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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.74 レ・フェー・パティシエール

 8月も半ばを過ぎ、冷夏の続くパリである。最高気温が22℃前後、殆ど毎日薄手のセーターを着用している。時にはパーカー姿を見かけるほど涼しい日の連続だ。暑い夏を予想して訪れたツーリストには、何とも気の毒なパリのバカンスとなっている。
 何時もなら朝から行列の出来るジェラール・ミュロなどの有名パティスリーも今は休業中。ホテル・レストランは別だが、星付きレストランも軒並み店を閉めている。私の住むアパルトマン近くにあるカフェも3週間休業の貼紙を残してバカンス中である。

   

 さすがに主食を提供するブーランジェリーだけは、交代でバカンスを取るのが業界のルール、少ないとはいえ通りの何処かが店を開き市民の要求を満たしている。カリフール、モノプリなどの大手スーパーは日曜休業だが平常通りに営業、店を閉めたブーランジェリーの役割を補っている。この間、スーパーの食品売り場の客は殆どと言って良いほど観光でパリを訪れている人達だ。
 食事はレストランでと言う人も居るだろうが、旅行者の多くはパンや惣菜を買ってホテルやアパルトマンで済ませている。通貨がユーロの国から訪れる人達は関係ないが、円安の日本から来る方にはパリの物価が異常に高く感じるらしい。この稿でも時々書かせてもらっているが、海外移住者にとって益々の円安は重大事、頭を抱えている人が多い。
 正確な数は分からないが、海外に住む日本人は確か140万人を越えているはずである。ほんの一部の方を除けば、円安によるマイナス影響はこれらの同胞を直撃する事になる。日本国内でも輸出で潤う大企業は別として、円安による負の影響を受ける企業は多い。
 先日、パリの日本レストラン、オーナーとお茶を一緒する機会があった。彼の店でもスタッフの多くは、ワーホリでパリに来ている人達だそうだ。何年か前まではスタッフ集めに苦労したらしいが、今では募集のアナウンスを出すとすぐ応募があるらしい。原因は円安による生活への圧迫によるそうだ。
 ワーホリで来る殆どの人は、パリで暮らす1年間の生活に必要なお金を用意しているとの事。ところが予想以上の円安で、持参又は送金してもらう金額が目減りしていく。このパターンは留学生も同様である。留学生アルバイトの比率がグーッと増えているそうだ。

 

 アフリカ西海岸諸国に発生した突然のエボラ出血熱で、アフリカ旅行を中止するバカンス客が急増している。この突発事故に、旅行エージェンシーがパニック状態であるらしい。他の安全地帯に急遽変更をとの客の要望を満たせないのが現状だそうだ。
 フランスは勿論、ドイツや北欧の人達にも人気が高まっていた西アフリカだが、今回の件で地元ホテル業者も大打撃を受けているらしい。観光資源はこれらの国にとって大切な収入源である。病原も定かで無い上、ワクチンも出来てないこの病気、不安はつのる一方である。病院から逃げ出す患者も出ていると言われ、アフリカからの不法移民が多いヨーロッパ各国にとって、新たな厄介事として市民も注目している。

 

 夏の飲み物と言えば先ずはビールだ。日本から来られた方と食事を一緒する時も「とりあえずビールを」と言う方が多い。フランスに住んだことのある方に、好きな夏の飲み物を聞くと、冷した白、又はロゼ・ワインや南仏名産のパステスなどを挙げる。いずれもフランスらしい夏の飲み物だが、実はスーパーにしろカフェにしろ、夏場に良く売れるのはやはりビールである。
 フランスにもビール・メーカーは多いが、どちらかと言えばドイツに近い北東部がビールの生産地として知られている。中でもアルザス地方の中心地ストラス・ブールのクローネンブルグ社が有名で、そこで作られる1664のロゴ入りビールがその代表格と言われている。ライト・タイプの喉ごしの良さが人気の元、フランス一の販売量を誇っている。
 のんべーの国と言われるくらいアルコールに強いフランス人、さぞかしビールの消費量も多いと思われそうだが、実際はヨーロッパ国別ランクでは低い位置にある。ドイツやロシア、イギリスなどの方がビールの消費は圧倒的に多い。

 

 先日、初めてウクライナ・ビールを買って飲んだ。ビールを専門に扱う店では色んな国のビールを売っているが、酒店やスーパーでは普段お目にかかれない物だ。
 サン・ジェルマン・デ・プレにウクライナ教会があることは前にも触れた事がある。日曜日に毎朝ミサがあり、パリに住むウクライナ系の人達が参加する交流の場でもある。この教会横に週末毎に何台かのワゴン車が止められ、その車の回りに人が集まる。誠に密やかな人の輪だが、実はここで行われているのが、ウクライナから運んできた色々な商品を売るワゴン・ビジネス。路上販売許可を持たない人達の不法商いである。ここでの会話は勿論ウクライナ語、フランス語が話せる人でもここではウクライナ語を話す。
 ここで買ったのが件のウクライナ・ビール、Livivske1715と言う銘柄で値段は1缶1ユーロ。同じサイズのクローネンブルグ1664をスーパーで買えば、1缶0.98ユーロだからほんの少し割高かも知れない。ライト・タイプのラガー・ビールで実に飲みやすい。他の商品も有るのだが、車の後ろドアを半分だけ開けてその前での商い。ウクライナ語の出来ない日本人では限界がある。回りにいた人が交渉してくれて何の問題なく買えたが、少々の緊張を要した買い物であった。次回はウクライナのショコラでも買ってみようと思っている。

 

 

 妖精のお菓子か、お菓子の妖精か、どちらに取っても納得出来るお菓子の数々である。
そんな可憐でファンシーなケーキががショー・ケースの中に並んでいる。手に取ってそのまま口に持っていくには少し勿体ない、そんな気にさせる不思議な雰囲気を持ったケーキの数々である。

   

 パリ3区、ランブトー通りに出来たレ・フェー・パテイシエールは若い女性客で賑わっていた。店がオープンして3ヶ月、新しいタイプのパティスリーである。パリでも何軒かのカップ・ケーキの店はあるが、どちらかと言えばカジュアル・タイプの店作りが多い。
 今回紹介するこの店はそんなイメージを払拭した、言わばオートクチュール感覚の気分を随所に醸し出した店である。そんな雰囲気が道行く人の目にとまり足を運ばせるのだろう、おしゃれな客が多い。ディスプレーにも工夫がなされ、女性の好奇心を上手く擽る店の作りである。
 店のオーナーはデボラ・レヴィさんとサラ・ハルプさん、何でも30代のパリジェンヌである。ケーキ作りとは無縁であった二人だが、ある時ウエディング・ケーキ作りを習おうとロンドン、ニューヨークへと旅立つ。帰国した二人はパリのパティスリーを色々と食べ歩くが、何れも甘すぎたり、大きすぎたりと納得するケーキが見つからない。
「自分たちの納得するケーキを作る」をテーマに、ヴェルサイユの高級ホテル、トリアノン・バラスのシェフ・パティシエ、エディ・ベンガネムさんとのコラボで新しいタイプのパティスリーを立ち上げる。レ・フェー・パティシエールの誕生である。ちなみにレ・フェーは妖精や精霊の意味である。
 店のコンセプトは、モードのオート・クチュールと食いしん坊のグルマンを掛け合わせた「オート・グルマンディーズ」。伝統的なケーキをサイズを小さくしてエレガントな形にし、味をよりデリケート仕上げる。結果、出来上がったケーキが店に並ぶ数々の自慢作である。

   

 ババ(サバラン)、タルト、シトロン、オペラなどのクラッシックなケーキ12種をベースに、モダンで食べやすいレシピを考案。素材を厳選して工夫を重ねて出来上がったひとつFee FRAISIERは、アーモンド・ビスキュイにプラリーネとピスタチオのクルスティヤン、苺のジャム、軽い苺のクレーム、フレッシュ苺の組み合わせで完成。値段は3.80ユーロ、安くもなく高すぎでもない、適度な設定では無かろうか。
 ランブトー通りは何故かパティスリーやショコラティエの多い通り、マレー界隈への玄関口とも言われている。ポンピドー・センターにも近く観光客も多い。更に言えばお菓子好きな人には目の離せない場所でもある。


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