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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.75 ル・ボンボン・オゥ・パレイ

 長いバカンスが終わり、街に再び活気が戻ってきた。ネットを通じての各種PRも賑やかになっている。それらに釣られる訳ではないが、外出する機会が増えている。展示会や各種イヴェント会場巡りをしていたら、アッという間に9月も半ばが過ぎてしまった。

 

 パリ左岸にある老舗デパート、ボン・マルシェで日本フェアー、ル・ジャポンが開催中である9月2日そのベルニサージがあった。店の顧客や報道陣、パリ在住日本人を招いての特別イベントである。

   

 開場は20時30分、通常客が退館した後、正面玄関を開いての入場である。開館前から招待客の行列が出来るほど、初秋の夜を彩るイベントとなった。館内は灯りをおとしたコーナーや、警備員が入室をガードする所もあるなど変則的な売り場であったが、日本からの出店コーナーには特別のスポットを当てるなど上手に演出してある。モード、インテリア小物、コスメ、マンガ、アニメ・グッズなど日本でも話題の、又は人気の商品を上手くセレクトしてあり、招待客の関心を集めている。
 輸送の関係もあるのだろうが、全体にこじんまりしたる商品が多いのがちょっと物足りない。この事はパリで行われる他の各種展示会でも常々受ける印象である。
 外国人の中には、日本の印象を小さく纏まった箱庭的な国として見る人が多い。それはそれで的を得ている部分もあるが、たまには、スケールの大きな文化や物を持ち合わせた国でもある事を見せてあげたい。そう言う場や機会が少ないのはやはり残念だ。
 日本の代表的なウイスキー、メーカーの試飲コーナーもセットされ、アルコール好きな人達を喜ばせていた。普段スコッチやアイリッシュに馴染んだフランスのウイスキー愛好家だが、この日本産ウイスキーにはかなりのショックを受けた様だ。お代わりをしたあるムッシュは、こんな上質のウイスキーが日本にあるとはは思わなかったと驚いていた。
 日本酒コーナーにも大勢の人が集まり色んな銘柄を楽しんでいる。寿司の次は日本酒を。ヨーロッパでの新たなブームを目指す日本酒業界だが、確かな手応えを感じた様子である。女性に好評なのも新しい発見であったようだ。
 開場では沢山のシャンパンが振舞われた。トレイを持ったギャルソンが客の間を回り、愛想良くプレゼント。冷えて泡立つシャンパン・グラスに次々と手がのびる。上質シャンパンだ。残念なのは日本の食べ物が余り無かったことだ。フランス人何人かに日本の食べ物は何処かと聞かれたが、どうやらそう言うコーナーは無かった様である。
 せっかくの日本フェアー、美味しい日本の味を紹介する良い機会だと思うのだが、少し残念な気が残る。とは言え、これだけの招待客の口を満足させるのは大変な事、次の機会を楽しみに待つ事にする。帰りにオレンジ水玉模様の雨傘を頂いた。この水玉模様はボン・マルシェの新しいパッケージ・デザインに使われている。

 

 サン・シュルピス教会前の広場でアゼルバイジャン共和国展が開催中である。アゼルバイジャンはカスピ海に面した人口940万の小さな国。ロシア、グルジア、アルメニア、イランに国境を接し、国民の多くはイスラム教徒と言われている。この小さな国については日本でも余り知られて無いと思うが、個人的に興味ある国なのでここで紹介させて頂く事にした。

   

 首都はバクーで古くからバクー油田が有名だ。第2次世界大戦の折り、ヒットラーがこの油田確保の為にいち早く侵攻した場所である。現代日本史としては、スパイ事件として有名なゾルゲの生誕地として知られている。ソ聯邦から独立した数多くの国でも、石油、天然ガス産出を背景に現在でもこの地域一番の豊かな国と言われている。

 

 会場となったサン・シュルピス広場には大小テントを設え、その中で国の歴史、文化の紹介、物産展などが行われている。大テントの中には古い民族衣装、タピスリーを展示、その奥に民芸品のコーナーがある。唐草模様を描いた陶器や鉄器など、古のロマンを掻き立てる民芸品の数々だ。民族楽器のコーナーでは展示された楽器の側にボタンがあり、そのボタンを押すとそれぞれの楽器の音色が聞こえるよう音響操作がなされている。

 

 その楽器の実演が見れるのが特設の舞台テントだ。ここで開催期間中、民族音楽やダンスを披露、エキゾチックな宴が夜毎繰り広がれている。別のテントは12世紀アゼルバイジャンの偉大なる詩人で哲学、思想家でもあるニザミ・ガンジャウィの資料館、更にレストランではアジェルバイジャンの郷土料理が楽しめる。ドルマ、ケバブ、ピラフなど、国を代表する料理を有名シェフが手がけている。コース料理で20ユーロ、手頃な値段で頂けるのもうれしい。ティー・サロンもあり、名物の紅茶やカスピ・ヨーグルト、焼き菓子なども楽しめる。
 意外と知られて無いと思うが、アゼルバイジャンはワインの産地でもある。この地域でワインと言えば先ずはグルジア共和国。ワイン発祥の地とも言われ、あのクレオパトラもグルジア・ワインを愛飲したと言う伝説がある。そのグルジア・ワインに勝るとも劣らないと言われるのがアゼルバイジャン・ワイン、香りの良さと爽やかな喉ごしが特徴の上質品である。カスピ海沿岸国を代表するこのワインは、世界のあらゆる地に熱烈な支持者が居るといわれる。ワイン・コーナーでは4ユーロで色んな銘柄が試飲でき、大勢の人が楽しんでいた。お薦めは白のViognierまろやかで芳醇な香りがなんとも良く、つい次の1杯が欲しくなる。その他、石榴の産地としても知られている。特にシロップが有名だ。
 色々と興味は尽きないが、続きは何かの折に。それにしても未知の国の文化に触れると言う事は何とも楽しいものだ。

   

 子供の時に食べた美味しい物で忘れられない物がある。ポルトガル生まれのジョルジュさんにとって、忘れられない物と言えばフランス製のボンボンだった。あのボンボンをもう一度食べたい、ル・ボンボン・オゥ・パレイの誕生はそんな想いで始まった。
 ル・ボンボン・オゥ・パレイはパリ5区にある。メトロ7号線のカーディナル・ルモワヌ駅で下車、改札を出て階段を上がると坂道にでる。その坂道をセーヌ方向へと少し降ると駅のすぐ近く、表から沢山の可愛い瓶が並んだ店内が見える。
 洒落た店である。色んな種類の瓶があり、その中に色とりどりのボンボンが入っている。
それにしても沢山の数だ。パリには古くからボンボン専門店があり、瓶をボンボン収納の器に使うのは定番のディスプレー方だが、これほどおしゃれに作った店は珍しい。棚に並ぶお菓子の種類の多さにも驚かされる。よくぞこれだけの種類を集めたものだと。
 ジョルジュさんがフランス全土のお菓子工房を回って集めたその数は80種類もある。この道一筋、拘りにこだわって作り続けた職人たちの夢の賜物だ。そんな中にはジョルジュさんが子供の時に食べたお菓子が何種類もあるという。今でも時々そのお菓子を食べながら子供の時のあの味を楽しむそうだ。ジョルジュさんが生まれる前から作り続けられた物も沢山集めた。お年寄りのお客が来て、そんなボンボンを懐かしそうに選ぶ姿を見るのが、なんとも楽しいのだそうだ。少し大げさに言えば、ここはフランスのボンボン史を知る貴重な館と言っても良い。
 店に入ると正面中央に大きなテーブルがある。その上に色とりどりのボンボンが入った沢山の瓶が並べてある。その側に大きな鉢植の蘭があり、美しく香り高い花が咲いていた。奥の壁に黒板が架けてある。子供の頃、学校の教室に架けてあったあの懐かしい黒板だ。その黒板にひとつのメッサージが書いてある。
「ボンボンのある暮らしは美しい。フランスの素晴らしい職人が作った最高のコンフィズール(砂糖菓子)を貴方にお届けします。ジョルジュ」チョークで書かれたジョルジュさん直筆のメッサージだ。
 店には二人の若い女性スタッフがいた。お洒落なお店にふさわしい可愛いお二人だ。いずれもボンボンに詳しく、客への対応も感じが良い。ボンボン、ショコラ、棒飴、ひとつひとつ丁寧に説明してくれる。「へーそうなんだ。」産地、時代、お菓子を知る楽しみが又ひとつ増えていく。
 学校帰りの子供から孫を連れて訪れるお年寄りまでと、客の層は幅広いそうだ。ボンボン専門店をくだけた言い方にすれば、日本では駄菓子屋さん。どちらかと言えば子供が相手の店が多いが、この店はその範疇に入らない。そう言う意味でもちょっとユニークなパリの店である。


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