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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.64 オ・メルヴェイユ・ドゥ・フレッド

 カフェでワインを飲む人が増えてきた。ビールからワイン、季節と共に趣向も変わるの証だろう。ワイン好きには気の毒だが、どうやら今年はワインのはずれ年になりそうだ。春先の長雨に続き夏場の日照時間が少なかった。日本で人気のボジョレー・ヌーボーも収穫が遅れているそうだ。葡萄の糖分が高まるぎりぎりまで待つての収穫であるらしい。収穫数も少ないと予想されている。

 そのせいでも無いだろうが、ワイン専門店やスーパーでいち早くワイン・フェアーが開催中である。有名ワイナリーも貯蔵品を例年より多めに放出、愛飲家の間では思わぬ掘り出し物にケース買いをする者もいるそうだ。近くのスーパーでも普段の倍の銘柄、数を揃えている。知り合いのソムリエの話では、中国人がワインを買いあさり、そのせいで高級ワインの値段が上昇し続けているらしい。ワイナリーにとっては有難い事であろうが、ブームの後の反動を思えば喜んでばかりはいられない。たまにしか高いワインを買えない庶民にとって、こういう風潮に批判的な意見が多い。高級ワインも貯蔵を失敗したらただの色付き水に、失礼だが大量買いをしている中国の方にそのノウハウがあるとは思えない、と言うのがソムリエの弁である。

 

 パリ・コレクション、各種モード関連のサロンも終わり、何時もの静けさが戻ったパリの街である。今回も何箇所かの会場を回ってみた。昨年同期に比べ、日本人バイヤーが増えている。これは意外だった。世界のトップ・ブランドや宝石類が売れているという話は聞くが、この円安状態で海外買い付け組みが増えるとは思わなかったからだ。海外に住んでいるとどうしても日本の実情に疎くなる。ネット時代、リアル・タイムで行き交う情報だが、やはり肌感覚で触れない情報には限度がある。会場で出会った日本からの方と話す機会があったが、日本経済は上向きであるという。本音を言えば願望とのこと、どうやら確信ではないようだ。それにしても円安で日々の暮らしを圧迫される、円頼りの海外居住者にとっては何とも羨ましい話である。

 2014年春・夏モード、注目のカラーはオレンジから朱赤に至る、明るく鮮やかな色。ブルー、グリーン、イエローといった定番サマー・カラーも人気だ。昨シーズンに比べ、いずれも彩度が高くなっている。白や黒も各メゾンにとって欠かせない要素、一押しのカラーが外れてもそれを補う保険として外せない重要アイテムやカラーであるらしい。白、黒と言っても素材の違いで、秋冬物より爽やかな印象を与えている。これらの色は服だけに限らず、小物、バッグやシューズにも多く使われている。トレンドは先ずは鮮やかなカラーから始まる。一足早く来夏の話題で盛り上がるモードの世界である。

 

 ほんのさわりだけで申し訳ないが、秋のイヴェント紹介のひとつとして今回も触れさせて頂いた。時々場違いの衣や住関連の事にも触れさせてもらうが、食関係の仕事をされていても他の分野に興味、関心を持たれる方が増えている。

 

 衣、食、住、いずれもが連動しながらそれぞれの時代、シーズンを作り出す現代の生活空間。いずれの要素が欠けても味気なさや物足りなさが残るものだ。最近、パリで暮らす日本人若者間で異なる分野で働く人の交流が増えているという。お茶や食事会を開き、各分野の話題を持ち寄り、普段接することのない世界を語り、刺激し合う。特に1年限定で滞在のワー・ホリの方達が積極的に参加されているようだ。大変良い事、ワー・ホリに関しては国の事情はあるだろうが、最低2年位には延ばして欲しいものである。

 

 久しぶりに訪れてくれた古い友人が、お茶菓子にとケーキを持参してくれた。今まで見たことのないパッケージである。白い箱に墨で描かれてイラストが何やら怪しげで興味をそそる。中に詰まったケーキも初めてのものだった。

 

 メレンゲの台に甘いクリームが盛られそれをスライス・ショコラというか粒状のショコラでコーティングしてある。大人のこぶし大の大きさ、スプーンですくい口に運ぶと、さくとした歯ごたえの後に柔らかいクリームが心地よく口中に広がる。程よい甘さとまろやかさがうまく噛み合い、何とも不思議な風味に。ネットリ感もなく重くないのが良い。

 

 面白い店でお菓子の種類は4種だけ、という友の言葉に日を改めて店に出かけてみた。パリ7区サン・ドミニック通りにある店は明るくモダンな作りである。通りに面したガラス張りの奥に厨房が見える。そこで若い女性がケーキを製作中であった。てきぱきと作り上げる動作も軽やか、次々と手作りのケーキが仕上がって行く。

 入り口正面にあるショーケースの中には、ショコラ、スペキュロス、カフェ、シェリー、プラリネなど5種のケーキが並んでいる。一口タイプのものから大は24cmの物まで値段も1.5ユーロから27.2ユーロ。ショーケースの奥にはメレンゲが数多く積み上げてある。この店のもうひとつの名物だそうだ。更にその奥にパンなどを焼く機器が並ぶ厨房がある。レジ横に焼きあがったパンが並んでいた。

 

 スタッフの話では開店して1年とのこと。元々はフランス北部リール地方に古くからある地方菓子をソースに、この店のオーナー・シェフのフレデリック氏が今の時代に合うようアレンジして作ったものがこのメルヴェイユの名物ケーキだそうだ。

 

 サン・ドミニック通りといえばパティスリーの多い通りとして甘党に知られる通りである。そういう激戦区にもかかわらずお客が次々と訪れる。商品の無駄も少なく、スタッフ数も他の店に比べると少なく見える。売上効率も間違いなく良いだろう。パリ市内だけでも4店舗、それぞれの店構えも立派である。

 本店はリール市にあり、パリ1号店が15区にあると言う事で、日を変えて訪ねてみた。メトロ10番線、シャルル・ミッシェルで下車、階段を上がるとサン・シャルル通りに出る。エッフェル塔を背に通りをしばらく歩くと129番地に店はあった。こちらの店もモダンな作り、周りの建物が古いだけに店の存在が際立っていた。店内で3人のスタッフがケーキを作っている、店は結構広く奥行きもある。奥に大型のパン焼き器が見える。ここでは焼きあがるパンの種類も多い。壁面にパッケージと同じイラストが描かれていた。2008年に開店、顧客が多い様子がスタッフと客の対応に感じられた。

 

 この日、通りには朝市が立ち大勢の買い物客で賑わっている。チーズ、果物、野菜、魚と屋台に並ぶ商品いずれも新鮮だ。パリに古くからある下町の朝市、売り子の掛け声も元気でにぎやかだ。通りいっぱいに並んだ屋台のせいで、店の外観が撮れなかったのが残念である。


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