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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.93 ブーランジェリー・ドュ・ニル

 不思議な人気のパン屋である。昨年12月オープンした店だが、お客の殆どが常連さん。来る人来る人が親しそうにオーナーのシンヤさんに気軽に挨拶をしている。

   

 所はパリ2区、メトロ、サンチエ駅の近くに細くて短いNIL(ニル)という通りがあるが、その3番地に稲垣 信也さんの店Boulangerie du NILがある。この狭い通りの両側にはレストラン、野菜果物店、肉屋、魚屋、コーヒー専門店、ワイン・バーなどが立ち並び、界隈住人の間では気軽に食の通りと呼ばれている。

 その野菜果物、肉屋、魚屋などを運営しているのがテロアール・ダヴニールと言う会社、この会社の新しい部門がシンヤさんが代表のブーランジェリー・ニル店である。

 何れの店もBIO素材を扱っており、鮮度の良さで人気がある。例えば魚屋に並ぶ商品は全品天然物で養殖物は一切ない。ということで刺身好きの日本人客が多く、最近は手巻き鮨を好むフランス人もこの店を利用する人が増えている。

 

 BIOパンに拘るシンヤさんがこのグループでブーランジェリーをオープンしたのは、ある意味必然の事、結果この食の通りに新しい頁を開いた事になる。

 店がオープンして半年足らずだが、パリに住むパン好き日本人の間でたちまち評判の店として話題になった。その殆どが口こみで広がったという。レストランでシンヤさんのパンを扱う店も増えている。

 フアンの間では「シンヤさんのブーランジェリー」で通るそうだ。

 

「パリジャンに本当のおいしいパンを食べさせたい」そのために自分の店を持つ。シンヤさんの永年の夢であった。

   

 シンヤさんの焼くパンは実に旨い。色々な要素はあると思うが、旨さの秘訣は先ずは粉にある。使用しているメインの粉はいわゆる古代麦と呼ばれる種類の物だそうだ。

 話を聞くと、シンヤさんのフランス滞在15年は、この古代麦探しとBIOパン追求の歴史であったようだ。本当に永く面白く、波乱に飛んだシンヤさんのフランス生活である。

 

 2000年山梨県にあるパン屋で働いていたシンヤさんはフランスで本格的なパンを学びたくて1通の手紙を書く。宛先はノルマンディでBIOパンを作る事で知られるセルジュさんである。フランスで本格的なBIOパンを作ってみたい、手紙はフランス語の出来る人に訳してもらった。

 セルジュさんから返事がきて1年間滞在可能のワー・ホリを利用してノルマンディーに渡る。フランス語はまったく出来なかったが、幸いセルジュさんの弟フィリップさんが日本滞在の経験があり色々と世話になる。フィリップさんはBIO農家とBIOレストランを経営するBIOのスペシャリストである。

 

 ノルマンディの1年間はあっという間に過ぎ去った。一旦日本に帰ったシンヤさんは今度は観光ビザで再び渡仏する。ノルマンディ滞在中知り合ったBIOの関係者を頼って南仏に向かい、新しいフランスでの出発点とする。

 

 その後のフランス生活はまさに波乱万丈、BIO関連の職業、養蜂、ジャム、パン、小麦生産家などなど、あらゆる職種の農家を渡り歩いて経験を重ねる。その間多くの仲間と知り合い交流を深めていく。

 永い田舎暮らしを終えた後、パリに戻ったシンヤさんはブーランジェリー・グルニエ・ア・パンに勤めパン作りに励む。ここでは本格的にパティスリーも習得する。

 その間もシンヤさんの「本当の美味しいパンを作る」夢は途絶える事がなかった。永い田舎暮らしで古代麦を生産する農家とはすでにコンタクト済み、自分の店を持つときはここの粉を使うことをきめていた。

 そんな時、テロアール・ドゥヴニールから「近くに空き店が出来たので一緒にやらないか」の声がかかる。ブーランジェリー・ドュ・ニルの誕生である。店名は店のある通りにちなんだ。

 ブーランジェリー・デュ・ニルのパンは、フランス人が昔ながらに食べていた古いパンの復活でもある。パンの種類は少ないがひとつひとつに拘りがあり、独特の風味に仕上がっている。素材への拘りがこの味を出しているのだろう。

 色々と品種改良を重ねた一般的に使われる小麦粉に対して、古代麦の粉はほんの一部農家でしか作られてないそうだ。多く流通されている粉に比べグルテン度も低く体にも良いというデータもある。

 未だ小規模の店だが、スタッフはシンヤさんの心意気とパン作りを賛する方達の集まり。「シンヤさんのパンが好き」と言うフアンが増え続けていく事は間違い無いだろう。これからが楽しみである。

 

 マカロン・グルマンの朝食会

 パリでは色んな企業がプレスを招いて朝食会を催す事が多い。ディナーでは大げさ、経費も掛かるが、朝食会なら時間もとらず手軽に参加できて、お互いに情報を交換できる。と言う事で案内メールが良く届く。

   

 今回案内頂いたのは、この稿で以前紹介したマカロン専門店マカロン・グルマンからで朝9時の始まりとある。アパルトマンから歩いて5分の距離に店があり、春のテーマが日本と言うことで出かけてみた。

 

 オーナー・シェフのヤニック・レフォーさんは、パリで本格的なマカロン専門の店を初めて作った方である。最近、マカロン専門店が増えたパリだが、店の規模、商品のバリエションでマカロン・グルマンを上回る所は今のところ見かけない。

   

 日本をテーマのショー・ウインドーは桜をイメージしたマカロンや小菓子で日本の春をうまく表現している。日本が好きと言うヤニック夫妻の思いが込められた演出だ。

 店内には新作マカロンを凝ったディスプレーで棚に飾ってある。野菜、果物がテーマの新作は元の素材とそれを使って出来上がったマカロンが同列対比で、バランス良く並べてある。そのアイデアが面白い。

 それぞれの風味も実に見事、素材の味を引き出している。隠し味に日本酒、焼酎などを使い、他の店では味わえないマカロンを作り上げていて、参加者の興味を引いていた。

 

 日本ではマカロンはブームが過ぎた商品として位置づけされているとも聞く。ここフランスでは流行りに関係なく、何処のパティスリーでも売れ筋上位にランクされている。

 ヤニックさんの作るマカロンは実に奥が深い、次のシリーズが楽しみだ。


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