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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.91 ユーロ・パン&アンテルシュック2016

 昨年11月パリ11区で発生したテロ事件から早くも3ヶ月が過ぎた。このテロ事件、死者の数の多さもさることながら一般の人がテロの対象であったことで市民に与えた衝撃は大きかった。

 1月に起きたテロ事件はその対象がチャーリー・エブトという新聞社、イスラムを風刺する紙面に対する報復の意味もあったが、今回のテロは無差別だ。意味合いが違うの市民の反応がある。テロの対する恐怖も想像以上のものだった。

 事件の後日本の多くの方から心配していた旨の連絡を頂いた。その後もパリの様子を気遣うメールが多い。

 正直言うと3ヶ月経った現在のパリは事件前の状態に戻っていると言って良いだろう。ただ表面上の市民生活はと言うことで、何の問題も無く平穏に暮らしている訳ではない。心に受けた衝撃と恐怖は皆さん一様に持ち続けているのでは無いだろうか。

 事件後落ち込んだ観光客の数は相変わらず元に戻る事なく、その影響は各方面に及んでいる。ホテル、レストラン、各種観光施設、何れをとっても大幅に集客が落ち込み、今のままでは手の打ちようが無いと言うのが現状である。

 

 中でも日本からの観光客減は、パリにある日本人経営のあらゆる企業に影響を及ぼしている。特に観光に係る業種は3ヶ月経った今でも回復の兆しも見えない状態と聞く。実際業務出張を止めている日本企業、また各種学校の研修旅行を止めたり見合わせるところも多い。

 2月終わりにはパリ市長が直接日本に行き、パリへの観光誘致を行う予定を発表している。観光誘致だけがその目的では無いだろうが、差し迫って必要なのはやはり観光客が戻って欲しいと言う事が、一番の課題である。

 

 年が明けた1月のパリでは何時もの様に各種展示会が開催された。主催者にとっては今後を占う大切な展示会の幕開けである。代表的展示会のひとつメゾン&オブジェについては、前号でも少し触れたように出展、集客共に数を減らしての開催となった。

 同じ時期に開催されたファッション関連の展示会プルミエール・クラスやビジョルカ、トラノイ・オムなどが開催されたが展示会が重なりこちらはパスした。

 出席した方の話では展示企業、バイヤー共に例年より減っていたという。只警備だけは異常に厳しかったそうで、何れの展示会場でもある種の緊張感を持っての開催であった様だ。何時何処で起こるか解らないテロを思うとこの対応は当然の事と言える。

 

 各種展示会が終わり出展企業のスタッフがそれぞれの国へと帰る1月27日、パリではタクシー運転手のストがあった。殆どのタクシー・ドライバーがストに参加したため交通は大混乱となった。出展サンプルなど大量の荷物を抱えた当事者にとって、このストは予想外のことでパニック状態であったらしい。

 日本では想像出来ないと思うが、組合同士の繋がりが強いフランスでは、何かに付け連帯行動を取りたがる。この日もバスやメトロがストに同調する形で、途中停止や間引き運転が行われた。唯一の便である空港への郊外電車は、日本のラッシュ・アワー状態で混乱は頂点に達したとの事である。

 何回も出展している企業は、過去の経験からハイヤーや民間の車をチャーターするなど、ある程度の対策を講じている。初めて出展した企業などはこれらの対応ができず大変であったようだ。無駄を承知でこういう事態に対応する力、経験は日本人よりヨーロッパやアメリカ人の方が上手である。今回も予め予測が出来ていたのか、殆どのハイヤーや臨時の白タクは外国企業が抑えていたそうだ。

 

 話を元に戻す。

 インテリアやファッション関連の展示会は例年より低調の幕開けであったが、食品関係の催し「ユーロ・パン&アンテルシュック」はどうであったのか。今年最初の大型国際展示会である。

   

 この展示会のメインは、世界各国のパン製造用機械が一同に展示される事で。世界中のパンに係る人の関心、注目度が高い。出展企業の対応もそれに相応しい態勢をとり、会場での呼び込み、売り込みも熱心だ。

 最近アジアなどでも同様の展示会が開かれるようになり、一時ほどの集客は無くなったという話も聞くが、各メーカ共に好調の様子、客の列は途切れる事がない。最新式の機械を早く見たいという関係者は相変わらず多いと言うことだ。

 機械類の他にもパンに係る全ての関連企業、例えば製粉や乳製品メーカーが多数出展している。その他にも店舗設計、商品展示施設、包装紙メーカーなど多種多彩の参加で会場を盛り上げていた。出展企業は世界各国から、今回は遠くブラジル企業の出展も有り新味を出している。国際展示会にふさわしく世界中からビジターが集まっている。会場で飛び交う言葉も色々だが、ビジネスの場では英語が主流である。

 

 ちなみに主催者側発表によれと、出展企業679、参加国25国、137国から約63000人の来場という数字が出ている。

   

 会場では焼き立てのパンやヴィエノワズリー、ケーキ、作りたてのアイスクリームや搾りたてジュースなどあらゆる物が試食できる。街のブランジェリーやパティスリーで売られる商品に比べ、アイデアを凝らした物や、いかにも新商品と思える物が多いのもこの展示会の面白いところでもある。

 各種メーカー共に専属のスタッフを抱え、それらのプロが腕に寄りを掛けて新製品開発を競う事で自社製品の優秀さを示すことになる。スタッフのレベルも高くMOFの称号を持つ人も多い。外国から参加しているメーカーも、その国を代表するスタッフを揃えて対応していた。それぞれのデモンストレーションに集まるビジターの関心も高い。

 

 「ユーロパン&アンテルシュック」のもうひとつの目玉は製パン国際コンクール「クップ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリー」と製菓国際コンクール「モンディアル・デ・ザール・シュクレ」の開催である。

 世界各国の代表選手によって競われるこの大会には、それぞれの国から応援団も駆けつけて大会を盛り上げる。近年この応援団の数も増える一方で、特設スタンドは立錐の余地も無いほどの賑わいとなっていた昨年の大会であった。

 

 ひと通り会場を回り、コンクール開催の特設会場へと向かう。二つの会場に分かれて大会が開催中、先ずは製菓をその後製パンの会場へと移る。製菓部門の会場では各国を代表する審査員が出来上がった作品の試食、審査の最中であつた。どういう基準で選ばれた方達なのか解らないが、各国の審査員共に若手の方が多い。このコンクール結果は最終日に発表され授賞式が行われる。

 正確な数は解らないが今回も日本からの応援団が、日本代表コーナー前に陣取り盛んに声援を送っていた。お揃いのハッピが人目を引く。その数30人ぐらいはいたと思う。韓国からの応援団はお揃いのTシャツである。

 見物人が更に増えたと思っていたら、オーランド、フランス大統領のお出ましである。主催側スタッフも仕事を中断して大統領訪問に対応、大統領もにこやかに応じながら各国代表を激励、最後に観衆に手を振りながら退場した。その間30分足らずと思えたが、更に盛り上がった会場だった。

   

 私は1日だけの見本市見学であった為、コンクールの最終結果は見ることが出来なかった。先日フランス国際見本市協会の松田さんからメールを頂き。コンクールの最終結果を知ることが出来た。

 結果、製パン部門は6位、1位は韓国、2位台湾とアジア勢の健闘が目立つ。製菓部門では3位の受賞、いずれも大健闘と言えるだろう。過去の実績に比べると物足りないと思う方も居られるだろうが、あのプレッシャーの中でこれだけの成績をあげた事は賞賛に値する。

 

 主催者側の発表とは別に、私の正直な感想は例年に比べ出展企業、ビジター数共に減っていると思えた。とは言え、あのテロの後での開催でこれだけの数字を出せたのは立派である。次の開催が楽しみだ。


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