Vol.104 久し振りのフォワール・ド・パリ

 長年住み慣れたパリからモントローに移り住んでひと月が過ぎようとしている。パリ郊外、フォンテンブローに近いモントローは人口2万2千人といわれる田舎町である。

 パリからは郊外電車で凡そ50分の乗車。パリで働く通勤者も多い。と言う事でパリへは気軽に出かけられ、移った後も度々足を運んでいる。思いついてのバタバタ移転、荷物の整理もつかないままカミオンに積んで引っ越し。と言う事でこちらモントローに着いても未だ部屋の整理も出来ない状態である。町の様子も良く解らないが、少しづつでも慣れようと思い時間を作って外に出る事にしている。

 先日、街で開催中のフォワール・ド・モントローに行って見た。復活祭休みの最中で年に一度の移動遊園地を開催。多種多様の遊戯施設が建ち並び、大勢の市民がそれぞれの施設で楽しんでいる。昔なじみの綿菓子を手にした幼子、チュロスを揚げる前で順番を待つ家族、ベンチでサンドイッチを頬張る若いカップルとお馴染みの祭りの場が展開。楽しそうに時間を過ごしていた。

 この移動遊園地に併設して市の主催でイベントを開催。モントローにある各種企業、商店の参加で商品展示、即売会である。保険、証券会社のテントもある。普段行かない、用がない店や会社がどの様な運営営業をしているのか。ここでお互いに知り合う機会をとの粋な計らいであるらしい。大小テントが建ち並ぶ広場の一角では、中古車や中古芝刈り機などの販売をしていた。この街の新参者にとっても有難いイベント、街を巡る前に大体のあり様が掴めて参考になった。

 

 モントローのフォワールに刺激を受けた訳でもないが、開催中のフォワール・ド・パリに出かけてみた。本当に久しぶりと思えるほどご無沙汰していたことになる。40数年前パリに移り住んでから、このお祭りには出来る限り出かける事にしていた。

 場所はパリ市のポート・ド・ヴェルサイユにある国際展示会場である。このイベントに関しては何年か前にこの稿で紹介した記憶がある。ここ数年ご無沙汰した理由は、イベント全体のマンネリ化と余りの商業主義に些か嫌気がさしたことにある。

 フォワール・ド・パリはパリでも歴史あるお祭りイベントの代表格。大勢の見物者が集まる事でも知られている。今回も雨日に関わらず大勢の人出だった。五つの巨大建物に分かれた会場は家具インテリア、美容・健康、食品及びキッチン用具、インターナショナル、ドム-トムなどのイベント会場になっている。

 家具インテリアや美容健康の会場はパスして、食品関連、インターナショナル、ドム-トム会場の展示、販売を中心に歩いてみる。一番大きな建物で開催されている食品コーナーではフランス各地から集まったワイナリーの試飲、販売ブースに大勢の人が集まっていた。入場者の一番の関心は、やはりこの食品館のようだ。

 ボルドー、ブルゴーニュ、ロワール、アルザス、プロヴァンスと有名産地の作り手が夫々にスタンドを持ち、試飲をしてもらいながら、注文を取ると言う方式。勿論余り知られていないレジオンからのワイナリー出展もある。あるワイン好きに言わせると、こういう産地で旨いワインを見つける事こそ、ワイン通の醍醐味であるらしい。気にいると注文書に記入。後日送ってもらう人が多いようで、当日持ち帰りの人は少なく見えた。大手ワイナリーより小さなワィン農家の出展が多い。フランス人にとってワインはやはり日常生活に欠かせない物と言う事が良く解る。

 フランス各地の物産売り場も相変わらずの人気ぶり。リオンのハム・ソーセージ、バスク地方の昔ながらの素朴なマカロン、アルプスのチーズ、アルザスはフォアグラや白ワイン、ブルターニュからはシードル、クレープ、ノルマンディーのバターを始めとした乳製品などなど、普段パリで見かけないメーカーの物も多くあり、個人的にも興味をそそる。

 こと食品に関しては、地方物産は昔ながらの、伝統的と言われる商品が多く、良く売れている。このイベントに集まる客は地方出身者が多いと言われる。それぞれの出身地ブースで懐かしい味を楽しむと言う事なのだろう。私も日本の地方出身者なのでその意識が良く理解できる。

 以前にも書いたが、会場には特設レストランが設けられ、フランス各地の地方料理を提供している。アルザス・ロレーヌ地方の名物と言えば、やはりシュクルート。ブルゴーニュはブッフ・ブルギニョンにエスカルゴ、リヨン地方はクネールと各種ソーセージ料理、ロワールは鴨料理、ノルマンディやブルターニュの生カキ、海鮮料理とお国自慢の料理を用意してテーブルはいずれも満席の状態である。

 夫々の地ワインが飲まれ、デザートは地方菓子と、お国柄ならではの光景だ。美味しいワインが採れるアルザスだが、客の殆どはビールを飲んでいた。この地方は美味しい地ビール・メーカーが多い。民族衣装に身を包んだスタッフも汗をかいての重労働である。昼間から大盛り上がりの様相、とにかく賑やかな場が出来上がっている。

 

 インターナショナル&ドムトムの館も入場者が多い。一部を除き、見方によってはノミの市を建物の中に作った様な場になっている。ノミの市ではアンティークや中古品の売買が主に行われるが、ここで売買される商品は新品のみ。インターナショナル・バザールと言った感じだ。出展者もロシアを始め東欧、アジア各国、中南米、アフリカ、商品も民芸品、衣装、アクセサリーなどなど、国際色豊かだ。今回はアメリカン・ドリーム・マーケットと銘打った特別コーナーでアメリカの各種メーカーが出展していた。

 モロッコは政府観光局が特別ブースを作り、スタッフを派遣して観光客誘致を、更にサンダルや飾り細工の職人によるデモンストレーションと力を入れている。中国は湖南省の特別ブースで独自の出展、省の各種物産PRを展開していた。

 

 フランスは本国以外に領土(通称、海外県)を数多く有している。ドム-トム(DOM-TOM)はその総称である。その範囲は太平洋、大西洋、インド洋、南アフリカ、カリブ海に及ぶ。タヒチ、ニュー・カレドニア、グアダループ、マルティニーク、仏領ギアナ、レユニオン、マヨットなどお馴染みの所だ。これらの地域では言語もフランス語が用いられている。

 今回のフォワールにもこれらの地域殆どから出展があった。共通するのはほんの一部を除きアフリカ系、又はポリネシア文化の影響が強く、出展している方々の肌色も白人とは異なる。独特のコスチューム、音楽、食文化を持ち人柄も長閑で陽気、アルコール好きで興がのると忽ち踊りの場ができる。

 飲食関連のどのスタンドでもラム酒が並び、忽ち酒席の場が出来上がる。と言う事で物産と言えば先ずはラム酒、更にサトウキビを材料とする各種食品。アイスクリームや絞り汁を使ったカクテルなども人気がある。その他香辛料や香り高い花を使ってのコスメ関連の物が多い。タヒチから出展の真珠メーカの前にも大勢の人が集まっていた。

 ドム-トム出展県によっては、各種アンケートの応募者に抽選による往復航空券を提供する所もある。これを楽しみに訪れる人も多いそうだ。

 ここのブースで一番の売れ筋は何と言ってもトロピカル・フラワー。色鮮やかな大きな花束を抱えて会場巡りをする人がやたらと多い。パリやその近郊にも沢山のドム-トム出身の方達が居住している。先祖がドム-トムと言う人も多く、今回のフォワールにも大勢の人が訪れていた。

 開催期間には色んなイヴェントも開催される。今回も唄やダンスのパフォーマンスで賑わったそうだ。日曜大工などと言う面白講座や料理講習もある。

 時間も夕方になり会場を後にする。ゲート近くで花束を抱えたナタリーさんに出会た。パリのサンジェルマンにあるスーパー・カルフールに勤務する知り合いで、レユニオンの出身。休みを利用してフォワールを楽しみにに来たと言う。

 

 マンネリで商業的と思ったのは、ひょっとしたら私の思い込みでは。楽しかったと言うナタリーさんの話を聞いてふとそんな思いがよぎる。遠く離れた生まれ故郷の音楽を聴き、ラム酒入りのカクテルを飲み、美しい花束を買って家に持ち帰る。15ユーロの入場料を払っても損したとは思わない人が居る。

 フォアールのオーガナイザーはこういう人達の意識を熟知しているのだろう。今年で118年目を迎えたフォワール・ド・パリだった。