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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.89 ブノワ・ショコラ

 静かな年末である。街にクリスマスのイルミネーションが点き、デパートやブティックで買い物をする人の数は増えたが、何時もの熱気が一向に伝わってこない。テロという怪物がすべてを飲み込んでしまったらしい。

 市民の暮らしぶりが変わったとは思わないが、街や人々を被うこの冷気はいかんともし難い。そういう意味ではテロは本当に怖い。

 日本からの観光客は90%の減だそうだ。旅行業を営む友人に言わせると、団体客が動くのは来年の夏以降、結果パリの旅行コンダクター、ガイドの方達は暫く仕事が無くなると言う。色々模索はするが手の打ちようがなく、ひたすら回復を待つ状態であるらしい。

 

 そんな中で11月の終わり、オデオンに新しいショコラティエがオープンした。サロン・デュ・ショコラでも人気のブノワ・ショコラのパリ左岸店である。

 ブノワ・ショコラの本店は古城巡りで有名なロアール地方アンジェにある。ロアール川流域には有名な古城が数多く点在するが、この街も古城で有名である。ロアール川とメーヌ川が合流する地域にアンジェ城がある。川沿いに聳えたつ城の眺めは壮観、往時の繁栄を思わせるに充分な規模のものだ。

 この城には世界最古と言われる有名なタピスリー「ヨハネの黙示録」がある。必見の価値ある名品だ。城内の古い佇まいは中世にタイム・スリップしたような雰囲気を漂わせ、多くの観光客が訪れる街としても人気がある。

   

 1978年ジュベール・ブノワさんがこの街にショコラティエをオープンした。元々はブーランジェを営んでいたそうだ。ブノワ夫妻には3人の子供がいるが、長男のドミニクさんは父親に付いてショコラ修行をした後、パリのメゾン・デュ・ショコラやクリスティアン・コンスタンで修行を重ね、フランス北西部の都市リールにブノワ店をオープンする。

 現在ブノワ・ショコラを率いるのは娘のアンヌ・フランソワーズさん。元は経済学を学んでいたが1997年ショコラティエに転向後アンジェの本店を担当する。2009年パリに進出、マレー地区にブノワ・ショコラ店をオープンする。

 2003年パリのサロン・デュ・ショコラでアンヌさんが新人賞を獲得、女性ショコラティエの登場として話題となる。2004年にはガナッシュ(生ショコラ部門)でグランプリを受賞。2010年にフランス12人のショコラティエに選ばれるなど、目覚ましい活躍ぶりである。

 ブノワ・ショコラの知名度を一気に高めたのが店の看板とも言えるキャラマンドである。薄くスライスしたアーモンドに塩バターキャラメルを搦めてショコラでコーティングした薄型ショコラ、形は三角形に統一してある。口に入れるとパリッとした歯触りにアーモンドの香ばしい風味がショコラと相俟って、何とも上品な味に仕上がっている。オレンジ色のパッケージも人目につき易くお洒落、たちまちサロン・デュ・ショコラの人気商品となった。

   

 新しくオープンしたオデオン店は、本当に小さい店である。店の長さおよそm、店幅2mたらず、俗にうなぎの寝床と言われるようなスペースだが、すっきりと纏まった店が出来上がっている。

 これほど狭いスペースで新しい店をオープンして採算は、と思うが、ここでは人気商品キャラマンドを専用に売るコンセプト。単品のみを扱う今流行りの店にした。スタッフも若い女性ナタシャさんひとりで切り盛りしている。暇を見ては試食品を手に表に出て道行く人にお勧めと中々の頑張りやさんである。

 ブノワになる前は古本屋、その前は中古品店、更にその前は両替屋と何度も店代わりをするなど、商いが難しい場所だ。今回は上手く行きそう感じ、これからが楽しみである。

 日をかえてマレーの店に行ってみた。メトロ、サン・ポールからバスチーユに向かって歩くと3分の距離にある。オデオン店に比べ店の構えも大きく、ショコラを中心にマカロンなど品揃えも豊富である。店のスタッフも多く沢山の客で賑わっていた。

 パリの責任者はアンヌの姉ドミニックさんが担当、家族全員でそれぞれの役割を担当するファミリー企業である。

 ブノワ・ショコラは日本のサロン・デュ・ショコラにも出展したことがあるそうだ。その折アンヌさんが出席してデモンストレーションをしたとか。それを契機に日本での認知度も上がり多くのフアンがついたそうだ。

 フランスやベルギーでもそうだが、ショコラ界は男社会と言われてきた。今後数多くの女性が進出する事で更なる発展が期待される。そういう時が来ているように思えるのは私だけではないようだ。

   

 年末恒例のショコラティエ、パティスリー巡りをする。例年に比べ街全体が落ち込んだ様子が至る所で目につく、何となく寂しい年末だ。

 建物全体を飾る豪華なフォションのディスプレーも無くなった。おまけにエディアール
が改装中で灯が消えてしまい、何時もの華やかなクリスマス風景が見られない。この二つの有名食品店がこの界隈のシンボルであったことを改めて認識した。

 とは言えサントノ-レ、ロワイヤル通りの華やかさはパリのクリスマスに欠くことの出来ない存在である。相変わらずヴァンドーム広場のツリーも見事だし、ギャラリー・ラ・ファイエット、オウ・プランタンの装飾も見応えがある。

   

 本当は何時もとさほど変わりは無いのかも知れないが、市民の反応は今いち、に見えてくる。無意識に自粛の気持ちが何処かにあるのだろう。

 

 先日、フランスの国立統計経済研究所が2015年11月の消費状況を発表した。消費支出が前月比約1%減と言う。例年だと11、12月は消費がふえる月と言われている。中で衣類品が4,7%も減っている。テロの影響で消費が冷え込んだ事もあるが、消費減退に繋がったもう一つの原因は、地球温暖化である。

 世界規模で暖冬が続いているようだが、フランスも異常と言われる暖冬である。寒いと思われたのは11月の数日間だけ、後は平均気温が15℃前後の日が続いている。その証拠にエネルギーの消費量が15,5%減だそうだ。そう言えば我が家でも暖房を入れる日が昨冬に比べ大幅に減っている。高い電気代を思えば喜ばしい事だが、長い目で見ると、果たして喜んで良いのかどうか考えるところだ。日本は如何がだろうか。


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