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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.120 重なるフランスの厄災

 新型コロナ1日の感染者がついに1万人を超えた。10月10日の発表によると新規感染者が1日2万7千人、驚くべき数になったと報じている。朝、昼、夜のテレビ報道トップは殆どこのニュースから始まる。更にコロナ影響下での経済問題となる。

 先日はたまたまだが、トップニュースがイスラム過激派によるテロ事件報道となった。ニュースではこの事件の現場から中継してその様子を伝えていた。日本でも報道されたかもしれないが、パキスタン系のイスラム過激派がナイフで男女市民を襲い大怪我をさせている。

 犯人は逮捕されたが、18歳のパキスタン系男性と報道。テロの原因はイスラム教預言者の風刺画を新聞社シャルリー・エブドが再掲載した事に在るらしい。2015年にもこの新聞社でテロ事件が起こり12名の死者を出している。その時もイスラム預言者ムハンマドの風刺画掲載が事件の原因だった。

 15年前のこのテロ事件の裁判が今行われている。既に風化されていたと思われていた事件だが、そうでない事を改めて国民にも問わせた。事件の真相がどの様な形で浮き彫りにされるか解らないが、それだけ複雑な背景がある事だけは解る。フランスの複雑な人種、宗教問題を改めて思わせる出来事には間違いない。

 

 新型コロナ問題も、ここに来て第二波を思わせる様な状態になって来た。特に大都市部に於ける新たな感染者が増える事でフランスの6大都市に注意が呼びかけられている。

 南部最大の都市マルセイユでは、レストラン、カフェなど飲食関連の店で再び営業規制が出された。これを受けて市民に動揺が広がっている。既に病院も満杯との事、場合によっては学校封鎖もありそうだ。

 パリでも同じような状態になると飲食関係者も警戒を深めている。客の数を減らし、テーブルを離す、入り口は勿論カウンターなどに消毒液を設置する店が増えている。週末の外出を控える様、政府の要請も始まった。特に高齢者の外出に注意を呼び掛けている。

 こう言う状態で今一番政府が苦慮しているのが、コロナの経済に及ぼす影響だ。休業に対する補償が前回同様出来ない状態は誰の目にも明らか、本当に厄介な時代の到来である。国民もこの怒りを何処に持って行けばよいのかと自縛状態、国を挙げて苦悩するフランスである。

 フランスはコロナ問題発生後、今日まで1,300万回以上のPCR検査を実施していると政府が発表している。

 今回も又コロナ問題を書いてしまったが、フランスの今を知るにこの問題を避けては通れない出来事である。何と言っても一日の新規感染者が、日本の約十倍以上、人口日本の約半分の国での出来事。国民の心配、恐怖はご理解頂けると思う。

 パリに住む日本人の感染者が出て、死者も何人かいると伝え聞く。日本人は感染しても死に繋がる数は少ないと、都市伝説に似たような話が広がる日本人社会であったが、ここに来て身近な事と緊張感が漂い始めている。

 10月5日にはデザイナーの高田賢三さんのコロナによる訃報が報じられた。日本を代表する世界的ファッション・デザイナーである。

 

 政府に又ひとつ新たな負の要素が加わった。熱帯性低気圧アレクス被害、日本で言う台風被害である。2、3日と吹き荒れたこの低気圧による被害はフランス南西部から地中海域に甚大な被害をもたらした。

 洪水、地滑りで堤防決壊、家屋消失、道路、陸橋、鉄路もズタズタになった場所が多く、今救助対応に追われている。現状では被害がどれだけになるか算出出来ない程の額と言われている。自然災害は見た目より多くの被害、損失が出ると言われるので、政府の課題も更に増える事になるだろう。

 

フォンテンブロー、フランス王室歴史の街

 森や街路樹の葉が黄色く色付いて来た。空の色も何時の間にか夏の青から秋の碧へと移っている。私の住むモントローからフォンテンブローへと広大な森が連なる。いわゆるフォンテンブローの森と言われる大地だ。

 その昔、フォンテンブローの森は歴代王様の狩猟の場であった。今でも至る所に鹿、猪出現注意の看板が立てかけてある。今は市民の憩いの場と変わったこの森には、週末になると大勢の人達がパリからもやって来る。今の季節は黄葉を楽しみながら、茸狩りをする人が多い。

 

 フォンテンブローはフランスにとって特別な歴史上の町である。この街にはフランス最大の宮殿フォンテンブロー城があり、ルイ16世からナポレオン3世に至る凡そ700年の間に34名の国の支配者がここで過ごしたと言われている。

 フランスの王政は真に複雑で、色んな名前の王朝、王様がゴブラン織りの様に複雑に入り込み、歴史分類、位置関係が実に覚え辛い。フィリップ、ルイなど王様の名が目まぐるしく交差、更にはナポレオン皇帝などが混じって来る。

 そんな歴史ある宮殿を中心に栄えたのがフォンテンブローと言う街、今でもその名残が各所に見られる。イル・ド・フランス圏、セーヌ・エ・マルヌ県の中心地で、パリからは郊外電車で40分の距離にある。

 私の住むモントローからは三駅、何時でも簡単に行ける距離だが、実はこの1年足を運ぶ事は無かった。何時でも行けると言う事は、なかなか行かない場でもある。今回意を決してフォンテンブロー、ブラ歩きを試みた。

 フォンテンブローの街に来たのは二度目の事である。最初は30年も前、これは宮殿見学が目的で、街を見たのはバスの窓から。宮殿の近くにあるレストランで昼食を取った記憶があるが、場所も名前も思い出せない。ブラ歩きの途中で出来れば寄って見たかった店がある。今回のもうひとつの目的でもある。

 フランス中がコロナの最渦中にある時、レストランや飲食関連業種が休業に追い込まれた事は皆さんご存知の事と思う。そんな中で、色んなボロンテア活動が話題となりメディアで報じられるようになった。

 詳しい日時は思い出せないが、ある日の地方ニュースでフォンテンブローのブーランジェリー・シェフ7名が毎日、町の病院スタッフ、警官、消防士、老人ホームのスタッフなどに無料で朝食を提供。その数、週に1000食分とある。

 と言う事で、何処か1か所でもこれらのブーランジェリーが見つかればと思いながらのブラ歩きである。フォンテンブローは美食の町としても知られる。きっと美味しいパンに出会えそうな期待もあった。

 

Bread & bio(ブレッド&ビオ)

 フォンテンブローの中心地と言えば、グラン通りに面したメリー(市庁舎)がある界隈である。各種商業施設が集まり、レストランやカフェも多い。フォンテンブロー宮殿と言うフランス有数の観光スポット、訪れる観光客も多い。

 そのグラン通りからフォンテンブロー宮殿へと繋がる道がある。両側に各種レストランが並ぶ人気スポット、お昼時は道一杯にテーブルが並び、僅かに開いた空間を歩きながら客が席探しをする賑わいだそうだ。私が歩いた時も席は既に満杯であった。

 このレストラン街の入り口、グラン通りから入ると右側の角にブランジェリーがある。表の看板にBIOの文字があり、更に珍しいBreadと英語で表記。ちょっと興味がわき店を覗いて見た。

 入り口を一歩中に入ると、白塗りの壁に黒で統一したショーケースが並ぶ。ケースの中には如何にも美味しそうな各種ケーキ、パン類が並べてある。

 中でスタッフの女性がひとり働いて居たので「店を見て良いですか」とお願い。感じの良い女性だ。許可が出たので序でに写真撮影の許可も頂く。店内は清潔で未だ新しい作りの観がする。話を聞くと今年3月のオープンだそうだ。

 

 本店はムランの近郊サン・ジェルマン・ラクシスと言う村にあるそうだ。オーナーはジャン・ミッシェル・フレモンティエールさんで2019年3月1日に、パンとタルトを中心としたビオ専門の店をオープン。

 ムランはパリ近郊の町人口約4万人、パリの衛星都市である。パリからは郊外線で凡そ30分の距離にある。

 忽ち人気店となり民放テレビ局M6 チャンネルのLa meilleure boulangerie de France (フランス最高のブーランジェリー)に選ばれ更に注目される。店を開店して凡そ1年後にフォンテンブローに出店と、その経営能力も特出している。

 実はこの店、今回私が訪ねたかった朝食無料奉仕メンバーのひとりが、この店のオーナ、ジャン・ミッシェルさんとの事。まさに奇遇である。話は聞いてみるべきだ。

 パンもケーキ類も実に丁寧に作られている。BIOの商品と言えば、えてして素朴さを演出しがちだが、ここの商品はそんな枠に拘らない良さがある。手作りの味を生かし、見た目も上手く仕上げ、何となく美味しそうに映る。その絶妙のバランスが客に、買って見たい、食べてみたいの意識を促しているようだ。

 パンへの思い、造詣も深く、何れもbioの粉だが、各種(例えばライ麦)粉を使ったパン、更にドイツ、ノルウェーとフランスパン以外の味の物なども焼いて、幅広く客に対応しているそうだ。

 店の一角にエスパース・スナッキングと呼ばれるカウンターがあり、外の景色を見ながら軽食が取れる。クロワッサンとエスプレッソを注文して頂いてみた。パリっ、サクーっとした食感の上品な味、適度の塩分、上質バターの香りが残るクロワッサンは、久し振りに頂いた美味しい物だった。

 私の思い込みかも知れないが、ビオの粉にはやはり独特の風味がある。恐らくバケットも美味しいだろうな、と思いながらも家まで持ち帰る面倒を思い諦めた。その他にも美味しそうなケーキがあるが、次回食べようと思ったのは、美味しそうに焼けた大振りのショコラ・ケーキだった。

 客が次々とやって来る。地元の人と思える中に、如何にも観光客と言った客も混じり、スタッフも忙しそうだ。2杯目のコーヒを注文すると、先の女性に代わり、若い男性スタッフが運んでくれた。この後は暫くこの男性が店の面倒を見るようだ。

 フォンテンブローは歴史ある街だけに、全てがコンサバに見える落ち着きがある。店の作りなどもどちらかと言えば、宮廷趣向のクラシックな所が多い。そんな中にある意味モダーンな作りのBread&bioと言う店は、そのロゴと共に街にある種の新鮮さとインパクトを与えたのかも知れない。

 そう思わせるほどの沢山の客の入りだ。ジャン・ミッシェルさんの戦略は見事に成功したと思えた。機会があったらサン・ジェルマン・ラクシスの本店を訪ねて見たいと思っている。ひょっとしたらジャン・ミッシェルさんに会えるかも知れないの期待もある。

 店を出た後、もう1軒店に寄ってみた。こちらはパティスリー、ブーランジェリーの他にビストロを兼ねた店。今から凡そ30年前、初めてフォンテンブローを訪れた時、ツアー一行でお昼を食べた所が、この店であったような気になり立ち寄った次第である。

 記憶は当てにならず、確証は得られ無かったが、何となく中のインテリア、店の雰囲気は似ている。丁度、新しいケーキを運んできたムッシュが居たので話を聞いてみた。

 リシャールさんと言うこの店のシェフだそうだ。この店を始めたのが今から16年前との事で、30年前の事は解らない 「まだ生まれてなかったよ」と、冗談で返された。

 建物自体は1889年に建てられた物との事、店も何代か代替わりしているそうだ。ケーキの撮影をお願いしたら、どうぞどうぞとの返事を頂いた。

 店内入り口近くにショーケースがあり、各種ケーキがならべてある。作りは丁寧で見た目も良い。オーソドックスなフレンチ・ケーキである。店のスタッフが来てリシャールさんに何事か話を始める。如何やら用が出来たらしい「申し訳無い」の一声を残して奥へと向かったので、こちらも店を辞退する事にした。

 ほんの数時間のフォンテンブロー、ブラ歩きであったが、思ったより居心地が良かった。次回は宮殿回りもしてみたい。

 フォンテンブローには何軒かの日本レストランも在るようだ。後藤シェフがオーナーのラクセルと言う一つ星レストランも在ると聞いている。デザートに力を入れていると言う話なので、コロナ問題が一段落したら訪れて見たいと思っている。

 

 少し古い話題だが、ツール・ド・フランスが終わり、今年の優勝はスベロニアのタディ・ポガチャルが獲得した。21歳の若い選手である。優勝賞金5600万円。前にも書いたが、これだけの人気レースにしては少ない賞金である。

 今年はコロナの影響で出発が8月、最終日が9月20日となった。このレースに付いてはファンの皆さんは既にご存知の事と思う。ツール・ド・フランスと言えばレースに合わせて行われる協賛企業のパレードも毎年話題となる。今年も色んな企業がカーニバル並みに趣を凝らして参加した。

 そんな中でひときわ目を引いたのが、大型スーパーのE・Leclerc(ルクレール)である。ここ数年、bio商品に力を入れるルクレールだが、今回のパレードではbioを面前に打ち出して各種パレード車を参加させた。

 会社PRが目的で各社が参加するパレード、ルクレールのこの対応は、全社挙げて本格的にbio部門に力を入れると言う事。もうひとつの雄、カリフォールもbio対策に全力を注ぐと言われており、今後面白いbio戦の展開になりそうだ。何方が勝っても良い方向に進む事は間違いない。どの様な結果になるか今後が楽しみだ。

 


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