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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.72 二つのサロン

 6月晴れと言う言葉が有るのか解らないが、爽やかな晴れ日が続いている。この季節にパリを訪れた事のある方なら、まぶしい陽光にきっと驚かれた事と思う。強い白色光、透明感のこの輝きは、空気が乾燥しているこの地だけが持つ特別のものだ。

 

 夏至を迎えた今、夜の10時を迎えても外は未だ明るい。サッカー・ワールド・カップもいよいよ決勝トーナメント入りとなった。何かにつけて外に出たがるパリっ子にとって、カフェの大型画面で見る試合は特別に興奮をかきたてるようだ。特にフランス・チームの対戦日などは、どのカフェもテラスの外まで人が溢れる。現場で見ている様な歓声が上がり、時には国歌まで唄い出す。決勝戦は7月14日、この日までどの国が勝ち残るのか楽しみである。

   

 サロン・ナチュラリーが開催中とのテレビのニュースで、ポート・ド・ヴェルサイユの会場に出かけてみた。週末を挟んでの開催、会場は大勢の人で賑わっていた。期待に反して食品関連の出展がさほど多くないのがいささか残念である。

 とは言え、このサロンの常連となっている窯焼きパン、天然飼料で育てた家畜肉を使い昔ながらの製法で作ったハム、ソーセージ、BIO素材だけを使った加工食品やシリアルなど、人気の農家や食品会社は健在だ。顧客も多く今回も大勢の人が集まっていた。

 

 このサロンは自然な生き方を求め、それに賛同する人達の集まりの場である。流行り言葉では無いが、ありのままに生きると言う事の方向性を色々と提案するのが主催者側の本意。会場全体の雰囲気も、ビジターの関心も正にそういったものである。

 出展側の顔ぶれも変化に富む。自然な生き方に係るものなら何でもの感じで、食品、飲料品、薬品、更に禅、ヨガ、マッサージ、天然石もあれば各種オイルに衣類、家具インテリアなどなどあらゆるものがある。中でも天然素材を使ったコスメ商品の参加は、回を重ねる毎に増え続けている。女性の入場者が多いことを思えば当然の事であろう。お化粧などには余り関心の無さそうな人達、との穿った見方は失礼と言われそうだ。

 

 物にはさほどでも、ナチュラルな生き方には関心がある。そういう人が増えていると思ったのが今回のサロンである。書籍、出版物のスタンドが増えているのもその証、作家によるサイン会なども増えている。会場には何か所かの講演場があり、テーマ毎に専門の講師を招いて講演が行われる。どの会場も席が埋まるほどの人気ぶりであった。

 ナチュラルと言えば、自然の又は自然的な、天然のと言った言葉が思い浮かぶ。そこには科学的な要素は余り含まれてないイメージがある。ところがこう言ったサロンに来てみると、ナチュラルと言われるものは殆どと言って良いほど、科学的に分析、検証されている事を改めて感じる。

 

 我々はいつの間にか全ての物、事柄を科学の力によって「これは本当にナチュラルなものです」と証明されて、初めて納得するようになってしまったようだ。古くから伝わる天然の、と言われる物、何となく科学とは逆の方向にあるのがナチュラルと思っていた自分を反省する、サロン・ナチュラリーの会場であった。

   

 なるほど、パリの7区に新しいパティスリーをオープンするなら、こういう店になるんだ。モリ・ヨシダの店に入って思ったことである。7区と言えばパリでも有名な閑静な所、パリ好きの外国人が住んでみたい街としてトップ・クラスに入るカルチェである。

 7区を代表する建物にアンバリッドがあるが、金箔に覆われたドーム型のこの建物にはナポレオンの遺骸が収められている。パリ観光名所のひとつ。その建物の裏側から広く繋がる大通りがブルテイユ通り、緑の並木が美しい大通りである。

 

 モリ・ヨシダはこの大通りに面したガラス張りの洒落た店だ。すっきりと纏まった空間、店内左側に木製台座のモダーンなショーケースがある。その中に整然と並んだしゃれたガトーの数々、見るからにおいしそうだ。右側の壁際には平板を使った吊り棚、その上にこんがりと焼きあがったクロワッサンやショーソン・オ・ポ厶とショーソン・バナヌなどヴィエノアズリーが並ぶ。

 大振りのクロワッサンが1.20ユーロ、同じ値段のショーソン・オ・ポ厶、バナヌも他店に比べてボリウムがある。これは魅力だ。キッシュ4.20ユーロ、ちなみにガトーの値段は5.50~5.80ユーロ、店一番のお勧め、ショコラたっぷりのMは5.80ユーロである。名前がMと言うのも珍しいが、これはヨシダさんのニック・ネームであるモリから取った拘りのガトーだそうだ。パリのパティスリーでは珍しい苺ショートもあり、売れ筋の一つだそうだ。

 

 今回店を訪れた理由のひとつに、日本風の苺ショートが食べたいと言う思いがあった。こちらの勝手な思い込みである。ヨシダさんの基本コンセプトはあくまでもフランス菓子への拘りであるらしい。日本とフランスの苺ショートの違いは使われるクリームの質にある。フランスの方が濃厚、粘りのある甘味がある。好みの違いだが、爽やか甘味の日本のほうが私は好きだ。

   

 その他、凡そ20種のショコラ。自家製コンフィチュールはポム、スリーズ、アブリコなど8種類がある。こちらの値段は5.80~5.50ユーロとお手頃。ブルターニュ地方の銘菓パン・ケーキやボルドー銘菓のカヌレなど、焼き菓子のセンスの良さも魅力だ。

 

 店がオープンして約1年、今では地元にすっかり定着している感じだ。常連客も増えたということで1日の生産ペースも安定している。この界隈はいわゆるお金持ちと言われる住民が多い所だ。下町のパティスリーに比べ幾分高めの値段設定でも客足が遠のく心配はない。

 ヨシダさんは日本でも活躍のパティシエ、業界の方には知られた存在と聞くので、彼のプロフィルなどは割愛させて頂く。

 

 店の外観を撮っていると、小さいパッケージを持った若い女性が出てきた。近所に住んでいる方か、それとも観光でパリを訪れた日本人女性と思っていたが、実は台湾の方とのこと。出身が台湾で、カナダはバンクーバーに在住だそうだ。

 現在、パリのパティスリーで1年間お菓子とパンの研修中、住まいが7区に隣接する15区でモリ・ヨシダまでは歩いての距離とのこと。ヨシダさんのお菓子が好きで、休日には参歩がてら買いに来ると言う。夢は自分の店を持つこと、その為にパリのパティスリー巡りを続けているそうだ。


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