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小川征二郎

小川征二郎

フードジャーナリスト。現在パリに在住し、サロン・ド・ショコラ等のイベントや、パリの最新パティスリーを取材している。


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小川征二郎のパリ通信


Vol.62 ラ・メール・プラール

 夜の10時になっても陽の陰りを感じさせない6月のパリ。爽やかな風に髪をなびかせ、カフェのテラスで寛ぐ人々の姿は既に夏の装いに。空気は澄み気分も軽やか、街の表情に輝きと華やぎが加わる季節だ。6月という月が一番好きというパリジャンは多い。いつもの年ならこんなイメージのパリの街である。

 

 今年の5月は殆ど雨だった。気温も低く、日差しの無い日の繰り返し。農家では穀物、野菜の芽が出ずやっと出た芽も成長してくれない。このまま行けば今年はすべての農作物が予想以上の不作になると言われている。農業国フランスにとってこの異常気象は大変な痛手である。この悪天候は6月の中旬まで続いた。

 

 毎年6月の声を聞くと出始めるサクランボが市場の棚に並んでいる。今はスペイン産の物が主流だが、長雨、日照不足で糖分が少ない。スペイン産といえば何れの果物もその甘味が自慢、値段の安さもありパリ庶民の口に欠かせない存在である。そのスペイン産がこの調子では、これから出回るフランス産は更に不出来と思われる。

 

 プロヴァンスでオリーブ農家を営む友人からの電話、長雨でオリーブの実が付かず頭を抱えているという。ジャム用に作る果物も期待できないとの事、本当に気の毒だ。

 

 先日久しぶりにシャンパーニュ地方に出かけた。日本からの友人と一緒のシャンパン・カーブ巡りを楽しむ予定であったが、当日も生憎の雨。訪れた先は3代続くシャンパン醸造農家、オーナーの話によると、自分が家業を継いでから初めてという6月の悪天候という。ブドウの芽が出ないので毎日天を仰いでいるそうだ。何れも有機生産の小規模農家だけに普段の収穫量もそれほど多くはない。加えてのこの悪天候、一日も早い天気回復を祈るのみである。

 

 お昼はシャンパーニュ地方の中心都市ランスにあるホテル・レ・クレイエルでとった。ここはアメリカの有名ガイド・ブックで、2年連続1位に選ばれた高級ホテルである。美味しい料理を提供する事でも有名。熊田さんという長崎出身の方が長年腕をふるっておられ、以前にもお世話になった事がある。今回もシャンパーニュ地方の素材を使った料理を堪能した。一皿ごとに変わるシャンパン、白、赤ワインが料理と見事にコラボ、ソムリエのアドヴァイスだが、さすがの選択である。

 

 食後、熊田さんの案内で厨房を見学させて頂いた。広い厨房で大勢のスタッフが働いている。特に素晴らしかったのは地下のカーブ、凡そ5万本というワインとシャンパンの収蔵には圧倒される思いだった。シャンパーニュ地方については、何時かこの稿でもふれて見たいと思っている。

 

 パリのオペラ通りに、ラ・メール・プラールのブティックがオープンした。パリでの1号店である。通りに面した明るいオレンジ色の店構えが人目を引く。中に入ると白とオレンジですっきりと纏めた店内に、カラフルなパッケージの各種商品が並んでいる。オレンジ色はラ・メールプーラルのイメージカラー、パッケージにもこの色が多く使われている。展示された各種商品も想像以上に豊富だ。

 

 従来パリで買えるラ・メール・プラールの商品と言えば、デパートの食品コーナーなどに並ぶ名物のガレット、サブレと塩キャラメルが殆どといった感じであった。

 

 新しく出来たこの店では、こういった定番商品に加え、ブルターニュ産を中心にあらゆる食品が揃っている。名物のシードル、カルバドスなどのアルコール類、ヌガーやクイニー・アモン、パン・デピスなどの伝統菓子、ジャスミン、ダージリンの紅茶、ハーブ・ティーもある。更にコンフィチュール、鰯をはじめ近海物のリエットなどなど。マグ・カップや4種類のオリジナル、トート・バッグも揃った。

 

 店内に設えたビデオでは美しいモン・サンミッシェルの映像も見れる。親切な日本人スタッフのアドバイスもあり買い物には便利、日本人客も多い。お土産に良く売れるのは、やはりガレットとキャラメルだそうだ。

 

 オペラ通りといえばオペラ座からルーブル美術館に通ずる大通り、観光客の多く集まる賑やかな通りである。多くの有名ブティックが競い合う所、新規開店の場所としては申し分ない。

 

 ラ・メール・プラールといえばモン・サン・ミッシェル。フランスに数ある世界遺産の中でも抜群の人気度を誇る観光名所である。708年大天使ミカエルが司教オベールの夢枕に現れ、湾の中に浮かぶ島のトンプ山に聖堂を建てよのお告げでモン・サン・ミッシェルの歴史が始まる。修道院建立により巡礼の地として発したこの島は、凡そ1300年の長い年月の間に、ある時代には要塞、更に監獄、そして再び修道院と幾多の変遷を重ねて今日に至っている。

 

 ラ・メール・プラールはモン・サン・ミッシェルの入り口近く、古い要塞跡の門をくぐり頂上の修道院へと続く参道沿いにある。1888年アネット、ビクトール・プーラル夫妻が巡礼者向けの宿屋を開業、宿では食事も用意した。料理に優れた才を持つアネットは次々とレシピを考案、巡礼者たちの評判を生む。名物のオムレツはアネットの最大のヒット商品。この地を訪れる人は一度はこのオムレツを食べると言われるほどの人気メニューである。

 

 ラ・メール・プラールの名声を高めた、もうひとつの商品が有名なガレットだ。ブルターニュ地方は古くからイギリスとの交流が深く、その関係もありガレットが盛んに焼かれた歴史がある。ガレットすなわちクッキーはイギリスを代表する焼き菓子である。アネットも宿に泊まるお客や聖堂を訪れる巡礼者用のお土産として自家製のガレット作りに励んだ。今ではこの地を代表するお土産商品となリ人々に愛されている。

 

 モン・サン・ミッシェルのホテル、レストランのすぐ近くに同じ経営の専用ブティックがあり、観光客の人気スポットになっている。今回オープンしたオペラ通りの店は、ラ・メール・プラールの商品全てを網羅したブティック。何かの都合で島を訪れる事が出来ない人でもモン・サン・ミッシェルのお土産が手軽に買える便利な店、パリを訪れる人に重宝される事間違いない。


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