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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.107 ルクレールのブーランジュリー

 バカンスの真っ只中である。毎年8月になると、同じような事を書いてお届けしているが、パリから市民が少なくなった。多くの市民が避暑地や国外に出てバカンスを楽しんでいるのだ。勿論バカンスに行けない人達がいる事は言うまでも無い。
 その一方、オペラ界隈、サン・ジェルマン、マレー地区など盛り場のカフェやレストランは、どの店を見ても観光客に席を占拠された状態になっている。とは言え、一歩裏道に入ると開店休業状態のレストランやカフェもある。観光客の目に届かず、常連の方達がバカンスに出かけたためだ。
 私の行きつけのカフェ・レストランも閉店中だ。パトロンがバカンスを取りコルシカ島に行ってひと月休業、毎年の事である。コルシカでは飲んで、食べて休んでの毎日であるらしい。このバカンスをとる事でリフレッシュ、次の1年を頑張れると言う。長年の伝統とは言え羨ましい長期休暇である。
 

 今年の6月と7月には突然といった猛暑に襲われたフランスだった。幸い短い期間で終わったが、7月ある日の暑さは42℃を超えた。70年振りの猛暑と言われている。バスのつり手握りや座席も熱くなるほど、とにかく暑いという表現しかなかった。
 おまけにパリの各所が工事で交通事情も最悪状態が続いている。観光客泣かせの今夏だ。恒例の工事に加え、オリンピック用の各種工事が始まったせいである。
 バカンスが始まりパリの主要駅は大混雑の日が続いた。特にリオン駅やサン・ラザール駅は山や海へと向かう人達が殺到。列車によっては東京のラッシュ時の様相であった。8月に入りようやく落ち着いた感があるが、それでも駅の混雑は続いている。
 8月始めのある日、用があってノートルダム大聖堂近くのモベール・ミュチュアリテ広場に行って見た。この広場には毎週末朝市が立ち、市民や観光客が大勢集まる。市場のない日でも広場周りに良質の物を売る店が在るので結構賑わう。
 私が行った日、広場の店は殆ど閉まっていた。八百屋、魚屋も夏休みの張り紙がある。毎日行列の出来るブランジュリー、メゾン・ディザベルも休業中。その店前に人が立っているので、暫く眺めてみた。休業中に関わらず次々と観光客がやってくる。
 メゾン・ディザベルは18年クロワッサンで最優秀を獲得した店。瞬く間に人気の店となった。おそらく世界中のガイド・ブックや口コミで紹介されているのだろう、訪れる人も色んな国の人達だ。それぞれにスマホを手にしている。評判をとると言う事こういう様子を言うのだろう。改めて情報の力を再認識した。
 正式名称はメゾン・ディザベルだが、これはフランス語での表記法。日本風に言えばメゾン・ド・イザベルといった感じだろうか、要はイザベルの店ということである。
 広場を挟んでブランジュリー、ラ・パリジェンヌがある。この店も数年前バケットで最優秀賞を獲得した。クロワッサンも美味しい店である。一時はバケットを買う客で行列が出来た。イザベルが出来て多少客を奪われた感があるが、今でもこの店のパンに拘る常連客は多い。
 この店にはテラス席があり、ここを利用する人も多い。私も先日この席で焼き立てのクロワッサンとパン・オ・ショコラ、コーヒを頂いた。これだけ買って3,70ユーロと値段も安い。新聞持参で朝食を取るお年寄り客も多かった。セルフ・サービスなので人件費も掛らないだろう。近くの駅前カフェでコーヒーを飲むと3,20ユーロ取られる。どちらを選ぶかは別としてテラス設置は良いアイデアと思った。
 バカンス中の今、パリのブーランジュリーは通常の半分しか店が稼働していない。パティスリーも同様だ。その欠けた分を補っているのがスーパー・マーケットである。どのスーパーでもパンやケーキのコーナーは普段の月の倍は売り上げがあるようだ。

 

 モントローは人口2万2千人の町だが、大きな郊外型スーパー・マーケットが2か所ある。カルフールとルクレール。フランスを代表するスーパーマーケットである。ルクレールは場所も近く、品揃えが豊富、フランスで一番安いとコマーシャルで謳うだけに物が安い。そんな理由で我が家はではこちらのスーパーを利用している。
 と言う事で今号はスーパーマーケット、ルクレールのブランジュリーとパティスリー・コーナーを紹介してみたい。とにかくルクレール自体の建物が巨大だ。日本のショッピング・モールと同じように見えるが、違いは建物の中に映画館などの娯楽施設が無い事だろう。その分、回りには各種大型ブティックやレストランなどの建物が並ぶ。
 ルクレールのブーランジュリー・コーナーもとてつもなく広い。実測した訳では無いが長さ凡そ70m、幅も30mはある。その広いスペースに棚やテーブルが並び、そこに色んな種類のパンやケーキがぎっしりと展示販売されてある。
 大量の商品は当然、機械化されての大量生産だろうが、出来上がった商品は丁寧に作られてある。コーナー上部の大型スクリーンにはこの部門のシェフが商品を制作している様子をビデオで流している。客への信頼、サービスPRも上手だ。48時間前なら特別オーダーも出来るそうだ。
 ケーキの種類も多い。定番物から季節の果物をふんだんに使った物など、見た目の演出も工夫されてある。ケーキなどは小さい物から6-8人用、更に大型は10-12人用と対応、客のニーズに巧く応じている。値段も街にあるパティスリーより安く、6-8人用で17ユーロ前後が平均値である。
 パンの種類も多くて安い。材料も普通のパン粉からビオの物まで、商品によって使い分けてある。バケットは安い物で40サンチーム、トラディッションで98サンチーム。サイズにより多少値段の違いがある。
 1本売りもあるが、一袋3本、大袋で6本入りが人気。時間によっては同じ値段で2本入りの袋に1本のサービスが付く。閉店前の時間帯は更にサービスがエスカレート、その為纏め買いをする人も多くなる。
 こういった販売方式は、ルクレールを利用する消費者の家族構成、生活環境に対応したものと思われる。ちなみに味に関しては、パンやケーキも街中のブーランジュリーやパティスリーで売られる物と遜色なく、結構美味しい物が揃っている。
 モントローと言う町はある意味、移民の街でもある。住民にはアラブ、アフリカ系も多く、その多数はイスラム系である。普通のフランス人家族に比べ子供も多い。
 大型のケーキや大袋入りのバケットなどが、次々と売れる背景にはこんな理由があるようだ。更にパンなどは数日保存しても、余り気にしないという食習慣もあり、買い溜めをする家庭が多い。
 この町は人口の割りにブーランジュリーが多いと言われている。住民、特にお年寄りは郊外のスーパーより、近くの店で買う人が多いそうだ。長年の付き合いもあるのだろう。大型スーパーに抗して、これらの店が成り立つのはこんな理由もあると思える。
 私個人としては、職人が作るパンやケーキが好きである。と言う事でスーパーでの纏め買いはせず、近くのブーランジュリーやパティスリーのお世話になる事が多い。機械化され、大量生産される商品を否定している訳では無い。小さいながらもそこに岐路を見いだそうとする職人技、作り手と買い手のちょっとした繋がりが好きだと言う事である。出来るだけこの思いを持ち続けたいと思っている。


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