Vol.67 ジョスラン・ロエジック

 さくっとした歯ざわりの後、しっとりとした重みのガレットの中に、他の店では味わえないほどのアーモンド餡のボリュム、期待通りの舌の手応えだ。どういう裏技を使ったのか、餡に爽やかな香りがある。他店の物には感じなかった特異な風味である。楽しみにしていた中のフェーブは陶製の可愛い指輪だった。
 2014年ガレット・デ・ロワの1位に輝いたのはパリ17区にあるジョスラン・ロエジックの店。新しい年が明け、既に何軒かのものは頂いているが、やはり1位の物が食べてみたい。味の違いはさほど無いだろうと思いながらも、つい地図を拡げてしまった。

 

 店を訪ねたのは公現祭の2日後、客が少ないと思える3時過ぎにした。メトロのオペラ駅でルヴァロア行きに乗り換え、郊外に近いペレールで下車。ここまで来るとパリの中心部とは街の雰囲気も変わってくる。駅前ロータリーから放状線に延びるクールセル通りを少し歩くと最初の角地に店はあった。
 通りに面してカーブをつけたガラス張りの店構えに入り口が2箇所。店内はオレンジ色で統一したと言う洒落た店の作りである。レジのマドモアゼルに撮影の許可をお願いすると、奥の厨房に尋ねた様子でOKとの事。次々と客が入る隙間を見ながら店内の写真を撮る。正面入口脇に意表を付くような直径1mはある大きなガレット・デ・ロワが展示されてある。 

   

 ショーケースの上に1位受賞の大きなトロフイ。その横にいろんな種類のガレット・デ・ロワが並べてある。厚み、表面の艶と言い何れも美味しそうだ。値段は6人用で26ユーロ、1位獲得の店としては妥当な設定だろう。ちなみにスーパーだと同じサイズで9ユーロである。本音を言えばスーパーのガレットでも充分に頂ける。我々庶民派にとっては値段の安さも魅力、味の方も問題はない。とは言え、少し高価でも毎年出かけて、つい買ってしまう有名店のガレット・デ・ロワ、真に不思議なお菓子である。

 

写真を撮り続けているとジョスランさんが顔を出してくれた。ここに店を構えて14年というが、思った以上に若い方だった。生粋のパリっ子だそうで中々のイケメン、写真にも気軽に応じてくれる。真に感じが良い。

   

1位受賞の効果は充分にあるようで、パリの中心部からわざわざガレット・デ・ロワを買いに来る客も多いそうだ。話を聞いている間にも新しく焼きあがったガレットが次々と売れていく。古くからの客というムッシュの話では「この界隈では一番の店、クロワッサンがお勧め、もちろんバケットもだがね」という事である。

 

ブランジェリーの看板だが、お菓子の種類も多い。入り口にBIOのステッカーが貼ってあった。材料にはとことん拘るそうだ。入り口横に飾った巨大ガレットは飾り用だけで無く切り売りもしてくれる。学校帰りの子供たちがクロワッサンを買いに来た。昔から変わらぬパリの子供たちの楽しい光景、見ていて微笑ましくなる。
 帰りに6人用のガレット・デ・ロワを買う。年明けの課題をひとつこなした感じでひと安心、駅前のカフェに入る。初めての街で初めてのカフェ、濃い目のエスプレッソを口にしながら、今年はいい年でありますようにと、ふと願った。

 

 100年ぶりの寒さがやって来る。こんな予報を出した気象機関もあった今年の冬だが、予想に反して穏やかな日が続いている。このままの状態でこの陽気が続けば、近年まれに見る暖冬年になるだろう。1月末の段階で氷点下を記した日はわずか二日だけである。冬場になると、カフェのテラスを分厚いビニールで覆うパリの街だが、この冬は余り見かけない。テラスで寛ぐ人が何時もの年より多い冬のカフェ風景である。

 

 只今冬のソルド(バーゲン)の真っ最中だが、例年に比べ出だしが悪いようだ。近所のブティック店主も、もう少し寒くならないと困るとボヤいている。毎年そうだが、この時期を狙って訪れる日本からの買い物客も、円安の影響で半減状態だそうだ。30~50%の張り紙が目立つが、2月になると70%引きという店も増えてくる。買い物上手な客はギリギリまで待って買うようだが、その時になると買いたい物は既に品切れと言う事も多い。タイミングが大切と言うことだろう。

 

 ソルド・リサーチでもないが、サン・ジェルマンのファッション・ブティック街を歩いてみた。普段は自転車で通り抜ける通りである。ボナパルト通りを歩きながら通りの反対側を見ると、ショコラの老舗ア・ラ・メール・ドゥ・ファミーユの新しい店が出来ている。左岸ではシェルシェ・ミディ通りにある店が有名だが、まさかこんなファッション通りに進出とは。本店は右岸のモンマルトル通りにある。そういえば2区のモントロギュイユ通りにも新しい店が出来ていたのを思い出した。業績が良いのか積極的な店の展開である。
 店に入ると若いムッシュが一人で客の応対をしている。笑顔で会話をしながら商品を包む動作もテキパキと、商品を渡した後は入り口まで客を同伴。見ていて実に気持ち良い接客ぶりだ。店にもよるが、パリのブティックで働くスタッフの接客が随分と良くなった。

   

 

 オープンして3ヶ月目だそうだ。普段は若い女性が多いこのドラゴン通りだが、店にはお年寄りの客も多い。老舗の強みと言ったところだろうか。17区にも新しい店が出来たそうだ。インテリアも凝って出来上がりも面白いので、ついでの折是非立ち寄って下さいという。上から見下ろすアングルが特に良いそうだ。

 

 前にも紹介したが、サン・ジェルマン界隈はパリでも有名ショコラティエが集まる場として知られる。新進、ベテランの店が技を競い凌ぎ合う激戦区でもある。ボナパルト通りを歩いた後、帰りにビュシー通りのカカオ・エ・ショコラを覗く。ふと、見上げるとドゥ・ヌヴィルの看板になっている。ここはよく歩く通りだが、いつ店名が替わったのか気づかなかった。
 中に入って店のスタッフの方に聞くと、カカオ・エ・ショコラから店名を替えたと言う返事。それにしても店の内装も以前と少しも変わってない事に驚いていたら、同じグループ、同じソフトで店を運営、店の内装も前のままに使っているという亊で納得。ショコラ業界も変遷統合がどんどん進められているようだ。

 

 そう言えば、この近くセーヌ通りにあるサン・テチエンヌの老舗ウエイスが店を閉めて数カ月が経つ。看板はそのまま残っているので再開の可能性もあるが、このまま閉店なら残念なことだ。