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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.119 人気の兄弟経営店、Huré とE&V

 長い夏のバカンスが終わり、パリに何となく活気が戻って来た様に見える。アメリカ、アジア諸国からの観光客が途絶えた今夏のパリは、例年以上に静かな夏であった。

 普段賑やかな観光名所もガラガラの状態。新型コロナの恐ろしさを目の前に見た感じである。日常の突然の変化に対応する術もなく時が流れたパリの街、私が知る範囲で一番さびれた感の夏であった。

 毎月似たような事を報告しているが、新型コロナ問題は終息の気配が見えない。発生、問題化して既に6か月以上が経つ。人間の慣れとは恐ろしいもので、新規感染者の数が増えてきても、それが当然の事と思えてしまう。

 感覚のマヒ状態を認知しないままに日常化する自分が居る。心に恐怖を抱えた状態で過ごす毎日は、知らず知らず心身を蝕んでいく。今そんな状態である。恐らく多くの人が同じ状態にあるのでは。半年前、この摩訶不思議なビールスが、市民生活にこれほどの影響を及ぼすとは思いもしなかった。

 8月28日、政府は新たな感染者が7379人と発表した。一日の感染者数である。恐らくバカンス中に罹った患者数と思われる。解放感からマスクを着用せず、ソシアル・ディスタンスも気にしないで過ごした事などが、その原因と言われている。

 テレビなどを見ると、確かに避暑地でのディスコテックやコンサート会場、海水浴場での人の動きは自由奔放、コロナを心配している様には見えない。

 この事で政府保健省では、今迄許されていた外でのマスク無し通達を廃止し、戸外でのマスク着用を義務付けした。パリなどはほぼ全域のマスク着用である。より一層のコロナ対策強化となった。

 一日凡そ7千人の新規感染者となれば、流石に我が身が心配になる。緩みかけていた緊張も再度高まって来た。また又自宅籠城を余儀なくされるのか。外出控えが更に延長されると、日常生活にも直接影響が出る。

 再び外出禁止、各種営業停止などとなると、経済活動に更なる悪影響を及ぼす事は間違いない。政府としては一番避けたいシナリオ、どの様に対応するのか市民の関心は高まる一方である。

 

 前回も少し触れたと思うが、新型コロナ発生で緊急事態宣言が実施されたのが3月。その後、食品関連、薬局以外の企業が政府指導で休業、外出も制限となった。あれから半年が過ぎた。

 7月11日からこの宣言が解除されたが、新型コロナが終息した訳では無い。9月に入った今でも色々と制約があるフランスである。バカンスが終わり、感染者が再び増加している。それも爆発的と言えるほどの増加状態だ。

 夏のバカンスが始まるのは大方7月。フランスでは7月14日の革命記念日を境に本格的なバカンス入りが始まる。今年も例年同様この日を境に大勢の人々が海、山へバカンスへと出掛けた。

 3月から始まった緊急事態宣言で殆どの企業、商店が営業停止となったので、凡そ4か月ないし5か月休業状態であった。これだけの期間休業が続けば、バカンスを無しにして営業再開、休業期間の損失回復を図るだろうと思っていたが、豈はからんや、殆どの人がバカンスへと出かけた。何とも不思議なフランス社会である。

 勿論、それに至る今年の夏の複雑な社会事情もある。その第一は海外からの観光客が来なくなったと言う事、2018年のパリを例にとると域内総生産の凡そ10%が観光収入となる。金額にして217億ユーロ(邦貨にして凡そ2兆7千億円)、50万人の雇用者数のデーターもある。

 今夏パリを訪れた観光客はその殆どがユーロ域内から訪れたと言われている。実数が出るのはこれからだが、例年に比べ観光分野では60~70%減と言われる。

 商店などは営業しても客が来ない、仕方がないから休業してバカンスに出かけようと思う人が多かったと言われる。更にバカンスを取るのはフランス人の当たり前の行為、と意識の中に刷り込まれた人も多い。何しろラテン系の国民と言われるお国柄、我々のメンタルとは相当の違いがある。

 

 

ブーランジェリー・ユレ Huré

 時々マレーに出掛けるのでユレがある事は前から知っていた。ランビュトー通り、メトロ・ランビュトー駅からフラン・ブルジョワ通りへと向かう商店街。この通りには食に関する興味ある店が多い事で、その分野のジャーナリストが足蹴く通うと言われる。

 と言う事で、この稿でも過去に何店か紹介した店がある。例えば、ショコラとブリオッシュが有名なプラリュやパンとケーキが人気のパン・ドゥ・シュークル。更に日本製食パンで話題となったキャレ・パン・ド・ミ、美味しい焙煎珈琲の量り売り、数席あるだけの専門店で、パリで一番小さいカフェと言われる店など。ひょっとしたら皆さんの記憶にあるかも知れない。

 人気のイタリアン食材店もあるがこの店は未紹介。何時か訪ねて見たいと思っている。他にも魅力的な惣菜店もある。

 そんな店が並ぶ中にあるのがブーランジェリー、パティスリーのユレ。久し振りに覗いて見た。そしてその賑わいに少し驚いた。とにかく客がひっきりなしに訪れる。

 この通りで人気のブーランジェリー、パティスリー店と言えば、2004年創業のパン・ド・シュークルがある。ディディエさんとナタリーさんのカップルが経営する店。創業後忽ち人気店となり、この通りの名店と言われるようになった。

 この後に出来たのが今回訪ねたユレである。人気店のある通りに同じ業種が店を開いて大丈夫かなと、思ったのがオープン当時の私の正直な気持ちであつた。

 とは言え、人気店になる兆しはあった。先ず製品の出来栄えの良さ、各種パンやパティスリーが何れも美味しそうに見える事、店全体に活気がある事、そして店舗デザインがお洒落でありながら入りやすい事などである。

 実際、この年のクリスマスケーキはこの店で買ったが、期待通りの美味しさであった。久しく遠のいていた店だが、マレーに行く用があり、ついでと言う感じで今回寄ってみた次第。訪れて改めてその賑わいに驚かされた。

 バカンスの最中であったので、スタッフも大忙しさの様相、店のチーフと思えるマダムは額の汗を拭きながら客に対応している。マスク着用して忙しく動き回るマダムに撮影許可を取るのが精いっぱいの訪問となってしまった。

 ある程度暇な時間帯を見越しての訪問であったが、明らかにこちらのミスである。マスク着用で次々と並ぶ客への対応中、その合間での立ち話であれば、聞きたい事の半分も聞けない。電話のベルが鳴ったのを折りに店の写真を撮らせてもらった。

 

 ブランジェリー、パティスリー、ユレは、ユレ兄弟が始めた店。兄のギヨームさんと弟のカンタンさんでの経営だそうだ。現在パリ市内に5軒の店がある。3区、4区、5区に13区と精力的に店を拡げている。

 私の知るユレはランビュトー通りの店だけ、他の店には行った事がない。機会があったら他の店にも行って見たいと思っている。

 2015年、恒例のパリ・バゲット・最優秀コンクールでユレは第3位を獲得した。この事でブーランジェリーとしての人気、知名度が上がったそうだ。ここのパンはビオ製粉を使用しており、この事でも上手く時流に乗っている。バゲット以外のパン種類も多い。

 パティスリーの評判も良い。見た目の美しさ、味の良さ、適度な量と何れも神経の行き届いた菓子作りをしている。前にも触れたが、ここで一度クリスマス・ケーキを買った事がある。ショーケース一杯に飾られたケーキの数は、他店を圧する見事なディスプレーであった。通りを歩く人が思わず立ち止まり、ショーケースを見る。そんな飾りだった。

 躍進中である事をお客にアピールする見事な演出で、集客効果抜群と思えた。結果は今日にあり、その勢いは更に増した感がある。バカンス中でもあり、パンやケーキ類の生産数は抑えているそうだが、店は活気に溢れていた。

 近くのパン・ド・シュークルがバカンス休業中。と言う事もあり、そちらからの客の流れもあるのだろう。途切れることなく客が訪れる。

 訪れる客の様子を見ると、地元の人が多い。普段ならこの界隈は観光客も多く、それに依存する店も多いそうだが、それ等の店は例外なく今苦戦中である。そんな中でユレの地域密着型戦略は見事である。

 新型コロナ問題が深刻化してから、力を入れているのがサンドイッチなど、持ち帰り商品の充実。新型コロナの影響で家で食べる人が増え、サラダなどの売り上げも増えている。サンドイッチも色々工夫を加え、種類を増やした。

 

 夏のバカンスが始まると、パリのブーランジェリーは近所の同業者と話し合いの下、交代でバカンスを取る。7月はお宅で8月は内と言った具合に休み分けをする。他の業種でこの様なシステムを取るのはパリを例にとると薬局位だ。

 新型コロナ問題で政府が各種商店の営業規制をした折も、このふたつの業種は営業が認められた。フランス人にとってパンは生きる事の要、それほど重要な職種である。

 パリの街ブラ歩きを試みたこの日も、客が次々と訪れる店はそれほど多くない。ユレなどは例外店と言えるだろう。主食に関わる店の強み、改めてそう思う。

 ユレの写真を撮り終え、お礼の挨拶をして店を後にした。気持ちの何処かに物足りなさが残るのは、満足に取材できなかった悔恨である。

 この後、近くにあるユダヤ歴史美術館に行って見る。凡そ1時間半の見学、色々と興味ある文化遺品、絵画などを堪能した。若しユダヤ人、ユダヤ文化に興味をお持ちなら是非お勧めしたい美術館である。

 美術館を後にマレー界隈を少し散策して、アールゼメチエへと向かう。先のユレは兄弟経営の店。同じ様に兄弟経営のブーランジェリー、パティスリーで成功している店があったのを思い出し、足を運んでみた。

 

 

ブーランジェリー・パティスリー、エルネスト&バレンタン E&V

 2015年、パリの最優秀ブーランジェリーに選ばれた事でこの店の事は知っていた。初めて店に行った時、クロワッサンとパン・オ・ショコラを買って、近くにあるアールゼメチエー博物館の庭で食べた事も覚えている。

 この博物館は職能技術に関するあらゆる粋を集めてあり、科学好きな人には見逃せない場である。素晴らしい事はフランス人に限らず、科学工芸分野にに貢献した方々の発明品などを数多く展示、収蔵している事である。

 正直言うと、この分野に全く疎い私でも興味深く見学できた。実に貴重な博物館だと言える。そこの庭にある自由の女神像はニューヨーク、リバティ島にある女神像の原型として有名。自由の女神に関する資料、模型などは館内展示室でも見る事が出来る。

 話を戻すが、そこの庭で女神を見ながら食べたクロワッサンもパン・オ・ショコラも美味しかった。アールゼメチエ駅の近くにパリでも古い中華街がある。規模は小さいが密度の高さでは他の中華街を凌ぐものがある。と言う事でこの界隈には買い物がてら良く出かける。

 その折、何度かE&V店に寄った。何時行ってもレジ前に列が出来る賑わいである。場所的にはブーランジェリーに適しているとも思えないが、パリで一番と言う称号はやはり大したもの。最初に店に行ってから5年以上が経った今でも人気は衰えていない。

 ブラドレーとローガン・ラフォン兄弟で始めたE&Vは現在パリ市内に6店舗の店を経営していると言う。2012年にふたりでパン屋の経営にチャレンジして8年、着実に業績を伸ばしてきた事になる。

 この兄弟はパン屋を始める前、別業種で働いていた。2012年パン屋の経営にチャレンジする事を決め、色々な有名ブーランジェリー、パティスリーで修行を積む。ブラドレーはパン作りを、ローガンはお菓子作りと目標を決めて、それぞれにCAP(ディプロム)を取得する。

 祖父の名前を取り、エルネスト&ヴァレンタン社を設立、2013年パリに店をオープンする。設立2年後にはパリの最優秀ブーランジェリーの称号を獲得した。

 ユレでは客の信頼を得るようにと、パンの製造過程全てを店内で見える様、店舗設計をしたそうだ。更に食の安全をとビオの粉を使用してパン作りを続けている。

 今回店を訪れたのは先にも記した様に、夏のバカンスの最中である。1年中で一番客が少ない時季、前回訪れた時より客数も少なかった。更に午後と言う時間帯、ショーケースに並ぶ商品の数も減っている。

 当然の事だが、ここでも生産調整をして、全ての商品数を減らしているそうだ。普段よりスタッフの数も少なく見えた。

 各種パンの美味しい事は言うまでもない。パンの種類も多い。中でも嬉しいのは伝統的なパンを作り続けている事。今では忘れ去った、作っても採算に合わないといった種類のパンをここでは作り続けている。パン職人の心意気を感じさせるパン作りである。

 お菓子の方でもこの姿勢は変わらないようだ。フランス・ケーキの伝統を保ちながら、新味に挑戦する姿勢は流石と言える。そのアイデアの妙も客の好奇心をそそるものがある。この店の人気菓子のひとつにフランがある。

 普通フランは大判の物を作り、それを切り分けして店頭に並べる店が多い。フランス菓子の代表的な一品でその食感と強い甘味を好む人が多い。実を云うと私はフランを買う事は余りない。あの食感と強い甘味が苦手と言える。

 我が家では何の因果か息子がこのケーキが好きで、時々買ってくる。如何にも美味しそうに食べるのを、こちらは眺めるだけ。食の好みは人によりそれぞれだ。

 このフランをE&Vではアイデアを凝らし、高級感を演出している。円型木枠の容器に小型のフランを納め、一個一個と独立させて販売、カマンベール・チーズの様なフランを作った。ちょっとしたアイデアだが、受けが良く店の代表作のひとつと言われている。

 ここでも昼食用、持ち帰り用のサンドイッチ類に力を入れている。新型コロナが起きてこの分野に力を入れるパリのブーランジェリー。どの店でもサンドイッチ、サラダなどの種類や量を増やしている。この傾向はこれからも強まるだろう。

 今回は2軒の兄弟経営店を訪ねた。何れも成功店として業界で注目されている。店舗も5店、6店と拡張して勢いに乗っていると言えるだろう。新型コロナで今迄の常識が通じなくなった社会情勢、食の分野でも色々と変化が出始めている。

 終息が見えない状況の中、パリの街でも廃業の貼り紙が急速に増えている。中でも飲食関連の店で廃業が多いのが気になるところである。幸い私が見た範囲ではブーランジェリー、パティスリーで店を閉めた所は未だ見えない。今回紹介したふたつの店が、この難しい時代を、どの様に乗り越えて行くか、今後に注目したいと思っている。

 

 フランスでは新学期が始まるのは9月。長い夏休みが終わり大学以外の学校が一斉に始業した。通学する生徒たちの姿を見ると何となく心休まる思いがある。

 一向に終息しない新型コロナ対策に、政府は大人は勿論、中学、高校生にマスク着用を義務付けした。今の段階では小学生は例外としているが、マスク着用している小学生も多い。そう言えば広場で遊ぶ幼児でマスク着用の児も増えている。

 9月8日現在、フランスの新型コロナ感染者は1日7千人を超える。日本の人口の約半分でこの数はやはり異常と言える。現在、国民にマスク着用を義務付け、違反者には罰金を科するなど、対応に怠りは無いと思うが、それでもこの数、コロナの恐ろしさを身近に感じる毎日である。

 

 


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