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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.85 ギー・サヴォイのブリオッシュ

 6400人の社員を引き連れてパリやニースの豪華ホテルに宿泊。更に有名デパートや美術館をも貸し切ったという中国企業の豪華社員旅行、フランスに及ぼした経済効果はわずか4日間で凡そ30億円と言われている。

 街を歩けば必ず中国からの観光客を見かける最近のパリだが、ここ数年パリ以外の各地でも同様の事が起きている。観光地は勿論だが、フランス人でも知らないような名所史跡などに観光バスが押しかけているそうだ。

 今年の夏はプロバンス地方へのツアーが人気の様で、どの街、どの村にも団体バスが押し寄せているとニュースで報じている。プロバンス名物のプリントやマルセイユ石鹸、又はオリーブ・オイルなどバカ売れとの事だが、お土産店やブティックでの買い物に満足せず工房、工場までバスで乗り付ける団体も多いらしい。

 観光庁の発表によると、今年フランスを訪れる海外からの観光客は昨年比4%近い増加だそうだ。その中でも中国からの観光客が圧倒的な伸びであるらしい。日本の観光誘致目標が2000万人だそうだが、フランスには毎年8000万以上のの観光客が訪れると言われている。ちなみにパリを訪れる観光客は年間3000万人だそうだ。

 

 南仏はフランスを代表する避暑地である。地中海を囲む海岸沿いには豪華な別荘やホテルが建ち並び、ヨット・ハーバーには豪華ヨットが停泊。夏になれば世界中の金持ち、有名人が集まり女性誌やゴシップ誌に華やかな話題を提供する。

 今夏一番の話題と言えばサウジアラビア国王のコートダジュール、バカンスだった。新しく国王となったサルマン国王率いるサウジ国民約1000人が南仏での休暇を楽しんだ。

 サウジ国王別荘近くのホテルは勿論、カンヌの高級ホテルをも貸切状態にしたと言う超豪華バカンスである。別荘から約1km周辺は一般人立ち入り禁止になった。この事で地元出身の一部議員や住民がフランス政府に抗議をしているとのニュースが伝わったが、何時テロが起こっても不思議のない現状ではやむをえずの処置だとする国民も多い。

 

 このニュースが伝わった暫くの後、久しぶりにシャンゼリゼ大通りに出かけた。普段は中国人観光客で賑わうこの大通りだが、この日はサウジ国民と思える人達が大勢出かけていた。若いカップルや家族連れが多い。女性はへジャブで髪を隠し黒いマントウを着用している。ヨーロッパナイズされた服装の若い女性も居るが、身に付けている物はすべて高級ブランド品である。共通しているのは眉の描き方、サウジにも流行があるという事の証だ。男ひとりに女性3人、これに子供が加わり、6、7人の家族も珍しくない。

 高級ブランドの袋を提げた中国人も大勢居る。特に凱旋門広場やルイヴィトンの店は中国人が他の客を圧倒している。初めての旅で初めて高級ブランドを買ったと言った感じの人達、ふと日本のバブル全盛の頃を思い出した。

 一方のサウジ国民は買い物より大通りを散歩したり、カフェやレストランのテラスで家族揃ってお茶や食事を楽しむ人達が多い。お国柄もあるだろうが、如何にもゆとりがあるように見える。中国人旅行者との一番の違いは大家族での旅行、更に家族の他にお手伝いと思える人を引き連れている事である。家族によっては2、3人の付き人がいて、これにはビックリした。

 お手伝いはサウジに来て働く外国人、特にフィリピン人が多いそうだ。買い物袋を持つのもこれらの人達である。まだまだ知らない世界があることを改めて認識した。

 中国もサウジアラビアも世界を代表する経済大国と言われているが、その質の違いを見せつけられた感だ。豊かさの度合いではサウジ国民の方が数段上に見える。この日シャンゼリゼ大通で見かけたサウジの人達は、サルマン国王と南仏での休暇を過ごした後、パリ旅行を楽しんでいる人達であったと思えた。

   

 フランスでマカロンなど単品を商う店が増えている事をこの稿で伝えた事がある。その代表的なものとしてマカロンやエクレア、シュー・クリームなどの店を紹介したが、その後も好調に売上を伸ばしているようだ。

 ルーブル美術館には色んな国の料理を提供する大きなレストランがあり、何時も賑わっている。この一角にエクリア専門店レクレイル・ドゥ・ジェニーがコーナーをオープンした。すぐ近くにタルト専門店ラ・タルト・トロペジエヌも出店している。シュー・クリームのラ・メゾン・ドュ・シューはサン・ルイ島に新しい店を出し、メルゲーズを生クリームで包んだケーキ、メルヴェイユで人気のオゥ・メルヴェイユは多くの区に店を展開している。日本風のロール・ケーキが売りのシエルはフランチャイズ展示会にコーナーを出してヨーロッパを対象にフランチャイズ化を始めた。

   

 サン・ジェルマンのマザリン通りに、三つ星レストラン、ギー・サヴォイがブリオッシュ専門の店グー・ド・ブリオッシュをオープンした。小さな店だが如何にもギー・サヴォイらしい洒落た感じのスペースだ。オープンしたのは7月、一度ゆっくり店を見ようと思っているうちに、どうやらバカンスに入った様で店が閉まっている。開店してひと月も立たないのに長期のバカンス入りなど日本では考えられないが、こういう事が平気で行われるのが如何にもフランスらしい。

 再開したのは9月3日、スタッフの方に了解を得て店の写真を撮らせてもらう。店の外側はグレーで統一、中に入ると左側に長いショーケースがある。中には作りたてのブリオッシュが並べてある。こんがりと焼きあがったブリオッシュが美味そうだ。

 ブリオッシュはフランス菓子のひとつである。パンは小麦粉を水でこねるが、ブリオッシュは更にミルクを加えて生地を作る。そのおり副材として卵や砂糖を入れることでパンでなく、お菓子とみなされている。

 ブリオッシュと言えば、台座に頭をのせたようなダルマ形が通常の形で、フランスなら殆どの店で作られるポピュラーなお菓子だ。柔らかく口当たりが良いので、大人にも子供にも好かれる。

 パリで新年に登場する公現祭のお菓子と言えば、ガレット・ド・ロアだが、南仏プロバンス地方ではブリオッシュ・デ・ロアが有名だ。古くから作られる伝統菓子で、王冠のような冠状の形に砂糖漬の各種フルーツを飾ったものが主流、ガレット・ド・ロアより見た目も華やかお菓子だ。フランスには各地に郷土色豊かなブリオッシュがあり、地域住民に愛されている。

 ギー・サヴォイのブリオッシュは基本のダルマ形である。見た目は地味だが味の種類は多く、それぞれに個性がある。基本のブリオッシュ味の他に、ショコラ、プラリネ、アブリコ、ピスタチオ、ノア・ド・カジョウ、ジャンジャンブル、コンフィなどなど普通のパティスリーではお目にかかれない味のバリエーションである。

 

 レストラン、ギー・サヴォイはパリの代表的な三つ星レストランのひとつ。その独創的な料理で2002年ミシュラン三っ星に昇格、その後も三っ星の座を確保し続けている。本店の他に比較的リズナーブルな値段で頂けるレストランなど、パリ市内に5店舗のレストランを運営。今回紹介するグー・ド・ブリオッシュはブリオッシュ専門の店、初めての試みだそうだ。これからどのように展開されるのか楽しみである。


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