小川征二郎のパリ通信


Vol.102 サン・バランタンのショコラ

 店頭からガレット・デ・ロワが消え始めると、バレンタインのショコラが登場と言うのが2月のパリ。と言う事を思い出しながら2月の初め、パリ市内のパティスリーやショコラトリーを回ってみた。
 先ずは近場からとオデオン駅に近いパトリック・ロジェ―の店を覗く。沢山の客で賑わっていた。季節折々の行事に合わせて、面白くダイナミックなショコラ彫像で客の目を楽しませてくれるパトリック。今年もさぞかしと期待したが、ショーウインドーには何やら浮彫を施した角柱がドーンと置かれ、その周りに花びらが散らしてある。この花びらも四角い柱も材料がショコラである事は言うまでもない。

 バレンタインを意識しての作品なのか、単にアートとしてのオブジェなのか解らないのがこの人らしさでもある。こうなると同じ系列の別店も見たくなる。日を改めて出かけて見よう。

 次に行った店はジョルジュ・ラルニコール、パリに4~5軒ある中のオデオン店。色々面白キャラのショコラを作り、店頭に飾る事で、若い女性や子供にも人気がある。ブルターニュ地方レンヌが本店。M・O・Fの称号を持つ店だが、作られるお菓子は到ってカジュアルな感じ。恐らく量り売りのイメージから来るものだろう。

 店頭に飾ってあったのはエジプトのツタンカーメン像。こちらも大量のショコラを使った物。バレンタインとは関係無いと思うが、来るお客殆どが写真撮影をしていた。お国柄と言うのか、この店ではブルターニュの漁船の形をしたショコラ飾りが多いが、今回も登場している。

 こんな感じで店回りをしていても、バレンタインらしいディスプレーになかなか出会えない中、サンペール通りのドゥボーヴ・エ・ガレに行って見る。この店はウインドーディスプレーに拘るので何時も楽しみにしているが、今回も楽しい演出でお客の期待に応えてくれた。

 絢爛豪華と言えば少し表現がオーバーになるが、華やかなショーウインドーが出来上がっている。この店の豪華本を思わせるパッケージは高級感あふれ、老舗店のイメージにピッタリ。今回もこのパッケージやバレンタイン定番となったハート型を使って豪華に仕上げている。バラの花を描いたビーズ刺繍入りの華麗なパッケージは女性に評判が良いそうだ。こうい演出を見ると気分も高まるから不思議だ。何れもパッケージ・コレクターにとっては見逃せないデザインである。

 

 日を改めて右岸の店を回る。商業の街と言われるようにバレンタインを意識した店舗が多い。ギャラリー・ラファイエットやオゥ・プランタンなどが並ぶオペラ界隈のショコラトリーのディスプレーは見事、左岸の店と比べ華やかである。買い物客のメッカでもあり、特に観光客が多い場所柄だけに大勢の客で賑わっていた。

 ギャラリー・ラファイエットの食品館は、有名ショコラティエやパティシエが出店している事で人気があるが、ここでもピエール・エルメ、ピエール・マルコリーニ、サダハル・アオキなどが、バレンタイン向けの商品構成で客を集めている。

 大勢の客で賑わう店と言えば、何といってもLindt(リンツ)。オペラ座横、ユニクロ1号店近くにオープンした店だが、売り場の広さ、商品の多さで特に観光客に人気が高い。1845年創業スイスの老舗ショコラトリー、何時も大賑わいの店である。日本にも店があると聞いた事があるので、ご存じの方も多いと思う。価格もリーズナブル、物によっては量り売りもしている。バレンタイン用の商品構成で観光客のお土産に的を絞った感じ、店内は各国の言葉や人が入り混じっていた。

 

Bostani ボスタニ

 オペラ界隈に来たついでに、以前から気になっていたオペラ通りにある、ショコラ店のボスタニに寄ってみた。この通りには何軒かのショコラ老舗店があるが、そんな中に2年前新たに参入したのがこの店である。

 ガラス張りの外観、外から店内の様子が見えるが、明るく清潔なイメージ、見るからに感じが良い店だ。2人の女性スタッフがいたので責任者と思える方に撮影の許可をもらう。先ずは店内の撮影から。白を基調にした店舗の設計、最初に感じたのは清潔感溢れる売り場だと言う事。更に店全体が明るくモダン。パリに数あるショコラ店では珍しい店である。ヨーロッパ風の作りと言うより、インテリア展示会場のショールームで見かける、新しい店の設計を思わせる作りだ。

 そんなイメージはパッケージデザインにも表れている。この店はバラの花を全体のコンセプト柱に用いているが、パッケージにもバラの花を用いたものが多い。白とピンクのカラーバランスが良くとれている。

 商品構成は主力のショコラやマカロンを中心にマロン・グラッセ、ドラジェなどもある。スタッフのお薦めでトリフを一粒頂いたが、柔らかい歯触りと程よい甘さのバランスが実に良い。マロングラッセなどは他の専門メーカーとのコラボであるらしい。

 シーズン物としては、夏場のアイスが好評との事。注文に応じて何種類かの物を店で作ってくれるそうだ。他の店では味わえない物と自慢されていた。

 パリにある店はここだけだそうで、工場がベルギーにあるある事も知らなかった。中東2カ国には数店があるそうだが、日本には未だ出店していないそうだ。定かでは無いがアラブ資本による会社ではとも思える。この事については店の方も詳しくは解らない様子。ホーム・ページを見て欲しいと言うので、調べてみたが詳細は書かれていなかった。

 他の企業でもそうだが、アラブや中国資本で運営するヨーロッパ企業は多い。社名などヨーロッパ風に付けたり、買収した会社の名前をそのまま使うケースは良くある事である。

 注文によっては工場で個人、又は企業のロゴ入りショコラを作ってくれるそうだ。数量、値段に付いては、直接店に問い合わせて欲しいとの事だった。

 話を戻す。ボスタニを後にして再びオペラ通りを歩く。すぐ近くにショコラ界老舗中の老舗、1819年創業のFOUCHER(フーシェ)があり、赤1色で統一したお洒落なディスプレーを展開している。さすがに2百年の歴史を持つ店の貫禄と言える店の飾りだ。

 バレンタインと言えばどの店でも使われる、赤のハート型は共通のイメージである。ハートは愛のシンボル、何年か前まではこのお祭り用としてパッケージやショコラの形に使われたが、いつの間にか季節を問わず店頭に並ぶようになった。そんな事もあるのか、バレンタイン用に特別のディスプレーをしなくなった店も増えている。

 バレンタイン・デーはキリスト教儀式のひとつと言われるが、フランスでは数多くあるキリスト関連祝休日には入っておらず、休日でも無い。とは言え何ともロマンチックなこの日を待つ人は相変わらず多いそうだ。

 決めている事では無いが、2月14日の夜はショコラを一粒口に、ブランディを飲みながら、My Funny Valentineを聞いている。時にブランディがウイスキーに代わり、歌手が代わっても曲は永久に代わらないだろう。今年も14日の夜が待ち遠しい。

 サン・バランタンはフランス語読み、英語ではセント・バレンタインと発音。仏英混じった表現箇所もありますが読み流してください。セント・バレンタインも正しく使うならセント・バレンタイン・デーと表記すべきだと思いますが略しました。