きたイスラム教徒による新聞社襲撃事件。イスラム教の創始者ムハンメドの戯画掲載に報復する形でイスラム教徒がテロを敢行。数多くの死者を出した有名な事件である。この事については先のレポートでも触れた。

 この時描かれたムハンマドの像を授業の教材に使ったパリ郊外の中学教師が、イスラム教徒の男性に首を切断されると言う、新たなテロ行為が10月に起こった。犯人も警官に射殺されたが、フランスでは大きな問題となった。

 フランスは表現の自由を尊重する国である。マクロン大統領は事件を非難して、改めて表現の自由を擁護した。これには多くの国民も支持している。このテロに関しても10月のレポートでお伝えした。

 

 そんな中、フランス南部の都市ニースの教会内で、イスラム教徒による新たなテロ事件が起こる。刃物によるキリスト教信者三人を殺害した事件である。

 この事にもマクロン大統領が再び強く非難。フランスは民主主義の国、表現の自由を尊重すると同時にテロ行為を非難した。信仰の自由と同様に宗教的批判の自由も尊重すると言うフランスのお国柄である。

 これに対してトルコを始め、多くのイスラム国が抗議運動を展開し始めた。中にはフランス商品ボイコットを始めた国もある。この流れは今後、他のイスラム国にも広がって行くだろう。フランス国内でもイスラム教徒による反動、一部狂信者によるテロを心配する声が増えている。

 イスラム教国への各種商品輸出も盛んなフランス国。ボイコット運動が広がれば経済への影響も更に深刻度を増してくる。フランス国民のイスラム国内での事件被害も心配される。フランスの観光業界は、イスラム国内にホテルなど観光施設を抱える企業も多くあり、今後フランスからの観光客減少も予想される。マクロン政権の抱える問題は大きい。

 

 10月30日から再びロックダウンが始まり、現在一部例外を除き外出禁止状態である。日常に不可欠の食料品や医療関連の店以外は再び営業停止が続いている。レストランなども持ち帰り用の料理は出来るが、店内への客の入店は出来ない。

 外出時はその理由を書き、サインをしての書類携帯も義務付けされている。違反者は135ユーロ―の罰金、繰り返し違反者には最高3750ユーロ(凡そ47万円)の罰金に。日付、時間も記入の為、1枚の書類では通用せず、その都度新たな書類が必要となる。

 実に面倒な事だが、面倒さゆえについ外出を控えてしまう。その面倒さが政府のコロナ対策のひとつかも知れないと思ったりする。とにかく外出を控え、人との接触を避けさせる事が狙いである事は間違いない。

 

 先日、昼食用にサンドイッチ・グレック(ケバブ)を買いに近くの店に出かけた。何時もなら、注文をして出来るまで店内に座って待つが、この日は店の入り口にテーブルを置いて、そこで注文を受けている。

 外に何脚かの椅子を並べ、サンドイッチが出来るまで椅子に座って待つように言われた。仕方なく寒空の下で待つ事に。私より先に来た女性が同じように座って待っている。暫く待つと店のマダムがコーヒーを持参「どうぞ」と言う。

 普段なら2ユーロ取られるコーヒーを無料で提供してくれたのだ。出来上がったサンドイッチの袋を受け取って帰ったが、店側も大変だろうと改めて思った。コッペパンのような形のパンに焼き上がった羊肉と、玉ねぎ、トマトなどを挟んだサンドイッチ。揚げたてのフリッツ(ポテト)が付いて5,5ユーロである。

 これから益々寒くなる。更に雨でも降ったら客足は遠のくばかりだろう。テイク・アウトだけの商いなら普段の売り上げには遠く及ばないと思える。大変な状態だ。

 

 ロックダウンで殆どの店が閉店状態の中、パリの書店で店を開けた所がある。客が店主に必要な本の名前を書いて渡すと、店主が本を探し、入り口まで注文の本を持参して渡し、お金を受け取ると言うスタイルだ。

 「例え違反でも店を開けない訳にはいかない、小さなな店では死活問題、苦肉の策だ」とテレビ・カメラに向かって店主が訴えている。今、フランスでは小規模商店の間で政府への抗議が広がっている。

 今回のロックダウンで営業が許されているのは大手のスーパー・マーケット。理由は主に食料品の纏め買いなどに対応できると言う事らしい。スーパーにはあらゆる商品を揃えているので、食料品以外でも買うことが出来る。

 この事に対して小型小売店が不満の声をあげた。大型店は良くて小型店が営業できないと言う事は不平等である、と。街の小型書店から始まったこの抗議、今やほかの業種にも広がり、違反を覚悟で営業を始めた店が出始めた。

 この動きに政府は大型店の営業を食料品に限って認めると発表。他の商品は売れない事になった。小型商店の営業禁止は従来のまま続いている。

 

 今回のロックダウンに対してフランス政府は一応11月末までとしている。12月はクリスマスと言う一大イベントがある為、各商店にとって最大の書き入れ時、すでに仕入れを済ましてこの日を待つ人達が多い。

 政府としても12月は全ての店が営業できるように対応したいと、コロナ抑え込みに必死である。特に中小企業対策を最大課題と捉えていると言われ、閣議でも色々と検討されているようだ。

 実際、パリの街を歩くと小さな商店の廃業が目に付く。本屋、お土産屋、雑貨屋、花屋などなどいつの間にか消えてしまった。後に残るのは貸店の貼り紙、その数が増えている。

 

ドーナツ専門店 ベスティーズ・ベーカリー

 そんな中で新しく店をオープンした所がある。10月29日、明日からロックダウンが始まると言うので、その前にとパリの街を歩いてみた。最初に向かったのがセーヌ河畔、並木の美しい黄葉を眺めながらノートルダム大聖堂横に着く。普段は観光客で賑わうこの界隈だが、人の姿も疎らだ。

 未だ修復工事の終わらない大聖堂を暫く眺め、モベールミュチアリテ広場の朝市へと向かう。この間にベルナルダンと言う名の一方通行の細い道がある。道の片側が屋根付のまるでトンネルを思わせる状態になっていたり、その反対側には花の植え込みの小さな広場が在ったりと、趣のある通りだ。

 この通りの10番地に新しい店がオープンした。店の名前をBesties Bakeryと言うドーナツ専門店である。本当に小さな構えの、可愛らしく、女性が立ち寄ってみたいと思うような店だ。この道は年に何回か通るが、今迄こんな店があったとは気づかなかった。

 店の入り口上部にバラの美しいアーチ型飾りがある。壁の色は薄いピンクで地味な通りに、1軒だけスポットライトが当たったような作りだ。店内奥に若い女性が座っている。その方に声を掛け店内に入る。

 了解を得て、先ず、店内とドーナツの撮影。ボリュームたっぷり、8種類のドーナツがショーケースの中に納まっている。

 何れもハローインを意識したデザインのドーナツ。後で聞いたが今並べた商品は、ハローイン向けの物との事。ひとつひとつの絵柄や塗りの分量が不揃いだが、その事がより手作りである事を表現している。機械を使って作った物との違い、こういう商品が案外受けるのでは、などと思いながらカメラに納める。

 新しい女性客が来て先の女性スタッフに注文を始めた。狭い店なので、注文の邪魔にならない様店内隅で待機。件の客は色々質問しながらドーナツを選んでいる。何種類か選んだ後パッケージに詰めて貰い持ち帰った。

 会話の様子では、ハローイン・パーティへ持参される様だ。若い人の間では今の状況でもパーティなどが催されるのだと改めて感心する。

 店の奥から若い女性が顔を覗かせたので挨拶。奥が厨房になっているとの事。顔を出した女性が店のオーナーでマダム・スアブさん。早速スアブさんにお話を伺う。

 店がオープンしたのは今から2か月前、夏のバカンス後との事。まず伺ったのは店名の由来。ベスティーズ・ベーカリーのベスティーズはベスト・フレンドの略語なのだそうだ。

 物語風に言えば、ベスティーズ・ベーカリーは旅好き、出会い好き、お菓子好き、女子っぽい事は何でも好きな二人の友達の物語なのだそうだ。

 旅が好きなスアブさんは世界の色んな都市巡りをしていて、色んな都市にドーナツ専門店があり、ドーナツ好きな人が数多くいる事を知る。パリにもドーナツ専門店はあるが、まだまだ数は少ない。

 美味しいドーナツ店があれば、ドーナツ好きな人も増えるのではと、夢が膨らむ。元々お菓子作りが好きであったスアブさん。この事をヒントに研究を重ね、様々なレシピを試し商品を開発する。

 意を決してイギリスに渡りドーナツ作りのスタージュも受ける。帰国後本格的にドーナツ作りを始めたそうだ。

 同時にネットでの販売を始める。オンラインショップで先ずはイベントとスーパーにドーナツを卸し、パリの顧客には直接販売用の「ベスティーズ・ボックス」を設立する。これが結構好評で、店を出す事を決意する。

 家族経営の会社を設立、ドーナツ作りも先ずは家族のみで始める。コロナ問題で色んな店が閉じて行く中、店を始められたのは家族一丸となって物作り、店作りが出来たから。

 都市巡りをした時、美味しいと思ったのはニューヨークとロンドンのドーナツ。良い刺激になったそうだ。とにかく美味しいドーナツを作りたい、それには愛と真心があれば、必ず美味しいドーナツが作れると決意する。

 特に意識しているのは、花とパステルカラーが好きなので、この事をケーキ作りに反映したいと言う。今店に出している商品は明日のハローイン用にデザインした物。お蔭さまでよく売れているそうだ。

 スアブさんの写真を1枚お願いしてみたが、撮られるのは好きでないのでと丁寧に断られた。その代わり店でもドーナツでも自由に撮って下さい、と。チャーミングな笑顔の美しいマダムなのに残念だった。

 

 先にも書いたが、コロナ以降パリのあらゆる通りで閉店する所が増えている。中でも小さな商店が多い。パリと言えばファッションと美食の都。世界のトップ店が数多く集まり、それを目当てに世界中のお金持ちが訪れる。とにかく世界を代表するお洒落都市である事は間違いない。

 これらのブランドを支えているのは、名もない小さな店や工房である。この事はあらゆる業種に言える事だ。フランスは伝統的に小売業、ブティック経営を中心に商業が成り立ってきた国である。

 目立つ事無く、地味、地道な企業や店、工房が、歯車の役をして、有名ブランドを創り上げて来た。華の都パリは、職人社会の集積で成り立つ都でもある。

 ロックダウンの実施で数多くの倒産企業、失業者が出るフランスだが、一方では新しい形の職種も誕生している。そんな中にネット販売で業績を上げる企業もある。

 我が家のある地域の担当をしている、ネット販売会社の配達員ポールさんの話では、外出禁止の今も、朝から晩まで働き詰めとの事。過重労働、人が足りないと嘆いている。

 パリでは宅配業のウーバーイーツが大活躍している。場所によっては自転車や小型スクーターがレストランの前、歩道を埋め尽くす程の数だ。コロナがもたらした新しいビジネスの代表ともいえる。

 ビジネスの在り方がどんどん変化している。コロナ後の課題にどの様に対応していくか。従来の思考では生き残りがきついだろうなと、改めて思っている。

 スアブさんもネット販売からチャンスを掴んだ人、小企業の在り方のひとつを実践した好例と言えるのでは無いだろうか。

 

 今朝のテレビニュースでアメリカ合衆国のバイデン新大統領誕生を報じている。トランプ大統領とは何かにつけギクシャク状態であったフランス国。バイデン大統領誕生には歓迎の意向である。同様にヨーロッパ諸国も同調の様子である。日本の様子、対応は如何だろうか、気になるところである。 

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